盲信は危険です。「権威」と「正解に導かれること」は必ずしもリンクしません。
私の体験談を書いてみます。おそらく長文注意報発令です。
私は若い頃から手荒れがひどく、冬になればカサカサ、何ヵ所もアカギレができ、アカギレ付近は赤く爛(ただ)れるという体質でした。昔は食器洗い洗剤も今ほどマイルドではなく、ビニール手袋をすると言う知恵も無く、ハンドクリームを塗るなんていうセンスも無かったので余計だったのでしょう。皮膚科を受診すると毎回軟膏を処方してくれます。ステロイドと抗生物質が入った軟膏です。これを塗って寝ると翌朝にはだいぶ良くなるんです。でもまた一日、手を酷使してボロボロになると言う繰り返しでした。
獣医になってから状況は一気に悪化します。私が勤めたところは、動物に触れた手は必ず「次亜塩素酸ナトリウム」を薄めた消毒用洗面器に手を数秒間浸けなければならないというルールがありました。次亜塩素酸ナトリウムと言うのは本来手指用の消毒液ではありません。排泄物の付いたタオル雑巾の類、器具や、診察台や手術台、金属製動物舎などの消毒用です。めちゃくちゃ安価なんです。そこ頃の動物病院なんてどこも経営は火の車でしたから、高価な手に優しい消毒液などは買ってもらえません。
例え犬の爪切りの後でも、顔を持っただけでも消毒です。入院している動物はしょっちゅう点滴のチェックなどに入りますから、1日に100回できかない回数、私の手は塩素に浸けられました。そして私の手は壊れました。
その頃の私の手は、手の甲が火傷のように爛れていました。手の平は大きなアカギレが何本もあります。痛いのもありますが、赤黒く爛れた私の手を見て動物の飼い主さんが心配してくれるのです。それは私にとって嬉しくなかった。「俺は獣医としてはやっていけないんじゃないか」と悩みました。ただでさえ頭も悪く、技術もまったく追いつかず、そこに加えてこの汚ったない手です。ただただ動物が好きでここまで来たけれど、そんな甘い世界では無かった。今から思えばうつ病に陥ってたような気がします。全てを悪く考えるんです。自分は無能だと考えるんです。もう獣医は辞めようと思っていました。大学卒業一年目、24歳の頃です。
ああ、なんだか脱線しつつあるな(笑) でも大丈夫、こっから質問にグッと寄っていきます。
私は一日仕事の休みをもらって神戸大学医学部の附属病院(皮膚科)を受診しました。何か新しい治療薬があるのではないかという期待です。そこでは診察室前の小さなスペースで予診を受けます。若い、私より少し上かなくらいの年齢の先生からいろいろ問診がありカルテに記入されていきます。そして順番が来たら、大きな診察室で本診があります。その日はラッキーなことに大学の皮膚科の教授の診察の日でした。白衣を着た先生の周りをこれまた白衣を着た若手医師(学生?)たちが取り囲み見学したりメモを取ったりしています。
私の診察では、先生は私の手を大きなルーペでしばらく観察していました。手の平、手の甲としばらく診てから説明がありました。これはどうも普通の皮膚炎では無さそうだと言う事で、二つくらい、聞いた事のない難しい病名を言われました。自己免疫性の病気を疑うような説明でした。そして、ちゃんと調べるために生検(※)をしたいのだがどうかと聞かれました。
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※生検とはメスのようなもので皮膚を切り取り顕微鏡で検査する手法です。もちろん切り取った後は縫合されます。よく腫瘍の検査で使うやり方です。
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私は躊躇しました。生検を受けると仕事に支障をきたします。渋る私に先生は強く生検を勧めてきましたが、私は断って薬の処方をお願いしました。出された薬はいつものステロイドと抗生物質の軟膏でした。
診察室を出た私に予診をしてくれた若いインターンの先生が声を掛けてくれました。
「高橋くん」
「はい」
「高橋くん獣医やったな。きつい消毒薬使っとんちゃうん」
私は仕事場の状況を説明しました。
「それやで原因は」
笑顔でそう言いました。
「主婦湿疹や。主婦が水仕事でなるねん。しかもきつい消毒液毎日使ってるからめちゃくちゃひどなってんねん。あんな、2週間休みもらって海外旅行行っといで。ハワイとか。そしたら治るわ。元気だしや」
こんな感じやったと思います。おそらく沈みまくってる私を安心させようとしてくれてるのか、すごくフレンドリーな、愛のある口調でした。
私は腑に落ちたんですよね。昔っから手荒れが酷かったこと、ステロイドの軟膏はちゃんと効くこと、獣医になって一気に悪化したこと。その若い先生の説明が「それや」って思えました。逆に教授の大先生の話は全然腑に落ちなかったんです。自己免疫性疾患と言うのがどうも辻褄が合わないような気がして。だから生検を固辞したと言うのもあります。
私はインターンの先生に礼を言って診察室の前を去りました。
私にはハワイに行くようなお金も休みもありませんでした。でも何か光明が見えてきたんです。私はある必殺技を編み出しました。名付けて「こっそり塩素に手を漬けない戦法」。院長に見つからないようにこっそり手を消毒洗面器に漬けないのです。もちろん病気の動物を触った時はやります。そうじゃない、どう考えても必要無いだろって時は、水洗いのみにしました。
すぐに手は改善の兆しが見えました。なので私の「こっそり戦法」は間違って無いと確信し、徹底的に続けました。赤く爛れていたところは乾燥して薄いかさぶたのようになり、その周囲の正常皮膚に新たな赤みも起きず、手の平のアカギレも無くなりました。家ではステロイドの軟膏を毎晩塗り、良くなってからはハンドクリームを塗るようになりました。手の甲のかさぶたも、やがてめくれて、綺麗な皮膚になりました。
手が治り、自分の手のお手入れのコツを掴んだ私は、本来のメンタルを取り戻しました。
私をどん底から救ってくれたのは、「学術的に権威ある人による、その方の専門分野についての意見」では無く、名も無き若い医師の言葉でした。
( 私にとって手は命 )
私、思うのは。
お医者さんは「話しを聞く事が、一番の仕事」なのかなと。やっぱり、患者さんの話しをよく聞かないと「判らない」ですよね。
高橋さんのお話しから読み取れたのはソレです。
患者さん(この場合は高橋さん)の話しをよく聞いたからこそ「原因が判った」のだと思います。
最近の医者はコレを出来る人間が少ないですよね。
特に「偉いお医者さん(学者さん等)」は、人の話しをろくに聞かないで「あぁソレね(コレね)」みたいに、決めつけのような答えを出すケースが多いのではと。
(多分。高橋さんが言ってる、思ってる事と同じことを言ってます。長くなりそうなので、この辺で…)
高橋さんの手。もう「全然大丈夫」ですね😊