アラフォーぐだ男が聖杯を手にするまで【01】
カルデアを引退したアラフォーぐだ男が普通にサラリーマンをしていたら聖杯戦争が始まって令呪持ってないしマスター権限全くないけどサーヴァントたちを懐柔して聖杯を手に入れちゃう、って話を私が読みたいんです。
続くか分かりません。誰か書いてくれてもいいのよ!!
色々捏造あり、時間軸が混ざって全然違う、若干セイレムのネタバレあり?
なんでも許せる方向け。
12/7:デイリー1位、女子に人気1位、男子に人気5位入り!ありがとうございます!
12/8:デイリー1位、女子に人気1位、男子に人気5位入り!ありがとうございます!
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「……!……せ……い!……先輩!……先輩!!」
耳元で呼ばれてはっ、として顔を上げる。
「ごめん、ぼーっとしてた!マ……っ」
「ま?もう、先輩最近働きすぎなんじゃないですか?ここずっと残業してるって言ってましたしー」
こげ茶の髪を綺麗にまとめている女性を見て、反射的に呼びそうになった名前を呑み込む。
彼女の言葉に俺は額を押さえてフルリ、と頭を振る。
確かに、ここ最近働き詰めで少し寝不足だったかもしれない。
昔はこれくらいどうってことなかったんだけどな……。
俺は笑って職場の後輩である女性、筒見を見上げた。
彼女は少し怒ったような、呆れたような表情をしている。
「いや、ごめん、まだ大丈夫。資料できた?」
「できましたけど……ていうかまだって!それヤバいですからね!?もう確認は明日にして帰りましょう!」
「えー、でもできたんなら早めの方が……」
「期限はまだありますし!ね!ほら、もう8時ですよ!定時を2時間もすぎてる!」
「それはお前もだろ……」
「私は普段残業しないからいいんです!さぁ、帰りましょう!」
懐かしく感じるこの押しの強さに俺は苦笑した。
「分かった」
「え、なに、藤丸帰んの?なら俺も帰っかなー」
「自分の仕事はいいのかよ?」
「まぁ、今無理してやることもねぇし。よし、どっか飯食いにいくか!」
「賛成!私最近新しくオープンしたイタリアンの店見つけたんですよ、そこいきませんか?」
「お、いいな。おーい、お前らもいくかー?」
「川西さんと藤丸さんの奢りですよね?いきます!」
「あんだとー?どーするよ藤丸?」
「おー、いいよ」
「マジかよ……独身貴族は金持ってるだろうけどなぁ、俺は嫁に財布握られてるんだぞ……」
同僚の言葉にははは、と笑いながら俺はパソコンの電源を落として席を立つ。
男女の後輩三人を引き連れて職場を後にした。
夜の街を歩く……もう、20年以上が経った。
俺が魔術師を辞めて、戦いから離れて、雪山から降りて、普通の生活に戻って……。
俺は、元は人類最後のマスター、なんて呼ばれていた。
命をかけた戦いと旅を乗り越えて、この世界を救ってみせた。
たったの2年だ。
俺がマスターとしてカルデアで過ごした時間は、たったの2年なのだ。
駆け抜けたあの頃もそうだったが、今改めて考えてもあっという間だった。
ゲーティアを倒し、逃げた魔神柱も倒すと最早レイシフトをする意味すらもなくなった。
カルデアには新たな所長も就任し、全て元通り……といわけではないが、大体が丸く収まった。
元々俺は特異点修正のために集められた数合わせの一般人にしかすぎなかったし、その特異点がもうないと判明したのなら俺の仕事は終わりだ。
魔術協会から莫大な口止め料、として多額のお金を渡されて、俺はカルデアのマスターを辞めた。
一緒に戦ったサーヴァントたちは、戦いが終わるとそれぞれ座に還っていったし。
心残りも未練も、少しだけある。
でもあそこには俺のやれることはもうなかったのだから、しょうがない。
