梅雨の中休みだろうか、いや、時期的にもう梅雨も終わるのかもしれない。とにかく、久しぶりに快晴と太鼓判を押せるほどの青空が広がっていた。天気がいいと気分がよくなる。何より今まで某うっかり英雄王が引き当ててくれた洗濯乾燥機のおかげで洗濯物が溜まりきって大変なことになるということは避けられたが、やはり洗濯物という物は外に干してこその物という持論がある。何より洗濯乾燥機で乾かした物と日光に当てて乾かした物では仕上がり具合が違うのだ。今日は雨の間に出来なかったことを徹底的に片付ける日に決めた。主夫とでもハウスキーパーとでも何とでも呼ぶがいい、やらないでいて苦情を戴くのは何故か私ともう1名、この家の家主なのだから。
洗濯乾燥機ではなくその前から使っていた全自動式一層型の洗濯機に洗濯物を放り込んでスタートボタンを押す。やることは山ほどある。洗濯機が止まるまで約45分、その45分を有効活用するにはどのように行動すべきか。ちら、と風呂場を見て45分というリミットをつけて風呂場を磨き上げるかとも思ったが(実は私は風呂場を磨き始めると平気で2・3時間没頭してしまう悪癖がある。別にカビが酷いとかそういったことはないのだが何故だか時間を忘れてしまうのだ)その前に思いついてバケツに半分ほどの水を入れて雑巾を1枚と、それからほうきとちりとりを持ってある場所へ向かった。
「セイバー」
果たしてそこにはいつもの様に凛と背筋を伸ばして正座をしたまま瞑想をしているセイバーがいた。彼女は自分の部屋にいるよりもこの道場にいる時間の方が圧倒的に長い。
「おや、アーチャー。掃除ですか?」
ご苦労様です、とセイバーが微笑む。一瞬こちらも微笑み返しそうになってあわてて止めた。違う、ここで流されては本来の目的が達成出来ない。
「いや、セイバー。私は掃除に来たのではない」
「おや?ではその手にあるものは?」
私の両手にあるのは干将と莫耶の夫婦剣ではなく、バケツに雑巾とほうきにちりとりというどう見ても清掃道具だった。まあ、どう見ても掃除をしに来たように見えはするだろう。
「セイバー、聞きたいことがあるのだが」
「なんでしょう?」
「この道場を1番よく使っているのは、誰かね?」
その言葉にセイバーは一瞬目を見開いて、それから目線をそらした。
「・・・・わ、私ですが」
「そこを1番よく利用するものが掃除をする、道理とは思わんかね?」
衛宮士郎辺りがここにいたら仲裁に入るだろうが、生憎とあれは学生の本分である学業のために学校へと行っている。この家には今現在私とセイバーしかいない、ゆえにセイバーに援軍は期待出来ないだろう。
「た、大河や士郎だってここを使用しますが」
「藤村大河は稀に、だろう。それに衛宮士郎は主に君にしごかれている」
違うかね?言うとセイバーはうっ、と言葉を詰まらせたまま動かなくなった。多少手厳しいかとは思うが私の言っていることに間違いはないし、何よりセイバーがここだけでも掃除をしてくれるのならば私はその間に他の場所の掃除が出来る。
「・・・・・・・・・・わかりました」
時間にして30秒ほど固まっていたセイバーがゆらりと立ち上がった。というか、いつもの白いブラウスに青いスカートの姿ではなく、いわゆる完全武装状態だ。何でさ。
「100歩譲ってここは私が掃除をするとしましょう。だが、その前にアーチャー!」
びしっ!っと音がしそうなほどの勢いでガントレットをつけたセイバーの右人差し指が私に向かって突きつけられた。
「あなたの腕前がどれほどのものになったのか、私がここで見て差し上げましょう!」
つまり、ただで掃除をする気はない、と。
「・・・・・・・・・・セイバー、私はもはや衛宮士郎とは異質の存在なのだが」
「何を言いますか。あなたの剣技の基礎になったものは私と同位の者から教授されたもののはず、私がその成長を確かめて何か問題でも?」
問題は、ない。一応。だが、何故掃除の話からその話へと内容が変わるのか。
「分かった、手合わせは受けよう。だがそれが終わったら掃除をしてもらうぞ?言いたくはないがセイバー、君はこの衛宮家の中で唯一稼ぎもなければ家事もしていないのだからな!」
「さ、さすがに成長していますね」
上がった息を整えるように大きく呼吸を繰り返しながらセイバーが言った。結局お互い完全武装で手合わせするとなると道場の床が傷つくどころか、道場そのものが危険に晒されるので実体化した時の平服で、獲物は竹刀では耐えられそうもなかったので私が投影したそれなりに使えそうな剣を使ったのだが、思いのほか長引いた。もちろん私が勝つなどとは思ってもいなかったが、セイバーがここまで長引かせるとは思ってもいなかったのだ。大の字になって道場の天井を見上げる、背中に当たる床板の冷たさが心地いい。真実をいうならば途中から私も興が乗って止めてしまうことを止めてしまった。
「やはり君には勝てない、な」
剣技の基礎は彼女から、だがその先は枝は分かれ私は二刀を使うようになった。散々しごかれて勝てはしないにしろ若干のパターンというか、彼女の戦い方の癖は見えていたはずなのにまだまだ届かなかったようだ。
結局午前中は丸々潰れてしまった。洗濯機の中の洗濯物はどうなってしまっただろうか。そんなことを考えていたらセイバーの腹がくぅと鳴った。どうやら昼らしい。
「・・・・・今日の昼食はそばでいいかね?」
「とろろそばにしてください、あれはとても美味しい」