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【再録】メイビー・アイワナ・マリーユー/Novel by gyoree

【再録】メイビー・アイワナ・マリーユー

29,528 character(s)59 mins

離婚と結婚を繰り返し、そのたびに式をあげるお騒がせ槍弓の話。

昨年2月に出した本の再録です。
再販の予定がないので公開します。

表紙イラスト ずんだ様(user/24549791
表紙レイアウト 藍野(user/17754926

素晴らしい表紙をありがとうございました!

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 運命の相手と末永く幸せに、なんて物語の中だけの話。
 オレがそう考える程度には、現実はシビアで〝現実的〟だ。
 理想はいつまでも理想のまま。物事は思い通りに立ち行かない。けれど、オレにとってオレの人生が紛れもない現実だと感じていても、もしかすれば何処かの誰かが考えた都合のいい物語だったりするかもしれない。

 これは、そんなオレが生涯を共にした〝運命の相手〟との物語だ。


「ランサー・クー・アルスター。あなたはここにいるアーチャーを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「はい、誓います」
 ステンドグラス越しの陽光がアーチャーの白いタキシードを照らす。毎日見ている顔がその日は特別愛しく思えて、ああ、そんなお前を誰にも見せたくないのに、と目を細めて唇を噛んだ。
 家族や友人の視線なんて忘れて、この世界にはオレ達しかいない。
「アーチャー・S・衛宮。あなたはここにいるランサーを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「はい」
 神父の声に、アーチャーは頷いた。
 そしてオレの目を見つめ返すと、たっぷりと間を置いて「誓います」と微笑んだ。
 幸福だった。
 祝福され、天使が舞い、陽の光は暖かく全てを受け入れる。プラチナのリングを互いの左手の薬指に押し込んで、観衆の前での誓いのキス。
 らしくもなく涙が出そうになりながら、オレは唯一の相手と生涯を共にできる喜びを噛み締めた。
 そして式を終えたオレたち二人は幸せのままに新婚旅行先のロンドンへと向かう飛行機へ乗り込んだのだ。

 そして一週間後。


「もうたくさんだ、お前の小言は聞き飽きた。せっかく海外で晴れ晴れとした気分で楽しもうって時にぐちぐち言いやがって台無しだっつうの」
「そもそもその小言を言わせているのが誰なのか考えてほしいものだな。私とて好きで言っているわけではない。常識も弁えない愚か者が隣にいると思うと恥ずかしくて仕方なかったよ」
「ああ? じゃあ隣にいなきゃ良いだろうが、一人で好きにしてりゃ良かっただろ」
「新婚旅行の名目で来ていたと言うのにか? 全く考えなしにモノを言ってくれる。君と居るとストレスが溜まる一方だ」
「そうかよ! じゃあ一緒にいなきゃいいわけだな。いいぜ、別れてやるよ。そのストレスともおさらばだ、嬉しいだろ!」
「当然だとも。貴様の顔を見ずに済むと思うと清々する!!」
 頭に血が上ったオレたちは飛行機を降りたその足で、役所に向かい離婚した。

 これがオレたちの〝一度目〟の結婚と離婚だった。


 オレとアーチャーが出会ったのは大学の講義室。ドイツ語の授業で隣同士に座ったのがオレたちの始まりだった。お互い学科は違っていても、週に一度顔を合わせているうちに段々と気心もしれてくる。ムカつく物言いをする奴だと思ってはいたが不思議と気が合ったのだ。
 友人付き合いは短かった。というのも、オレがあいつの手料理に胃袋を掴まれ交際を申し込むまでの期間が知り合ってから三ヶ月も経たないうちだったからだ。その時のアーチャーの返事は煮え切らなかったが、満更でもなさそうだった。
 自惚れではなく、互いに一目惚れだったんだろう。
 お互いの家に行き来して、手料理を食って、セックスもした。単位を落とさない程度に勉強して、酒を酌み交わし、くだらないことで笑い合った。時々お互いの不満をぶちまけて喧嘩もした。暫く口をきかない日が続いて、けど気が付けば元の鞘に収まっていた。いつのまにかアーチャーの住むアパートにただいまと言って帰るようになってたりして、卒業する頃には二人一緒にいることが当たり前のように感じていた。
 少なくともオレはそう思っていた。

