人気投票アンケート結果SS「ザイロとツァーヴとタツヤの場合」

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2022-09-25 17:49:46

 野営地の外れで、ツァーヴが妙なことをやっていた。
 いや――タツヤに妙なことをやらせていた、の方が正確かもしれない。

 俺は常日頃から「タツヤで遊ぶな」と言っている。主にツァーヴに対してだ。ごく稀にノルガユもタツヤに変な器具の実験をさせようとすることがある。もし何かの間違いで、いざというときタツヤが不調だと困るのは俺たちだからだ。
 この日、ツァーヴはでかい樽の上に腰かけて、タツヤになにやら指示を飛ばしていた。
「いい感じっスね! タツヤさん、次行きましょう! 次!」
「ぐぶ」
 ツァーヴが声をかけると、タツヤは半端なうめき声をあげて棍棒を構える。どうやら何かの戦闘訓練、のようなことをしているらしい。当然のことだがタツヤもそれを断ることができない。
 仕方がないので、俺は口を挟むことにした。

「タツヤに何やらせてんだよ」
「あ! 兄貴、ちょっと見てくださいよ。タツヤさんすごいんスよ」
 俺には咎める気しかなかったのだが、ツァーヴは嬉々として手を振ってきた。こういうところは、ツァーヴはドッタやベネティムとは違う。あいつらは最低限、こっちの空気は読む。
「ほら、タツヤさんって、この前は雷杖とか使えることが判明したじゃないスか」
「みたいだな。俺は見てねえけど」
「そんで、色々な武器持ってもらって、何ができるか検証しようと思ったんスよね」
「ああ……

 俺はタツヤの足元に散らばる備品の山を見た。
 どれも武器としては用を成さなくなり、廃棄することに決まっていたものだ。
「まあ、それなら別にいいけどよ。あんまりタツヤに変なことさせるなよ」
「わかってますって。でも、色々わかってきましたよ。オレの実験結果、聞きます? 聞きますよね? もう聞きたくてたまらないって顔してますよ!」
「聞きたくないっつっても喋り続けるだろ」
 とはいえ、俺も興味が無いわけではなかった。タツヤに何ができるのか? いまだに謎が多い。一番付き合いの長いやつがベネティムだったりライノーだったりするから、余計に謎だらけになっている。

「オレが見たところ、タツヤさんってあのデカい斧以外はイマイチだったんスよね」
 ツァーヴは地面に転がった武器の類を指差す。槍に、戦鎚、槍斧、分銅つきの鎖。さらには両手持ちで使うような剣のような、実戦で使えるとは思えない代物まである。
「こっちの戦鎚は、まあ、タツヤさんなら適当に振り回すだけで強いんスけど……殴るだけじゃ止まらない異形もいるんで、斧の方がマシって感じっスね」
「だろうな。前に槍を使わせてみたことあるんだが、タツヤにはあんまり向いてねえ」
 正直、個人の単純戦闘力でいえば、懲罰勇者の中ではタツヤが最強といって文句のあるやつはいないだろう。ジェイスだろうがパトーシェだろうが相手にならない。俺にしたところで、たとえザッテ・フィンデやサカラを駆使してもタツヤには勝てないと踏んでいる――俺にとって相応に有利な戦場を指定できれば別だが、いまこの場で、タツヤと戦えと言われたら絶対に断る。
 そのくらい、タツヤの身体能力は常軌を逸している。下手をするとニーリィとも互角以上の戦いをするかもしれない。

「でも、片手剣なら結構使えてましたよ。なんか変な使い方でしたけど」
「それは俺も一度見たことある。まともに使える武器が無くて、仕方なくタツヤに西方剣持たせた」
 あのときは、タツヤにこんな武器が使えたかと思ったほどだ。西方剣とは、その名の通り西方で鍛えられた刃のことだ。緩く湾曲した片刃の剣で、切れ味に優れる。その分、普通の剣よりもずっと壊れやすいのだが、タツヤはそれを鮮やかに振るって見せた。
 狭い場所なら、戦斧よりもああいう武器の方が有効かもしれない。いずれ試してみることもあるだろう。

「ジェイスに言わせりゃ、タツヤの動きはまともな戦技じゃないって話だ。西方戦技とも、現代戦技とも相当違うってよ」
「そうっスね。オレも教団でめちゃくちゃ厳しく暗殺体術とか習ったんスけど、根本から違うというか……そういや実はオレ、だいぶ前にタツヤさんと組打ちやってみたんスけど」
「本気かよ、おい」
 俺は正気を疑った。組打ちとは、素手でやる取っ組み合いの延長のようなもので、軍では一対一でやる自由形式の格闘訓練を意味する。
 素手で異形を殴り潰し、引き裂くような腕力を持つタツヤと組打ちしようとするやつがいたとは。

