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ハムスターの適温とは

ハムスターに最適な飼育温度は、20〜26℃といわれている。

飼育書によっては18〜25℃など多少の前後はある。
とはいえ、最適温度内でも野良寝したりヘソ天だったり、ケージにべったり張り付いて伸びている。
そんな光景を幾度も見てきた。

本当にこの温度がハムスターにとって最適なのであろうか?

最適温度の根拠とは何なのかというところから考える。

まずこの適温の出所は、アメリカ国立衛生研究所(NIH)が実験動物飼育のための推奨温度として示している温度であり、飼育書はこれを根拠に快適に飼育できる温度としている。

かなり昔の文献をたどると、参考としてNIHの実験動物の推奨温度が示されている。

【 温 度 ・ 湿 度 】
温度変化が少ない場所にケージを設置しなければならない。一日の温度変化が10℃以上あると、ハムスターの体調に影響を与える。

表3 ハムスターの理想温度、湿度 (アメリカN I H が示した実験動物飼育のための推奨温度と湿度)
温度 18〜26℃
湿度 40〜70%

日本獣医師会発行『学校飼育動物の診療ハンドブック』

理想の温度とあるが、あくまで実験動物の為の推奨温度である。

そして、

冬眠 ( 擬似冬眠 )
小型齧歯類は餌不足、日照時間の短縮、低温の条件下では、〜中略〜 冬眠は5°C以下になると誘発されるが 〜中略〜 冬眠も日内休眠も生理機能のひとつで治療を行う必要はない。

日本獣医師会発行『学校飼育動物の診療ハンドブック』

という記述もあり、いつから20℃を下回ると擬似冬眠してしまうという情報が広がり出たのか疑問である。

※追記:最近とある資格のテキストを読む機会があったのだが、やはりハムスターの項目には「5℃以下になると冬眠に似た擬似冬眠をします」という記述が見られた。しかし飼育環境で擬似冬眠と呼ばれる現象は20℃前後で起きている話を耳にする。

この推奨温度とは動物が快適に過ごせるかどうかではなく、

【再現性のある実験結果】

が出るかどうかを元に決めているので、実際に動物が快適に暮らせる気温であるとは言えないのだ。

ではこのNIHの推奨温度はどこからきたのかと考えると、サーモニュートラルゾーン(TNZ)を元にしたと考えられる。

TNZとは、動物が体温維持に特別なエネルギーを必要としない温度の事で、何もせず基礎代謝だけで暑くも寒くもなく、エネルギー効率が一番良い環境温度の事である。裸の人間では27℃、マウスでは約30〜32℃と言われている。

モルモットやハムスターなどの主な実験動物は23℃程度ではないか?という事で前後を取り20〜26℃が適温(動物実験に最適)と決められたのが経緯ではないかと推測する。
※2026.01.09追記:ゴールデンハムスターのTNZは約28〜30℃、ジャンガリアンハムスターもTNZは26〜28℃程と比較的高いが、気温や脂質摂取等によりTNZの幅が変化するようだ。

細かい話をすると、動物実験の環境温度によって腫瘍発生数や、ウイルス・アナフィラキシーの毒性が変化したり、繁殖など飼育に影響を及ぼし実験精度が落ちてしまう。(実験動物と環境温度 山内忠平 著)
実験動物の再現性や精度を向上する為に飼育適温が定められているのであり、動物が快適かどうかではないのだ。
動物実験をするにあたり、余計なノイズが入らない様に一定の温度で管理する事が求められているのであり、20〜26℃の範囲を越えたからといってすぐに飼育に影響があるわけではないし、狭い範囲の気温差にしか適応できない訳ではないのだ。

さて、ハムスターのTNZが仮に23℃前後だとしよう。

ペットショップで底砂だけ敷き、隠れる巣や巣材のない場合には23℃で丁度いいはずだ。
手術の麻酔時の環境温度でも20〜25℃に保つ様にいわれているのは、巣材に覆われていないいわゆる裸の状態だからだ。(エキゾチックアニマルの生物学Ⅻ ハムスター類の診療の基礎2 より)
※少し脱線すると、ひまわりの種など脂質の多い食べ物を摂取すると代謝効率が上がりエネルギー消費の減少が起き、ハムスターは強化された発熱能力を示すという研究があり、脂質の多い食べ物を食べた場合は23℃でも暑いと感じるかもしれない

