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【槍弓】神と贄/Novel by 。

【槍弓】神と贄

10,799 character(s)21 mins

神様ランサー×生贄アーチャーの話です。
若干のキャス影弓、狂王黒弓要素があります。
また、性描写を思わせる箇所があるのでご注意ください。
気が向いたら続きます。多分…

初投稿で拙い文ですが暖かい目で見て下さると嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。

不備がありましたら削除します。

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息を切らしながら山を登る。
正確な場所もわからない中ただ漠然と山頂付近を目指し、慣れない上等な着物と履物を履いて必死に足を動かし続ける。早朝に山を登り始めたが、今はもう日が傾いて辺りは既に暗くなっていた。
(…急ごう。)
この山は狼や熊の獣の類がよく出る。今はまだ運良く遭遇していないが、いつ襲われてもおかしくない状況だ。生贄として神に捧げる前に獣に襲われて死ぬなんて事態は何としてでも避けたい。
自分が役目を果たせなかったら村が、なによりたった一人の大切な弟が死んでしまうかもしれない。そう自分に言い聞かせ疲れた身体に鞭打ち、鉛のように重たくなった足を動かした。


* * * * *


山を登っている青年の名はアーチャー、暮らしていた村の生贄である。
村では山にいる神は人間の心臓を好んで食べると昔から言い伝えられていた。そのため、村の安泰と五穀豊穣を祈願して五十年に一度神に贄として十八歳前後の健康な人間の心臓捧げる習わしがある。八年前にその儀式を取り行い、次に贄を捧げるのはまだ先のはずだった。しかし現在村では原因も治療法もわからない病が流行っており、死者も数人出ている深刻な状況であった。
そんな中ある村人の1人が神がお怒りなのではないかと言い出した。実は八年前、習わしに従い贄に捧げた女は病弱でとても健康と呼べるような状態では無かった。長生きは出来ない、早いうちに息を引き取ることになるだろうと言われていた為、自分の家族を贄に出したくない村人達はばれやしないだろうとその女に白羽の矢を立てたのだ。女は贄として捧げられたが神が定めた贄の条件に反していた。そもそも病弱な彼女が神の元へまで辿り着けたかさえ怪しい。贄となる者は若くて健康な者、その掟を破った為神がお怒りなのだと考えた村人達はどうにかすべく新しく贄を捧げる事に決めた。
そうして選ばれたのがアーチャーだ。
アーチャーは三兄弟の次男で孤児である。二つ上に少し忘れっぽい兄のエミヤ、一つ下に体が弱い弟のシャドウ、そして真ん中にアーチャーの三兄弟だ。三兄弟は皆とは違う異国の菓子のような褐色の肌に老人のような白髪、そして珍しい瞳の色をしていた為産まれてからずっと村人達に敬遠されていた。エミヤが物心ついた時から父親はおらず、記憶にあるのはやせ細った母親だけ。その母も自分達を食わすため、四六時中働き亡くなった。
母が死んだのはエミヤが八歳の時の事で、当然子供三人だけで生きていけるような世の中ではなかった。
そんなエミヤ達三兄弟を引き取り、養父として育てたのが衛宮切嗣という男だった。
衛宮切嗣は変わった男で、母が生きていた時から他の村人達は忌み嫌っていたのに村に住みながらも褐色、白髪の明らかに皆とは毛色の違う自分達を気にかけてくれていた。引き取られた後は村の集落の端の方に住みながら畑を耕し、自分達が生きるのに必要な分だけ作物を育て、贅沢は出来ないが平和で幸せな暮らしを細々と四人で送っていた。
