義足な事がオグリキャップにバレたトレーナーの話
シングレもそろそろ最終話ですね。長いような短いような感じでした。私は残念ながら史実馬のオグリキャップの活躍をみることができませんでしたが、当時の活躍や映像をみる限り、やはり凄い馬だったのだと教えられる様な馬でした。
男性に人気ランキングで91位になりました。ありがとうございます!
- 325
- 521
- 9,204
季節は春。桜の花びらが風に舞い、トレセン学園の食堂は今日も賑わっていた。
昼下がり。オグリのトレーナーは、いつものように窓際の席でランチを広げていた。
脚に負担の少ない位置を選び、日課である弁当箱の蓋を開け、食事を取り始める。
オグリ「……あ、トレーナー!」
軽やかな声とともに、白銀の髪が揺れた。
トレーナーの担当バであるオグリキャップが、まるで風のようにトレーナーのもとへやってくる。
オグリ「ここ、空いているだろうか?」
トレ「もちろん。どうぞ」
トレーナーがそう答えると、オグリは嬉しそうに目を輝かせて腰を下ろした。
両手いっぱいに、山のような食事を抱えて。
オグリ「よし、いただきます」
オグリは手を合わせたかと思えば、すでに山盛りの食事に勢い良くかぶりついていた。
オグリ「うん、今日のおにぎりは梅干しだった……これは当たりだ!」
トレ「梅干しって、毎回当たりなんじゃないの?」
オグリ「でも鮭もツナも好きだし……つまり全部当たりだな…」
トレーナーが吹き出すと、オグリもつられて笑う。
こうして毎日、笑って、話して、食べて――なんてことのない日々を過ごしていた。
オグリ「……そういえば、トレーナーはこれだけで足りるのか?」
オグリがふと、トレーナーの弁当箱を覗き込む。
コンパクトなサラダと、玄米のおにぎりがふたつ。
トレ「うん。これくらいがちょうどいいんだよ」
オグリ「そうか……なら、これ一つあげよう」
そう言って、オグリは大きな唐揚げをぽんと君の弁当箱に落とした。
トレ「……え?いいのか?」
オグリ「ああ、構わない」
トレ「なるほど。……じゃあ、ありがたく」
君は苦笑しながらも、オグリがくれた唐揚げに箸をのばした。
香ばしい香りと、ほんのり甘辛い味が口いっぱいに広がる。
トレ「うまいな、これ」
オグリ「だろう?食堂のおばちゃんに『いつもありがとう』って言ったら、唐揚げを大盛りにしてくれたんだ」
トレ「お前、やっぱり食いしん坊だな」
オグリ「そうか…?」
何気ない春の昼下がり。
だけど、君にとってもオグリにとっても、こんなひとときが何より大切だった。
……この時はまだ、
オグリが「君の脚のこと」を知る日が、すぐそこに迫っているとは思ってもいなかった。
その日も、オグリキャップはいつものようにトレーナーと昼食を取っていた。
オグリ「今日のニンニクは最高だな!」
トレ「お前、昨日も同じこと言ってなかったか?」
オグリ「言っただろうか?だが、本当に“今日のニンニクは美味いぞ?」
トレーナーが笑って箸を進めようとした…
ちょうどその時――
オグリはふと手を止めた。
オグリ「なあ……トレーナー、」
トレ「うん?」
オグリ「……脚、悪いのか…?」
空気が一瞬だけ張り詰める。
その言葉はまるで、春の風の中に混じったひやりとした冷気のようだった。
トレ「……誰に聞いた?」
君の声は、少しだけ低かった。
オグリは、俯いていた視線を君に戻す。
オグリ「他のウマ娘とすれ違った時に、何人かがそんなこと言っててな……」
トレ「……ただの古傷みたいなもんだよ。気にしないでくれ」
言葉だけを聞けば淡々としている。でも、オグリにはわかってしまう。
君の笑顔の奥に、ほんの少しの影が差したことを。
だから――
オグリ「なら、私がマッサージしよう」
