アラフォーぐだ男が聖杯を手にするまで【03】
カルデアを引退したアラフォーぐだ男が普通にサラリーマンをしていたら聖杯戦争が始まって令呪持ってないしマスター権限全くないけどサーヴァントたちを懐柔して聖杯を手に入れちゃう、って話。
色々捏造あり、時間軸が混ざって全然違う、二部とか気にしないでください。
なんでも許せる方向け。
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懐かしい姿が目の前にいる。
一瞬顔を合わせるというものじゃなく、時間や状況に追われるわけでもなく……。
悠然とそこに立っている。
「……っ……」
名前を呼ぼうとして、戸惑った。
彼は遠坂さんに真名を告げていないと言う。
衛宮くんはきっと……いや、確実に彼と関係のある人物だ。
おいそれと真名を呼んで、誰かに聞かれでもしたらマズいかもしれない。
それでも、この込み上げてくるものを名を呼ぶ以外に、どう表現したらいいのか分からなかった。
言葉が喉につっかえてでてこない……。
エミヤはそんな俺の状態を察したのか、昔の俺を見守っているときのような優しい笑顔で近づいてくる。
「私の真名を言わなかったのは賢明な判断だ。凛から話を聞いたのか?」
「っ、あぁ……」
「何故君がここにいるのか、という問いはきっと愚問なのだろう。君は事件となると放っておけない性分だったからな」
「そう、だな……っ」
「全く、なにも変わらないんだな、君は。こんな己の領分ではない聖杯戦争にまで、首を突っ込んでくることもないだろう」
「あぁ……っ」
「私たちが君のことを覚えていなかったら、目撃者として殺されていたかもしれないんだぞ」
「あぁっ……」
エミヤは俺の目の前までくる。
俺は目を片手で覆って、俯いた。
「……ホント、なんで……っ、覚えてるんだよ……もー……」
「さぁ、何故だろうな」
クシャリ、と頭を撫でられる。
懐かしい大きい手だ。
俺のことをいつも気遣って美味しいご飯を作ってくれた、ちょっと不器用な優しい手。
「少し身長が伸びたかな?約25年……君も随分老けた。煙草は身体に悪い、と昔も教えたはずだが?」
エミヤはふっ、と笑う。
「それに、少し泣き虫にもなったようだ」
「っ、煩い……!年取ると涙腺が緩くなるんだよ……!腰も痛いし!肩も痛いし!膝も痛いし!頭も痛いし!体力は落ちてくるし!風邪は引きやすくて治りにくいし!脂っこいのはあとを引きずるし!白髪だって増えるし!年下の女の子には気を遣うし!最近ちょっと加齢臭とか気になってくるし!20年以上経ってるんだ!あの頃より色々変わってて当然だろ!」
「はは、そうだな」
「まぁつまりなにが言いたいかというと!」
はぁー、と俺は息を吐いて顔を両手でぐしゃぐしゃと拭った。
そしてばっ、とエミヤを見上げる。
「っ……久し振り、アーチャー」
「あぁ、久し振り、リツカ。君にまた会えて嬉しいよ」
「俺もまたこうやって会えると思ってなかったから、凄く嬉しい」
記憶も残っていないと思ってたからなおさら、と俺は笑った。
そして俺は上着のポケットに手を入れる。
「でも、今のお前のマスターは遠坂さん、だろ。こんなところにいていいのか?」
「彼女の家にはある程度結界が張られている。私が傍にいなくても彼女は強いし、なにかあれば呼ぶだろう。問題はない」
「俺のときはレイシフトによくついてきてたクセに」
「それは君があまりにも危なっかしかったからだ。それにそこまでついていってはいなかっただろう」
「そうだな、ハロウィンのときはそのせいで色々大変だった」
「新宿のアサシンがいてくれて助かったな。彼も楽しんでいたようだったし、君も懲りるということを知らなかった」
いや、今もどうだろうな……、とエミヤはボソリと呟いた。
失礼な、昔と比べて年食った分多少は慎重にもなっている。
……まぁ、今の状態で、もしまたチェイテ城でなにかあってもいこうと思うだろうけど。
「今思えばあの城も思い出だよ……今思ってもあれは馬鹿だと思うけど……」
「あれをそう昇華できたのならなによりだ」
月日って凄いな、と俺とエミヤは声を揃えた。
「それで、君はなにをしているのかね?わざわざ無関係な聖杯戦争に首を突っ込んでこようとしている理由は?」
「俺の会社が例のガス漏れ事故と言われている事件に巻き込まれた」
「君は無事だったのだろう。ならば関わる必要はないと思うが」
「心にもないこと言うなよ。俺の同僚や後輩が倒れて、その犯人が彼女だって察してる。俺が黙ってられると思うか?」
そう言えばエミヤは額に指を当てて首を振る。
盛大に溜め息も吐きやがった。
「思わないから頭が痛いよ。それでも君は令呪も持たず魔術も使えない。完全に蚊帳の外だろう」
「俺は聖杯戦争に参戦するつもりはないよ。聖杯をどうこうしようとも思ってない。聖杯を欲しいとは今も昔も思ってないし」
「ならば何故……」
「身内がやられたんなら黙ってられない。それに一般人に手を出すやり方も気に食わない」
「だから彼女に会って説得し、止めさせようというつもりか?彼女が君を覚えている保障はない上に、それを聞く相手だと、本気で思っているのか。知ってはいたが呆れるほどのお人好しだな」
少しイラついたように言う彼に、俺はふっと笑う。
これは大体俺を心配してくれているときの態度だ。
厳しいその言葉の裏には必ず優しさが隠されていた。
そんなことは今も昔も知っている。
だから俺は手を伸ばして両手でエミヤの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
昔は15cmもあった身長差……今は10cmもないその差に、感慨深くすらなる。
「それは人のこと言えないだろ。俺のことはいいから、今はちゃんと遠坂さんのことを守ってやるんだぞ」
「っ、止めないかマスター……!」
「もう俺はお前のマスターじゃないよ」
俺の腕を掴んだエミヤはその言葉でピタリ、と止まった。
どこか悲痛な面持ちだ。
冷たい男だろうか、俺は。
でもちゃんと言わないと、いざというとき俺まで助けようとするかもしれない。
それは違うだろ。
「俺はもう、お前たちのマスターじゃない」
「っ……あ、あぁ、そうだったな、すまない……」
「お前のマスターはあの子だろ。少し気が強いけど、本当は心優しいあの子の」
「……あぁ」
「だから俺のことは気にしなくていいんだ。確かに俺はあの頃と違って体力も落ちてるし、運動能力も衰えたし、魔術だって使えない。でもそれ以上に知識も、お金も、自由にできるだけの身がある。言ってしまうなら、どうとでもなるんだよ」
エミヤから手を放して、俺は彼の横をすり抜けて歩きだす。
少しだけ距離を取って振り返った。
「俺なら大丈夫、なんとかなるよ」
「リツカ……っ」
「お前はあの子をしっかりと守ってあげろよ、俺にそうしてくれたように。……それじゃ、また会えたらいいな」
片手を上げて、俺は背を向けて歩きだした。
俺が関わっていい領域じゃないことは分かっている。
踏み込んじゃいけないことも分かっている。
マスターとサーヴァントの関係で、もう彼らと関われない。
年をとると、どうしても彼らを一線置いてでしか、接することができなくなるんだよな。
でもたまに無性に、その一線を越えてしまいそうになる。
アラフォーカッケーよぉ!貫禄あるなぁ、それ故の脆さもハードボイルドだぜ!