しかし、飼育環境下のハムスターは巣穴(木製や陶器の巣)に潜り、木屑や乾草、綿などの巣材に包まれて保温・断熱されている。

そう考えると環境温度が23℃では暑すぎるのではないかと容易に想像できる。

例えば、人間は裸では27℃が快適でいられる気温だが、服を着れば27℃では暑く快適温度は下がり、室温は27℃より低いほうが快適に感じる様になるのである。

SNSのポストを見ると20℃以上をキープしている飼育環境では野良寝をしていたり、巣から頭を出して寝ている姿、ケージの角で伸びていたりどう考えても暑そうな光景をよく見かける。

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野良寝
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身体を伸ばしてケージに張り付くと涼しいのだろう
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暑くてお腹を出して仰向け寝(ヘソ天)

野生下では捕食される側のハムスター。常に狭い巣穴に潜り身を隠すのが習性だとすると、頭を出す事や野良寝は危険な状態と考えられるのに、そうせざるを得ないのはやはり暑いからに他ならない。もちろん安心できる場所だと認識していなければ、暑くても無理して巣に閉じこもるだろう。
環境温度が高すぎて、ハウス(巣穴)の中では暑くて過ごせないから頭だけ外へ出したり、ハウスの外で野良寝やケージに身体をべったりつけて寝るのである。
そして、この気温は単純に数値が高いか低いかという事だけでもなく、前日や直前との比較温度に影響している可能性がある。
26℃→23℃に変化した場合と、
20℃→23℃に変化した場合では、
同じ23℃でも暑さ寒さの感じ方が変わる可能性が考えられる。

さらにハムスターの生息地の環境温度だ。

シリアン(ゴールデン)ハムスターの生息地はシリアとトルコの国境付近で、年間の気温推移は2〜36℃程度で東京や大阪とほぼ同じ気温である。

ある論文によると巣穴の温度を調査した4月頃では、2.5mほどの深さの巣穴が12℃だったと調査結果がある。
地中の温度は一定だと言われる事が多いが、年間を通して一定になるのは深さ約10mでないと一定にはならず、2.5m程度では年間を通してゆるやかな温度変化が起きる。

ちなみに地下10m付近の地温は、その土地の地上の年間平均気温とほぼ同じになる。地中は暖かいというのも正確には間違いである。

下記のグラフは東京の地中温度で、それぞれの深さによる年間地温の変化

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東京の深さによる地温変化

巣のある地中2.5mでは年間12〜18℃程度の変動があり、地下10mの年間平均地中温度は15℃前後である。

ジャンガリアンやキャンベル、ロボロフスキーなどのドワーフはもっと寒い。ジャンガリアン生息地の一つハカシア共和国shiraの年間平均気温は0.9℃であるから、地中10mの地温も0.9℃程度である事がわかる。

地上の年間気温の推移は-20〜30℃、寒いと-40℃近くにもなる。
真夏でも活動時間帯の朝方には10℃程度にまで気温は下がる冷涼な気候だ。

ジャンガリアン生息地のshiraの気温に日本で一番近いのは旭川や富良野あたり。

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ジャンガリアン生息地と似た地域の地中温度

ジャンガリアンは夏に地中30cm、冬は1mほどの深さの穴で生活している。
上記の表は、生息地に一番近い日本の気候である富良野の地温から算出したもの。
この表から地中の年間気温変化は-2.5〜19℃となる。
生息地の冬はさらに寒い事から冬の巣穴はもっと気温が低いだろうと想像できる。
ここからハムスター自身の発熱と乾草やラクダ毛などの断熱材でもう少し巣穴の温度は暖かくなると予想される。ただ、どう考えても室温が20〜26℃では暑すぎることは間違いないだろう。

こういった諸々の事を考えると、ドワーフの環境温度としては10〜15℃程度で、巣穴と巣材をしっかり与え、ハムスター自身に選択させる環境が一番良いのではないかと考える。
室温は低くても、土の巣穴やラクダ毛の断熱保温効果でハムスター自身の体温で暖かく過ごす事ができるし、暑ければハムスター自身が巣材で調節する。
暑いのは冷やせないが、寒いのは巣材で防寒できる。快適な気温はハムスター本人が選べる環境が望ましいのである。