そして俺は日本に戻ってきて、高校を卒業して、大学にいって、こうして就職して、立派なアラフォーまで歳をくった。
仕事は、まぁ、それなりに順調。
気のいい同僚と、一生懸命な後輩がいて、日々はそれなりに充実している。
「川西さんの息子さんって今何歳でしたっけ?」
「今高1だから、16だな。ちょっと反抗期入ってきてて最近生意気なんだよ」
「まぁ、それはしょうがないことですよ。私だってありましたもん、反抗期。お父さんと洗濯物一緒にしないで!って」
「典型的だなー」
「いや、あのときはマジで嫌だったんだって!」
「俺、娘じゃなくてよかった……自分の娘にそんなこと言われたら落ち込むわ……」
結婚18年目の同僚の話をワインを傾けながら聞く。
筒見が見つけたというイタリアンの店はお洒落で、それでも堅苦しくなく雰囲気のいい店だった。
おススメだと言われたマルゲリータピッツァも申し分なく美味しい。
ワインには生ハムとアボカドディップをバケットに乗せたつまみが最高だ。
「藤丸先輩は結婚の予定ないんですか?」
筒見に話題を振られて、俺はんー、と首を傾げる。
川西は止めとけ、と手を振った。
「こいつは無理だって」
「えー?なんでですか?藤丸先輩そこそこイケメンだし、高身長だし収入あるし性格いいし、めっちゃ優良物件だからすぐにでも結婚できそうなものですけど」
「お前、本人である俺を前にその物言いって……」
「いや、こいつは結婚できないんじゃなくて、しないんだよ」
「それこそなんでですか?」
男の後輩の一人に見られて、また俺は苦笑した。
「まぁ、なんとなく?タイミングがなかったわけじゃないんだけど、なんかねぇ」
「噂では昔の女を引きずってんじゃないかって話」
「お前なぁ」
同僚の頭を小突く。
あながち間違ってないだけに笑えないんだよ、その噂。
はぁ、と俺は溜め息を吐いて煙草に火をつけた。
「先輩が引きずってる元カノとかすっごい気になるー!どんな人だったんですか?」
「元カノじゃないよ」
「え、片想い?告白できなかったとか、相手に彼氏がいたとか?」
「片想い、ではなかったかな。彼氏がいたわけじゃないし、少なくとも向こうも好意は持ってくれてたと思うけど」
トン、と煙草の灰を灰皿に落とす。
懐かしさに少しだけ目を細めた。
筒見は物凄く興味深々という感じで俺を見てくる。
まぁ、これ以上は話すつもりないけどな。
俺のその態度を感じ取ったのか、筒見はむぅ、と眉を顰める。
「これは……絶対話す気のない姿勢……」
「ないねー」
「えー!藤丸先輩のそういう話ホントに聞かないから興味あったのにー!」
「そういう筒見はどうなんだよ?」
「ちょっ、聞いてくれる!?今の彼氏がホント最悪でさ!」
後輩がいい具合に話題を逸らしてくれて助かった。
短くなった煙草を灰皿に押し潰して、俺はワインの追加を頼んだ。
平和に戻って42歳になった俺は、独身貴族を謳歌しています。
***
いい時間だし明日も仕事があることもあって、俺らは店をでて帰路につく。
五人でタクシーを捕まえるまで国道沿いを歩いた。
平日で10時も過ぎれば人も疎らだ。
今日は寒いな、とマフラーに顔を埋め、青になった信号を渡ったとき、向かいから赤いコートの女の子が歩いてくる。
どう見ても学生の制服に、こんな時間に歩いて危ないなぁと思ってその子を見て息を飲んだ。
「イシュタル……っ?」
「っ!?」
そして無意識に俺はその女の子の腕を掴んでいた。
驚いたように目を見開いてその子は俺を見上げる。
かつての仲間に彼女はよく似ていた。
……いや、というか同一人物……?とも違うか、確か依り代だったかな……。
「……あの、私になにか?」
コトリ、と首を傾げる少女と、藤丸?と同僚に呼びかけられて俺ははっ、として手を放した。