唐突だった。だけど、目は真剣だった。
トレ「えっ?」
オグリ「ああ。私も昔、脚が悪かったことがあってな……リハビリとか、マッサージとか、色々お母さんにしてもらったんだ。」
オグリ「だから何日もやっていれば良くなるだろう?」
オグリは身を乗り出して、トレーナーの手にそっと触れようとした。
けれどその手は、やわらかに、でも確かに避けられる。
トレ「……気持ちは嬉しいよ。でも、大丈夫だ」
オグリ「だが……!」
トレ「大丈夫。ホントに」
いつもより少しだけ静かな笑顔。
それ以上、オグリは言葉を重ねることができなかった。
君は普段と変わらぬ調子で話を戻し、オグリもいつものように「おかわり」と叫んで席を立つ。
でも――胸の奥のざわめきだけは、しばらく収まりそうにない。
昼下がりの廊下。
オグリは、空になった丼ぶりを返しに行くついでに、ひとりトボトボと歩いていた。
(どうして断られたんだろう……痛いの、隠してるのかな……)
足元を見ると、自分の脚がしっかりと動いている。
昔の自分とは違う。でも、だからこそ今の自分にできることがあると思っていた。
そうしているとたづなさんを発見し、試しにたづなさんにトレーナーの脚の事を聞いてみることにした。何か教えてもらえると思ったからだ
オグリ「トレーナーの脚の事についでなんだが…」
そう言うとたづなさんは妙に焦りだし、少し悲しそうな顔をして言う。
たづな「……あの人の脚は、義足なんです…」
オグリ「……えっ」
たづな「昔、陸上をしていた方で……とても将来を期待されていまして…でも、ある事故で脚を失ってしまって……」
言葉は静かだった。けれど、その事実は胸に深く刺さる。
たづな「それでもトレーナーとして、夢を支える側になる道を選ばれたんです。強い方ですよ。とても…」
春風がふわりと吹き抜ける。
オグリはその場に立ち尽くしたまま、もう一度、自分の脚を見る。
オグリ「……知らなかった。私、何も知らなかった」
今まで見てきた君の笑顔。歩く姿。優しい声。
そのすべてに――こんな痛みがあったなんて。
夜。
学園の寮の裏庭――グラウンドの隅の静かな場所。
夕食を終えたオグリキャップは、いつものように丼ぶりを返したあと、
足早にトレーナーを探していた。
彼の姿を見つけたのは、人気のない廊下の先。
窓の外をぼんやりと眺める横顔が、やけに寂しげに見えた。
オグリ「……トレーナーっ!」
トレ「おっ、オグリ。こんな時間にどうし――」
オグリ「……なぜ、教えてくれなかったんだ?」
その声は震えていた。
でも、真剣だった。
トレ「え?」
オグリ「義足のこと……どうして、黙ってたんだ?」
トレーナーは、一瞬言葉を失ったように目を見開いた。
「……たづなさんから聞いたのか?」
「そうだ……でも、それより――」
オグリはぐっと拳を握る。
心が波打つ音が聞こえる気がした。
オグリ「ずっと一緒にいたのに……ずっと、見てたのに……! なんで、教えてくれなかったんだ……!」
トレ「……別に、隠してたわけじゃ――」
オグリ「隠してたよ!!」
思わず声が大きくなる。
オグリ「脚が悪いのを心配して、“大丈夫だ”って笑って、マッサージのことも断って……全部、私のこと遠ざけてたじゃないか……!」
トレーナーは黙ったまま、壁にもたれかかった。
夕焼けの残光が、彼の顔を赤く染めていた。
トレ「オグリ。俺はお前に……変に気を使わせたくなかったんだ」
オグリ「気を使いたかった!」
その叫びに、風が止まったようだった。
オグリ「だって、トレーナーはいつも私を支えてくれるじゃないか……!」
オグリ「不安なときは、言葉をくれて、迷ったときは前を見せてくれて、いっぱい食べたら褒めてくれて……!」