だがそれも長くは続かなかった。エミヤが十五歳の時、自分達を育ててくれた養父が病により亡くなってしまったのだ。頻繁に咳き込んだり徐々に食が細くなっていく養父の姿を見て、なんとなくもう長くないだろうと感じていた。
養父も自分が長くないことを悟ったのか狩りの仕方、食べられる山菜の見分け方、料理の仕方など生きるための術を三人に教えるようになった。そのおかげもあって養父が亡くなって三人になってからも、他人の手を借りることなく三人だけで暮らせていた。
そして養父が亡くなってから一年ほど経ったある日、兄のエミヤが行方不明になった。朝、山に山菜を採りに行ってくると言ったきり夜中になっても帰って来なかった。もしや山のどこか迷っているのではないかと、来る日も来る日もアーチャーはエミヤを探し続けた。だがとうとう見つける事は出来なかった。よく物事を忘れたりすることはあったとはいえ、慣れ親しんだ場所で帰る道を忘れるなんて事はないはずだ。なら考えれるのは獣に襲われたか。もし襲われたにしても血痕や肉片が残るはずだが、襲われた跡は何も無かった。まるで神隠しにあったかのように忽然とエミヤは消えた。
エミヤが行方不明になってから半年経ってもいつかひょっこり帰ってくるのではないかという希望を捨てきる事は出来なかった。口には出していなかったがシャドウも同じように希望を抱いていただろう。どこか心に穴がぽっかりと空いたのを感じながアーチャーとシャドウは2人で兄のエミヤの帰りを待ち続けた。
エミヤが行方不明になってからさらに一年程の歳月が流れたある日、村では原因も治療法もわからない病が流行り始めた。元々体が弱かったシャドウもその病にかかってしまった。医者に診てもらえるだけの金も薬を買うだけの金も持ってはおらず、日に日に弱っていくシャドウをただ隣で見るだけしか出来ないことが悔しく、辛かった。アーチャーは何も出来ない自分がとても情けなくて不甲斐なかった。
噂では病により死者が数人出ていると聞き、このままではいけない、何かしないとと思ったアーチャーは薬を買う為や医者に診せる為の資金の足しになればと家にある金目の物を集め売りに行こうと考えた。幸いまだシャドウは症状が重症化しておらず、もしかすると治るかもしれない。そう僅かな希望を抱き、隣町の質屋に売りに行こうと外に出た時の事だった。
外に出たと同時にちょうど村長と村の男数人が険しい顔でアーチャーの元を訪れた。挨拶する隙も何をしに来たのか問いかける隙も与えず、村長はアーチャーの顔を見て突然「村に流行っている病を治して頂くために神に贄を捧げることに決定した。次の贄はお前だ。」と告げた。
村の習わしも以前の贄の事も知っていたアーチャーは頭のどこかでこうなるだろうと予測していた。
医者にも見放され、症状が良くなる気配は一向に無くどんどん死者が増えるだけ。そんな村人達が次に縋るのは神に違いない。前回病弱な女を贄に捧げたことで怒った神が村に病を流行らせたと村人達が考え、新たに贄を捧げるであろうことは容易に想像出来た。
当然村人達は自分の子供を、家族を贄に出すのは嫌がるはずだ。親も身寄りもなく、贄の条件に当てはまる自分が選ばれるのは必然だった。村人達からすれば容姿の違う気味の悪い自分を消す良い機会とさえ思っているかもしれない。
アーチャーは贄になることに抵抗は無く、すんなり受け入れた。