「っ!あ、いや、ごめん、なんでもないんだ。ちょっと知り合いの子に似てたから思わず……ごめんね」
それじゃ気を付けて、と笑って誤魔化して、前方を歩くやつらと合流した。
あー、ヤバいな、あまりにも見た目が同じで……JK相手になにやってんだ俺……。
俺が近寄ると同僚はニヤニヤと笑っている。
「おいー、なにやってんだよ藤丸ー?流石にJKは犯罪だぜ?」
「違ぇよ。ホントに知り合いに似てただけだっての」
「いやぁ、お前が結婚しないのはそういう趣味があったからなのかと思ったわ」
「怒るぞ、マジで」
「ははっ、冗談だって!」
肩を組んでくる同僚に全く、と呆れる。
そのとき、少女が俺のことをじっと見ていたことに気付かなかった。
***
少女は歩いていく中年男性の背中を見送りながら眉を顰める。
掴まれた腕に触れた。
「驚いた……なんだったのかしら、あの人……。ねぇ、アーチャー?」
微々たるものだったが、わずかに魔力を感じた。
自身の使い魔に問いかけても返事が返ってこないことに不思議に思った少女は、顔を上げる。
『………………………………』
「アーチャー?」
『…………あぁ、いや、なんでもない。気にしないでくれ』
「気にしないでくれって……あんたのそんな反応を見たらそうもいかないわよ」
『本当になんでもないさ。彼はただの一般人だ、君が気にかける必要はない』
「まぁ、確かに微量に魔力は感じたけれど、あの程度じゃ魔術師としては三流もいいところだったものね」
そう言って少女は踵を返して歩きだす。
「でも、イシュタル、って言ったわよねあの人……」
有名な女神の名前で呼ばれたことには疑問しか湧いてこない。
けれど少女には疑問に思うだけで、答えを知る術はなかった。
***
どうも最近巷ではオフィス街でガス漏れ事故が多発しているとのことだ。
朝礼でも上司に給湯室を使う際はガスの元栓をしっかり確認するように、と言われた。
でも本当にガス漏れ事故、なのか?
それにしてはここ最近で起こりすぎている事故だ。
なんらかの外的要因があるとか……?
例えばテロとか、例えばもっと別の……そう、昔の俺の一番身近にあった……。
「……なに考えてんだ俺、早々そんなことあるわけないだろ……」
一つの可能性を考えて、俺は頭を振った。
この間のイシュタルによく似た女の子を見たからだろうか、最近たまにカルデアのことを夢に見る。
みんなのことや、戦いの記憶、歩んできた旅の景色。
四十過ぎたおっさんがなにセンチメンタルになってんだって話だ。
外回りから会社に戻ろうとして、携帯をとりだして時間を確認した。
話し込んでしまったせいか、既に7時を回っている。
これは会社に戻るよりもそのまま直帰してよさそうだな。
そして俺はまだ残っているであろう同僚に直帰する旨を電話で伝えた。
進路を変更して家へ向かう。
途中でコンビニでも寄って適当に弁当でも買って、まだ見れていないドラマの録画を見て、今日は早めに寝てしまおう。
ウダウダとそんなことを考えながら帰路についた。
そうして朝、身支度をしながらテレビのニュースをかけていると見慣れた会社名が映し出されていた。
『昨夜未明、再び新都のオフィス街でガス漏れ事故がありました』
驚いて食い入るようにニュースを見れば、それは俺の会社で、俺が昨日仕事から帰った後のことで、会社に残っていた同僚や後輩が病院に運ばれたという内容だった。
ピリリリ、と携帯が鳴って、社員一斉送信のメールを確認すれば今日からしばらくは会社は休みになるという内容が綴られていた。
社員のほとんどが意識不明で病院に搬送され、事故の詳細を調べるために警察や消防の点検や調査が入るからだろう。
この間も別のビルでガス漏れ事故があったばかりだぞ?
こんなに立て続けに起こることなのか?
