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死臭を嗅ぎとる藤丸立香の話/Novel by ヨダカ

死臭を嗅ぎとる藤丸立香の話

5,753 character(s)11 mins

赤い糸が見えるぐだおの話を考えてたらこうなった

死ネタを仄めかす描写がありますが、誰も死なないです
続きはないよ
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たくさんのコメント等ありがとうございます!

さらに
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総合66位男子59位女子49位
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総合14位女子49位にお邪魔しました…
あ、ありがとうございます…( ゚д゚)

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カルデアでただ一人のマスター、つまり人類最後のマスターとなった藤丸立香は平凡な人間だ。
魔術師と関係ない一般的な家に生まれ、育ち、ある日突然勧誘を受けてカルデアにやってきたら人類最後のマスターとなってしまった、普通の人間である。

ある一点------暇さえあれば喫煙室に籠る、という点を除いて。





「お前は何故好んでこの場所にいるんだ」

突然の質問に藤丸立香は固まった。ーーこの場合の「固まった」とは、その質問が彼にとって都合の悪いものであったり答えにくいものだったという訳ではない。
単純に質問に驚き、同時に今更だなあと思ったからだ。

「え〜…それ、だいぶ今更な質問じゃない?」
カルデアに召喚されて間もないサーヴァントに聞かれるのならまだしも、彼ーエドモン・ダンテスはこのカルデアではだいぶ古参のサーヴァントだった。

「お前は禁煙者…というかまだ未成年で、煙草を吸う年齢ではないのだろう?
どちらかと言うと煙草コレを嫌う側の人間ではないのかと疑問に思っただけだ」
「あー、ソレ 俺も気になってましたねぇ」
「確かになァ。吸う側が言っちゃぁなんだが、コイツぁ吸わない人間の方にも有害じゃねえか。それこそ今更だがあんま喫煙室に居座らねえ方がいいわな」
エドモンの言葉を聞き取ったらしいロビンとキャスターのクー・フーリンまで会話に参加してきた。どうやら彼らはマスターが喫煙室に居座ることに賛同しないらしい。

「確かに、煙草は百害あって一利なしなんて言われてるもんね」
立香もウンウンと腕を組んで同意する。
「それに誤解してると思うけど、煙草の臭い俺好きじゃないからね?」
普通に臭いなあって思ってるよ。という立香の言葉に3人は目を丸くする。といっても、エドモンはそんな表情を変えていないように見えるが。


「…貴様という奴は…」
「じゃあなーんで好きこのんでこんな場所に居んだ?お前さんよくここにいるじゃねーの」
「誰も吸ってない時でもいるとこ俺見たことありますけど?」
エドモンのみならず、さらに2人のサーヴァントにまで責めるような言い方をされた立香は考えるような仕草を見せた。

「なんでって言われてもなあ…
こっちの臭いの方が落ち着くんだよ、俺」





気付けばたまに、俺は誰も嗅ぎとらない臭いを捉えていた。
最初に気付いたのは、ランドセルを卒業し制服を身に纏うようになった頃。夏休みに祖母の家に遊びに行った時のことだった。
「…ねえ、なんかお婆ちゃん変な臭いするよ?」
「え?」

家に入った時から異様な臭いを祖母がまとっていたのだ。遠くにいても微かに香るその臭いに疑問を持つのは当然だったと思う。
「どんな臭いだい?」
「えーとね…なんか、焦げてる…みたいな」
「おかしいねえ、今ガスは使ってないと思うんだけど…」

「俺はそんなにおいしないけどなあ」
「私も…立香の気のせいじゃないかしら?」
両親にそう言われて、おかしいなあと思いながらもまだ小さい俺は引き下がるしかなかった。

でも、それから1週間も経たないある日。突然祖母は帰らぬ人となった。
火の元の不注意による火事だったらしい。
喪服を着て悲しそうに涙を流す両親や祖母が入った大きい箱を眺めながら、俺はお婆ちゃんから嗅ぎとった、あの焦げくさいにおいのことを自然と思い出していた。


さらには、中学生のときのクラスメイト。
「…なあ、お前どっか怪我した?なんか血の臭いするんだけど」
相手はそこそこ仲の良かった男子生徒だった。そいつはサッカー部だったから膝でも擦りむいたのだと思っていたが、返ってきた言葉は素っ頓狂なもので。

「へ?怪我?今日は部活も休みだし…なんともないぞ?」
っつーか血の臭いに反応するとかケモノみたいだな!なんて揶揄われたのでその場は笑って過ごした。結局その日中ソイツから臭いが消えることはなかったが、気にしないようにして1日を終えた。
しかし、その生徒は次の日から来なくなった。死んだのだ。轢き逃げにあったんだ、と泣きながら説明する先生を視界に入れながら、心にぽっかり穴が空いたような気持ちになった。
身近でこんなことがあるなんて、と他人事にように考える一方、数年前の祖母のことを思い出した。


