マスターがマスターたる由縁
人理修復後の話になりますので1部クリアしてから読むことをオススメします。人類最後のマスターであるぐだ男が時計塔で学びを深めることになり、その間に来た新人マスターたちとサーヴァントたちのあれこれ。途中から優秀な魔術師がマスターに成り代わっても色々と上手くいかないような気がする、という思いから書きました。
初作品となります。投稿の仕方もあやふやな自己満足作品ですがよろしくお願いします。私事ですが今日FGO福袋引きます。
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改めて考えてみればマスターは我々サーヴァントを多くのルールで縛らなかった。カルデア内で宝具を放つ喧嘩が勃発した際でも
「私闘はいいけどレイシフト先でやってね、修復する人手もないしさ」
宝具の使用を禁止すればいいだけなのにマスターはそれをしなかった。解決案や代替案といったものを提案してその場をおさめてしまうことが多かった。そして提案するだけでなく実際にレイシフト先へ連れていき魔力が尽きるまで好き勝手させてやるのだ。その場に合わない呑気な声で「満足した?」と聞いてきて思わず殺気だっていたサーヴァントさえ冷静になってしまう。
マスターは令呪を無闇に使ったりしなかった。
「納得してもらった上で指示に従って貰わないとまた同じ事を繰り返すでしょ?といっても他の人に多大な迷惑をかけさえしなければ好き勝手やってもらっていいんだけどね」
と放任していた。それがむしろサーヴァントからの信用を集める要因になったのだろう。バラバラだったカルデアはしだいにマスターの一言で皆が一つに纏まるようになった。
「ねぇご飯食べようよ。このままだと備蓄の食料が腐って勿体ないし、日本料理は食べたことある?」
マスターはサーヴァントを人間と同じように扱った。レイシフト先で怪我をすれば
「ごめんね痛いよね」
と眉を下げて謝りながらボロボロの指に魔力を込めて治療してくれた。
最低限の休眠と戦闘ばかりが求められる環境でもマスターは娯楽と笑顔を絶やすことはしなかった。マスターはサーヴァントたちとのコミュニケーションを疎かにしたことはなかった。
「あれー?珍しい組み合わせだね二人とも。あっ特異点で知り合った仲だもんね」
「明日は機械の点検するから種火集め休みだって!雪合戦でもしようかな!…俺はまだ未成年だから酒は飲めないっての!もう少し待って!」
「たまにはゆっくり話をするのもいいかもね、俺の家は田舎にあるんだけど建物がないぶん花火が綺麗に見えてさ」
マスターは常に前を向いていた。
「いつか皆にも見て欲しいな」
そんなマスターだからこそ個性の強いサーヴァントたちが力を合わせて人理修復のために動くことができたのだ。
「1月を迎えることができたら…そうだなぁ、久しぶりに甘酒でも飲んで年越しそばを食べながら皆で思い出でも語ろうか」
マスターはいつも未来の話をした。消えてしまった未来を。
「レイシフトして行ったけどフランスとかローマとか実際行ってみたいなぁ。流石に問答無用で剣を向けられたりはしないだろうし、ゆっくりご飯食べることもできなかったしね」
「もうそんな歳じゃないけど遊園地とか水族館とか行きたいなー。あと映画みてゲームしてあぁ本も読みたい。魔術関係以外のやつ」
マスターはいつもサーヴァントたちのことを考え人理修復のために戦っていた。
「アステリオスとエウリュアレが互いを気にしすぎて戦闘に集中できてないからレイシフトは別々にしてほしい?」
サーヴァントを思っているからこそこの二人を共にレイシフトさせることを知っている。知っているからこそマスターに編成を見直すように話すこともできた。
「確かに言いたいことは分かるよ。でもね、俺は互いを思うからこそ出せる底力っていうものを信じてるんだ」
そのときのマスターの言葉に一応納得したことにはしたが釈然としない。しかしとあるレイシフト先で奇襲を受け傷ついたエウリュアレを見たアステリオスがいつも以上の力をもってして敵を殲滅したことがあった。エウリュアレに治療を施しながら大型犬を撫でるようにアステリオスを褒め称えるマスターを見たときに敵わないなと思ったものだ。