確かに村人達に対して良い思い出は無い。気味が悪いと虐げられ、罵倒された事もしばしばだ。だが自分が贄になることで村人達の多くの命を、弟を救えるのならと思っていた。
ただ、一つ心残りがあった。それは自分がいなくなれば一人になってしまうシャドウの事だった。
シャドウは元々身体が弱く、体調を崩しやすい。そして本人は強がって見せてはいるがとても寂しがり屋だ。養父が亡くなった時もエミヤが行方不明になった時も隠れて泣いていたのをアーチャーは知っている。自分がいなくなればきっとシャドウは悲しむだろう。
だからアーチャーは村長に頼んだ。自分は喜んで贄になろう、だからに弟のシャドウの面倒を見てやってくれないか、と。
村長は難しい顔をしたが承諾してくれた。
養父から村長は誠実な人だと聞いていため口約束ではあるが、きっとシャドウの事を少しは気にかけてくれるはずだと安心することが出来た。
三日後の早朝迎えに来ると言い残し、村長と村の男達は帰っていった。
ひょっとするとこの三日の間に自分が逃げる可能性はあるのに、猶予を与えてくれたのせめてもの情けなのだろう。帰っていく村長達の後ろ姿を眺めながら、自分が贄になるということをどこか他人事のように考えていた。
そして三日後。
まだ陽が上りきっていない早朝、シャドウに気づかれないよう見るのは最後になるであろう弟の顔を頭に焼き付け、物音を立てないようそっと家を出た。迎えに来た村人に連れられ神に捧げるために身を清め、上質な着物や履物を着せられる。村長から山頂付近の社に神はいらっしゃる、山頂を目指せと大まかな位置だけ知らされて送り出された。
心残りが全くないと言えば嘘になる。だがアーチャーは死ぬのは怖くなかった。自分の命一つで村人達や弟の命が救えるのなら安いものだと思っていた。そのためにも自分の役目を果たさなければと、なれない履物に悪戦苦闘しながら山頂を目指し、山を登り始めた。
そうして今に至る。
早朝に登り始め、大分歩き続け現在辺はもう既に暗くなっているがまだ山頂にある社には辿り着けていない。
山に登り始めてから休むことなく歩き続けている為、腹が空腹を訴え身体がそろそろ体力の限界を訴えているのを感じていた。
神がいる社とやらがどこにあるかなどわからないし、そもそも今自分がどこにいるのかもアーチャーにはわからない。
このまま暗闇の中を無闇矢鱈に歩き回って無駄に体力を消耗するより、明日明るい昼間に社を探す方が良いだろう。それに夜は獣の活動が盛んになる。太刀打ち出来るだけの武具を何も持ち合わせ居ない今、仮に獣に遭遇しても逃げ切るのは難しい。
折角着つけてもらった上質な着物が汚してしまうのは心苦しいがこのまま今日はここら辺で野宿をしたが良いと判断し、獣道から離れたところにあった立派な木にもたれかかる。
お世辞にも寝心地が良いとはいえずその上空腹では寝るに寝れないだろうという予想に反し、横たわるとドッと疲れが押し寄せ暴力的までな眠気が襲ってきた。
冬ではないといえ、夜中から朝にかけては冷える。少しでも体の熱を逃がさないようぎゅっと丸く縮こまり、シャドウは今どうしいるのだろうか、明日は神のいる社の元まで辿り着けるだろうか、などうつらうつら様々なことを考え込んだ。
かすかに聞こえる虫の音を聞きながら、こうして眠る事が出来るのも今回が最後なのだろうと考えると少し眠る事が惜しくなったが、誘われる眠気には抗えず目を閉じる。眠りに落ちる際、視界の端にこの山には不自然何か青い者が映りこんだような気がした。しかし落ちてくる瞼には抗えず、アーチャーはそのまま気絶するかのように眠りに落ちた。