「就職先が決まった」
 話があるのだと誘われた学食で、アーチャーは開口一番にそう言った。
「良かったじゃねえか。今日は祝杯だな!」
「ああ、ありがとう」
 一足先に第一志望の内定を貰っていたオレは、希望の就職先に決まったのだ、というアーチャーの言葉を心の底から祝った。
「それでなんだが……」
 明るいニュースのはずなのに、アーチャーはモゴモゴと言いにくそうにしていた。オレは嫌な予感がして、酒買いに行かねえと、なんて浮かれてニヤついていた口を閉じた。
「別れないか」
「は?」
 アーチャーの就職先が、オレが内定を取った会社とは遠く離れた土地の企業だというのが理由だった。あまりにも唐突な提案に当然オレは腹を立てた。ふざけんな、と声を荒げて、公衆の面前であることも忘れてアーチャーを怒鳴りつけた。目の前のそいつはすました顔でそれを聞いていた。
「遠距離なんて上手くいくはずない」
「やってみなきゃ分かんねえだろ!」
「分かるさ。君も私も、そうマメなタイプではないし、時が経てば君は遠く離れた恋人より身近にいる誰かに惹かれてしまう」
「オレが浮気するって言いてえのか」
「私自身に、君を引き止めておける自信がないと言っている」
 ガンッと蹴り飛ばした椅子が倒れた。驚いたように叫ぶ女の声に学食中がざわめき立つ。オレが胸ぐらを掴んでも、アーチャーは顔色ひとつ変えなかった。殴りたきゃ殴れって顔をして、感情の読めない目でオレをじっと見据えた。
「いつから決めてた」
「……君が第一志望の内定を貰った時から」
 そんなの二ヶ月以上前のことだ。何の相談もせずに勝手に決めて、納得して、オレの意見なんてはなから聞く気がない。握り締めた拳で澄ましたツラを殴ってやろうと思った。けどしなかった。そんなことをしたって、目を覚ますような奴じゃない。こうと決めたらとことん曲げない。アーチャーがそういう奴だってことをオレはもうよくわかっていたからだ。
「すまない」
 胸ぐらから手を離し背を向けたオレに、アーチャーはそう言った。それが自分の言葉を曲げないが故の謝罪なのだということは理解できた。
 だからオレは、強情で薄情な恋人に仕返しのつもりで強硬手段に出てやったのだ。
 

