第288話 近藤、少年院にて
―少年院・近藤視点―
このままずっと無為の時間を過ごすことにどれだけ我慢すればいいのか。
俺は3日前、いよいよ少年院に送られた。そこでは、何を隠して持っていないか徹底的に調査される。自分の尊厳が踏みにじられるような屈辱に耐えながら、簡単な説明を受けて、清心寮と呼ばれる独居房に押し込められた。
髪も丸刈りにされた。くそ、くそ、くそ。
少年院では最初の1週間程度は、自分の罪を自覚させるために独居房に入れて、自分の非行を振りかえさせられたり、知能試験や健康診断、面接を受けることになるらしい。
私語厳禁、出かけることもできない、誰とも話せない。ほぼ自由がない上に、職員との面談や数日に1回ある運動の時間を除けば、徹底的に孤独に襲われている。
できることは本を読むくらいで、ただ時間が無限に過ぎていく。
気がおかしくなりそうだ。
だが、規則によって睡眠時間以外に寝転んだりはできないし、奇声をあげることも不可能だ。ただ、自分の衣擦れの音くらいで永遠に精神を追い詰められていく。何もできないということがこんなに苦しいなんて思わなかった。
そして、最後に面談したあのくそ弁護士の言葉ばかり、思い出してしまう。
※
「たぶん、最後の面談になるかもしれないから言っておくよ。近藤君、僕はね、キミの非行の理由を分析してみたんだ」
こいつ何を言っているんだと憤慨する。勝手に俺の心に入ってくるな。
そう叫んでも、あいつは涼しい顔で続けていた。
「ひとつめは、キミの問題行動は、親の愛を確認するための代償行為だったんじゃないかな。キミが問題を起こせば、お父さんが世間体を考えて金や権力による脅しで問題を解決してくれる。それは、親からの愛情を信じることができなかった君にとって唯一できる確認のための作業だった。ちょっとメンヘラっぽいよね」
なにから、なにまで俺をバカにする弁護士のことをいつか殺してやるとばかりににらみつけるが、あいつはそれすら無視して続ける。
「結局、キミはサッカーで優秀な成績を収めても、学力や容姿が優れていても、親には振り向いてもらえなかったと思っているんだ。かなり、繊細で寂しがり屋さんだね」
お前に何がわかる。お前に何がわかる。
怒りはふつふつと湧き上がるのに、動くことはできない。
「2つ目の理由は、嫉妬だよ。青野英治君を目の敵にしていた理由を考えたときにそう思ったんだ。キミは、彼に嫉妬していた」
その言葉に思わず拒絶してしまい叫んでしまった。
「俺があんな冴えない男に嫉妬するわけがねぇ」
「そうかな? 君はうらやましかったんだろ。家族仲は良くて、信頼されている人たちからは愛されていて、美人の幼馴染の恋人もいる。彼の存在は、自分を愛してくれてる人がいないと思っているキミにはまぶしくて、まぶしくて仕方がなかった。だから、壊そうとした」
「ちがう、ちがう、ちがう」
「その反応は否定じゃなくて、肯定だ。人間はね、本当のことを指摘されると怒るんだ」
何から何まで俺の心をえぐってくる。
「きみは愛し合っているカップルを中心に略奪愛をしかけていった。それも、自分の存在を肯定するために必要なことだった。愛なんてものは、大したものじゃないと思わなければ、自分が成立できないほど追い込まれていたんだ」
淡々と、的外れの分析を語るあいつに嫌気がする。だが、身体は動かない。
「そして、最大の問題が3つ目だ。人間関係というものはね、合わせ鏡みたいなものなんだよ。自分が相手に対してどう思っているのか。たとえば、キミは女の子たちを道具やトロフィーのようにしか扱わなかった。それは反対から見れば、女の子たちも君のことを本当に愛しているのじゃなくてトロフィーのようにしか思っていないんだ」
これが一番屈辱的な事実だった。
俺は女を道具だと思っていたのに……女にとっても俺は道具に過ぎなかったのか。
「歪んだ場所から始まったキミの非行は、結局歪んだ場所にしか行きつかない。その負のループを繰り返すだけだ。そろそろ、面会の終了時間だ。僕は行くよ。さようなら、近藤君。今日語ったことが、少しでもキミの更生に役立つことを祈っている。良薬は口に苦しというだろう?」
※
思い出しても吐き気のような屈辱感を覚えてしまう。
俺はそんな情けない男じゃないんだ……
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