監獄さえも俺には生温い
連続投稿になりますが読んでいただければ幸いです。
尚、主人公と共にあるサーヴァントは今は彼だけになりますが、要望があったり気が変わったりしたら二人だけ増えます。
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「状況確認は済んだか?『マスター』」
そう彼は言った。
だが状況確認などどれだけ時間があっても終わりそうになかった。
『死んだ』のは確実だった。
令呪を消した時の苦痛の記憶。
トラックに跳ねられた感触。
身体が飛び散る衝撃。
その全てを鮮明に覚えているし、疑いようのない『綺麗な右手の甲』もある。
だが目の前で起こった事も事実としてそこにあった。
千切られたロープ、蹴り飛ばされた椅子、黒魔術に用いる小道具、生活感のある家具や日用品。
どちらも『実際に起こった出来事』なのだ。
「あんたは……『巌窟王』と言ったな?」
「白々しい言い方はやめるんだな!お前の身に起きた出来事。その全てを俺は把握している!」
全て、とはどういう事なのだろうか?
この部屋で起きた事?それともカルデアでの出来事?どちらにせよ俺以上に真実を知っているのは確かだろう。
「俺が誰だか知っているのか?」
「はっ!愚問だぞ!世界を救った人物は過去現在未来、全てにおいてお前以外にはいない!そして『全てを受け入れ、最悪の選択をした』愚か者もお前以外にはいない!」
最悪の選択。
その言葉を聞いてやっと気づいた。
彼は『カルデアの頃の俺の事も知っている』。
「それはそうとマスター。洗面所で己の顔を見てくるといい。『少しは真実に近付くだろうよ』。」
「真実……?」
言うより早く洗面台のあるであろう場所へ駆けていく。
なぜかは分からない。だが彼の言う言葉が真実なのだろうという雑感があった。
「……これは」
そこで見たモノ。
18年間の間見てきた愛着のあるある顔は無く、あるのは痩せた別人の顔だった。
(誰だ……!?この顔に見覚えはない!)
「俺は……、誰になったんだ?」
真実に近付く。彼はそう言った。
確かにそうだ
『死んだ筈のこの身は砕け散り、生前の記憶を持って他の人間になった』
これは確かに真実に近づいたという方なのだろう。
「……疑問は増えたけどな」
俗に言う『転生』というやつだろう。
それも特殊な『1からのスタートではなく誰かの人生の途中から』という状態だ。
「お前の体の元持ち主はすでに絶命したようだな。…しかし、マスターよ。それ以上に興味深い事実はあるぞ」
「……これ以上は頭の痛くなる話は御免だ。」
「死ぬより辛い話しだ。だがマスター、貴様はそれを知らなければならない。それがお前の生きる意味となるのだからな!」
彼はそういうと元いた部屋へ高速で戻っていく。
おそらく、この身体が死んでいた部屋に次の真実があるのだろう。
小さな恐怖心が俺の心臓を鷲掴んでいるのが分かる。
あの部屋にあるのは『真実』。だがそれは『知りたくない真実』であり『知らなければならない真実』なのだろう。
行きたくない。だが足は元いた部屋へ向かって歩み出す。
「机の上に手紙がある。遺書のようだがお前の進む為の道標となるものだ。」
そう言われて俺は恐る恐る手紙を書い手に取り、書き殴った文字の羅列に目を通す。
『私は取り返しのつかない事をしてしまった』
『カルデア指揮権の争奪戦』
『デザインベビーの封印指定』
『カルデア職員の親族への脅迫』
『サーヴァントの私物化』
『英雄の殺害命令』
『その全ての責任は私にあるだろう』
読み進めていくうちに分かっていく『真実』。
これは『魔術師』の書いた遺書なのだろうか?
『47のマスター候補。チームAの次席に友人が座り私は嫉妬に駆られた。』
彼はマスター候補になれなかった。
『知らぬ間に一年が経過し、世界は混乱し魔術協会が慌ただしくなり、英雄にマスター候補は嫉妬した』
俺は嫉妬され、蔑まれ、時には痛めつけられる事もあった。
『魔術師の家系は嫉妬深く、時には悪事に手を染めることすら厭わなかった』
マスター候補達の家はカルデアとその仲間達を呪い苦しめようとした。
『友人は主席の彼女に対し、憧れ、尊敬の目を向けていた』
この友人は俺の後輩に対して恋心を抱いていた。
『私はサーヴァントを召喚する機会を得られなかったことに絶望し禁断と呼ばれる手を使った』
マスター候補になれなかった彼は独自の方法で召喚の真似事をした。
『私は友を信じていた』
彼は友人に裏切られた。
『彼は己の肉体を軽蔑し、第三魔法を頼り、人間とは思えぬ非道の道を選んだ』
友人は俺を殺し、カルデアの情報を元にホムンクルスとなって俺に『成り代わった』。
『彼は令呪の解析に時間と労力を費やし、カルデアの常識を破り、魔術師の法則を無視した』
友人はカルデアの令呪を強化し、1日で一角分増える『本来の令呪』へと本質を変貌させた。
『彼にとって不利益になる筈の禁術は彼を助け、英雄の意思を全て塗り潰した』
禁術は記憶を書き換え、他人さえも操れる力を友人に与えた。
『私は友人を止められなかった』
友人は彼を追い詰め、禁術の反動を彼に押し付け、全てを牛耳ることに成功した。
『私は絶望してしまった』
既に友人は彼を見限り、己の才能と彼の犠牲をもって『数多のサーヴァントを従える英雄』となった。
『私は』
彼は最期に1つの手段をとった。
『彼に全てを託した』
彼は『巌窟王』に願いを託し、復讐を果たそうとした。
『願わくば、英雄よ』
彼は俺に最後の望みを願った。
『私の後悔を』
彼と友人の罪を。
『嘲笑ってくれ』
裁いてくれと。
「残酷な事だ。だが」
彼は言った。
「この人間を見捨てるか?」
そう彼が言った瞬間、俺の心に『恩讐』が生まれた。