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暑い時の巣穴
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寒い時は寝室を巣材で塞いで防寒

ただ、初めから寒さに強いと思っていたわけではなく、お迎え当初は飼育書を読んでいたので寒さには万全の体制をとっていた。しかし、シートヒーターで部分的に保温していたのだが室温が下がっても暖かい場所に行こうとせず、擬似冬眠を心配して巣穴の下にシートヒーターを移動した所、その巣穴から移動してしまったのだ。
また、次の年にはシートヒーターを設置していたにもかかわらず、一度もその場所では過ごさず、室温も10℃を下回る事が何度もあったのに使おうとしなかった。そんな経緯と、生息地や寒さに強い生態を知り保温は(私の家の環境では)不要であると確信して現在の飼育にたどり着いたのである。

詳細はこちらの記事へ

しかし一般家庭で夏場に室温を15℃程度にするのは現実的ではない。
回避方法として我が家では自作の床冷房を使用して巣穴の温度を下げて対応している。
気温は下がらないが、土のひんやり効果が長続きする効果がある。
ただ複数飼育でケージが沢山あるのならエアコンで管理した方が良いだろう。
※現在は多数のハムスターたちがいるのでエアコンで室温を下げている。

さらにキャンベルの研究では、23℃より18℃の方が子供の成育が良いとされ、23℃では暑くて子供の生存率を低下させるという研究データがある。

適温といわれる20〜26℃が、ハムスターにとって快適な温度かどうかは本人に聞いてみない事にはわからないが、おそらくドワーフにとっては暑いのであろう。
できれば夏も20℃以下の気温で保ちたいところである。

そして、1日中一定の温度で管理することにも疑問を呈する。昼間は暖かく、夜から明け方にかけて気温が下がる事は野生下の自然な生活に近い環境なのである。ハムスターは昼に体温が下がり活動時間の夜は体温が高い。
ラットの研究では昼と夜では好む気温が異なる事もわかっている。

ラットは昼に28℃位の環境を選択し、夜22〜24℃の環境を選択した。環境を一定に制御することと動物の生理的な要求との関係について問題を提起するものである。

実験動物飼育ケージ内環境適正化のための飼育室環境制御に関する実験的研究 蜂巣浩生著

ドワーフハムスターの生息地では日較差(1日の気温差)が30℃に達することもある程過酷な環境なのに、気温差に弱いというのは考えにくい。
実際、私の冬の飼育環境は保温しないのでケージの温度は朝方には8℃程度まで下がり、昼頃には20℃近くまで上がるこの環境で、数年間で10数匹育ててきた。
最低気温は4℃まで低下したが、活動的な状態は変わらなかった。
観察してきた中でもやはり気温の低い冬場が一番活発的で回し車の走行距離も長かった。
真冬の一晩での最長距離はなんと25kmにも及んだ。

こんなデータもある

24時間あたりの活動量は、25°Cの一定温度下よりも明12h:暗12h(明るい間は25°C、暗い時間は10°C)下で有意に多かった。

https://doi.org/10.1016/0300-9629(85)90134-3

実験データでも一日中一定の温度より、昼夜で気温差があると活発になる。
これは私の環境でも実証済みである。

そしてさらに、一日中一定の気温よりも昼夜で気温差がある方が日内休眠しにくいという研究もある。

短日下では一定温度18℃より、昼18℃夜6℃で休眠頻度は低くなる

Daily torpor in Djungarian hamsters (Phodopus sungorus): energetics and environmental challenges



さて、ここまで読んできた方はきっとこう言うだろう。

そんなに寒かったら擬似冬眠してしまうだろ、と。

しかしながら、ジャンガリアンは-70℃でも耐えられる耐寒性をもっていて冬には−40℃の雪の上で活動するほど寒さには強いハムスターである。
日本で一番寒い旭川よりもさらに寒い場所に住んでいるのだ。
キャンベルはジャンガリアンほどではないが耐寒性には優れている。

ジャンガリアンの耐寒性は様々な研究で調査されている。
野生下では日長で季節を感じ取り、秋になると毛色が白くなり、体重が10〜40%落ち、耐寒性が上がる。
研究では夏でも低温限界は-24℃、冬には-68℃にも耐える事ができる。
慢性的(長期間)な低温には0〜-5℃、高温は34℃を超えると耐えきれなくなる個体が出てくるという研究結果がある。
短時間に、25℃から-50℃へ8時間で下げた場合でも異常は見られなかった研究や、冬に巣穴から出て-40℃にもなる雪の積もる雪原で活動している事からも、温度変化に弱いという事はない。

え、でもちょっと待って!
野生の子と飼育された子では違うでしょ、ですって?