決定的だったのは、それから一年と経たないある日のこと。
近所に一人暮らしの年寄りのお爺さんがいた。彼は妻に先立たれ、家族もおらず1人で暮らしている、と母親は言っていた。排他的というわけでもない、温厚そうな人だったため俺は懐いていたと思う。
偶然すれ違ったとき、彼から酷く生臭いような…鼻につく臭いがしたのだ。顔見知りだからといって、「お爺さん、なんか臭いよ」と面と向かって言うわけにもいかず、だからといってどうにかできるものじゃなかったのでその場は立ち去ることでやり過ごしていた。
その日、同じくあのお爺さんに会ったという父親に話をしてみても、首を傾げるだけで同意は得られなかった。それから一月ほど経った日、俺はその人の家に警察がいっぱい入っていくのを見てしまった。

嫌な予感がした。祖母や同級生のことが頭をよぎった。
親に問い詰めれば、あのお爺さんは遺体で発見されたらしい。孤独死で、遺体も腐りかけていたそうだ、と母は語った。


前会った時に嗅いだ、あの腐った臭いを思い出していた。あれは、あのにおいは腐敗臭だったのだ。
ようやく納得してしまった。自分は、死期が近い人の臭いを感じ取るらしい。
祖母は焦げた匂いだった。その後すぐ焼死した。
同級生は血の匂い。そいつはその日に車の事故で死んだ。
近所のお爺さん。彼は孤独死して遺体は腐っていた。
異常な臭いを放っている人間はどうやら近いうちに死んでしまうらしい。
その臭いは俺以外の誰も嗅ぎとれない。自分が異常だと理解するのは当然だった。


それを自覚してから、藤丸立香という人間は臭いに敏感になった。自分が今感じているにおいは、他者にも感じるものなのか、恐ろしくなった。
一旦そのにおいがした者はどうあがいても死ぬ。避けられない、変えられない。既に決定した未来だった。これは自覚した以降身近な人間から死の臭いを感じ取ったときに助けようとして敗れたことから分かった。


自分だけが知る、命の終わり。
藤丸立香は恐怖した。それがバレた時の周囲の反応に。良いものであるはずがないのだ。人から忌み嫌われるかもしれない。後ろ指をさされるかもしれない。
誰にも言えるはずがなかった。

それと同時に煙草に手を出した。誤解のないよう言っておくが、これは未成年が喫煙を始めた、というわけではない。
ーー煙草は、染み付くから。周りから嗅ぎとれるにおいが少し和らぐ…というわけではない。むしろ余計な臭いが追加される。
でも、立香には周囲から感じる死の臭いよりも、よほど煙草の臭いの方がマシだった。
ただそれだけだったのだ。



「………な、なんか落ち着くんだよ!確かに臭いし好きじゃないとは言ったけど、嫌いとは言ってないぞ俺!」
自分の召喚に応じてくれた彼らになら、と一瞬立香のなかに甘い考えがよぎったがやはりその告白は無理だと諦めた。不安の方が優ってしまう。数年かけて染み付いてしまった思考は簡単に覆らなかった。

「物好きですねえ」
「ま、オレらが言えたことじゃねえけどな………」
ロビンとクー・フーリンは納得してくれたようだ。それにホッとしながらリアクションを見せないエドモンの顔を窺う。
難しい顔をしていたが、やがていつもの独特な笑い声をあげたあと、タバコの火を消した。
「マスターがそう言うならそうなのだろう。だが、加減は気をつけることだ!」

何の加減かは聞かなかった。



「あ、先輩!」
エミヤお手製の夕食を堪能したあと食堂を去ろうとしていた立香を他の女子サーヴァントと机を囲んでいたマシュが引き止めた。
「少しお話が!」
「ん?どうした?」
明日の予定?と聞くと元気よく頷いた。今日も後輩は可愛い。
「明日の予定といいますか、ドクターから明日の朝に予定していたお話をこの後に出来ないか、という伝言がありまして…」
「わかった、じゃあこの後ドクターのところ行くよ。教えてくれてありがとう」

後輩として当然のことをしたまでです!と頬を染めて女子サーヴァントが集うテーブル…女子会でもしていたのだろうか、その場に戻っていった。
ーーー初めて会った時にマシュからしていたあの焦げくさい臭いはもうしない。それが何より立香にとっての救いだが、カルデア入所初日のこと……死の臭いが蔓延した空間を思い出すだけで吐きそうだった。



「ドクター、入るよ?」
一応ノックをして了解を得てからドアを開ける。このカルデアに召喚されたサーヴァントの中にはノックをせずマスターの部屋に忍び込んでくる輩が多く存在するが、まあそれは置いておく。