「何を考えている!」
 昼時の騒がしい学食。アーチャーはオレに渡された書類を見ると、真っ青になってそう叫んだ。
「これで遠距離じゃなくなったろ」
「これ……こんな。どうかしてる」
 書類を握り締めた手が、わなわなと震えていた。
「別に第一志望って言ったって、やりたい事と給料を秤に掛けて選んだだけで、どうしてもソコがよかったってわけじゃねえしな。場所変えておんなじ条件のとこ探しただけだ」
「……それで内定を取ってしまうんだから君はつくづく嫌味な男だな」
「将来有望だって言ってくれね?」
 アーチャーは諦めたように溜息を吐くと、握り締めていたオレ宛の内定書を机の上に置いた。アーチャーの就職先から三駅ほど離れた場所にある企業のものだ。
 別れ話を切り出されてから二ヶ月後のことだった。
「そんで、卒業したらどうするよ」
 オレは頭を抱えて机に突っ伏したアーチャーに声をかけた。
「……君とは別れた」
「オレは別れたつもりねえけど」
 それとも遠距離どうのっていうのは言い訳で、ただオレと別れたかっただけなのか。もしそうなら正直に言えと、オレは顔を伏せたままのアーチャーに問い掛けた。アーチャーは頭を抱えていた手で顔を覆うと、机の上に置かれたままのオレの内定書を一瞥する。そしてもう一度、諦めたように溜息を吐いた。
「正直、君にここまで想われているとは思ってなかった」
「はあ?」
 オレにとっては寝耳に水な話しでも、アーチャーにとってはそうではなかったらしい。付き合い始めた時からずっと、卒業と同時に別れるのだろうと、漠然とそう思っていたのだという。オレってそんなに軽薄そうに見えるのか。正直ショックだった。
「君は、モテるだろう」
「関係ねえだろそんなの」
「しかし……いや、今回は私が悪かった」
 まだ何かごちゃごちゃと言いかけたアーチャーは、けれど遂に自分の非を認めたのか、観念して謝罪を口にした。オレはあえて不機嫌な顔のまま、腕組みをしてアーチャーを睨んでやった。
「すげえ傷ついた」
「悪かった」
「オレが浮気する前提で考えてるのとか、めちゃくちゃ心外だしよ」
「返す言葉もない」
「本当に反省してんのか」
「ああ」
「本当だな?」
「ああ」
「じゃあ、責任とって結婚してくれ」
「ぁあ、………………へ?」
 その時のアーチャーの顔は見ものだった。一度頷きかけて、そして言葉の意味を理解したのかしていないのか、子供のようにぽかんと口をあけて、見開いた目でオレを見た。オレはザマアミロ、と鼻を明かしてやった男の顔を見返す。ズボンのポケットに入れていた青いベルベットの小箱を取り出して蓋を開けると、間抜け面の前に突きつけてやった。
「思いつきで行動するのはやめろと言っているのに」
 アーチャーは指輪に触れるのか触れないのか、手を宙に彷徨わせて小言を口にした。
「馬鹿、思いつきでプロポーズなんかするかよ。いちいち一言多い野郎だな」
「その〝いちいち一言多い野郎〟と暮らすのがどういう事か分かっているのか」
「そんなもん、お前と付き合ってる時点で覚悟の上だ」
 アーチャーは何かと理由をつけてオレのプロポーズを止めさせようとした。そうじゃねえだろ。嫌なら嫌って言えよ。
そうでないならつべこべ言わずに受け取れってんだ。
 オレはプロポーズを断られた情けない男にはなりたくなくて、箱から指輪を取り出すと、アーチャーの左手を掴んだ。
「……本当に後悔しないか」
 声は不安に揺れていた。
「お前は、どうなんだ」
 オレはそう聞き返すと、差し出した指輪を強引にアーチャーの薬指に押し込んだ。
「オレと一緒になったら、後悔すると思うか?」
「……するだろうな」
 学食は生徒がごった返してうるさくて、誰ともしれない話し声にアーチャーの返事はかき消されてしまいそうだった。
 オレは平気な顔をしていて、そのくせ緊張のあまり吐きそうだったし、心臓が鳴り過ぎて痛いし、今すぐその場から逃げだしたいと思っていた。
 けれどアーチャーが皮肉に口端を吊り上げてイケすかない顔を見せた瞬間、不思議と緊張が和らいだ。
「だが、まあ。後悔すると分かっていても、コレを突き返す気になれないんだから、つくづく自分が嫌になるよ」
 手のひらを何度か裏返したり戻したりして、アーチャーは薬指にはまった指輪をじっと見つめた。
 オレは緊張が解けたせいかどっと疲れが襲ってきて、倒れそうな体をなんとか頬杖ついてごまかした。学食がやけにザワザワと騒がしくて、オレはその時になってようやく周りに注目されていたことに気が付いた。公衆の面前でのプロポーズは、聞かれていたし見られていたのだ。そのことにカッと全身が熱くなる。
「―っ素直に嬉しいって言えよな。この捻くれ者」
 オレが苦し紛れについた悪態に、アーチャーはそこで漸く破顔した。その顔が鮮明に記憶に焼き付いている。

Comments

  • May 4, 2022
  • 如月
    April 29, 2021
  • gyoreeAuthor

    スタンプありがとうございます〜!

    January 29, 2021
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