大河ドラマ『黄金の日日』
安土桃山時代、堺の豪商・今井宋久の船で下働きをする助左(のちの呂宋助左衛門)。琉球へ向かう途中に難破してルソン島に漂着。海外との交易に目覚め、帰国後、貿易商として豪商への道を突き進む。商人の町・堺とルソンを舞台に、信長、秀吉など権力者との攻防を通して、貿易に命をかけた自由人・助左衛門の剛胆な生涯が描かれる。
雷雨が祝福!? 大河初の海外ロケ
戦国時代、貿易商として巨万の富を築いた呂宋助左衛門。彼が海外との貿易に目覚めた地が漂着したルソン島だ。その最初の出会い、さらに10年後、商人となって再訪する場面など、ドラマで重要な位置を占めるのがルソン島でのエピソードだ。
そこで敢行されたのが大河ドラマ史上初のフィリピン・ロケだった。フィリピンは5月から9月までが雨期ということで、乾期となる10月初旬にフィリピンのマニラ入り。その翌朝、ロケ地へ出発しようとした一行を襲ったのが突然の激しい雷雨。しかし、それは日本風にいえば“梅雨明けの雷”だった。まさにロケ隊を待ちかねたかのような雨期あけ、大河初の海外ロケはさい先の良いスタートを切った。
オープニング映像は、このフィリピン・ロケで撮影した美しい夕焼けの映像だった。
当時のロケ・スタッフだった岡本由紀子デスクはその模様を「太陽の沈んだ辺りの濃いオレンジ色と周囲に広がる薄いオレンジ。影になった雲のグレーの濃淡。思わぬ遠い雲に反射する陽光。海は次第次第に濃さを増して、それら全体を包む大空が闇を誘う……」と表現している。
純朴な村人に助左の時代を彷彿
ルソン島北部のサン・エステバン海岸で行われたロケだが、中心となったのが人口1,000人に満たない小さな村。ところが、撮影が始まると同時にどこから沸いてきたのかと思うほどの大群衆が押し寄せてきたという。ロケ隊一行は、その光景にとまどいを覚えながらもまた、親愛の情を体全体で表現してくれる村人たちの純朴さに感動を覚えたそうだ。それはそのまま16世紀に助左衛門たちが訪れた時の、とまどいや感動に通じるものだったことを実感できるものになったとか。助左衛門役の市川染五郎さんも「何より印象深かったのが、決して豊かとはいえない日々の生活を、実に陽気に暮らしている村の人々の屈託ない表情だった」として、「おそらく助左衛門もそんな人たちとの交流を通して裸の自分をさらけ出すことがすべてだと感じたのではないか」。役柄をつかむうえでこの2週間のフィリピン・ロケがとても勉強になったと話している。
ちなみに連日35度を超える猛暑と戦ったロケは撮影日数14日、出演者、スタッフともに平均睡眠時間5時間、水やジュースなどの消費量約3,000本だったそうだ
商人が主人公!原作、脚本も独自方式
『黄金の日日』は、第16作目にして初めて商人が主人公となった大河ドラマだ。助左衛門という商人を通じて、経済の視点、庶民の側から時代を描くという新しい試みに挑んだ。
助左衛門は実在の人物だが、生没年も未詳、史実に残る記述もわずかだ。だからこそ史実の谷間を縦横無尽に駆け回り、助左衛門が関わる武将や商人、女性たちなどの人間ドラマを描き、彼が象徴する経済という視点から新しい歴史ドラマを作り上げることを目的としたのだ。
それだけでなく制作方法もユニークだった。小説家の城山三郎さんが原作者だが、最初に原作となる小説があったのではなく、NHKスタッフ、城山さん、脚本の市川森一さんの三者が合議で大まかな物語の流れを作りあげ、それを基本路線として城山さんは小説、市川さんが脚本を書き進めていった。
ちなみに大河ドラマ『真田丸』の脚本家・三谷幸喜さんは大河ファンとしてもよく知られているが、その三谷さんが特にお気に入りを何作か挙げるときに必ず登場するのが『黄金の日日』だ。「当時、高校2年生でしたが、その1年はまさに呂宋助左衛門とともに過ごした1年でした」と語るほど、ハマった作品だったとか。天下をとった英雄の側からではなく、真田信繁(幸村)の視点で戦国時代を描く『真田丸』。その根底に『黄金の日日』とどこか共通するものがありそうだ。
人気の太閤記コンビが復活
キャストで興味をひかれるのが、織田信長役の高橋幸治さんと秀吉役の緒形拳さん。あの大河『太閤記』コンビの復活と話題になったが、残念ながら2人が絡むシーンはなかった。また、あの快活で人なつこい秀吉とはがらりと趣が変わり、堺の商人を糾弾する“悪”の秀吉を緒形さんが熱演した。
助左衛門を演じたのは市川染五郎(九代目松本幸四郎)さん。大河ドラマ第1作『花の生涯』の主役は尾上松緑さん、第4作『義経』を尾上菊之助さんと、大河と歌舞伎俳優とは縁が深い。しかし、染五郎さんにとって1年間舞台を休むのは、「3歳で初舞台を踏んで以来、初めて」のこと。しばし悩んだそうだが、そんな時、地方在住の中学生から「舞台を観に行くことはできないのでテレビに出てください」というファンレターが届いた。それがきっかけで心が決まったと当時のインタビューで答えている。
ドラマでは父子共演も実現した。ルソンから帰国の途についた助左衛門の船が嵐に遭い難波、漂流していた彼を助けたのが海賊船の船長・高砂甚兵衛。実は助左衛門の生き別れた父親だが、その甚兵衛を演じたのが染五郎の父で八代目松本幸四郎だったのだ。
ステラNHK名作座 コラム
歴史の裏も見せた画期的大河
「黄金の日日」は、経済小説で知られる作家城山三郎と「傷だらけの天使」など社会の片隅に生きる人々を描く脚本家市川森一が組み、堺の商人を主人公に初めて経済という視点で描いた画期的大河ドラマだった。
出演者も斬新だった。歌舞伎界のプリンス市川染五郎、熱烈ファン“コマキスト”がいた栗原小巻、千利休を演じた鶴田浩二など、ビッグネームとともに、石川五右衛門の根津甚八はじめ、李礼仙、唐十郎などあまりテレビで見たことのなかったアングラ劇団系俳優たちが日陰に生きる人間を泥臭く演じた。特に五右衛門の釜ゆでシーンは強烈だった。五右衛門は、拷問されても仲間を守るため、堺など足を踏み入れたこともないと断言。縛られたまま自ら煮えたぎる巨釜へ向かうと、その耳に堺で助左衛門が打ち鳴らす鐘の音が聞こえたような…キッとカメラをにらみ、長いセリフを一気に語りつくす根津甚八の熱演は何度見てもすごい。
利休切腹、秀吉の最期、歴史の渦の中、助左衛門はそれでも希望を捨てず、大海原へと漕ぎ出す。誰も見たことのなかった歴史の裏と人間ドラマが、心にずしんと残る名作だ。
文/ペリー荻野
|
大河ドラマ 『黄金の日日』 【1978年放送】 武将にさえも頭を下げさせる商人の町・堺を舞台に繰り広げられる助左衛門と信長、秀吉など権力者との攻防を描く。 |
みんなのコメント