「ああ、立香くん。突然なのにごめんね…」
「いやそれは全然大丈夫ですよ〜」
俺暇さえあればあそこにいますし。と続ける。その返事にロマニはあまり良い顔をしなかった。

「立香くんは相変わらず喫煙室が好きだねえ」
「ですよね〜」
「って、随分他人事みたいな返事して……
何度も言うけどオススメはしないよ?煙草は…」
「その話は今日ロビンたちとしましたから!間に合ってますよ!」
立香はうっかり忘れていたが、彼のあの癖に良い顔をしない筆頭がこのロマニ・アーキマンだった。
ロマニに喫煙室に通っていることがバレたのはちょうどローマの特異点を解決したあとの頃だったが、最初は怒られたものだ。
吸ってないにせよ、煙草を付けているのは藤丸立香本人だったから。
当時はまだ喫煙者のサーヴァントが数少なく、喫煙室が無人である時の方が多かったから立香は持っていた煙草に火をつけただけだったのだが、ロマニからすれば問題はそこだけではない。

ーなんで、未成年が、煙草を持っているんだ!ダメじゃないか!
そう怒られたのも記憶に新しい。…今はもう喫煙者が増えて喫煙室にいつでも煙草のにおいが充満しているから立香本人が煙草を所有することはなくなった…と、ロマニは思っている。
実はマイルームに数箱残ってるのは秘密だった。


「それで、話ってなんですか?」
「確認しておきたくて……
今このカルデアで、臭いはするかい?」

その質問に立香は詰まった。それは答えにくい質問だった。
ーーーーロマニはカルデアで…つまり世界でただ1人、立香の秘密を知る人間だ。
居眠りのせいでオルガマリー所長によって自室へ帰されてロマニとばったり出会った立香だったが、実はあの時の原因は居眠りではなく、部屋に充満する死の臭いにダウンしていたのだ。
自室に案内された立香は、偶々居合わせたーーロマニ本人はサボっていたのだがーーロマニに顔色の悪さを指摘され、つい、あまりの臭いの酷さにポロっと漏らしてしまったのだ。

人が焼け死ぬ臭いがする、と。
それからすぐ犯人によって仕掛けられた爆弾の所為で多くの死者が出た事でロマニは彼の言葉を信じるしかなくなり、結果的に秘密を共有する仲となった。

「しないです。だから最近は調子が良いんですけど、喫煙室に通っちゃうのは癖なので…」
「それを聞いて安心したけど、うーん…仕方ないかなあ…やっぱり……」
「そうそう、仕方ない仕方ない」

「こら、治す気ないだろう?だめだぞ、マシュに臭いです!なんて言われたらどうするんだい?」
「それは……嫌だ…」

想像したのか、勢いよく肩を落とす立香にロマニは苦笑する。
ロマニは気付いていた。その臭いは確実に藤丸立香の精神を追い込んでいることを。人類最後のマスターが恐れていることを。
自分以外のマスターがいないこの状況で彼が最も恐れていること。


「…まあ、確認したかったのはそれだけだよ。朝早くに起きてもらってする話にしては短いから、今日中にしちゃおうと思ったんだ。
ありがとう、立香くん」
「これぐらいならいつでも大丈夫です!あ、でも俺が喫煙室にいるときは待ってほしいかな…
それかドクターが喫煙室に来てもいいんだよ」

「えー、僕あまり煙草の臭い好きじゃないんだよなあ」
「そうなんですか?いや、そうですよね…俺も好きじゃない…」

相変わらず矛盾してるね、と苦い顔で笑いあう。それから他愛ない話を少しだけして立香はドクターの部屋を去った。



ドクターの部屋を出てマイルームに戻ってきた立香はベットに腰かけた。ドクターとの会話を思い出し、ついため息をついて自分のにおいを嗅ぐ。煙草の臭いがした。
「もうくさいにおい染み付いてるよ…マシュに良くないし…どちみち喫煙室に行くの減らすかな……」

可愛い後輩に臭いが移ったらショックだからな。決して自分が臭いと言われたらショックだからではない。立香は自分にそう言い聞かせる。

礼装を脱ぎ、黒のインナーの上にパーカーを羽織ってそのまま寝転ぶ。煙草の臭いの染み付いた礼装を脱いだら、一気ににおいが濃くなった気がした。


ドクターは気付いていた。人類最後のマスターが恐れることに。それは、「自分から死の臭いがしてしまうこと」。
しかし同時にドクターは知らなかった。

「………俺は、まだ死ぬわけにはいかない」



藤丸立香は既にその身体から死のにおいを嗅ぎとっていた。
どうやら自分は近いうちに死ぬらしい。


Comments

  • たき
    May 20, 2024
  • 侘助次郎
    January 2, 2018
  • リツキ
    January 1, 2018
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