盆を過ぎると急に夏がセンチメンタリズムを誘うのは、多分夏休みの終焉と言うある種の終末がやって来るのを日本人の遺伝子に刷り込まれているのだろうか。新学期の始まりのためになにやら生徒会関連の用事があるらしく、衛宮士郎は生徒会に借り出されていた。凛は凛で学校一の秀才の課題を目当てにクラスメイトの女生徒の家に呼び出されていた。勿論ギブアンドテイクはあるのだろうが。桜は間桐の家に新学期に備えて荷物を入れ替えに帰っていて、その他はいつもどおりの用事で不在。衛宮家の本日のお茶の時間はセイバーと私の2人だけだった。
暑がる人間がいないのでクーラーをかけずに廊下側の障子とその向こうの窓は開け放たれている。ヒグラシとツクツクボウシが交互に鳴いているような中、セイバーはいつもの白い長袖のブラウスに青いスカートにタイツまではいて涼しい顔で暑い紅茶を飲んでいる。確かにエーテルで編まれた身体にこの程度の暑さでは大して影響はないのだが、見た目的に若干暑苦しそうだった。そんな私も、上下黒なので暑苦しく見えるのだろうが。
「相変わらず、貴方の作るスコーンはすばらしい」
「お褒めに預かり光栄だ」
クロテッドクリームをたっぷり塗ったスコーンに頷きつつセイバーはまたかじり付いた。
「そしてこの紅茶も、イギリスに生まれた者が飲んでも唸るほどの腕前です」
「それは褒めすぎだろう」
「いいえ、私は正当な評価しかしない。そもそも貴方達は変な所で自分を過小評価する癖がある」
君も変な所で衛宮士郎と私をまとめて見る癖がある、と言おうかと思ったが止めておいた。口は災いの元、要らぬ地雷をわざわざ自分から踏みに行くほど私は愚かではない。
「そういえばアーチャー、貴方の能力について聞きたいことがあるのですが」
「私の能力、固有結界のことか?」
「はい」
とりあえず今食べているスコーンの最後の一口を上品に口に放り込んで咀嚼したあと、セイバーは頷いた。
「貴方の持つ固有結界の能力は、貴方が見たり触れたり、経験した剣を記録として所有し、それを引き出し振るう事と聞きました」
「そんな所だ」
「私の剣も、そこにあるのですか?」
問おう、貴方が私のマスターか。
「ああ、ある」
消えてほしくなくて閉じ込めた、それでも零れて行ってしまった記憶にかすかに残るあの夜のリフレイン。セイバーの剣ならば、限りなく本物に近く投影することが出来るだろう。もっとも、あの剣を振るうことは容易でなく、また容易にそれを使う気もないのだが。
「では、私はそこにいますか?」
「・・・・・は?」
「私はシロウの剣になると誓いを立てました、ならば剣として貴方の固有結界に所有されていてもおかしくないのでは?」
いや、おかしいですセイバーさん。剣は剣でも、物質的な剣でなければ私の固有結界には登録されない。そうでなくとも登録されるのであれば、私の能力のでたらめさ加減に磨きが掛かるだろう。
「人は、例え君がその身を剣と捧げていても剣には、ならない」
「・・・・・・私は、貴方の剣にはなれなかったのですね、シロウ」
「・・・物質的な剣ではなく、君はいつも私の中にいた。心の、支えとして」
カップの琥珀を見つめていたセイバーが少し、笑った気がした。すい、と剣を振るう指にしては優雅に動いてカップの琥珀は飲み干された。
「紅茶の追加はどうだね」
「ええ、お願いします。アーチャー」