【KDDI】平均6パーセントの賃上げの裏側にあるジョブ型人事制度による事業変革
2024.09.25
目次
社員のモチベーションを高め、一人ひとりの能力を発揮できる組織をつくるためには、どのような人事制度が必要なのか。2020年から「人財ファースト企業」を掲げるKDDIでは、高度なプロ人財の育成を目指し、独自のジョブ型人事制度、成果やスキルに応じた実力主義の給与体系を導入。また、2024年度には平均6%の賃上げを実施。社員の多様なキャリアの形成を後押ししている。KDDIでは新しい人事制度の導入や賃上げによって、どのような変化が生まれているのだろうか。人事本部長の菱田直人氏に話を伺った。
菱田直人 氏
KDDI株式会社 執行役員 コーポレート統括本部 人事本部長
「専門性」と「人間力」を兼ね備えたプロ人財を育成
——KDDIでは「人財ファースト企業」への変革を掲げています。背景をお聞かせください。
非通信分野への事業領域拡大を進めるにあたり、社内外から専門的な人財を惹きつけ、育成する必要性が増してきたことが背景です。イノベーションを起こし、お客様に新しい価値を提供していくためにも、人財への投資が欠かせません。通信事業に留まらず、DXや金融、エネルギーをはじめとした多様な事業を展開していくためには、多様な専門性を持つ人財の採用、育成が必要でした。また、年功的な処遇により、若手の「挑戦心」と「成長心」の低下も問題となっていました。
こうした考えから、2020年の中期経営計画策定のタイミングで「人財ファースト企業」への変革を掲げるとともに、人事制度を刷新。社員の自律的なキャリア形成をサポートし、多様な人財が活躍できる環境を構築するべく、独自のジョブ型人事制度を導入しました。
欧米で一般的なジョブ型の場合、ジョブディスクリプションをポジションごとに作成し、ジョブサイズ・ラダー別に報酬設定するものですが、KDDIの場合は少し違います。
KDDIらしい人材育成方針は維持しつつも、ジョブ型の良い部分を取り入れ、専門性と人間力を重視する「KDDI版ジョブ型」へと基幹人事制度をフルモデルチェンジしました。
なぜ「専門性」だけでなく「人間力」も重視するのか。KDDIには「心を高める〜動機善なりや、私心なかりしか〜」という社是があり、仕事を通じて人間性や働きがいを高めていくという考えが会社の根底にあります。
「人間力」を持ってチームを率いてメンバーを成長させる。そして、社員一人ひとりが成長することで、組織が成長していく。
こうした考えのもと、専門領域の「テクニカルスキル」と、人間力を重視した「コアスキル」の両方を伸ばしていく人財育成の仕組みを構築しました。
——従来のメンバーシップ型とは異なり、職務領域を明確に定義しているのでしょうか。
欧米のジョブ型のように細かくは定義していません。というのも、細分化された単一の職務を習熟するだけではなく、周辺の職務を複数経験しながら、その領域に広く・深く精通することでステップアップすることをねらっているからです。
そこで、KDDIでは専門領域を大きく30領域にわけて大括りで職務やスキルを定義し、自業務に限定せずに広い知識・視野を持ちながら業務遂行するための仕組みを構築しました。30のうち5領域はデータサイエンティスト、エクスペリエンスアーキテクトなどを目指すDX領域です。
「この専門領域にはどういうスキルが求められるのか」が明確になったことで、社員が希望する仕事に就くためには何が必要なのかを自ら理解し、実現に向けて行動ができるようになりました。
社員の成長を後押しする柔軟な給与体系
——KDDI版ジョブ型人事制度の導入によって評価制度や賃金にも変化があるのでしょうか。
年功序列から脱却し、成果や挑戦の内容、能力を評価し、ダイレクトに報酬に反映する実力主義の仕組みを導入しました。
スキルや成果に応じて報酬を柔軟にすることで個々の挑戦を加速させ、挑戦を通じた成長の好循環が生まれることを狙っています。また、高度な専門スキルを持つ人財に選ばれる会社になるためにも必要な仕組みだと考えています。