野生個体と飼育個体の比較記事もどうぞ。


飼育書やネットの自称詳しい人の話では20℃を下回ると擬似冬眠してしまうなどという根拠に乏しい事が語られているが、しっかりと貯蔵させ栄養豊富なごはんを制限なく与える事で、寒さに耐えられる健康な身体が作られるのである。

脂質の少ないペレット食で、太らない様にとごはんの量で体重を管理している様な現在の飼育をしているから、寒くならないよう温度管理をしなければならないのである。擬似冬眠と言われているほとんどの事象は餌不足による低血糖症からの低体温症だと考えられる。
擬似冬眠については、先に紹介した記事を参照されたし。

この記事の初めの方に引用した、日本獣医師会発行『学校飼育動物の診療ハンドブック』の話の様に、擬似冬眠は温度だけが原因ではないというのはまた別の機会にする事にして、適温のお話しはここまで。

湿度に関して触れていないのは、管理する意味が少ないから。
日本の気候では乾燥しすぎる事は少なく、相対湿度は気温変化によって湿度も変化するので数値だけを追っても効果は薄い。
それよりも吸湿性のある床材で常に乾いた環境を作る話もまた別の機会に。


まとめ
・最適温度とは、実験動物が再現性のある研究ができる様に決められた温度である
・適温の20〜26℃は快適に過ごせる温度ではないし、この範囲を超えたからといってすぐにどうにかなる訳ではない
・生息地は寒い(東京と比較した場合)
・地中の中は暖かくはない(東京と比較した場合)
・ドワーフの適温は10〜15℃(個人的な感覚)
・昼夜の気温差があると活発的になる
・ジャンガリアンは-70℃にも耐えられる耐寒性の持ち主
・慢性的(長期間)な低温限界は0〜-5℃
・高温は34℃を超えると危険
・湿度はそれほど気にしない

温度は低めで、巣材をたっぷり入れて好きなように使ってもらう。
ごはんは切らさない様にいつでも食べたい時に食べられる様に。
心配であれば一部分にシートヒーターを敷いて温度を選択できる様にしてあげると良いでしょう。
とにかく生体の様子をよく観察して、かわいそうとか寒そうという感情ではなく本質を見抜く事が重要なのである。


飼育書にないことをやると批判が付き物である。
建設的な意見交換は歓迎します。
疑問などあればお気軽にコメントどうぞ。

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コメント

4
Sagishi
Sagishi

個人的な経験だが、室温21℃でも、暑そうな素ぶりを見せたことがあるので、湿度や藁の量など状況にもよるが、一般的に言われている適温範囲よりも低い15〜22℃程度の範囲でコントロールするのが、よりベターな環境かもしれない。

Sagishiさん
思っている以上に賢いし強いので冬は巣材をたっぷり入れておけばうまく防寒してくれるので、問題は夏場の対応ですね…
ある程度の暑さにも慣れてくれるけどかわいそうで。

Sagishi
Sagishi

そうですね…。とはいえ同じ部屋で暮らすとなると、徹底的にこだわるなら、部屋をカーテンで仕切って、その部分だけ18℃ぐらいになるようにして、何とか共存を、という案や、究極夏場はワイン用の冷蔵庫に入れて、という案も…。いずれにしてもかなり電気代を要するので、理想を実現するのにはそれなりのハードルがありそうです。

まお
まお

ハムスターって本当に寒さに弱いの?思ってこちらに辿り着きました。
福岡住みですけど、夏のクソ暑い時は同居してるばぁちゃんとこにエアコン効いてるからふつうのゲージに入れて飼育してます。

冬は福岡でも最高気温1桁とか普通です、飼育環境は1番大きな衣装ケースを3つ繋げて2階にも1部屋あります。
1部屋は砂場のみ、あとは巣材を冬は大量に入れてます。
暖房とかペットヒーターとかいれてないけど元気にしてます。
そして向日葵のタネは1日20粒ほど与えてます、あとはペレットだけど、これはスグに食べないですね。

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