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藤ねぇといっしょ/Novel by ときは

藤ねぇといっしょ

2,775 character(s)5 mins

『いっしょ』シリーズはアーチャーと誰かを絡ませるシリーズです。第一弾はまさかの藤ねぇ。

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「こんにっちわー」
 昼食にはまだ早い11時、いつもなら食事の用意が整うくらいの時間にしか来ない藤村大河が珍しい時間に衛宮邸にやってきた。何か長方形の箱を抱えて。
「衛宮士郎達なら道場だが」
 こちらの世界で『再会』をしてから、そして多分忘れてしまった過去にも同じく、藤村大河は衛宮士郎を構い倒す。藤村大河にとって衛宮士郎は血こそ繋がってはいないが確かに弟で、そもそも衛宮士郎の家族は血が繋がっていないものばかりだった。
「あ、いいのいいの。今日はアーチャーさんに、はい!」
 そう言って藤村大河は抱えて来ていた長方形の箱を差し出した。勢いよく差し出されたので勢いで受け取ってしまった。
「おそうめんはやっぱり揖保乃糸だよねー」
「あ、ああ」
 差し出されたのは日本の風習であるお中元でよく見かけるあの例の素麺だった。桐箱入りの。何でさ?
「気の早いお中元がもう来てたから持って来ちゃった、黒帯の特級品だよ」
「持って来てしまっていいのか?」
「いいのいいの、どうせ私はいっつもこっちでご飯食べてるし、うちの人間で食べるには微妙な量だし」
 藤村大河の家は藤村組という看板を持っていて、衛宮邸よりも人の出入りが多い。そして衛宮邸よりも遥かに男性比率が多く、確かにこの桐箱入りの素麺1つでは1食分足りるか足りないか微妙なところだろう。というか、素麺だけの食事はあり得なさそうだ。
「士郎も桜ちゃんも遠坂さんもアーチャーさんもお料理が上手で、最近美味しいご飯ばっかりで幸せだよー」
「そう言ってもらえると作り甲斐がある」
「流し素麺がいいな、竹を切って」
「・・・・・・・・・考慮しよう」
 竹はどこから持ってくるのだろうか、多分その辺りの手配は私か衛宮士郎任せなのだろう。絶対そうに違いない。大体この家に出入りする人間は要求だけしておいて投げっぱなしが多すぎる、それを叶えてしまう衛宮士郎も衛宮士郎だが。
 とりあえず素麺の箱はカウンターに置いて藤村大河には麦茶を出すことにした。お茶請けを出してしまうと昼食に支障をきたすだろう、ただしいつもがいつもなのでそう問題ではないかもしれないが。それにしても、何か、背中に視線が痛い。
「・・・・・・何か?」
「アーチャーさんって武術とか格闘技とかやってたんですか?」
 いつもの上座に座っている藤村大河の前に麦茶の入ったグラスを置いて、そのまま立っているのもどうかと思いやはりいつもの、飯時なら炊飯器の横になる台所に一番近いあたりに腰を下ろした。
「まあ、色々」
「へー、どんなのやってたんですか?」
 どんなの、と言われて少し返答に困った。私が持っている技や術はほとんどが実践武術、実践格闘技で、どこでやっていたのかと聞かれたら返答には大変困る。その中でおおむね問題なく答えられるものというと、1つしかない。
「きちんと手ほどきを受けたものは弓、位か」
「アーチャーさんってやっぱり弓やってたんだ、名前もアーチャーさんだしねぇ。実はアーチャーって名前も本名じゃないとか?」
「コメントは差し控える」
 アーチャーさんのけちんぼー、と藤村大河は頬を膨らませた。けちんぼ、と言われても言えないものは言えない。よしんばここで本名を明かして何の徳があるだろう。いや、ない。1ミリも。
「やっぱりアーチェリーとかの洋弓かなぁ」
「いや、和弓だ」
「意外、弓道やってたんですねー」
 そうかそうか、と何故か嬉しそうに頷いて藤村大河は麦茶を飲んだ。
「私、穂群原の弓道部の顧問なんですよ。専門は剣道だけど」
「聞いている、桜の部活の顧問なのだろう」
「うん、前は士郎もいたんだけどね。士郎、とっても上手かったんだけど辞めちゃって」
 上手かった、というか外したことがないだけだろう。正確には衛宮士郎も私のそれも、弓道というより弓術に近い。当たらなければそもそも弓を引かない、今の衛宮士郎がどういうつもりで弓を引いていたのか今はもう分からないが当たると確信してから弓を引く。多分、衛宮士郎も妙な曲撃ちさえしなければ外すことはないだろう。八節を行う弓道など外す要素が殆どない。
「アーチャーさんなら通し矢も出来そうだなぁ」
「通し矢、というとあの?」
「お正月にやってる三十三間堂の遠的の元になった方の120メートルを撃つほう、アーチャーさんいい筋肉ついてるからできそうだなーって」
「120メートルか」
 今のサーヴァントの能力を持ってすれば120メートルでも当たるだろうが、純粋に身体の筋力だけを使うとしたら
「どうだろうな」
「あ、でも普通に引いてるところも見たいなー。引いてみませんか?」
「断る」
「即答だなんて冷たい!少しくらい考えてくれてもいいのに」
 もう!と藤村大河は握りこぶしで座卓を叩いた。その姿を見て少し苦笑する、磨耗してしまったはずなのに、やっぱり相変わらずだと思ってしまう。どの世界、どの時間軸においても、やはり藤村大河は『えみやしろう』の姉なのだ。
「まず、私は今道具を持っていない」
「士郎のを借りるとか」
「アレと私では身長が20センチは違う」
「そっかー、それじゃあなー」
 作れば問題はないだろうが、それで弓道場の射場に立って弓を引くのは何かが違う気がするのだ。そうでなくてもサーヴァントとしての能力はこちらの意思に関係なく行使される、それでは藤村大河の求めるものは出せないだろう。別にそのようなことを考えなくとも藤村大河の好奇心は満たされるだろうが、それは何かが違う気がするのだ。
「アーチャーさんって一番身長が伸びたのはいつでした?」
「・・・・成長は個人差があるが」
 個人差と言っても、紛うことなき本人ではあるのだが。だが平行世界上の場合成長期の始まりや栄養状態が全部同じとは限らないだろう、成長期が一般に比べてやや遅いのは一律して変わらない様だが。
「士郎ってまだ伸びるよねぇ、もう止まっちゃったとかないよねぇ?」
「いくらなんでも止まってはいないだろう、見た限り筋肉のつき方もよくなって来たようでもある」
 実際私の成長期も遅かった覚えがある。はっきりした時期は覚えていないが自分の理想に見合う身体になりきるまでは結構な時間が掛かったことは覚えている。多分もうこの世界の衛宮士郎は私のように我武者羅に正義の味方を目指すことはないだろうから、そう歯噛みすることもないだろう。
「士郎もアーチャーさんみたいにいい男になるといいなぁ」
 藤村大河はふっくらと笑った。一瞬だけ、何かが胸にしみた気がした。
「・・・・・・いい男だとは、思わんがね」
「謙遜謙遜」

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