「性売買は性搾取」女性たちを救出してきた韓国の活動家が語った実態

編集委員・大久保真紀

 「自分があまりにも無知で、関心を持っていなかったことを恥じた」

 韓国で性売買からの脱却を望む女性たちを支援する活動家で、「性売買問題解決のための全国連帯(全国連帯)」前代表のシンパク・ジニョンさん(61)は振り返る。

 2000年と02年に韓国・群山(クンサン)の性売買店で火事が相次いだ。多数の女性が監禁された状態で死亡したこれらの事件が、性売買問題に取り組むきっかけになった。

 韓国には、日本の植民地時代につくられた日本式遊郭街を起源とする性売買の集結地が各地にある。シンパクさんが活動する大邱(テグ)もそのひとつだ。

 すぐに実態調査をした。男性活動家らも協力してくれた。80カ所で約2千人の女性が従事させられていた。また、入浴施設、酒店、喫茶店、理髪店など男性が利用するあらゆるところで性売買が行われていた。

恫喝や脅迫に「心臓バクバク」 女性たちを救出

 「性売買防止法」の制定を目指してキャンペーンを始めた。数千枚のちらしを配り、女性への支援活動も始めた。女性から「集結地から抜け出したい」と電話があれば、「協力的」とはいえない警察を現場に呼び、自分も駆けつけた。

 経営者の恫喝(どうかつ)や脅迫にも、心臓がバクバクするのを隠して対峙(たいじ)し、救出に動いた。

 「助けて」と連絡してくること自体、勇気のいることだと受け止める。「私も弱いし、あなたも弱い。だからあなたと出会った。私たちがすべて解決できるわけではない。けれども、ともに悩む」。その姿勢を大切に、女性たちの同志として仲間として活動を続けてきた。

 運動が実を結び、韓国では、04年に「性売買防止法」が制定された。買春者やあっせん業者の処罰と、被害者の保護が定められた。

 ただ、自発的に性売買をしている人は処罰の対象だ。

 「法律を成立させるための妥協だった」と振り返るが、「防止法では、性売買を性搾取であり、人権侵害だととらえている。被害者である女性は保護する対象であり、処罰の対象ではない」。法改正が次の大きな目標だ。

 シンパクさんらの活動や運動の結果、大邱では19年に集結地が閉鎖された。ほかの地域でも集結地の閉鎖への取り組みは続いている。性売買からの脱却を望む女性のための相談所やシェルターが全国90カ所にでき、国の予算で運営されている。

問われる人権感受性

 若いときには、この問題に取り組むとは思いもしなかった。だが、大学卒業後に働いた出版社やラジオ放送局などでは、日常のすべてに男女差別があると感じた。専門職でも女性は非正規雇用で、結婚すれば解雇された。腹立たしいこと、もどかしいことばかりだった。

 女性からの性的な「接待」について、聞くに堪えないような話を「武勇伝」として語る男性上司のありようにも疑問を感じ、90年代から女性人権団体で活動を始めた。

 メディアでの女性差別表現をモニタリングし、日本の戸籍制度にあたる戸主制度の廃止運動にも携わった。

 戸主制度は父系血統の継承を目的にしたもので、子どもは父の姓を名乗ると定められてきたものだ。制度は05年に廃止されたが、自身は両性平等主義の立場から、父と母の姓を並べた「シンパク」を活動名として使う。

 社会を自らの手で大きく変えた民主化運動や女性運動などの土台がある韓国では、「反性売買運動とともに人権感受性の力量がかなり育ってきている」と言う。

 性売買防止法の制定後は、「買春者が悪いということを社会は広く認識するようになり、警察や検察、裁判所の対応なども変わってきている」と語る。

現実を知るほど見えてきたこと

 世界には、性売買を労働として認める国もある。性売買業を合法的な経済活動として法的な規制やルールを設け、性売買女性は店と同等な契約関係を結んだ個人事業主とみなす。そうした性売買が合法化されているオランダやドイツ、ニュージーランドなどにも足を運び、何が起こっているのかを見てきた。

 ドイツでは、性売買する女性は大多数が移民だった。臨月に近い妊婦が複数に性交され、その様子を撮影されるということも「労働」として行われていた。販売競争が過熱化し、「明らかな暴力行為であっても、女性たちが受け入れなければならない状況になっていた」と語る。

 国家が性売買を正式に認め、職業と認めた社会では、あっせん業者や買春行為を非難することそのものが困難になっていたという。

 「現場を知れば知るほど、職業と言えるものではない。性売買を仕事として認めることは、決して女性の人権を守ることにはならないと実感した」

 資本主義社会で、体を売って金をもうけるとなったときに何が起こるのか。実態を知ったうえで判断しなければいけないと訴える。

 そして、こう力を込めた。

 「性を買うことは暴力。その認識を共有することが大切だ。あきらめた瞬間、私たち全員が暴力に組みこまれる。性購買を許している限り、性暴力は決してなくならない」

    ◇

 シンパクさんは3月初めに来日し、性売買問題を考えるシンポジウムに参加した。韓国の性売買防止法の成果と限界について講演し、約100人が耳を傾けた。

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この記事を書いた人
大久保真紀
編集委員
専門・関心分野
子ども虐待、性暴力、戦争と平和など
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    藤田直哉
    (批評家・日本映画大学准教授)
    2026年4月5日12時0分 投稿
    【視点】

    「ドイツでは、性売買する女性は大多数が移民だった。臨月に近い妊婦が複数に性交され、その様子を撮影されるということも「労働」として行われていた。販売競争が過熱化し、「明らかな暴力行為であっても、女性たちが受け入れなければならない状況になっていた」と語る」 ここが、日本でも同じことだろうと思います。ソフトなサービス、理解でき共感できる動機による買春のイメージで全体を語ってはいけないだろうと。そのような見かけ、表面、イメージを提示していますが、ディープなところでは陰惨なことが行われています。エクストリームなアダルトビデオや、風俗のHPを観ればよく分かりますが、労働・契約としてこれが行われていていいのだろうかと思われるものが多くあります。簡単に手に入るわけですから、そういうものを実際に例に出して議論するべきかなと。 ただ、「性売買」のすべてが、それと同じレベルの暴力や搾取、人権侵害なのか否かについては、ぼくは違う考えを持っています。すべてを一気に非合法化することが最善の道なのかもよく分からないですね。セックスワークの中身、グラデーション、買う側と売る側の内容の多様性をしっかり可視化し、エビデンスと根拠のある議論ができるように、当事者の声がたくさん上がったり、統計的な調査がなされることを期待します。

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