「あーあーちゃっ」
振り返ると、凛が満面の笑みで立っていた。この笑みはあまりよろしくない笑みだ、本能レベルで染み付いている何かが警鐘を鳴らす。
「なによその顔」
「いや」
出したつもりはなかったのだがどうやら顔に出ていたらしい、この頃色んなことが顔に出やすくなっている気がする。原因も、多分分かっている。
「何作ってるの?」
凛がひょいと脇から覗きこんできた。柑橘類は香りが強いのでこの匂いにつられたのだろう。
「グレープフルーツの寒天だ。好きだろう?グレープフルーツも、寒天も」
この衛宮家に入り浸っているうら若き姉妹は夏に向けて最後の追い込みに入っているらしい。最近は2人してそれぞれ洗面所にあるヘルスメーターに戦いを挑んでいるようで、その戦果はへこみとして本体に刻まれている。成果が思わしくないからと言って物に八つ当たりするのはいかがなものか。
「ビタミンを取らないと健康に問題が出る、もちろん美容にもよろしくない」
「分かってるわよ!ほんっとーに、あんたって可愛げがないわ」
「それはすまないな、この性格は直りそうもない」
可愛げがあったら多分英霊なんぞにはなっていない。可愛げがないこからこそ私と言っても過言ではないだろう。
「昔はあんなに可愛かったのにねえ」
「・・・可愛いか・・・・・・・・?」
生きているうちも死んでからも、自分に可愛げがあったとは1ミリも思えない。そもそも今の衛宮士郎にだってあるだろうか、可愛げが。
「少なくともあんたよりはからかいがいがあるわ」
「そっち方向か・・・」
からかいがいという点に置いては凛にとって衛宮士郎は格好の標的だろう。今実際目にしている光景はそれを裏付けるには十分だし、それを見ているだけで磨耗してこぼれて落ちて行ったはずの何かがさざめく。嫌な方向も含めて。
「人間って変わるものね」
「変わるだろう、生きているのだから」
「あなたもよ、アーチャー」
最初に比べて、丸くなったわ。年齢から考えれば十分に大人びた顔で凛が笑った。多分、この顔は見たことがある。この凛ではない、別の遠坂凛から。磨耗するものなど選択できるものではないが、それは失くしたくないものの中にあり、忘れてしまいたいものであった。剣であるはずのこの身を揺らすものだから。戦いの中で揺らぐことは折れることに等しい、でも、今は。
「嘆くべきかね」
「喜びなさい、少なくとも今は」
「了解した」