* * * * *


次の日の朝、パチリと目を覚ますと見慣れない天井が目に入った。と言っても正確な時間はわからずどのぐらい眠っていたのか、今が朝なのか昼なのかアーチャーにはわからない。
ここは慣れ親しんだ家でも、山の中でも無い。
この家の主は裕福なのだろうと推測出来るだけの立派な襖に畳。その上いつの間にか着替えさせられていたら着物も寝かされていた布団アーチャーが今まで使ったことのないほどのふかふかで上質なものだ。
一体ここはどこなのだろうか。
疑問に思いながら、取り敢えずこんな高価もの自分には勿体ないと布団から出ようとした時だった。
「目覚めたか。」
聞き覚えのない声をかけられビクッと肩が跳ねる。声の主の方に目を向けると後ろに髪をまとめた綺麗な青い髪と真っ赤な目をした男が襖を開けて入ってきた。
「あぁ、そういえば着ていた物は汚れていたから着替えはこっちで勝手にしといたぞ。気分はどうだ?」
「…大丈夫、です。」
男はアーチャーの横に胡座をかいて座り、まるで物珍しい物を観察するかのようにまじまじと眺める。穴が開きそうな程見るので人とは違う自分の容姿が気持ち悪いと思われたのだろうか、と思ったアーチャーは顔を隠すように俯いた。
「あんな所に倒れていたもんだから死んでいるのかと思ったが案外元気そうだな。お前さん名前は?」
「…アーチャー、」
「アーチャー、ねぇ。良い名じゃねぇか!」
「ちょっ!やめて下さい!」
そういうと男はニカッと笑い、アーチャーの頭をわしゃわしゃと撫でる。口では抵抗したものの、本気で嫌なわけではなくむしろ少し嬉しかった。今までこんな風に自分に触れた人ははいない。自分とは住む世界違う、まるで太陽のような明るい人だとアーチャーは思った。
「あの、貴方は…」
「そういえばまだ名乗ってなかったな。俺はランサー。ここに住む神みたいなもんだ。」
「神……!?」
男、もといランサーの正体を聞いたエミヤは神に対して無礼な態度を取って上に面倒をみてもらっていた事実に顔を真っ青させる。そんなアーチャーにランサーはカラカラと快活に笑った。
「そこまで畏まらなくていいぜ。神って言ってもそれらしい事はしてないしな。敬語もつけなくていい。気軽にランサーとでも呼んでくれや。」
「なっ!そのような恐れ多いこと出来ません…!」
「アーチャーは頭が固いなぁ。俺が良いって言ってるんだから良いのに。それで、なんでお前さんこんな山奥にいたんだ?迷い込んだ、ってわけじゃなさそうだが。」
アーチャーはすぐさま緊張したような表情見せ、一呼吸おいて消え入るような、しかし凛とした声で口を開いた。
「……私は贄です。村には今病が流行っております。その病を治してもらうべく、私は心臓を捧げにここに参りました。」
ランサーはどこか納得したような顔をしてはぁ、とため息を吐きながら自身の頭を乱雑にかいた。
「まぁそうだろうとは思ったけどよ。前から50年経っても誰も来なかったからついにやめたのかと思ってたぜ。」
「そんなずは…8年前に、女を贄として捧げたと聞いているのですが。」
「…8年前?ここ暫くは誰も来ていないぞ。」
「そう、ですか。」
確かに8年前に女は捧げられている。
アーチャーの目の前にいる神は嘘を言っている様子もそもそも嘘をつく理由も無い。きっと本当に女は来ていないのだ。
体が丈夫なアーチャーでさえこの山を登るはしんどかった。恐らく、病弱で体力のない彼女はこの社に辿り着く前に息絶えてしまったのだろう。
その事対して神が怒るのも当然だ。だがこの神は見た限り、そこまで怒っている様子はない。気になったアーチャー思い切って口を開いた。
「その、貴方は怒っていないのですか?」
「どうして俺が怒る必要がある。」
「それは…、50年に一度、贄として心臓捧げるという掟を破ったからです。確かに8年前、女を贄として捧げています。ですが彼女は結果的に辿り着けていません。しかも彼女は病弱で贄の条件に反していました。だからそれに怒った貴方が村に病を流行らせたのではないか、と思っていたのですが…。」
