グレイの恋は忙しい
お久しぶりです。黒です。
今回は新チャレンジとしてFGOのカップリングに手を出しました。
相手はグレイちゃんです。事件簿コラボで一目惚れしました
もうちょっとぐだーずとの絡みが増えてもいいのでは…?
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この日はノウム・カルデアの一室で、ライネスによるお茶会が開かれていた。といっても、メインは紅茶ではない。グレイがライネスに相談事があると部屋を訪ねてきたので、どうせならとお茶会を開いたのだ。
「それで? 義兄上ではなく私に相談事とは珍しいじゃないか」
「はい……その……」
グレイはもじもじと言い淀みつつ、チラリと時計を見る。まだ時刻としては夕方にもなっていないのだが、もう既にお茶会の開始から一時間は経過している。
普段は早めに本題に入るグレイが、ここまで話を切り出せない事は珍しく、ライネスが違和感を覚えるくらいだった。
「まぁいいさ。今日は時間もある。ゆっくりでいい、自分のペースで話したまえ」
「はい……」
一口紅茶を飲んだグレイは、軽く深呼吸をしたあと、ゆっくりと話し始めた。
「実は、マスターについてなんです…」
「ふむ?」
予想していなかった話の内容に、ライネスは片眉を上げた。
「マスターには感謝しています。こんな拙のことを気にかけていただいて、この顔のことや過去のことを何も聞かずに拙を信頼してくれています。」
そう語る彼女の表情は柔らかい。きっと心の底からマスターを信頼しているのだろう。
「でも、拙は最近変な気持ちになるんです…」
「ほう?」
「最近、マスターと一緒にいると妙に落ち着かなくなるんです。胸の奥がきゅっと苦しくなるといいますか……これは一体なんなのかと思いまして……」
(ふぅむ…?)
内心でライネスはため息をついた。
それは誰から見ても分かる感情だった。グレイ自身にそんな経験がないからわからないのだろうが、間違いなくそれは"恋心"だ。
「ふぅん……それはあれだね。『恋』というやつだな」
「え!?」
ライネスの言葉にグレイは目を丸くする。まさか自分が恋をしているなどと言われるとは思ってもいなかったのだ。
「こ、恋ってあの恋のことですか!? 拙が、マスターに!?」
「君のその感情に、それ以外の何があるっていうんだい?」
呆れたようなライネスにため息混じりで言われ、思わずグレイは慌ててしまう。
「そ、そんな! 拙なんかがマスターになんて恐れ多いです!」
「どうしてそうなるんだろうねぇ…… 師匠として贔屓目に見ても、我が弟子は君の隣に立つには不足はないと思うのだが?」
あまりの正論に何も言えず、グレイは黙り込む。だがすぐにハッとして反論を試みる。
「で、でも…拙はサーヴァントで、マスターは普通の一般人で…」
「それがどうかしたかい?」
「えっ!?」
またもあっさりと言われ、今度は驚きの声を上げる。
「君はいったい何を驚いているんだ? そもそも私は君に『異性への恋愛感情を抱くことはおかしいのか?』と聞きたいだけだ」
ライネスは最初から言っていた。
『一般人相手だろうと関係ない。グレイ自身が相手を好きになったらそれでいいじゃないか』と。
「……っ」
ライネスに論破されたグレイは俯く。
確かにライネスの言う通りかもしれない。だがそれでもグレイは踏み出すことができない。
「……」
ライネスは何も言わない。ただじっとグレイを見つめているだけ。
「……」
そしてしばらくすると、おもむろに席を立った。
「あ、あの……ライネスさん?」
恐る恐るという様子で話しかけてくるグレイを無視して、ライネスは扉に向かって歩き出した。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
慌てて追いかけてきたグレイを横目で見て、ライネスは口を開く。
「君が何を迷っているのか知らないが」
いつもより少し低い声で彼女は言った。
「一度くらい本気でぶつかってみたらどうだい? 今のままじゃ、いつまで経っても変わらないぞ?」
それだけ言ってライネスは部屋を出て行った。残されたグレイは一人呟く。
「……本当に、恋なんでしょうか」
ライネスが出て行ってから数分後。部屋に残されたグレイは紅茶を飲みながら考えていた。
(……やっぱり、よくわかりません)
今までの人生において、恋愛というものをしたことがない彼女にとって、今回の件は非常に難解なものとなっていた。
「でも……」
先ほどの話を思い出す。
(マスターのことを考えると、胸が熱くなりますし……ドキドキします。それに……)
『君が相手を好きになったらそれでいいんじゃないかな』
ライネスの一言が脳裏を過ぎる。
「……」
カップを置いて、再び思考の海へと潜っていく。
(拙のこの気持ちが恋なら……)
そこでふと考える。もしこの気持ちが恋だとしたら、自分はどうしたいのだろうか?