オグリ「今度は、私の番だったのに……! 何もできないまま、何も知らないままで……笑ってる顔、見てただけなんて、嫌だ……!」
頬に、熱いものが伝う。
涙だった。
自分でも、驚いた。
でも、それだけ本気だった。
本気で、彼のことを――大切に思っていたのだ。
トレ「……ごめんな、オグリ」
トレーナーは、初めて自分から近づいてきた。
そして、小さく、でも確かに頭を下げた。
トレ「お前に……知られたくなかった。俺が弱いって思われたくなかったんだ」
オグリ「……もっと頼ってくれ…」
トレ「うん、そうだったな…」
しばらく、ふたりは何も言わずに立っていた。
蝉の声すらも遠くに感じる、静かな時間だった。
やがて、オグリが小さく口を開く。
オグリ「……でも、知れてよかった。教えてくれて、ありがとう」
その目は、赤く腫れていたけれど、まっすぐだった。
オグリ「今度からはさ、無理しないで? 私はトレーナーのこと……守りたいから」
トレ「……じゃあ、俺も。お前のこと、守らせてくれ」
オグリ「……ふふっ。なんか変だな。お互い守るとか、どっちがどっちかわかんなくなる…」
トレ「それでいいさ。俺たちは、チームだろ?」
夕焼けの名残が完全に消え、空には星がにじみ始めていた。
ふたりの間の距離は、少しだけ縮まった。
そして、これまでよりも強く――信頼の絆が、そこに生まれていた。
その日から、オグリは変わった。
義足のことを知ってからというもの、
オグリキャップのトレーナーへの接し方は……明らかに変わった。
オグリ「トレーナー、こっちの椅子、背もたれが柔らかい。こっちに座るといい」
オグリ「歩くとき、右脚に負担がかかってる。荷物、全部私が持とう」
オグリ「マッサージをしよう。いや、する。だってトレーナーが心配だから」
どこかで見た「過保護な母親」のような対応に、学園内でも噂が飛び交う。
「最近のオグリちゃん、やたら密着してるよね……?」
「うちのクラスでも“トレーナー過保護病”とか言われてたわ……」
――そう、やたら密着してくる。
移動中、当然のように腕を組まれる。
座るときはとなりで膝をくっつけてくる。
夜のトレーナールームでは、膝枕すら提案してくる始末。
トレ「……なあ、オグリ。距離感って知ってるか?」
オグリ「知ってる。今は密着してるな。恋人みたい」
トレ「……ああ、うん、そりゃそうだな」
トレーナーの苦笑いもどこ吹く風。
オグリの目は真剣そのものだった。
でも――彼女の真心が、嘘じゃないことは、誰よりも彼自身がわかっていた。
ある日、練習後。
トレーナーがふとベンチに腰を下ろした瞬間、
オグリが真剣な顔で横に座った。
オグリ「……トレーナー」
トレ「うん?」
「ほんとはな、最初は“私が守らなければ”って思ってた」
トレ「……ああ」
オグリ「だが違った。私は……ただ、ずっとそばにいたかっただけだったみたいだ」
トレ「……それって、つまり?」
オグリ「……好きだ。トレーナー」
目をそらさずに、まっすぐに言った。
オグリ「好きな人が、痛い思いをするのはいやだ。困ってる顔も見たくない。だから、なんでもしてあげたかった……だが…」
トレ「うん?」
オグリ「トレーナーに“ありがとう”って言われるたびに……私の方が救われてるなって、気づいたんだ」
トレーナーは、ゆっくりと彼女の頭を撫でた。
トレ「……こっちこそ、ありがとう。オグリ」
オグリ「……もっと撫でてくれ。だって、今はトレーナーが甘えていい番だからな」
トレ「……ははっ、そうだな」
彼女はいつも通り少し頬を赤らめながらも、笑っていた。
ああ、オグリならこう言うしこうするだろうなとストンと心に違和感なく落ちました。 こんなオグリの物語をかければなあ‥