ハンガリー、16年ぶり政権交代なるか 12日に総選挙 識者に聞く

聞き手・藤原学思

 欧州連合(EU)の加盟国でありながら、独自にロシア寄りの姿勢を貫くなど、「EUの黒い羊」とも呼ばれるハンガリー。4月12日にある総選挙(一院制、定数199)は、欧州の今後を左右する可能性があります。3月下旬にハンガリーを訪問したばかりのシンクタンク「地経学研究所」の石川雄介研究員に、今回の選挙の注目点を尋ねました。

 ――今回の総選挙は、ハンガリー国内ではどのような意義があるのでしょうか。

 オルバン首相率いる与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」は過去4回の総選挙で、いずれも安定的に政権運営をできるだけの議席を獲得してきました。前回2022年は6党が「野党連合」として対抗馬となりましたが、それでも勝てませんでした。

 今回はまったく新しい保守政党「ティサ(尊重と自由)」に勢いがあり、独立系の世論調査ではフィデスの支持率を上回っています。16年ぶりの政権交代が実現すれば、大きな意味を持ちます。

外交はどうなる?

 ――欧州内、あるいは米国との関係を考えても重要な選挙です。

 ロシアによる全面侵攻開始後、ウクライナのEU加盟交渉が24年に正式に始まりました。ハンガリーはこの頃から相当、ウクライナ情勢などでEU内において対立を深めていきました。フィデスが勝利した場合、この傾向がさらに強くなる可能性があります。

 ――スウェーデンの調査機関が先日発表した民主主義に関する報告書を見ると、ハンガリーはEU加盟国としては唯一、選挙はするけれど権威主義的な構造がある「選挙権威主義」と分類されています。そもそも、選挙の正当性は担保されているのでしょうか。

 表現の自由が侵害されている部分がありますし、メディア規制の問題点も指摘されています。政党間で資金力に差があり、街頭の選挙ポスターを見ても、与党のものが圧倒的に多く、「公平」とは言いづらい状況にあります。

 また、最近では、オルバン政権側に票の買収疑惑も複数浮上しています。詳細な調査結果が待たれるところではありますが、内容や規模によっては、選挙結果が信頼できないという意味で、正当性にも疑問が生じる可能性があります。

しつこい「ウクライナたたき」はなぜ?

 ――ハンガリーの選挙戦を見ていて感じるのは、オルバン氏はなぜ、しつこく外交や安全保障をアジェンダにするのだろうということです。

 国内の経済状況が良くない、というのが背景にあります。22年後半から23年前半にかけて、インフレ率は20%を超えていました。生活が苦しくなるなか、オルバン政権は明確な対策を打ち出せませんでした。つまり、国内の経済について言えば「訴える要素がない」というのが正直なところです。「ウクライナたたき」は、ある意味で「最終手段」とみることができます。

 ――ウクライナたたきは功を奏するのでしょうか。

 本当にそれが支持層に響くのかというと、私は懐疑的に眺めています。そもそも、世論調査を見てみても、ハンガリーの対ウクライナ感情はあまり良くない傾向がある一方、対EU感情は悪くないですし、対ロ感情も突出して好意的というわけではありません。

 オルバン氏は「ウクライナは主権国家ではない」と言ったり、最近では「ウクライナの植民地にはならない」と主張したりしています。一貫性もありません。

 フィデスがこれまでと違い、今回苦戦しているのは、目新しさを打ち出せていないことが理由の一つです。

 22年の前回選挙は、ウクライナの全面侵攻開始後のことで「戦争と平和」という枠組みを前面に出しました。その中で自分たちは野党と違うと訴えることに成功しましたが、大きな枠組みでは、今回も変わっていません。しかも、対抗馬であるティサとそこまで劇的な差があるかというと、そうではありません。

 他方で、先日中欧を訪れて現地の専門家と話したところ、コアなフィデス支持者について「一貫性のなさや目新しさの欠如についてはあまり気にしていないのでは」と指摘する研究者もいました。ウクライナたたきが支持者に対してどの程度響いているかは、選挙の結果が出るまで見極めにくい点だと感じています。

新興政党「ティサ」 支持広がった背景は?

 ――ティサですが、党として精力的に活動を始めたのは24年ごろからです。なぜ短期間で、ここまで支持を広げられたのでしょうか。

 複数の要因が重なったと私は見ています。

 党首のマジャル・ペーテル氏は、ノバーク大統領が小児性愛に関与した人物に恩赦を与えていたという政治スキャンダルを機に頭角を現しました。このスキャンダルは多くのフィデスのコアな支持者に衝撃を与えるものでした。

 マジャル氏は元フィデス所属でありながら、24年以降はフィデスへの批判をくり広げ、「アウトサイダー」「チャレンジャー」として評価されました。経済的な停滞感が国民に広がるなかでの出来事だったことも追い風になりました。フィデスの内部にいたため、政治的な支持をつかむためのノウハウのようなものも有していたとみることができます。

 今回の選挙戦では、地方をしっかりと回りつつ、ユーチューブやフェイスブックでの配信も駆使しています。さらに言うと、国内で議論が分かれるような、たとえば性的少数者の権利といった話については戦略的に目立つ発言を控えています。そのあたりの「線引き」にはうまさを感じています。

 ティサはフィデスとよく比較されますが、「親EU」かというと、必ずしもそうではない側面があります。EUの方に目は向けているし、ウクライナ支援でも交渉のテーブルにはつくでしょうが、フィデスから百八十度転換するとは言い切れないと私は考えています。

【略歴】石川雄介研究員

 いしかわ・ゆうすけ 英サセックス大学大学院と、ハンガリー・中央ヨーロッパ大学大学院で修士号を取得。専門はハンガリーを中心とした中・東欧比較政治、民主主義の後退、汚職対策。共著に「偽情報と民主主義 連動する危機と罠(わな)」。

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この記事を書いた人
藤原学思
ベルリン支局長
専門・関心分野
ウクライナ情勢、ドイツ、中欧、偽情報、陰謀論

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