「……」
答えはすぐに出た。
(拙は……マスターにこの想いを伝えたい。拙のこの気持ちを知ってほしい。その上で……マスターの気持ちを知りたい。拙のことを……想ってくれているのかどうかを……)
そこまで考えて、思わず頬が赤くなる。心臓が激しく脈打ち始めたのを感じる。
だがその高揚をかき消してしまう、ある疑問が生まれた。
(でも、拙のこの気持ちを知ったら、マスターは困ってしまうのでは……?)
マスターの性格を考えれば、きっと自分のことを気遣うだろう。
その考えが浮かんだ瞬間、さっきまでの決意と高揚は無くなっていく。無くなりかけていた不安がまた浮かんできた。
「……」
グレイは再び紅茶を一口飲むと、大きく息を吐いた。
「拙は、どうすれば…」
お茶会から数日経ったある日。カルデアの廊下を歩くグレイは、どこか憂鬱そうだった。
「……」
ここ最近はずっとこんな感じだ。マスターに対する想いは解決せず、しかし誰にも相談できずにいる。
「マスター……」
無意識のうちにマスターの部屋に足を向けていた。
だがドアをノックしようとしたところで手が止まる。
(……やめましょう。マスターも忙しいでしょうし……)
文句を言いたげなアッドを黙らせつつ、踵を返して立ち去ろうとした時だった。
「あら? グレイさん?」
「え?」
背後から声をかけられ振り向くと、そこには見知った顔があった。
「マリーさん?」
そこに立っていたのは、フランスの王妃にして世界三大美女の一人でもある少女、マリー・アントワネットだった。
「ご機嫌よう。グレイさんもマスターにご用事かしら?」
「ええっと……」
一瞬言葉に詰まるが、すぐに首を横に振った。
「い、いえ、違います。マスターにお会いするのは、またの機会にしようかと……」
「あら、グレイさんは優しい子なのね」
「え? そ、そんなことないですよ!?」
何故か唐突に褒められ、思わず照れるグレイ。そんな彼女に微笑みかけると、マリーは言った。
「でも、あまり遠慮しすぎるのもよくないわ」
「え……?」
「グレイさんの気持ち、私にはわかりますわ。愛する人の隣にいたいのでしょう? 女性なら抱いて当然のことだもの」
心に響いてくるようなそれはまさに、王妃として大人の恋愛を経験した女性の言葉だった。しかも、自分の秘めた想いを見透かされたグレイは驚きで目を丸くする。
「あの……どうしてそれを?」
「ふふっ、秘密よ♪」
人差し指を唇に当てて、悪戯っぽく笑うマリー。同性のグレイが見てもドキッとしてしまう仕草は、まさしく恋する女性そのものだ。
「グレイさんは、マスターのことが好きなのかしら?」
突然問われた質問に、思わずグレイは顔を赤くする。
「あ、あの……えと……はい……」
小さく返事をして俯くグレイ。その姿を見たマリーは優しく笑った。不思議と、マリーの前では自然に気持ちを話せていた。人徳か雰囲気か、素直な気持ちがスルリと口から出てくる。
「大丈夫。貴女の真剣な想いは、きっとマスターに伝わるわ」
「あ、ありがとうございます…!」
「いいえ。助けになれて嬉しいわ」
それからグレイは、マリーの話を聞き続けた。彼女の話は、グレイにとって未知の話ばかりで参考になることばかりだった。
「ありがとうございました。では、拙はこれで失礼します」
頭を下げて歩き出したグレイの背中を見て、マリーは思う。
(おせっかい、しちゃおうかしら♪)
「ふぅ……」
部屋に戻ったグレイは大きく息を吐き出すと、ベッドの上に倒れ込んだ。
「……どうすればいいんでしょう」
仰向けになって天井を見つめる。そのまま数分が過ぎた頃、部屋の扉がノックされた。
「あ、はい」
起き上がって扉を開けると、そこには一人の少年が立っていた。