「ほら、オレって悲惨な訓練を乗り越えてきたじゃないスか? 基本的に恐怖心とか麻痺してるんスけど、いやー……タツヤさんは凄かったっス。このオレが投げられて首の骨折られかけました。つーか、腕は折れましたけどね。あれもなんか変な投げ技だったなあ。殴る時も、なんて言うんスか? 腰だめに拳構えて、こう!」
 ツァーヴは腰を捻り、引いた拳を肩の高さにまっすぐ突き出すという変な動作をしてみせた。
「こう突き出す! 絶対変ですよ、この動き!」
「たしかに変な殴り方だけどよ……
 普通は、顔面を守るように拳を構えて打ち込むように教えられる。腰の高さに拳を構えるという格闘体系は、連合王国ではありえない。もちろん、いまだ謎の多い西方戦技にはそういう技もあるのかもしれない。この手の技は西方出身のリュフェンに聞いてみたいところだ。

「というかお前、タツヤと組打ちしてよく腕を折られただけで済んだな。アホなのか?」
「へへへ! アホさ加減は兄貴ほどじゃ……あっ、いまの無し! いてぇっ!」
「遅いんだよ」
 俺はツァーヴの脛を蹴とばし、ついでにこめかみに拳を合わせた。ツァーヴは頭を押さえてうずくまる。こいつは少し静かになった方がいい。

「それで? 結局、タツヤに棍棒持たせてんのか? あれなら使えるのかよ」
「いって……ぇ? あ、そうそう。タツヤさん、棍棒持つと変な構え方してますよね?」
「ああ、だいぶ変だな……
 片手で振り回せるような棍棒を、両手で握りしめるように持っている。棍棒の先端は天を向き、そのくせ高く構えるのではなく、胸の脇に引き付けるようにして保持――おまけに右足を大きく引いて、極端な半身の構えでもある。
 俺のまったく知らない棍棒の扱い方だった。

「で、見てくださいよ。これ!」
 そういえば、ツァーヴは先ほどから片手で何かを弄んでいた。土を固めた球体だ。子供が遊びで作るような泥団子に近い。片手で握り込めるほどの泥団子。
「この泥団子をですね……こう!」
 ツァーヴは軽くそいつを投げ込んだ――タツヤに向かって、放るように。
 その次の瞬間、タツヤは凄まじい速度で棍棒を真横に振っていた。

「ヴァるッ!」
 という、短く吠えるような声が、タツヤの喉から漏れた。
 それと同時に泥団子は粉砕され、砕け散っている。タツヤが横一文字に振るった棍棒で殴打されたのだ。そう見えたと同時、タツヤは棍棒を振り捨てて、走り出している。

「へへへへへ!」
 ツァーヴが腹をかかえて笑った。
「なんで棍棒捨てて走るんスか! 意味わかんねえ! なんなんスかね、これ」
「ホントだ……何やってんだ、あいつ」
 だが、俺の疑問にタツヤが答えることはない。獣のような前傾姿勢で駆けていったタツヤは、やがて頭から滑り込むようにして倒れ込む。濛々たる土煙が上がっていた。
 これには少し慌てた。タツヤが過剰な運動で転んで、怪我をするのはたまにあることだ。
「おい! タツヤ、無事か!」
「それが無事なんスよ。あれで頭から地面に突っ込むところまで一挙動みたいで」

 ツァーヴは首を捻った。
「タツヤさんが呼び出された大昔は、あれが有効な戦い方だったんスかねえ?」
「さあ……知らん……
 あの一連の変な動きが有効な戦場があったとは、俺には想像できない。まったく合理的な動きではないからだ。
 棍棒で飛来した物体を攻撃するところまではいいとして、なぜその後に棍棒を振り捨てて走り出すのか。そして頭から土に突っ込むのか――俺には理解できないことだらけだ。

「あれは、何かの球技の動きか……ツァーヴ知ってるか?」
「いや全然。ほら、オレって暗殺教団に育てられて、ろくな遊びも知らなかったじゃないスか? だから球技とかさっぱりやったことないんスよね! まあ天才なんでやればなんでもできると思うんスけど。ザイロの兄貴も知らないスか?」
「俺もそんなに詳しい方じゃねえけど、少なくとも中央とか南方にはないやつだな」
「南の方だと、棍棒で球を殴る球技あったじゃないスか。あの物騒なやつ」
「猟球な。物騒っていえば捷球の方が物騒だろ、体当たりで球を奪い合うみたいなことやってるじゃねえか」
 猟球は、たしかに南方で盛んな球技だ。棍棒で球を打ち合って、互いの陣地に叩き込む。もう少し先端の部分が太くなった棒を使うものだが、それをタツヤが真似ているにしても、打った後で全力疾走するというのは意味がわからない。頭から地面に突っ込むのも謎だ。
 ――結局、俺たちには何もわからないということだ。

「もしかして、ベネティムかライノーが変な遊び教えたんじゃねえのか」
「ベネティムさんはありそう! へへへ! 今度聞いてみよ!」
 底の抜けたような軽薄な笑い声をあげるベネティムをよそに、タツヤは起き上がり、こちらを見ていた。なぜか腰を落とし、何かを窺うような慎重な目つきで。

 全然わからん、と俺は思った。
 タツヤは本当に謎だらけの男だ。おそらくは、この手の変な動きが無数にあるに違いない。切羽詰まった戦場で暴発しないためにも、観察しておくのは重要なことかもしれなかった。


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