「あれ。この間のスコーンどうした?残ってたよな?」
様々なジャンルの雑誌片手に藤丸の部屋に入るやいなや、我が物顔で冷蔵庫などを物色し始めるバーヴァン・シー。藤丸もそれに対して何を言うでもなく、これが今の両者の日常なのだと言わんばかりに自然な触れ合い。
「スコーン?……ああ、あれか。食べちゃったよ?」
「ハァ?なに勝手に食べてんだよ」
「いやいや。この間2人で映画見てた時、2個しか残らなかったから好きな時に食べちゃっていいって言ってたじゃん。だからレポート作成した時にパクリと」
「ゲ。そうだったか。私ともあろうものが忘れちまうとは───となると、つまめるものは何もなしか」
「いや?代わりにほら、ミルクレープ用意したから」
「毎度の事ながら周到だなオイ。ん、まさかそれも約束してたっけか……まあいいや。なら私が紅茶淹れてやるよ。お母様のために習得した技、ありがたく味わいな」
優雅に、非常に慣れた手付きで、2つのティーカップを用意して紅茶を注いでいくバーヴァン・シー。
それを眺めながら、藤丸もまたミルクレープを並べていく。パールヴァティーに手ほどきを受けたレシピ。また1つレパートリーの増えた瞬間である。
見栄えから味から、完璧ではなくとも十分に満足できる品。初のレシピなのもあってか、バーヴァン・シーも片手間にではなく丁寧に味わっている。
じっくりと味わい、紅茶もしっとりと楽しみ、ついこの間の冒険の話をしたりして……ひとしきり話して満足したバーヴァン・シーはベッドに横たわり、持参した雑誌に目を通し始めた。
「なあ、新しい映画とかねえの?」
「見たことないって意味ならまだしも、最新の映画はだいたい見ちゃったんじゃない?ほら、今は世界が、ね?」
「…………ああ。そういやそうだっけな。ならいっそのことコンプリートしてやるか。誰にも評価されることのなかった映像もあるかもだしな」
「一応カルデアで作るって方法もなくはないよ。以前もそんな事件あったし、まあその場合は出演の方が楽しいかもだけど」
「んー考えとく」
沈黙が場を制する。無論、気まずさなどもうない。そんな怠惰な付き合いはしてこなかったし、一から十まで合わずとも、通じ合える何かがあるからいいのだと、2人は自然なままに余暇を謳歌する。
「……セツ、ブン?」
なんだか随分と聞き馴染みはあるが、この状況においては違和感満載の言葉が聞こえたなと藤丸は思った。
節分。日本人なら説明はいらないだろう。昔ながらのしきたりがどうとか、正しい作法はこういうものだとか、そんなしっかりとした説明ならまだしも、1から全てを説明するまでもなく肌感覚でみんな理解しているはず。
問題というか疑問点は。何故バーヴァン・シーが突如その単語を口にしたのか。妖精國にも同じ名称の祭事があったとしても、その言葉が出るには少し変なタイミングだった。
「なあ、今日って何日だっけ」
「1月29日かな。もう1月も終わりだ」
「ふぅん。ならまだ時間はあるか。おいマスター、こんなの食べてみたい」
「んー?」
差し出されたのは雑誌の1ページ。そこにはとても綺麗な断面の恵方巻きの写真がどデカく乗っていた。いったいどんな雑誌なのか、やけにバラエティに富んでいる。
「うわ、めっちゃ美味しそうなやつ」
「恵方巻きっての?こういうの食べてみたい」
「確かに。恵方巻きというか最早海鮮というか、これは食べてみたいな───よし」
「あ、何か嫌な予感」
バーヴァン・シーの静止は間に合わず。それから話はあれよあれよと進んでいって、2人は紅閻魔先生に料理を教わることとなったのです。
そうです。つまりは簡易ヘルズキッチンの開幕。マスターとサーヴァント、コンビでの参戦。すんなりと終わるだなんてことはないけれど、根が善良で真面目な2人なだけあって、特段つまずくこともなく試練を駆け続けた。
「───料理って。こんな厳しい道だったのか」
「普通は、少なくとも一般家庭では、ここまで苛烈ではないかな。別の厳しさはあるけどね」
「へぇ…………深淵すぎないか料理の道」
「チュチュン。なかなか筋はいいでちねバーヴァン・シー。なにより志しが真っ直ぐなのがいいと思うでち。さあ先に進むでちよ!」
途中、そんな会話も交えながら。2人のチャレンジャーは先生が示す通りに荒野を駆けていく。
時に山から転げ落ちそうになったり、常識を逸した魚に飲み込まれそうになったり、正真正銘の命の危機に見舞われながら、遂に───
「これなら十分、山だろうと海だろうとその幸を扱えるはずでち。とはいえ今回はコンビでの突貫コース。マスターも最後まで頼むでち」
「はぁはぁ……あれ?私、なんでこんな特訓やってるんだっけ?」
「えっと。うん。モルガンと一緒に節分楽しもうって話だったよ」
「ぁぁ、そうだっけな。悪い、私ちょっと横になる。とりあえず今日は休めて、明日また練習な」
「了解。それじゃあまた」
2月3日までまだしばらくの時間あり。練習に費やす時間もそれなりに確保できて。先生にも時折味見してもらいながら、2人はさらなる高みを目指していく。
そう。それだけの時間があったのなら、1つや2つの想定外が起きて当然なのである。
ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙…モルガンとセイバーオルタの絡み尊み( ᵒ̴̶̷᷄௰ᵒ̴̶̷᷅ )