「やぁ」
短く挨拶をした少年は、グレイのマスターである藤丸立香だった。
「ま、マスター!?」
「ちょっといい?」
「あ、はい!」
グレイが答えると、彼は中に入ってきた。そして部屋に置いてある椅子に座ると、口を開いた。
「最近のグレイ、なんか元気がないなって思ってさ。悩みがあるなら聞くよ? 俺にできることなら協力するから」
「……」
彼の言葉に、グレイは嬉しさを感じた。自分を心配してくれる立香に対して、嬉しさが湧き上がってくる。だが、同時に申し訳なさもあった。自分の悩みで、立香に心配させてしまっている。
「いえ、なんでもありません。ただ、少し疲れているだけですので……」
そう言おうとしたその瞬間、ライネスやマリーの言葉が脳裏に思い起こされた。
『一度くらい本気でぶつかってみたらどうだい? 今のままじゃ、いつまで経っても変わらないぞ?』
今言わないと、これからずっと後悔し続ける。そう思ったグレイは、あらためて立香に向き直った。
「…あの、お伝えしたいことがあるんです」
「うん、聞くよ」
時計の音だけが響く室内で、グレイはゆっくりと深呼吸する。頭の中は真っ白で、考えなんてまとまらない。だけど、言いたいことはわかってる。
「あの、マスター」
「うん、なに?」
「拙は……マスターのことをお慕いしています」
「え!?」
突然の告白に驚くマスター。だが、グレイは構わず続けた。
「マスターに恋をしました。拙は、マスターのことが好きなんです!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
思わず慌てる立香。だがグレイは止まらない。いや、グレイ自身でも止められなくなっていた。今まで溜め込んでいた立香への想いが、洪水のように溢れてきている。
「この想いを伝えるべきか、ずっと迷っていました。でも、伝えたいって思ってしまって…ごめんなさい…!」
「謝らなくていいって! というより、なんでいきなりそんなことを?」
「今言わないと、後悔するような気がしたんです……」
グレイは顔を上げて、震える声で言った。
「マスター、お願いです。答えを教えてください。もし、マスターの気持ちがわからなければ……拙はこの気持ちを諦めることができません」
「グレイ……」
グレイの瞳からは涙が溢れていた。彼女の表情は悲痛そのもの。ずっと苦しんできたことは立香にもわかった。
立香は悩んだ末、自分の正直な気持ちを口にすることにした。
「俺は……」
グレイの肩に手を置く。彼女はビクッと震えたが、抵抗することはなかった。
「グレイのことが好きだよ」
「え?」
予想外の言葉にグレイは目を見開いた。自分の言われたことを頭で反芻し、理解した。
「マスター……」
「ずっと前から好きだった。でも、言う勇気がなかったんだ」
頬を赤く染めるグレイ。その姿を見て、立香はさらに言葉を重ねていく。
「俺と付き合ってくれ。グレイ」
「はい……こんな拙でよければ喜んで…!」
涙を流しながら微笑むグレイ。その笑顔は。今までで一番美しいものだった。
「マスター…?」
グレイの顔に手を添える。ゆっくりと顔を近づけていけば、互いの唇が触れ合った。触れるだけの優しいキス。しかし、二人の心を満たすには十分だった。
唇を離すと、グレイは再び泣き出してしまった。
「ご、ごめん!嫌だったかな?」
「違います……嬉しくて……幸せで……」
「そっか…」
グレイは両手で顔を覆ったまま嗚咽を漏らしていた。そんな彼女を立香は優しく抱きしめる。
「これからもよろしくね、グレイ」
「はいっ……!」
とても良かったです‼︎また黒玲さんのFGO恋愛小説見てみたいです