長引く物価高で国立大が未曽有の財政難に直面している。競争原理の導入を狙った平成16年度の法人化以降、教育や研究で大学側の裁量が広がった一方、基盤的経費である運営費交付金の削減が続き、自主財源では施設などの改修・修繕費を賄えない大学も出ている。基礎研究の低迷を危惧する政府は9年ぶりの交付金増額を決めたが、その財務状況は「帰還不能点(ポイント・オブ・ノーリターン)」を過ぎたとの見方もある。自立を基本とした国立大の運営は今、岐路に立っている。
国から全国の国立大に配分され、人件費や教育研究費、設備維持など大学運営に不可欠な経費に充てられる運営費交付金は、授業料収入などとともに運営の柱となってきた。だが法人化以降は交付金の依存度を下げ、各大学の競争力を高めるなどとして減額傾向に。令和7年度は約1兆780億円にとどまり、法人化した平成16年度比で1割超もカットされた。物価上昇などもあり、実質的な下がり幅はより大きいとの見方がある。
交付金の配分を巡っては、財務省と文部科学省の意見の対立もあった。使途にメリハリをつけ、経営改革など大学側の創意工夫を求める財務省に対し、文科省は物価や人件費高騰を背景に交付金増額を要求してきた。
潮目が変わったのは、積極財政を掲げる高市早苗政権の発足だ。物価上昇を踏まえた人件費に充てるとして、令和7年度補正予算で421億円を盛り込んだ。8年度予算案ではさらに踏み込み、7年度比で188億円増の1兆971億円を計上した。海外に比べ、研究力が低迷している現状を打破する狙いもある。
それでも20年近くの交付金減額の後遺症は大きい。国立大の体力の弱まりは深刻で、今回の増額も「焼け石に水」(関係者)との見方がある。
そうした状況を踏まえ、クラウドファンディング(CF)に活路を見いだす大学も増えている。
奈良女子大は昨年4~7月、明治42(1909)年に建てられ、欧州風の建築様式が目を引く記念館(国重文)をはじめ、正門などの改修・修繕総工費2億円の一部をCFで募った。その結果、目標を上回る約4300万円が集まった。
多くの市民も訪れる記念館は老朽化対策が喫緊の課題だった。高田将志(まさし)学長は「大学が裁量で使用できる予算が減っている中で通常の大学運営にかかる経費が上振れとなり、改修の優先順位が低くなっていた」。奈良女子大の場合、令和7年度の交付金は36億円だが、光熱費や学術雑誌の購読料が10年前と比べて2倍近くに値上がりし、人件費も増額傾向にある。
CF実施には学内でも議論があった。高田氏は「CFはプロジェクトに賛同した人たちが寄付する。記念館の改修という社会的意義が趣旨に合致すると考えた」と述べた。
施設や設備の改修費用などにCFを活用する大学は珍しくないが、卒業生や企業からの寄付が一般的な欧米とは異なり、日本では浸透しているとは言い難い。
熊本大は昨年度、学内のインターネット環境の整備やトイレの改修費用などとして、卒業生や地元企業などに計1億円の寄付を呼びかけた。ただ、集まった寄付額は約3600万円にとどまった。
国立大の運営に詳しい徳島大の山口裕之教授は、日本の国立大は明治以降、国の号令で創設されたとし「国民が主体となって大学を育てようという感覚が乏しい」と指摘。CFは、新規性や支援者にとって分かりやすい事業に対する一時的な資金にはなるが、公的資金の代替手段にはならないとする。
長引く物価高もあり、各大学の財務状況は「教職員の人件費もままならない危機的状態」(山口氏)。その上で8年度の交付金増額の大部分は社会保険料の負担率改定に伴うものだとし、実質的な増額は80億円程度にとどまるとの見方を示す。
山口氏は混沌(こんとん)とする世界情勢を踏まえ、「どんな国を目指すのか、そのために国立大に何を求めるのか立ち止まって考えるべきだ」と訴えた。
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厳しい経営環境の中、教育の質を担保するとして、授業料の値上げに踏み切る国立大が相次いでいる。
岡山大は3月末、日本人学部生の授業料を令和9年度から1・2倍に、留学生を2・5倍に引き上げる方針案を発表。値上げすれば、留学生は国立大で国内最高となる。
現在の年間授業料は日本人学生、留学生ともに国立大の標準額と同じ53万5800円。値上げすれば、留学生は約133万円となる。文科省令では大学が引き上げられる日本人学生の授業料の上限を標準額の1・2倍としており、改定案はこれに当たる。那須保友学長は記者会見で「留学生が減るとの議論も出たが、研究や支援の質で選ばれる大学にしたい」と述べた。
このほか埼玉大や山口大、名古屋工業大などもすでに同様の値上げを表明している。
ただ授業料の値上げには、学生側から反発の声も聞かれる。
7年度入学者から授業料を引き上げた東京大では、値上げ前に学生自治会が実施したアンケート(約2300人回答)で、約9割の学生が値上げに反対していた。
(小川恵理子)