「迅速に撤回すべき」IOC方針に日本のJOC理事が懸念…五輪女子種目への遺伝子検査導入に警鐘「女性差別時代に逆戻り」
2028年のロサンゼルスオリンピックから、女子種目に参加する全選手を対象に、性別確認のための遺伝子検査が導入される見通しとなった。このIOCの決定を巡り、日本スポーツとジェンダー学会会長で、JOCの理事も務める來田享子氏が、懸念の声を上げた。 【映像】男性ホルモンの値が高い女子選手 ニュース番組『わたしとニュース』では、來田氏と弁護士の三輪記子氏とともに、IOCの新たな方針とスポーツにおける“公平”の意味について考えた。
■「迅速に撤回すべき」と学会声明…來田氏の受け止め
IOCは女子競技の保護と安全面の懸念を理由に、女子競技参加者への遺伝子検査の導入を決めた。しかし、フランスのスポーツ担当大臣が、倫理的、法的、科学的にも懸念があると表明するなど、方針に疑問の声も上がっている。 日本スポーツとジェンダー学会は、新ポリシーに対し「迅速に撤回すべきだ」という声明を出している。IOCの発表を受けた際の受け止めについて、來田氏は次のように語った。 「タイミングとしては、次のロサンゼルスオリンピックの選手選考のプロセスを考えると、この時期でないと間に合わないということなのだろうとは思った。一方で、本当に遺伝子をそういうことに使ってもいいのか、スポーツ以外にも社会に投げかける問題の大きさを考えると拙速な印象だ。男女で分けることについても、今までずっと積み重ねてきた議論があるので、それをもう少し考える時間が必要だったのではないか」 三輪氏は、遺伝情報の管理の問題を指摘した。「出場資格を得るためにはこの検査をクリアしなければならないわけだが、遺伝子検査をして、その結果をどうするのか。各競技団体が最もプライバシー性の高い遺伝子情報を適切に管理できるのか」
■「女性の身体だけを管理」性別確認検査の歴史と課題
今回の遺伝子検査は、女子種目の出場者だけ実施される。これまでも行われてきた性別確認検査そのものの問題について、來田氏は次のように指摘する。 「女性の身体だけが競技団体に管理されるという状況は、それ自体が『女性差別だ』ということは、もう1世紀ぐらいの間言われてきた。今回の方針は、そこに逆戻りするのかという問いだ」 性別確認検査には、人権や正確性の面からも課題があった。古くは女性器を視認する手法も取られてきた。批判を受けて、その後は染色体検査が行われるようになった。 「染色体による検査は、医学的には確定するのが難しく、それは医師も当初から言っていたことだった。そして、ずっと女性として生きてきた人が、突然スポーツの大会に出ようとしたら『あなたは女性じゃない』と言われるわけだ。これはやはり問題だということで、この検査は2000年のオリンピック大会からは実施しないということで一旦廃止された」 その後、世界規模の競技会では男性ホルモンとも言われるテストステロンの値を基準にする方法も用いられてきたが、來田氏は根拠としては曖昧だと話す。 「テストステロンは、男性の体内にも女性の体内にもある。平均的に見れば、女性よりも男性の方が量が多く、これが筋肉の量とか内臓の機能に影響を与えると言われている。一方で、アメリカなどで多種多様な競技のトップレベルのアスリートのデータを収集してみると、実はかなりの個人差があるということがわかってきた。例えば、女子と男子で圧倒的な差がありそうな競技のトップアスリートでも、実は男性なのにテストステロンは女性と同じぐらいというデータも出てきた。非常に個人差があるので、テストステロンがどれくらい体内にあれば女子カテゴリーで競うと不公平になるのかは、実ははっきりしていないところがある」 「スポーツは筋肉の量だけでなく、さまざまな要素で決まる。例えば日本人の選手は欧米の選手に比べると体が小さいので、『もう勝てない』となっても良さそうだが、そうではない。逆に私たちはその部分こそをしんでいるところもある。(テストステロン値を基準にすることには)根拠としては曖昧なところがたくさんあるということだ」