(オトナの保健室)買春処罰、女性守れるか
■ThinkGender ジェンダーを考える
売春防止法の改正論議が始まりました。焦点の一つが「買う側」の処罰化。性産業に従事する女性の人権を守りたい――そんな危機感が根底にあります。一方で、同じ思いながら処罰化に警鐘を鳴らす人たちもいます。(平岡春人)
売春防止法は、金銭などと引き換えに、不特定の相手と性交(陰茎を膣〈ちつ〉)に挿入する行為)することを「売春」と定義、売春のあっせんや管理などの周辺行為を罰する。相手が未成年の場合は、児童買春・児童ポルノ禁止法や児童福祉法が適用されるため、基本的に成人同士での売買春が対象だ。売る側に罰則があるが、買う側には罰則がない。
◆「ゆがんだ構造」批判
この立て付けは、不均衡だと批判されてきた。売る側に立たされるのは、ほとんどが女性だ。借金や生活苦から、本人が望まないまま性産業の現場で働かざるをえないケースが絶えない。
そんな状況が続くなかで、2023年にはホストクラブで女性客が高額のツケを背負い、スカウトを通じて売春に追い込まれる事例が社会問題となった。
昨年はタイ国籍の当時12歳の少女が「マッサージ店」で性的サービスをさせられる事件が発覚。客たちを非難する声が強まった。
売る側のみを検挙する法律は「ゆがんだ構造」で、法改正を通じて買春が問題ある行為だという意識を社会で醸成すべきだとの機運にもつながった。
◆法務省は慎重な姿勢
法務省に設けられた有識者らでの検討会では、売る側の勧誘などに対する罰則と同様、買う側が公衆の面前で声をかけて誘う行為を罰するかどうかなどが議論される見通しだ。
また、売春防止法が規定するのは性交であり、合法と認められている風俗店でおこなわれている性的サービスは、そもそも対象にならない。法務省は買春自体の処罰に慎重とされ、平口洋法相は「国民の自由を不当に制限しないか十分な検討が必要」と国会で答弁している。
■望まない「売る側」の状況、根本的な改善を
20年以上、性産業に従事する国内外の移民を研究してきた神戸大の青山薫教授は、別の観点からも処罰化に懸念を示す。
理由の一つに挙げるのが、日本に先んじて買う側を処罰対象とした海外各地の「その後」を示す報告書だ。
◆暴力被害増える懸念
フランスでは「路上での売買春が減少した」といった司法省の報告がある一方で、パリ政治学院大学院の政治学者らが538人のセックスワーカーに調査し、「42・3%の回答者が、法改正後に暴力を受けることが増えたと答えた(「減った」は9・3%)」などとする結果を2018年に発表している。
北アイルランドでも、被害や取引がかえって増加したとして、「買春禁止が有害な影響を及ぼしている」と論じる法務省の委託調査報告書が出されたという。
青山教授は、法律の壁を越えても買春しようとする危険な客だけが残り、「働き手が暴力や不払いなどの被害に遭うリスクが相対的に高まる」と見る。昨今、路上での売買春は減り、ほとんどがインターネット取引に移行していることもあり「規制しても、ますます人目につかなくなるだけでしょう」。
ニュージーランドなどは、売買春を刑罰の対象外としている。青山教授も、他の性的サービスとともにセックスワーク全体を公に認められる仕事とし、「そのうえでセックスワーカーに労働者としての権利を認める手立てを講じるほうが、働き続ける必要がある人の安全を守るには有効」と話す。
◆安全・健康確保が重要
げいまきまきさんも、処罰化による性産業のさらなるアンダーグラウンド化を懸念する。セックスワーカー向けに情報発信したり性感染症の実態を調査したりする、当事者や支援者によるNGO「SWASH」の代表だ。
コロナ禍の折、「感染の温床」とされて性風俗店から客足が遠のいた。その結果、客から「こんなときに来てあげたんだから」とコンドームなしのセックスを要求される、といった相談が相次いだという。
「セックスワーカーの多くは完全歩合制。収入が激減して他の仕事では生活費が心もとない人ほど、万が一の場合はアフターピルに頼るなど、リスクと負担が増える環境に耐えざるをえなかった」。買春の処罰化で、当事者が再び同じような状況に置かれるのではないかと危惧する。
げいまきまきさんは、被害を減らすために処罰化を求める人たちと「目指しているところは似た場所だ」と強調する。「セックスワークを推奨しているわけではない。望まない人がせざるをえない状況に対する根本的な改善をしたいという思いも一緒です」。同時に労働の選択肢として性産業を選んだ人たちの安全や健康の確保も重要で、環境改善の議論が重視されるべきだと指摘する。
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