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地域の文脈を「編集」する建築。「泊まれる出版社」真鶴出版で考えた、ケアの空間論。

地域の文脈を引き込んだCompassion性の高い福祉や介護の拠点。実はこれから施設やまちづくり案件に挑戦したいと思っていて、理想のコミュニティのインプットをする中で、今後僕らがどうあるべきかを考えたい。
そんな問いを抱え、神奈川県の真鶴半島にある「真鶴出版」にフィールドワークさせてもらいました。

ここは「泊まれる出版社」。でも、ただの宿でも出版社でもありませんでした。 同行してくれた真鶴出版を建築設計した建築家の伊藤さんの言葉、そして真鶴という土地が持つ磁場。 それらは、効率や機能性を優先しがちな医療・介護の現場が忘れかけている、「人間が人間らしく居られる場所」のヒントに満ちていました。

一方で、今の僕には実装が難しいと思うところも多々あり。自分一人だけでは出来ないチームを巻き込んだチャレンジになることは間違いないんだと思う時間でした。

これは、港町にある小さな出版社で得た、これからのケアと空間についての考察の記録です。


1. 「裏道」を表玄関にする。「文脈」を読み解く建築家の視点。


真鶴出版の建物は、一見するとどこか懐かしい、普通の民家のように見えます。しかし、そこには緻密な計算と、土地への深い敬意が隠されていました。

同行してくれた真鶴出版の建築設計をした建築家の伊藤さんが語ってくれた設計の意図に、私は衝撃を受けました。

「元々の裏道の魅力から、そっちを表玄関にすることにしたんです」


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真鶴出版に向かう裏路地


通常であれば、広く人通りの多い大通り沿いを正面にするでしょう。しかし、彼らは真鶴という町が持つ、細く入り組んだ「背戸道(せどみち)」の文化こそが魅力だと捉え、あえて裏を「表」へと反転させたのです。

「もらった什器の窓が入口にハマっている。それら街の文脈を入れこむから、敢えてオシャレではないものにしたんです」


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あえて原型のまま、文脈を残す価値

おしゃれな窓ではなく、敢えて地元のオフィスの跡地の残置物という文脈を引き入れてここに入れていると。この言葉を聞いて少し反省しました。
ぼくたちが新しい施設を作ろうとしたとき、つい分かりやすい「おしゃれな」建物、例えばおしゃれなカフェっぽいを建てようとしてしまいます。

もしこの場所に、文脈なく急におしゃれな物件ができても、きっと地域の中で「意味のない場」になってしまうのだと。
確かに地域の文脈を無視したおしゃれカフェが突然登場しても、天空の城みたいなコンセプトならまだしも、天空の城くらいは浮いてしまうだろうなー。

地域の歴史、そこに落ちている記憶、もともとあるリソース。それらを丁寧に拾い上げ、「編集」し直すことで、建物は初めてその土地に根を張るのだと痛感しました。

これは在宅診療の話で言えば、患者さんの「病気」だけを見て対症的に治療するのではなく、その人の生きてきた「生活史」を知って、その文脈から診ることに他なりません。


2. 境界線をあいまいにする。猫と目が合うケアの空間。


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テーブルでくつろいでいる向こうに猫が

真鶴は坂の多い町です。その高低差を活かした設計も印象的でした。

「高低差があるから、机に座ると外の猫が散歩してるところと目が合う。それが境界をあいまいにする」

机に向かって仕事をしていると、ふと視線の先に地域の猫が通る。 その瞬間、「働く私」と「地域の日常」の境界線が、ふわりと溶けていく感覚が確かにありました。

医療や介護の施設は、感染対策や安全管理などの観点から、どうしても地域社会との間に高く厚い「境界線」を引きがちです。境界線ぱっきり。

しかし、人が豊かな暮らしを維持しながら医療と向き合うために必要なのは、こうした社会や自然との緩やかな接続、境界を曖昧にすることなのではないでしょうか。

ちなみに「境界を曖昧にする」作者の糟谷さんと一緒に色々と画策をしていて、一緒にいきました。境界を曖昧にするの苦手マンとしてめちゃくちゃ視点が参考になります。


真鶴出版には、「光が綺麗だから」という理由で沢山の「重心(居場所)」が作られていました。 誰かに管理されるのではなく、自分で心地よい場所を選び取れる環境。それはまさに、私たちが目指す「自律的な暮らし」を支える空間そのものです。


3. デジタルにも「歴史」を実装できるか。


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丁寧に暮らすってこういうことなんだろうなー

帰りの道すがら、当院エンジニアのびばおさんとこんな話をしました。 「デジタルの仕様書にも、それまでの会社や製品の歴史や文脈を詰め込んだ方が、絶対いいものができるから、建築や福祉も同じなのかもね」と。

建築家が土地の歴史を建物に詰め込んだように、エンジニアが作るデジタルのシステムやサービスにも会社の歴史を詰め込むように、我々が作ろうとしている介護・福祉の場所にも関わる人々の想いや背景という「文脈」を開いて実装することはできないか。

ただ機能的なだけのシステムは、文脈のないおしゃれな建物と同じで、いつか飽きられ、使われなくなってしまうかもしれません。 使う人の体温が感じられるような、奥行きのある設計。それが本来的な「ケア」の役割なのかもしれません。


4. おわりに:これからの「チーム」と「関わり方」

今回の真鶴への旅は、これから私たちが取り組む、地域性の強い福祉・介護拠点のためのインプットの時間でした。

建築家の方の圧倒的な「編集力」と土地への没入力、一緒にいったチームメンバーの会話を見て、「今の僕にはできない発想だ」と打ちのめされると同時に、「この人達とチームを組んで新しいモデルを実装したい」と強く思いました。

自分にはない視点を持つ専門家たちと、いかに協働し、一つの「場」を紡ぎ出していくか。 改めて自分の関わり方を見つめ直す、得難い機会となりました。

半島という地形が文化を蓄積させるように、私たちも地域の中に、ケアの文化をゆっくりと蓄積させていくような場所を作っていきたいと思います。

真鶴出版の皆さん、素晴らしい時間をありがとうございました。

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地域の文脈を「編集」する建築。「泊まれる出版社」真鶴出版で考えた、ケアの空間論。|石井 洋介
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