ランサーは目を丸くしてアーチャーを見つめた後、ククッと声を出して笑った。
「確かに心臓を食う奴もいるが、俺は人間を食うのは趣味じゃねぇ。それにさっきも言ったように俺はそんな病を流行らすなんて器用な事は出来ない。贄に関しちゃ人間達が勝手にやり出した事で俺が頼んだ訳じゃないからな、別に怒らねぇよ。」
「なら、私の心臓は食べて下さらないですか?」
「なんだ、食べてほしいのか。変わった奴だな。」
「…はい、私はどうなったった構いません。ですからどうか村の病を治してほしいのです。」
アーチャーはぐっと拳を握りしめ、ランサーに向かって必死に訴える。
「さっきも言ったが俺は心臓は食わねぇし、俺は槍を振り回す事だけが取り柄の神だ。残念だが諦めな。」
「お願いします…!どうしても、どうしても村に流行っている病を治して頂きたいのです!」
ランサーにはアーチャーの行動が理解出来なかった。人間は酷く臆病で自分達とは違う者を排そうとする生き物だ。きっと他の人間とは違い、珍しい容姿のアーチャーは迫害されたに違いない。なのに村人達のために何故ここまで必死に祈れるのか不思議でしょうがなかった。
「…お前さんの容姿じゃきっと村では敬遠されてきたはずだ。贄に決まった後でも逃げようと思えば逃げる事も出来ただろう。なのに何故お前は村人達の為にそこまでする?」
「確かに良い思い出はありません。ですが、私の命一つで村人達の多くの命を救うことが出来るのなら私は喜んで命を差し出します。それに、村には私の弟がいるのです。弟は今まさに病に苦しめられています。弟の為にも私は役目を果たさなければならないのです。」
「自分の命より、多くの命を優先すると?酷いことをされてきたのにか?」
「…はい、私の命で村の人や弟が助かるのなら。」
これから死のうというのにアーチャーからは悲壮感が欠片も感じられない。
感じるのは村人達を、弟を助けたいという固い意志。真っ直ぐにランサーを見るアーチャーの瞳は鋼のようにが強く、覚悟を決めている瞳だった。
「もう死んでも良いと考えているのか?」
「はい。」
「俺に心臓を捧げると?」
「はい。」
「ならお前の心臓、俺が貰っても問題は無いな。」
「…はい、」
「よし!!お前の心臓、命、全てを貰い受けた!今からお前は俺のものだ、アーチャー!」
「は、い…??」
ランサーはまるで欲しいものが手に入った子供のように無邪気な笑みを浮かべた。
アーチャーは目の前にいる神の考えている事をが全くわからず、目をぱちくりさせる。
「私の心臓を食べるということですか…?」
「いや、食わねえって。お前本当に心臓好きだな。」
「なっ!好きなわけないだろう!…あ、」
思わず素が出てしまい、咄嗟に片手で口を覆ってランサーから目を逸らす。やってしまった、とエミヤは心のなかで後悔したがもう遅い。きっと神も怒ったに違いないと思い、恐る恐る顔を見た。
「敬語じゃなくていいんだぜ、それにそっちの話し方の方が好みだ。」
ランサーは機嫌良さそうに笑いかける。エミヤの予想に反し、全く怒っている様子はなくむしろ嬉しそうであった。
「これから一緒に暮らすんだからな、変に気を遣われない方が俺も楽で良い。」
「…一緒に暮らす?」
「ああ、お前は俺に捧げられた贄だ。ならどうしようと俺の勝手だろう?」
「確かに私は贄で、貴方に捧げられた物ですが…、」
「だから敬語は…あー、まぁ慣れたら徐々に外してくれや。…あぁ、お前さんもしかして病のことを気にしてるのか?俺はそっち方面に疎いが、知り合いに術を扱うのが上手い神がいる。治してもらうよう頼んでおこう。」
「本当ですか!?」
パッとアーチャーの顔が明るくなる。
その顔は年相応のもので、眉間に皺を寄せている時より幾分か幼く見えた、
「安心しな、俺は嘘はつかねぇ。そんじゃ、そういうことでこれからよろしくな、アーチャー」
エミヤは少し不安げに、そしてそれとなく嬉しそうにはい、と返事をした。


