ノックをする。二回。間を置いてもう三回。
それが合図だ。ドアの内側から声がする。
「――《女神》」
これもまた、言葉からなる単純な符牒だ。テオリッタは囁くように答える。
「とてもえらい」
「はい。どうぞ」
もともと鍵は掛かっていなかったのかもしれないが、とにかくドアは開いた。
室内には少女が一人。影の《女神》ケルフローラが、冷たく凍ったような顔で待っていた。
「あら」
予想外の光景に、テオリッタは驚きの声をあげる。
「ケルフ。あなただけですか?」
「うん」
「他の《女神》の皆さんは? まだ来ていないとか……もう時間なのに!」
「みんな、事情があって来れないか、来るつもりがないかのどっちかだって」
ケルフローラは淡々と、本を読み上げるように言う。
「アンダウィラとシーディアは職場で仕事。まだしばらく手が離せないと言っていた」
「ええー……」
「ニヴレンヌとフィムリンデは出動中。西の方」
「うう」
「イリーナレアは『そんなに暇じゃねえ』って」
「ううーっ! 言葉遣いが《女神》らしくありませんね、彼女は!」
「ペルメリィは聖騎士とお出かけの約束。街へ買い物に行くって」
「そ、それは羨ましい……!」
「バフロークとルクジュットはそもそも返事がなかった。音信不通」
「男子二人はもう、ほんとに勝手ですね! それならいいです、わかりました! 誘ってあげません」
テオリッタはふん、と鼻を鳴らし、両手に抱えたお菓子の山を差し出してみせた。
「私たちだけでやりましょう。《女神》の秘密会合を!」
「それが良さそうね」
ケルフローラもまた、抱えたお菓子の袋を掲げた。
「アディフに習って焼いてみた。食べよう、テオ」