ある日の午後。俺は自分の部屋で担当ウマ娘のシンボリルドルフの前に正座で座っていた。
「いや、えっと・・・。」
時々生徒会の仕事のリフレッシュとして俺の部屋に来るようになり、この日も同じようにルドルフが部屋にやってきていた。前日に大きめの荷物が届いたこともあり片付けが中途半端に残っていたためその手伝いをしてくれていたのだが、部屋の奥にしまっていた箱をルドルフが見つけてしまったことから始まった。
・・・
「トレーナー君この荷物はどうする?」
「あぁ、それは冬物の服だからいったんクローゼットにしまって置いて。また後で出すから。」
「わかった。」
「それにしても、悪いな。手伝ってもらって。」
「いつもトレーナー君には色々手伝って貰っているからね。この位なんともないさ。」
ダンボールを持って行くルドルフを見送ると俺は実家から送られてきた荷物の整理を続けた。
「トレーナー君、これは何が入っているんだ?」
そう言いながら戻ってきたルドルフは1つの箱を持っていた。
「あっ、それは・・・。」
「ふむ、見たところ中身は紙のようだね。」
箱を開けて中に入っている紙を広げたルドルフ。その様子を冷や汗をかきながら見守っていると、ルドルフの雰囲気が変わっていくのを感じた。
「トレーナー君これはいったい何かな?」
その声を聞いた俺は自然とルドルフの前に正座で座っていた。
・・・
「もう一度聞く。トレーナー君これはいったい何かな?」
「・・・俺への批判の手紙です。」
「そのようだね。どうして隠していたのかな?」
「余計なことを考えさせたくなかったからです。」
「まったく、トレーナー君らしいな。この手紙を読んでトレーナー君はどう感じた?」
「どうって、そりゃ落ち込んだよ。自分のできる範囲で一生懸命やってたけどそれでも足りないのかってね。でも、まだ足りないと分かったら余計頑張れたから悪いだけじゃなかったかな。」
実際、この手紙がなければおそらく今の自分に満足していただろう。もう一度初心を取り戻せたという意味では良かったと思う。
「そうか。トレーナー君がそう感じているなら良かった。」
少しだけルドルフの顔が緩んだ。
「だが、トレーナー君が批判されたという事実は私の中では消えない。」
「えっと、ルドルフ?」
「トレーナー君、手紙の差出人はわかるかい?少しお話してこようと思うのだが。」
手紙を持って部屋を出ていこうとするルドルフを全力で止める。手紙の差出人の住所は学園も把握していないと思うし、URAも知らないだろう。だが、ルドルフの情報網なら把握して乗り込みかねない。
「何故止めるんだい?トレーナー君のためを思ってのことだよ?」
「だからね?そこまで落ち込んでないんだよ。ルドルフが怒るのはありがたいけど、そんな風には動いて欲しくない。」
俺の言葉に動きを止めたルドルフ。もう大丈夫だろうと思い、離れる。
「隠してたのは悪かったよ。でも、本当に余計な心配をかけたくなかっただけなんだよ。」
そう言いながらルドルフに頭を下げる。だが、いつまでも反応がないので不思議に思い顔を上げた。
「ルドルフ?」
ツーンと顔を横に向けるルドルフ。その雰囲気に色々察した。
「あー、ルナ?」
「やっ!ルナのトレーナーが悲しむならルナもう走らない!」
予想通りルナモードに突入していた。
「よしよし。」
ルナモードのルドルフを抱き寄せると子供のようにギュッと抱きしめてくる。耳もヘナっとしてしまっている。
「ルナのトレーナーがルナのせいで傷ついてる。」
「そんなことない。ルナのおかげで俺はいつも楽しいよ。ルナは俺といるのは嫌?」
「嫌じゃない!ルナはトレーナーと一緒が好き!」
「なら良かった。俺は走っている時のルナも大好きなんだ。だがら、走るのが嫌なって言ったら余計悲しくなっちゃうよ。」
「わかった!ルナ、トレーナーのために頑張って走る!」
満面の笑みで俺を見つめてくるルドルフ。この時ばかりはルドルフの内に溜め込んでいるものが出てくるため、しっかりと吐き出させる。
「トレーナー、ルナひとつお願いがあるの!」
「ん?何かな?」
「あのね、自分のものには名前をつけないといけないの!」
お願いじゃないじゃんと思いながらもよしよしルドルフを撫でる。
「そうだね。じゃないと誰のものかわからなくなっちゃうからね。」
「だからね!」
不意にルドルフに押し倒された。急なことで驚いて固まっていると、腰あたりにルドルフが乗ってきた。
「トレーナー君には私のものだと名前と印を刻んでおこうと思うんだ。」
突然いつものルドルフに戻った。その顔を見ると先程までの顔とは全く違う覚悟を決めたルドルフの顔があった。
「ルドルフ?何するつもりだ?」
「何って、ナニだよ。」
はっ?と思った時には既に遅かった。抵抗することも出来ずにルドルフとうまぴょいするのだった。
ルドルフに襲われしばらく。俺たちは2人で俺のベッドに寝転がっていた。
「なぁルドルフ。明日レースだよな。」
「そうだね。」
「こんなことしてていいのかな。」
「安心してくれ。トレーナー君が付いているんだ。負けることなどありえないさ。」
「そうだよな。」
「ところでトレーナー君。明日のレースの後会見の場を用意してくれないだろうか。」
「いいよ。何話すの?」
「それは秘密さ。」
モゾモゾと動きベッドの中で近寄ってきたルドルフと一緒にその日はぐっすりと眠った。翌日のレースは宣言通り他を圧倒する走りでの勝利だった。
「さて、急な会見だったことお詫びしたい。どうしても話さなければならないことがあってね。」
レース後の会見。いきなりの事だったが、多くの記者が集まった。
「ルドルフさん。話したいこととは?」
「まさか、どこかケガでも?」
「いや、怪我や引退という話ではないので安心してくれ。今後も走り続けるよ。」
ルドルフは1呼吸置くと話し始めた。
「先日、私のトレーナー君宛に『私にはふさわしくない』といった内容の批判の手紙が届いていると知った。」
ルドルフの雰囲気が変わったことで、記者の人たちは少し体を固くした。
「トレーナー君自身は初心に戻って努力するきっかけになったと受け入れていた。が、私個人としては到底受け入れることは出来ない。」
記者が向けるカメラを見回したあと、声色を変えて一気に言った。
「私のトレーナー君を批判するならば、まずは私を超えるウマ娘のトレーナーになってから声を上げろ。」
ルドルフの声に腰を抜かしてしまう記者さんもいた。
「私から言いたいことは以上だ。何か質問はあるかな?」
普通なら色々な質問が飛ぶはずの会見も今は静かなままだ。
「無いようだね。それではこれで。トレーナー君行こうか。」
ルドルフに促されて少し申し訳なさそうに出口に歩く。
「あぁ、言い忘れていた。」
思い出したようにそう言って立ち止まるルドルフ。
「私のトレーナー君を批判した人、トレーナーとウマ娘の絆をなめるな。」
最大級の爆弾を放り込んだルドルフは満足そうに俺の手をとると歩き始めた。後日原稿用紙4枚分の謝罪文が書かれた手紙が批判の手紙と同じ数届いた。ルドルフに聞いてみたが、全く知らないと驚いていた。いったい何があったのか?
まあ批判してたヤツらは存在を消されなかっただけマシだろうね