* * * * *


「ランサー!!起きろランサー!!」
襖をスパン!と開けてスヤスヤと眠るランサーに起きるよう促す。
もうとっくに日は上り、辺りを明るくてらしていた。
「んーー…、なんだよ、もう朝か?」
「あぁそうだ!だからさっさと起きろ!」
一向に起きる気配の無いランサーから布団を引きはがす。もしここに他の人間がいたら卒倒するような光景だろう。
最初はまるで従者のようにせっせと世話を焼き恭しく振舞っていたアーチャーも慣れたのか、はたまた神らしい事を一切していないランサーに呆れたのか今ではもう砕けた態度で接している。
ランサーにアーチャーが捧げられ、一緒に暮らし始めてから丁度三月が経った。
アーチャーは最近まで知らなかったがここは人間の暮らしている世界とは違い、ランサーの神域らしい。
当初アーチャーは空はあるし、天気は変わるし、寒さ暑さもあるし自分の住んでいた村となんら変わりないのではないかと思っていたが、畑で作物を育てれば本来半年かかるものが一週間で収穫出来る程短期間ですくすくと育つのを目の当たりにして嫌でもここが神域だと実感させられた。
飢えを心配する必要も災害に怯える必要も無い。最初はどうなることかと思っていたランサーとの生活も、贄になる前より快適で楽しいものであった。
「もう少し…、ほんと少しで良いから寝させて
くれ……………」
「そう言っていつも寝続けるのはどこのといつだ!」
ランサーは布団を奪われ外気に晒された体を温めるかのようにぎゅっと丸まった。
子供のように駄々をこねるランサーに負けじとアーチャーもをなんとか起こそう躍起になる。傍から見れば親と子のようだ。
するとランサーが突然あ!と叫び、目を見開いた。
「ならお前も寝ればいいじゃねぇか!」
「…は?」
いきなり突拍子も無いことをいうランサーに脳の処理が追いつかず、アーチャー口を開けてキョトンとする。
今が好機だと思ったランサーは無防備になっているアーチャーから布団を奪い、更に右腕を掴み布団の中に引っ張り込み動きを封じるように正面から抱きしめた。
「ちょっ、ランサー!!」
「どうせ朝早くから起きて色々やってたんだろ。いいから寝ちまえ寝ちまえ。」
「そういうわけには…!」
ランサーの腕から抜け出そうと胸板を叩いて抵抗したりしてみるが、強い力で抱き締められているため思うように体を動かす事が出来ない。
「いいから私を離せ!」
「嫌だね。たまにはこうして一緒に寝て過ごす日があったっていいだろ?」
抜け出そうとジタバタする度に更に抱き締める力が強くなりビクともしない。観念したのかアーチャーはついに大人しくなりランサーにされるがままになった。
「…でも私は贄だ。こんなの、許されない。」
「アーチャーは真面目だな。別にちょっと寝るぐらい良いじゃねぇか。」
「…きっと今弟は生きるために大変な思いをしている。それなのに私は、」
引っ付いていないと聞こえないような本当に小さな声でアーチャーは呟く。
最近、アーチャーは自身の本音をランサーに漏らすことが度々あった。
アーチャーはランサーに捧げられた贄だ。贄にとして捧げられたアーチャーにとってランサーとの生活は毎日が楽しいものであった。普通の人間ならば喜ぶのだろうが、どうやらアーチャーは贄の自分がこんな生活を送ってはいけない、弟や村人達に申し訳ないと思っているらしい。
本人は真剣に思い悩んでるのだろうが、ランサーはこうしてアーチャーが本音を言ってくれること内心自分に心を開いてくれたのだと密かに嬉しく思っていた。
「今まで頑張って来たんだ、これぐらいの楽したところで誰も咎めるやつなんていねぇよ。」
「だが、」
「神の俺が保証してやる。だから今はもうゆっくり寝な。」
アーチャーは今日も早朝から起きていた為余程眠かったのだろう。ランサーが「おやすみ、アーチャー」と囁くと直ぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。
眉間のシワが無くなり普段より幼いアーチャーの寝顔を眺めながら口元に弧を描いて笑う。
(──ああ、ようやく手に入った。)
