地域の文化的多様性に陰り
コスト上昇に見合う値上げは収益確保に欠かせない。しかし、中小の蔵元にとって価格転嫁は容易ではない。低価格の紙パック入り商品がある日本酒市場では、値上げは価格選好マインドの強い消費者を失いかねない。値上げが可能な銘柄を持つ大手蔵元と、そうではない中小蔵元との間でさらに体力差が開く流れだ。
消費量が減った理由として、通説で挙げられることが多いのはいわゆる「日本酒離れ」だ。昭和の宴席では「とりあえずビール」で始まると、すぐに日本酒で杯を重ねた。スパークリングワインやハイボールが広まる前の飲み会では日本酒が「王様」だった。「駆けつけ三杯」や「お流れ頂戴」といった昭和宴席のの習わしも日本酒が前提だった。
しかし、近年はアルコール飲料の種類が格段に増えて、宴席やパーティーでも各自が好みの酒類を選ぶようになってきた。Z世代の間では口当たりがソフトで、アルコール度数が低めのタイプが好まれる傾向にあり、一般的な日本酒は選ばれにくくなっている。
従来、主な顧客層となってきた「団塊の世代」がかつてほどには日本酒を飲まなくなりつつあるのも、消費量が減る一因だ。その下の世代に当たる50〜60代は日本酒に親しんできた世代だが、ワインやウイスキー、サワー類なども飲み慣れている。日本酒は選択肢の一つでしかない。長期的な消費減退傾向はこの先も続きそうだ。
酒選びの変化は消費量や売り上げで明らかだ。国税庁の統計によれば、清酒(日本酒)の国内消費量はピークだった1975年度に比べ、2023年度は77%も減った。ほぼ5分の1という劇的な市場消滅だ。製造免許を持つ事業場の数は同じ期間に半分以下にまで減っている。
担い手の高齢化も一因 次世代の担い手が課題に
鑑評会やコンテストでの受賞歴を持つ蔵元でも退場が相次いでいる。担い手の高齢化が進んでいるのが一因だ。事業承継の難しさは蔵元が消える主な原因の一つになっている。100年を超えるような歴史の長い蔵元には様々な流儀や決まり事があり、事業承継の足かせになりがちだ。
現場を任されてきた杜氏(とうじ)の職人技を受け継ぐのは簡単ではない。杜氏の退任に伴って、技術が途絶えてしまうリスクもはらむ。無形文化遺産に認められたことが示す通り、酒造りは文化だ。醸し手が育んできたカルチャーを受け継ぐには丁寧な手順が求められる。しかし、代替わりに際して十分な環境が整わないケースは珍しくない。
獺祭(山口県岩国市)は国際宇宙ステーション(ISS)に搭載した装置でもろみを醸造した。IT(情報技術)で匠(たくみ)の技術を実現した製法でも有名だ。しかし、こうした試みには資金とノウハウが欠かせない。「ある程度の設備投資が必要になってくる」(織田氏)。有力ブランドを持たない中小蔵元にはトライしにくい。
ファンの組織化を進め、SNSでキャンペーンを仕掛けるといった、デジタルツールを駆使した経営は日本酒業界でも勢いづき始めた。新発想の技術を注ぎ込んだ「クラフトサケ」の開発も盛り上がっている。
だが、こうした旧来の手法にとらわれないネットマーケティングや醸造テクノロジーにはアイデアを実現するキーパーソンが重要だ。「飲んでもらえれば、うまいとわかる」では通じない。銘柄を際立たせ、効果的に広めるブランドづくりは蔵元の命運を分ける。そうした次世代の担い手を小さな蔵元にどう呼び込むかは喫緊の経営課題だ。
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