トヴィッツ・ヒューカーが見る限り、魔王と人間の差異は、余暇の使い方にある。
少なくとも彼の目からはそう見える。
アニスは一日のうち、完全に動かなくなるときがある。
眠っているのとはまた違う。停止する、というべきかもしれない。外界からの刺激にほとんど反応せず、唯一、触れようとしたときには手首を掴まれた。そのまま凍らされかけたところを、アバドンによって止められた。
どうやら、停止期間があるのは他の魔王も同じことだ――そういえば、『イブリス』と呼ばれた魔王は、年単位でこの停止期間があったと聞く。
「動く必要がないから」
と、アニスは言っていた。
「止まっている。ただそれだけ」
魔王現象は、どうやら文化的な活動にほとんど興味を示さないらしい。
かろうじてアバドンが羊皮紙を広げ、ひどく前衛的な絵のようなものを描いているのを見たことがある程度だ。彼ほど人間に理解を示し、言葉を扱い、複雑な精神活動をする個体はよほど珍しいのかもしれない。
「スプリガンが無事ならばね」
と、アバドンは時折惜しむような口調で言った。
「創作行為を理解しない者が多くて困る。いや、きみたち人間にそれを期待するわけではないから、私の話し相手になる必要はないよ」
アバドンはこのとき、トヴィッツを労わるように笑った。
「そのような意味で、我々が人間に期待をすることは決してない。安心してくれ」