大きく変わったことの1つが新卒入社社員の初任給です。新卒であっても、技術系領域出身者で博士相当のスキルを持っている人や司法修習生など、入社後すぐに高度な能力を発揮できる人財はベース初任給を高く設定しています。
具体的には、2024年4月から新卒入社社員の初任給を1万円ベースアップし、28万円からとしました。高度な専門スキルを持つ人財にはこのベース初任給に上乗せし、最大34万円となります。
既存社員の場合は、「専門性」と「人間性」を発揮して成果を出している人財は年齢にかかわらず昇給する一方、降給するケースもありうる仕組みになっています。もともとの基本給が低かった若手社員が成果を出せば昇給率は高くなり、もともとの基本給が高いベテラン社員の場合は前述の若手と同じ成果であっても昇給率が抑えられる制度設計です。
KDDI版ジョブ型人事制度の導入によって、従来のメンバーシップ型で育ってきた社員も改めて自身のキャリアと向き合うきっかけとなっており、「専門性」と「人間力」を磨くことでリーダーとして成長できる環境づくりを行っています。
また、2024年4月には新卒以外の正社員・契約社員の月例賃金を1.4万円アップしました。また、6月には一時金として12万円を支給し、これに定期昇給を加えて平均6%の賃上げとなります。これは定期昇給を加えて平均6%の賃上げとなります。
——全従業員の月例賃金アップと一次金を支給した狙いを教えてください。
1つは、昨今の物価上昇や社会全体の賃上げ機運の高まりの影響です。KDDIでは企業理念に「全従業員の物心両面の幸福を追求する」と掲げており、社会の変化にあわせて社員の賃金を上げていくことは重要だと考えています。
また、労働市場の流動化が進み、人手不足が深刻化する中で、特にキャリア採用において高い専門性を持つ人財を採用するためには、従来の給与体系や評価の仕組みをアップデートする必要がありました。
KDDI版ジョブ型人事制度と柔軟な給与体系を導入することでプロ人財にとって魅力的な会社となり、採用競争力を高めていきたいと考えています。
学びのモチベーションを高める 「KDDI DX University」
——KDDI版ジョブ型人事制度導入によってどのような変化が社内に生まれていますか。
KDDI版ジョブ型人事制度を導入後、社員のエンゲージスコアは毎年伸びています。若手社員にフォーカスすると、特に「やりがい」や「成長機会」の数値が上昇しています。
社員の自律的なキャリア形成を支援するという点においても、自主的に学ぼうとする社員が増え、社内の風土が変わってきていることを実感します。
たとえば、KDDIではプロ人財育成の取り組みの1つとして「DX人財の育成」を掲げ、全従業員のDXスキル向上を目指して「KDDI DX University(以下KDU)」という手挙げ制の社内人財育成機関があります。
「KDU」はジョブ型人事制度と連動しており、専門性を高める「テクニカルスキル」と人間力を高める「コアスキル」を伸ばすための研修プログラムを拡充しています。初期の頃はDX領域やマーケティング分野の専門性を高めるプログラムからスタートし、2024年度からは人事や事業戦略、ソリューションSEなどのプログラム拡充に取り組んでいます。各専門領域の社内知見者のナレッジを集結させ、全専門領域の研修プログラムを開発しています。
多様な研修プログラムを充実させることで、たとえば「今の業務ではマーケティングに関わっていないが、興味がある」といった社員が積極的に研修を受け、自身のキャリア形成につなげているケースも増えており、モチベーションの向上に役立っています。
「KDU」の受講率が伸びているだけでなく、社内の有志による学びあいのコミュニティも立ち上がっています。こうした草の根で学びの機運が高まっていることも、新しい人事制度による変化の1つです。また、社内報を通じてコミュニティ活動の紹介に力を入れることで、社員の自発的な取り組みも応援しています。
——逆に、新たに見えてきた課題はありますか。
人事制度刷新の成果が出ている一方、まだまだ課題があるのも事実。