まるで壊れやすい物を扱うかのようにアーチャーの頭を優しく撫でた。
ランサーはアーチャーに嘘をついている。
村に病を流行らせたのはランサーだ。正確に言うと実行したのはランサーの兄弟のような存在であるキャスターが村に病が流行るよう術を掛けた。
キャスターに頼る程ランサーはアーチャーが欲しくて欲しくて堪らなかった
随分昔に興味もなかったが何かの気まぐれで同じく兄弟のような存在であるオルタとキャスターと三人でふらっと人里に降りたことがある。
その時、アーチャー達兄弟と出会った。
他の人間とは違う健康的で滑らかな褐色の肌、シルクのような美しい髪、そして鋼の瞳を持つアーチャーにランサーはあいつが欲しい、と心を強く惹かれた。
どうやら心を惹かれたのはキャスターとオルタも同じだったようで、それぞれアーチャーの弟と兄に目を奪われていた。
そのまま彼等を自らの元へ連れて来ても良かったが、当時の彼等は幼すぎた。人間は脆く、あまりに幼い時に神域に連れてくると神力に耐えきれず体と精神が壊れてしまうことがある。その為それぞれ丁度良い年齢になるまで待つことに決めた。
直ぐに手に入れられないことを惜しく思いながら自らの神域に帰った後も頭の中を占めるのはアーチャーのことばかり。たった数年のことなのに待ちきれず、人里に降りて様子を見に行ったことも何度もある。ランサーにとってこんな事は初めての体験だった。
そしてランサーはもう一つアーチャーに嘘をついている。それは贄のことだ。
八年前女が贄として捧げられたのも、その女が村に勝手に定めた掟に反しているのもランサーは知っていた。人間から一方的に捧げられる贄なんぞに欠片も興味を持っていなかったがこの時ばかりは好機だと思った。
無理矢理自分の神域に連れて来るつもりだったが、きっとアーチャーは嫌がる。なら自分から来てもらうように仕向ければ良いとランサーは考えた。
災害でも病でもなんでも良い、村にとって厄災となるような事を引き起こせばきっと村の人間達は贄が気に入らず自分が怒ったと勘違いし、新たに贄を捧げようとするだろう。その時点でオルタは兄のエミヤを自分の神域に連れ帰っていた。それに弟のシャドウは病弱である。なら贄に選ばれるのはアーチャーに違いない。八年という間が空いてしまった為村の人間が勘違いしてくれるか少し不安ではあったが思い通り人間は新たに贄を捧げることに決め、アーチャーを贄に選んだ。全く興味の無かった村の習わしにこの時ばかりは感謝した。
そうして全て思い通りに事は進み、アーチャーはランサーの元にやって来た。
アーチャーを手に入れる事が出来たため、村のことなんてどうでもよかったが村の病を治して欲しいという愛しいアーチャーの頼みを無下には出来ない。一応キャスターには病を治すよう交渉してみたが、最近はアーチャーの弟のシャドウを迎えに行くことばかり考えていてあの様子だと村人を治すことはしないだろう。
しかしそれももう人間の世界には戻る事の出来ないアーチャーには関係の無い話だ。
アーチャーは自ら神であるランサーに自身の名を告げ、神域で育てた作物を食べ、こうしてランサーが神力を注いでいる事により既に人間とは違う存在になっている。
この事を全て知れば正義感の強いアーチャーは怒るだろうか、嘆くだろうか、憎むだろうか。それとも諦めて全てを受け入れるのだろうか。
どのアーチャーも見てみたいものだと思いながらランサーも目を閉じる。
アーチャーに神力を注ぎ始めて三月が経った。そろそろアーチャーの体がランサーの神力慣れてきているはず、そろそろ体を重ねても良い頃合だ。
この時をランサーはずっと楽しみに待っていた。
アーチャーはどんな声で啼くのだろう、初夜は優しくしてやらないとなぁなどと考えながらアーチャーを抱きしめて眠りについた。

Comments

  • わんわんお
    January 24, 2025
  • ツキ影
    October 15, 2018
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