聖女ジャンヌ・ダルク
お淑やかで穏やかで慈悲深い女性。
それが、ジャンヌを見た立香の第一印象だった。だがしかし、カルデアで共に過ごすうちに、彼女の持つ別の一面も見えてきたのだ。
「…?」
深夜の食堂。夜の散歩がてら通りかかった立香の耳に、麺をすする音が聞こえてきた。気になって見に行くと、そこにはジャンヌが座り、何かをしている。電気もつけず、隠れるように何かを食べているジャンヌに、立香は恐る恐る声をかけた。
「ジャンヌ……?」
「ふぇっ!?」
突然の声に驚いたのか、ジャンヌは変な声を出して顔を上げた。
「ま、マスター!?あっ、いやっ、これはその……」
顔を真っ赤にして慌てるジャンヌだが、手に持ったものを見て、立香はさらに驚いた。
「それって……カップラーメンだよね?」
そう。ジャンヌの手にあったのは、よくスーパーなどで見かける赤いパッケージのインスタント食品。いわゆるカップラーメンだった。
「ち、違うんです!これは、その…なんといいますか…」
しどろもどろになりながら言い訳を考えるジャンヌだったが、何も思い浮かばなかったようで、そのまま俯いて黙ってしまった。そんな彼女の様子をしばらく見ていた立香だったが、やがてクスリと笑った。
(―――かわいいなぁ)
いつもの聖女然とした姿とは違った少女のような一面を見せてくれたジャンヌに対して、素直にかわいらしいと思う気持ちが生まれる。そして同時に、こんな表情を見てしまったら、もっといろんな顔を見てみたいという欲求が湧き上がってきた。
「ひょっとしてジャンヌって、結構食いしんぼさん?」
「うぅ……」
図星なのか、彼女は耳まで赤くして恥ずかしげに身を縮めた。その姿があまりにも可愛らしくて、つい意地悪をしたくなる衝動に駆られる。
「サーヴァントは食事は必要ないと分かってるのですが、でもやっぱり美味しいものは食べたくて……それでこっそり食べていたんですけど、見つかってしまいましたね」
少しだけバツが悪そうな笑みを浮かべるジャンヌ。そんな彼女を見ていると、なんだか胸の奥がくすぐったくなって、自然と頬が緩んでしまう。
「じゃあ、一緒に食べようよ」
「えっ?」
予想外の提案に、ジャンヌはキョトンとした顔になる。
「咎めないのですか?」
「別にいいんじゃないかな?俺も時々食べるしさ。それにほら、二人で食べた方が美味しく感じるよ」
立香の言葉を聞いたジャンヌの顔がパッと明るくなる。
「ありがとうございます!では早速いただきましょう!」
嬉々としてカップラーメンに手を伸ばすジャンヌを見て、思わず吹き出してしまう。今のジャンヌを見て、フランスを救った聖女、ジャンヌ・ダルクだと思う人はいないだろう。
「実はね、バターを入れると…コクが出てすごく美味しくなるんだよ。」
「なるほど…詳しいですね、マスター」
深夜の食堂で二人きり。秘密を共有するように笑い合う二人の時間はとても心地よいものだった。
それからというもの、二人は時々夜中にこっそり食事をするようになった。
「ふふっ」
「どうしたの、ジャンヌ」
そんなある日のこと。いつものように二人で夜食を食べていると、突然ジャンヌが微笑んだ。
「いえ、こうしてマスターと一緒に時間を過ごせることが幸せだと思っていましたら、つい笑ってしまいまして」
「そっか……うん、そうだね」
聖女ではない本当のジャンヌを知る者は少ない。そんなジャンヌが、自分の前では素でいることが立香は嬉しかった。
「あの、マスター」
不意にジャンヌが立香に呼びかけてくる。
「なに?」
「私、貴方との時間が、一番好きですよ」
そう言って笑う彼女の笑顔は、とても美しく見えた。
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- kiyoSeptember 23, 2022