マスターはサーヴァントの闇へ踏み込んできたりしなかった。
「一人でいたい気分?そっか分かった、気が向いたら部屋でも談話室でもおいでよ。待ってるからさ」
踏み込んでこないものの光へ連れだすのが上手かった。
マスターは感情に任せて理不尽に怒らない人だった。特異点で敵対していた相手が召喚に応じた場合でも、どんなに傷つけられた相手であっても瞬き一つの間に手をさしのべ
「よろしくな」
と言ってしまう。瞬き一つ分のほんの少しの葛藤が人間らしくて好きだった。心底優しい人だったのだ。
だからカルデアを離れ時計塔で魔術を学ぶようにという決定を一方的に下された時も人類の未来を思って一瞬だけ迷ってから頷いてしまった。直接連絡はできないが悪いようにはされていないらしく、むしろサーヴァントさえも懐柔してしまう人のよさで味方を着々と増やしているようだ。カルデアはといえば一部のサーヴァントはマスターが変わると聞いてきて瞬く間に座に還ったものもいるが大多数が残った。新しいマスターとやらを紹介されそれぞれがそれぞれの繋がりを作っている。
それからカルデアは少し賑やかになった。人口が増えたのは勿論だったがマスターが潤滑剤となって回っていた日常が上手くいかなくなったのだ。廊下での喧嘩は日常茶飯事。それを止めようとする新しいマスターと善属性のサーヴァント。個性の強いサーヴァントたちが今までこのカルデアという空間において好き勝手してこられたことが不思議でしかない。やはりマスターである彼の存在が大きかったのだろう。
食堂にはサーヴァントの姿が減ってしまった。あるマスターが食堂まで着いてきたサーヴァントに対して
「お前も飯食うの?」
と言ったのだ。しかもそれが一人二人ではなくほとんどのマスターが同じ事を思った。サーヴァントは食事を摂取しなくても魔力の供給さえあれば存在していられる。素人なマスターとは違って優秀な魔術師がマスターなのだ、魔力供給に問題はない。しかし日常が崩される瞬間というのは何度も経験などしたくない痛みが伴った。
「マスターが帰ってくるって」
一年の月日が流れた。ダヴィンチから告げられた情報は様々なところで影響を及ぼした。マスターというのは勿論ともに人理を修復し現在時計塔に通う彼のことである。
「今日は食堂にサーヴァントが多いな」
「そういやあいつら今日は喧嘩してないな」
「…なんでオセロ引っ張り出してきてんの?」
新人マスターといっても彼と同じくマスター歴一年になった彼らはサーヴァントたちの変化に困惑した。
そしてついにその日はやってきた。
「ただいま皆。お土産買ってきたよー」
生傷はすっかり癒え少しばかり身長の伸びた我らがマスターはお土産の入った紙袋を両手いっぱいに抱えて帰ってきた。相変わらず呑気な顔をしていたがほんの少し知的になったような気もする。
それからはお祭り騒ぎで新しいマスターのいうことも聞かず皆が彼の元へと集まった。
「あっここの壁新しくなってる!誰だ壊したの!」
すぐさま喧嘩をした末に宝具を放ったサーヴァントの名が別のサーヴァントから告げられる。
「こら!いくら壁を直す人手があるからといってこの雪山じゃ暖房代もバカにならないんだからな!」
マスターたちはあんな風に笑うサーヴァント達を知らなかった。顔を合わせれば喧嘩をしている二人が同じように申し訳なさそうな顔をすることを知らなかった。接点がないと思っていたサーヴァント同士が何気なく目を合わせて話す姿など見たことがなかった。
「オセロ?久しぶりに?えっ一年やらなかったのか!」
「レイシフトー?ちょっと俺帰ってきたばっかりなんだけど」
「とりあえずメシだメシ!腹が減っては戦はできぬ!だ!」
「座に還ったサーヴァントも呼び出そうか、暇してるだろうし。仲間はずれにはできないもんな」
オセロをしようと誘うサーヴァントの姿なんて見たことがない。綿密なスケジュールを立てレイシフト先の安全を確認した上で行うレイシフトをこんな気軽に誘うサーヴァントも見たことがないし食事さえ済めばそれに簡単に応じそうなマスターの姿も見たことがない。何度マスターたちが試しても現れなかった座に還ったというサーヴァントを当たり前のように召喚しようという発言も信じられない。食堂へぞろぞろと消えていくサーヴァントを見送りながらマスターたちは立ち尽くしていた。そのとき彼が海のように穏やかで空のように透き通った青い瞳を向けた。
