「SAKE(サケ)」がピンチだ。日本酒を醸造するメーカー(蔵元)の倒産や休廃業に歯止めがかからない。国内市場はピークの5分の1程度にまで縮んだ。日本酒を含む伝統的酒造りは2024年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された。海外輸出は増えている。日本酒関連のイベントが増えて、ブームのようにも見えるが、現実には蔵元の倒産・休廃業・事業譲渡が相次ぐ。日本酒を取り巻くこのパラドックス(逆説)の理由は何だろう。
原料米が高騰 食米値上がりのあおり
帝国データバンクがまとめた「清酒製造業」(日本酒製造、蔵元)に関する調査結果は蔵元の苦境を示す。2024年度の日本酒蔵元(製造)約1000社の利益合計は93億円にとどまった、「赤字」「減益」と合わせた「業績悪化」の割合は6割を超えている。
経営を直撃したのは、原料米の高騰だ。いわゆる「令和の米騒動」が飛び火する格好で、日本酒の原料米(酒造好適米、酒米)も値上がりや調達難が広がった。主食用米の価格高騰を受けて農家が主食用米に生産体制をシフト。酒米の供給が細った。帝国データバンクの織田有衣子氏は「酒米の減産に伴い、仕入れ環境が厳しくなっている」と指摘する。
原料米を外国産米に切り替えるのは禁じ手だ。日本酒は国産米で造る決まりがある。大半の蔵元は酒米の栽培農家に主食用米の相場よりも高い引き取り価格を用意してきたが、主食用米の値上がりが起きて、価格が逆転。酒米調達は窮地に立たされた。
酒米の代表格とされる品種の「山田錦」は暑さに弱い。稲の背が高いせいで、風で倒れてしまうリスクも高い。面積当たりの収量が少ないから、農家にとっては割がよくない。
こうした弱みを補う意味から、取引価格は高めに設定されてきたが、主食用米の高騰に伴い、そのメリットは薄れた。農家にすれば、手間のかかる酒米をわざわざ栽培する「見返り」が減ったわけだ。主食用米の値下がりが急速に進まない限り、酒米の確保が難しい状況は改善しにくいだろう。
飲食店での消費はコロナ禍以前に戻らず
新型コロナウイルス禍は日本酒業界に強い逆風を吹き付けた。飲食店の営業縮小は日本酒消費を落ち込ませた。影響が落ち着いて以降も飲食店での消費はコロナ禍以前の水準にまで戻りきってはいないようだ。企業の忘新年会や歓送迎会といった宴席需要も冷え込んだままで、とっくりと猪口(ちょこ)の出番は減った。
酒米に限らず、製造に要するコストが軒並み高騰して、収益構造を圧迫している。たとえば、一升瓶。回収コストがかさんで、瓶の確保に苦しむ状況が続く。有力銘柄では4合瓶の採用が進むが、中小の蔵元では切り替えが難しい。
経営体力の乏しい企業から先に脱落していくのはビジネスの常だが、蔵元の場合、単なる優勝劣敗と見過ごすわけにはいかないところがある。それぞれに製法や哲学の異なる蔵元は中小を含めて日本酒文化を成り立たせている。生産効率やマーケティングの巧みな大企業系蔵元だけが生き残るような状況は飲み手の選択肢を狭めてしまう。「地酒」というテロワール(産地の個性や特徴)を失うのは惜しい。
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