確かに、原因は俺なんだろうけどさ。・・・・・・唐突なのはいつものことか。
事の発端は、ランサーがいつも釣ってくる魚を、またいつもどおり受け取ったりなんかして、そんなときに俺が言った一言が間違いなく原因だ。
「ほら、今日の分」
「ありがとうランサー、でも埠頭で鯖って釣れるのか?」
「掛かるんだから釣れるんじゃないのか?」
「そっか」
そんなもんだろうか、と少しだけ思ったがこの世界は普通じゃないわけだし、釣れるし、食費の足しになるし、深いことは考えないことにした。
「ランサーは渓流釣りとかしないのか?」
ふと、思い立った言葉だった。が、それがいけなかった。
くあ、とあくびをかみ殺していつもと違って岩場の上に立ったまま流れに糸を垂らしているランサーを遠目に見た。いや、別に渓流釣りしないのかって聞いたのは俺のほうだし、それに俺を連れてきたことまではいいんだけど、なんで朝の、て言うかあれは夜だ、夜中の4時前に部屋にやってきたランサーに俺は見事に拉致られたわけだ。何で4時前なのかは多分、いつだったか言ってたまづめどきとかいう奴だろう、夏場は夜明けが早くなるからそりゃ4時前にもなるでしょうけどね、せめて予告しておいてくれたらよかったなーなんて今さらなことを思った。
もう夜明けを迎えたのか空は明るくなり始めた。それをぼんやり見ながら半分睡魔に占拠された頭でそろそろアーチャー辺りが気づいてるんだろうなー、と思った。気づいてもおれがどこにいるのかを探すのは相当骨が折れるだろう。俺にしたって荷物よろしくランサーに担がれてものすごいスピードで移動された時点でもう現在地の把握をあきらめたくらいだから。まあ、アーチャーはわざわざ探しには来ないだろう、あったとして帰宅後のお説教くらいが妥当かな。
相変わらず眠気に支配されつつある頭で釣りをしているランサーを見ていると、どうやらまた何か釣れたらしい。海でもでたらめなものを釣ってくる最速の英霊は何を釣りあげているのか若干気になってランサーが立っている岩の横まで移動してみた。
「暇になったか?」
「暇っていうか、眠い」
魔力さえ十分に補給できていれば何時間だって、たぶん何日間だって眠らずに行動ができる神代のアイルランドの英雄は笑った。笑い方からして鍛え方が足りないとかそんなことを言いたそうな笑い方であったが生きている人間には睡眠が必要なのだ。
そのときくん、と海釣り用より細い竿がしなった。片手でいとも簡単に魚を釣り上げたランサーは、疑似餌のついた針から魚を外してひょいと流れに帰してしまった。俗にいうキャッチアンドリリースという奴だ。なぜだろう、素人目からすれば十分に大きいように見えたのに。
「ありゃ俺基準でいくとまだちいせぇんだよ」
「ふーん?」
近くに引っ掛けてあった魚籠を水から上げてみると立派な大きさのヤマメやニジマスが5匹入っていた。これがランサー基準をクリアしたものなら確かにさっきの魚はやや小さかっただろう。どうやらランサーの釣りの腕は相当なもののようだ、海釣りと渓流釣りでは勝手が違うだろうにこんな大物を釣り上げるくらいには。
またじゃぶりと魚籠を水に戻して、とうとう目蓋が睡魔に降参の白旗を振り始めたのでそのあたりの岩に持たれた俺は目蓋を閉じた。が、視界がなんだかぼんやり明るい。太陽が昇ってくる方向とは正対しないような位置に腰かけたにもかかわらず、痛いほどではないけど何かちらちらと光が目蓋の向こうで動いていた。そのまま眠ってしまってもよかったが何となく薄く眼を開けてみると、ランサーがぼんやり光っていた。
「・・・・・ランサー?」
「ん、どうした?」
「あんた、光ってないか?」
言葉で確認するまでもなく、ランサーは確実に光っていた。あまり眩しいほどではないけど、キラキラと自ら発光している。
「ああ、俺ぁ太陽神の息子だからな」
「いつもは光ってないじゃないか」
「場所代だよ、場所代。別に光らなくても方法はあるんだが光ってたほうが楽だしな」
よ、とランサーはまた魚を釣り上げた。恰好はいつものど派手なアロハなのに、なんだか神々しく見えるなんて口が裂けても言ってやらないと思った。アロハじゃなきゃ言ってたと思うけど。
「でも、ランサーが光ってると周りの木とかが喜んでるような気がする。なんか、やさしい、かんじで」
「そりゃ光栄だ」
ランサーが苦笑するような顔で笑って釣り上げた魚を魚籠に入れていた。ランサーが動くとキラキラが優しく揺れる。キラキラ、きらきら。
「眠かったら寝ちまえ?」
「そう、する・・・・」
すう、と息を吸い込んでまた俺は目を閉じた。その向こうに優しい青と光を感じながら。