「皆さんは食事済んだんですか?」
サーヴァントたちは彼が立ち止まるのに合わせて動きを止める。そして彼が振り返っているからサーヴァントたちも振り返る。まるで一人の指揮官とその軍隊のように統率がとれていた。戦場でなければレイシフト先でもない、ただのカルデアの廊下でカリスマ性を見せつけられたような気がした。
黙ったままのマスターたちを気にしていた彼だがサーヴァントたちに促され食堂へと消えていく。
「お土産はご飯のあとね、皆で食事の用意をお願いできるかな。その間に召喚室行ってくるし」
召喚室へと向かう彼の後ろを何人かついていく。食堂では手慣れた手つきでご馳走の用意をする姿もある。大多数は食堂の椅子に腰掛けて笑顔で話をしている。中には酒の用意をしているサーヴァントもいる。
「ったく変わんねーなぁ、あのマスターは」
「えぇ全くです」
「今日は腕によりをかけて作るとしよう」
「お皿出すの手伝いましょ」
「うん」
「マスターに何から話そうかしら」
「後回しにしてた特異点もどきの探索もやっとできるな」
聞こえてくる声はマスターたちの知らないものだらけだった。立場上マスターとサーヴァントたちは呼んでくれているがあのように親しみを込めて、まるで真名を呼ぶかのように呼ぶ声など聞いたことがない。サーヴァントたちが協力して食事を作ったり準備をする姿など知らない。危険が多いためレイシフトを見送っていた特異点らしき場所の探索ができることに安心している様子も。何もかもが知らないし分からない。こんなに賑やかな食事を知らない。
「皆さんも一緒にどうですか?」
いつの間にか戻ってきていた彼は更に多くのサーヴァントを引き連れていた。噂でしか聞いたことのなかった黄金の古代王をはじめ狂化の強いバーサーカー、エクストラクラス。一年かけて何度も召喚をしようとしたが誰一人として応じなかったメンバーだ。
「エミヤの作る日本食美味しいですよね」
笑顔で手招きする彼とその背後からの威圧感に負けて自然と足が食堂へと進む。赤い弓兵の料理など食べたことがないから味もなにも分からない。
「あー!そこ宝具を出さない!席の争奪戦?別に俺は明日も明後日もいるんだから順番で…」
「退学じゃなくてちゃんと卒業してきたってば!兄貴のお陰でルーン魔術はなんとか追試を免れて…」
「ガンドと瞬間強化と回復と魔力譲渡は誉められた。…ピンポイントすぎるって?やかましい!」
「おっ嫌いなもの克服したのか!偉いなー!…って見栄はって無理して食べただけ!?誰か水ー!水持ってきて!」
「うおおやっぱりカルデアのご飯は美味い!」
こんなに賑やかなカルデアをマスターたちは知らなかった。部屋で一人で食事をとるマスターもいるため食堂にいるマスターは僅かだが全員が同じ事を思うのだろう。
「だから俺はまだ未成年だってば…酒も煙草もやらないからな!」
酒と煙草を勧めるサーヴァントの姿など知らない。
「王様顔色いいですね、別れたときは過労死しそうだったのに」
サーヴァントに軽口を叩いて顔面を鷲掴みにされているマスターなど見たことがない。
「皆が元気そうで良かったよ、相変わらず種火は毎日不足してる?あっそうだ写真見る?題名は俺の充実した学生生活について」
「編成ってどんな感じ?…えっ個々でレイシフトしてんの!六人編成とかは…ない!?」
「今の探索機能だとレイシフト先のエネミーまで分かるんだ!ダヴィンチちゃん頑張ったな!さすが天才!あっ職員さんたちにもさっき挨拶してきたよ」
赤い弓兵、サーヴァントたちが作った料理は今まで食べてきたものよりも美味しかった。
話は思い出話からレイシフトの話へと移行する。
「特異点らしきものが見つかったって?今すぐ行かなきゃ。見つかったのはいつですか?昨日?今日?」
まさか一ヶ月も前に発見されていたとは言えない空気にマスターたちは押し黙る。何故レイシフトの準備をもう始めているのか、怖くはないのか。
「え?行ってみないとエネミーが分からないのは当たり前だしこんなに頼りになる英雄たちがいるんですよ?」
なんでもないように言った彼の姿に彼がマスターたる理由が分かった気がした。
終わり。