まず、評価の部分はもっと改善ができるはずです。制度の浸透に向けて毎年工夫を重ねています。例えばテクニカルスキル評価では、「評価対象のスキルが抽象的でよくわからない」という意見が寄せられていました。その声に対しては、スキルの発揮度合いを測定できる”スキルアセスメント”を評価の参考ツールとして自社開発しました。”スキルアセスメント”を通じて上司とメンバー間で、「日常の業務発揮において何ができており、何を改善すべきなのか?」すり合わせできるように促しました。
このように、制度はつくって終わりではなく、見直し続けることが大事です。
また、働き方改革という点では、管理職を中心とした働き方アップデートが課題です。メンバー層のスキルアップやキャリア形成は進展した一方で、その支援の担い手である管理職の仕事量が増えているという課題がデータ分析から明らかになりました。本業も高度化・複雑化する中で、自身の成長やメンバー育成なども託され、難易度・負荷が急増したことが要因として考えられます。
そこでコーポレートからの依頼のスリム化はもちろん、テクノロジー活用にも取り組んでいます。例えば、メンバーのエンゲージメント推移、労務状況やストレスチェック結果を一元的に把握できるツールを開発し、効率的なマネジメント力強化を図っています。今後は負荷を分散化させる、ワークシェアリングに関する施策に取り組んでいく予定です。女性社員の活躍やDE&Iの推進という観点からも、長時間労働の是正や働き方の多様化は必須です。
多様な社員が仕事を通して働きがいを感じ、成長できる環境をつくるためにも、現状で満足することなく、今後もさまざまな変革に取り組んでいく考えです。
データドリブン人事で社員のエンゲージメント向上を目指す
——ほかに、KDDIの人事ならではの取り組みがあれば教えてください。
KDDIの人事部門の特徴として、人事にまつわるデータを分析する専門のチームがあり、データドリブン人事に力を入れている点が挙げられます。
たとえば、例えば「何がエンゲージメントに影響を与えるのか」などの仮説を立て、データで検証します。さらには、データをベースに基づいて施策を検討します。ほかにも、女性活躍を阻害する複合的な要因の解析、個人や部署の長時間労働のパターン分析等を行うなど、幅広い人事課題に対してデータ観点からアプローチしています。
人事の領域は変数が多く、マーケティングのようなABテストができないこともあり、データと事象の因果関係を特定しにくい傾向があります。しかし、データ分析によって仮説を立てたうえで人事としての意志や考えを載せていくことで、より効果の高い人事施策につなげていけると思います。
また、定量データの分析だけでなく、面談時における音声データを言語解析して、組織開発に活かす方法を検証する取り組みも進めています。たとえば、会話中によく出てくるキーワードや態度を分析することで、エンゲージメントサーベイだけでは見えてこない課題が浮き彫りになる可能性があります。
今後も社員にとってより働きがいのある会社を目指し、データドリブン人事を通して社員のエンゲージメントや生産性の向上、人事業務プロセスの改善などに取り組んでいく考えです。
——「人財ファースト企業」として、今後どのような人事戦略を実行していく予定でしょうか。
やはり、人事戦略を事業戦略と連動させることが重要です。そのためには、事業部と人事が連携し、事業部の困りごとや意見を吸い上げて人事施策に反映していくことが必要です。
こうした連携を強化するべく、2024年度から人事本部内にビジネスパートナー人事部を新設しました。まだ立ち上がったばかりですが、各事業部に最適な人事の仕組みの構築、人財の発掘や育成に力を入れていく考えです。
企業の成長の根幹となるのは、社員一人ひとりの挑戦と成長。そして、多様な事業を展開し、イノベーションを起こすためには多様な人財が必要です。
今後も多様なプロ人財が活躍できるように、人事制度の見直しや働き方改革、DE&Iの推進をより深化させ、組織の力を進化させていきたいと考えています。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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