きっかけは、立香の故郷である日本のホラー映画だった。
ある夜、立香とグレイが自室で過ごしていたとき、突然部屋に押しかけてきた妖精騎士トリスタンこと、バーヴァンシー。
「暇つぶしに付き合え」とのことで、その場にいたグレイも巻き込む形でホラー映画を鑑賞することになってしまった。
しかし、バーヴァンシーはホラー映画上級者向けのトップクラスに猟奇的かつサイコホラー物をチョイスしてきたらしく、立香の隣で見ていたグレイは終始悲鳴を上げたり、立香にしがみついたりしていた。
見終わったあとは「じゃー、あとはよろしく」などと軽く言ってバーヴァンシーはさっさと帰ってしまい、残されたのは震えながらへたり込むグレイと、その状況に混乱する立香だった。
「とりあえず、グレイは部屋に戻ったほうが…」
立香のその言葉を聞いたグレイは、ものすごい勢いで首を横に振った。
「拙は、マスターと一緒がいいです…!」
そう言って、グレイは立香の手を取る。
その顔には不安そうな表情を浮かべていて、瞳を潤ませている。
(その表情は反則だって…!)
抱きしめたくなる気持ちを抑えつつ、立香は考えを巡らせる。
現在のカルデアは消灯時間であり、廊下の電気は消されている上に、グレイの部屋は結構遠い位置にある。今の怯えきったグレイでは廊下に出ることすら無理だろう。
「でも、この部屋って一人用だし……」
「拙は一人は嫌です…!一緒にいてください…!」
「えぇーっと……」
立香は悩んだ。
立香の部屋は一人用とはいえ、二人で過ごすことは十分可能だった。泊めるくらいなら、余裕である。
しかも、グレイの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。愛する恋人にこんな目で頼まれて断るほど、立香は人でなしではない。
「うん、わかった」
「…!ありがとうございますっ!!」
グレイの顔がパァッと明るくなる。
そして、嬉しそうに微笑みながら、立香の手をギュッと握るのだった。