正直、ただ事じゃないと俺の直感が言っている。
「……っ!」
すぐさま俺は私服に着替えて自分の会社へ向かった。
ビルの前には警察や消防がおり、KEEPOUTのテープで出入口を塞がれていた。
俺は一人の警官の傍に寄って社員証を見せる。
「すみません、ここの社員なのですが少し立ち入ることはできないでしょうか?」
「……申し訳ありませんが調査のために現在封鎖中ですので、立ち入りは認められません。なにかお急ぎの用事ですか?」
「はい、私物ですがとても大切なものと、仕事に必要なものを置いてきてしまっていて」
警察の人が俺と社員証を見比べる。
そして胸元のトランシーバーに安全確認はどうかと聞いていた。
少し待っていれば、警察の人が俺を見る。
「安全確認がとれました。ですができれば長居はしないようお願い致します」
「はい、分かりました。ありがとうございます、無理を言ってすみません」
そして俺は中に通される。
エレベーターに乗って自分が所属している部署の階を押す。
上に昇っていくにつれ、だんだん直感が確信に変わっていった。
間違いなく、魔力の気配だ。
ポン、と音と共に扉が開いて、馴染みの階層へ足を踏み入れる。
「……なんだろ、この匂い……」
どことなくハーブに近い匂いがする……それに魔力も。
これは、確実だ……確実に魔術師、もしくはサーヴァントの仕業だ。
となると聖杯戦争が始まっているということか?
じゃぁ病院に搬送された人たちはただの酸欠なんかじゃない。
恐らくは魔力……いや、生命力を吸い取られているのだろう。
そんなことをするやつは誰だ?
一般人にも構わず手を出すのはまず間違いなく悪属性だろう、そしてこの手口……。
匂い……香?……を使って意識を奪ってからの犯行、ということはキャスターの可能性が高い?
キャスターで悪属性ともなれば限られてくる、その中で香を使うのと言えば……。
「……メディア……?」
カチリ、とパズルのピースがハマるような感覚だった。
もちろん他のサーヴァントの可能性もあるだろう。
けれどもう彼女くらいしか思い当たる人物はいなかった。
にしてもこんな一般人を襲わせるようなことをさせる、彼女のマスターは一体どんなやつなんだ。
ギリッ、と俺は歯を食いしばる。
そして俺は会社を後にした。
今までのガス漏れ事故だと思われていたものは全て彼女の仕業なのか?
一般人に被害の及んでいる行き過ぎた行為は見過ごせない……とは思う。
けれど今の俺になにができる?
元々魔術師として未熟だった俺は魔力の痕跡を辿ることもできず、既にサーヴァントたちのマスターでもないし、令呪も持たない。
俺は自分の右手の甲を眺めた。
聖杯戦争が始まっていても、俺は聖杯に選ばれず令呪すら宿らないただの一般人だ。
それに、みんなは俺のことを覚えていないだろう。
そもそも俺は聖杯戦争には関係のない人間だ。
「こんな俺になにができる……?」
もう昔とは違うのだ。
魔術を使うための礼装もなく、盾の加護もなく、絆もなく、理由もない。
20年も経っているんだ、俺が戦線から離れて……俺にはなにもできない……。
「…………いいや、違うな。昔の俺はこんなんじゃなかった」
昔はもっと、どんなことに飛び込んでいくのにも恐れなかったのにな。
あのときだって自分になにができるのか分からなかった。
あのときだって俺は無力だった。
あのときだって大層な理由なんてなかった。
あのときだって相手とは無縁だったじゃないか。
そうだ、そうだよな、これはただ初心に返っただけなんだろう。
歳食った分、慎重になりすぎて踏み込むことを恐れていた。
なにも出来なくて当然だと、見捨てざるを得ないと、そう思ってしまった。
けれど違う。
救える可能性があるのに、迷う必要なんかないじゃないか。
力がないからなんだ?
絆がないからなんだ?
同僚も後輩も重傷で伏せっている。
仲間をやられて俺は黙っていられるのか?
答えは否、だ。
大義名分、理由ならできた。
力も絆もないが、俺には知識が増えた。
この現代で自由に過ごせるだけの知識と、時間と、金がある。
まともに支援も受けられない荒野じゃなし。
あの頃はよくサーヴァントたちに言っては呆れられていた言葉を思い出してふっ、と笑った。
「まぁ、なんとかなるよな」
まるであの頃に戻った気分で、少しだけ俺の心は高鳴っていた。
さて、じゃぁまずはなにから始めようか。
いいね このような設定が緩い作品は 口元をも緩めます:)