アメリカ、イスラエルとイランの間での戦争に終わりが見えない中、3月23日の参議院本会議で、高市早苗首相は原油の代替調達先として中央アジア、南米、カナダ、シンガポールを挙げた。「過去に調達実績があり、増産余力がある」というのがその根拠である。
ホルムズ海峡の封鎖から1カ月。輸入原油の約9割を中東に依存している日本は、備蓄放出で時間を稼いでいる段階にある。3月16日に民間備蓄の義務量引き下げ、26日から国家備蓄の放出(45日分)を開始した。カウントダウンはもう始まっている。
だが、首相が列挙した調達先は、本当に中東の代替になるのか、疑問は多い。
容易ではない、代替調達先探し
原油の性状(API比重・硫黄分・金属含有量)と日本の製油所との適合性、生産量と輸出余力、日本までの航行日数、使用できる船型とチョークポイント——。これらを1つひとつ検証すると、「代替先」の実像はかなり厳しいものとなる。なお、シンガポールは原油ではなく石油製品(ナフサ・軽油など)の調達先であり、性格が異なる。アジア最大の精製ハブではあるが、シンガポール自身の原料も中東原油であり、ホルムズ封鎖下で供給を増やせる状況にはない。
代替先を検証する前に、一つ前提を共有しておきたい。日本の製油所は、中東産の中質サワー原油、すなわちAPI比重30度台前半、硫黄分1〜2%、に合わせて設計されている。この「設計値」から大きく外れる原油を入れると、装置の稼働バランスが崩れ、効率が落ちる。重すぎればコーカー(重質油分解装置)が必要になり、軽すぎれば重質油処理装置が有休状態となる。さらにバナジウムやニッケルといった金属が多い原油はFCC(流動接触分解装置)の触媒を傷め、コストを押し上げる。次ページの表で検証したように、この「製油所との適合性」が各候補の評価を大きく左右する。
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【アラスカ原油の輸入は可能か?】
首相が列挙した国のリストとは別に、3月19日の日米首脳会談ではアラスカが話題になった。トランプ大統領が「日本はアラスカから原油を購入する」と言及し、茂木敏充外相は後日、産出量倍増に日本が投資する方針を伝えたと明かしている。
アラスカの場合、積み出し港である南部のバルディーズ港から日本まで太平洋直行で10〜12日と近い。だがバルディーズ港はVLCC(大型タンカー、積載量約200万バレル)が入れず、スエズマックス級(約100万バレル)が上限。距離は中東の半分でも船が半分なら、輸送コストは大差ないか、むしろ割高になる。生産量は42万〜48万バレル/日でほとんどがアメリカ西海岸向けだ。日本に回せる余剰は1万〜2万バレル/日程度にとどまるだろう。
大型開発のアラスカ北部ウィロー・プロジェクトの初出荷は2029年であり、今の危機を緩和するのには間に合わない。性状はAPI比重32度で製油所設計におおむね適合するが、金属含有量(バナジウム28ppm、ニッケル12ppm)がアラビアンライトの約2倍と多いのが難点だ。
高市首相はカザフスタンを念頭か
高市首相が言及した「中央アジア」とは、主にカザフスタンを念頭に置いていると考えられる。日本の資源開発大手のINPEXは同国のカシャガン油田に7.56%の権益を持ち、CPC Blend(カスピ海パイプラインコンソーシアム・ブレンド)はAPI比重46度の超軽質低硫黄で、性状面では好適な原油である。
しかし、この油はそもそもアジア向きではない。
カザフの輸出の8割はCPCパイプライン経由で黒海沿岸のロシア・ノヴォロシースク港へ運ばれるが、そこから先のボスポラス海峡はVLCCが物理的に通航できない。積載量が約3分の1のアフラマックス級が上限で、バレルあたりの輸送コストは割高でアジアなどへの長距離の輸送に向いていない。仮にアジアまで運ぶとしても、ボスポラス海峡、スエズ運河、そしてフーシ派に狙われている紅海のバブ・エル・マンデブ海峡と、チョークポイントを3つも通ることになる。
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