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一番短い夜も明けて/Novel by ダッシュ

一番短い夜も明けて

4,657 character(s)9 mins

自分なりにクー・フーリンの誕生日を祝ってやったつもりのエミヤのお話。カルデア時空です。大体赤い弓兵の独り言で成り立っています。
盛大に遅刻してますが、ハピバースデー、ランサー

うっかりFGOから槍弓にドボンして約一年半。我慢できずについ浮上してしまいました
まさか、ガチムチワガママボディ(が、あれやこれやご無体働かれるの)に萌えたぎる日がこようとは...

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律儀にサーヴァントに対してもセンサーが働き、すぅと灯りが灯る。
予想どおりの惨状とはいえ、エミヤは思わず呻き声をあげた。

あたりに転がる無数の酒瓶。ことごとく栓は抜かれていて、横に倒れても逆さになっても一滴も溢れていない。テーブルの上にいたっては、皿をちゃんと使ったのか問いただしたい有様だ。

どうやら、昨夜はいつにも増してうんと盛り上がったらしい。そうでなくてはならない。なんせカルデアを代表する英霊の一騎、クー・フーリンの誕生日だったのだから。

ーー太陽神の息子は、一番陽が高く眩しく美しい日に生まれたという。

その伝承は、おそらく後世の誰かがもっともらしくうそぶいただけのことだろう。当の本人はきょとんとしていたし、フェルグスも「どうだったかなぁ」と笑うばかりだった。

それでも、夏の宴の名目にはぴったりに違いない。
マスターの一声を機に、ケルト勢はもちろんどんちゃん騒ぎの大好きな面々がこぞって食堂に集まってきた。
つい昨夜ーーいや、昨日の昼下がりの出来事である。
事前にマスターとマシュから打診されていたエミヤおよびキッチン・カルデアメンバーは、待ってましたとばかりに次々と大皿を彼らの前に並べてやったのだった。

そこから先のエミヤの記憶は、やたらと楽しげな声ばかりとなる。
自分が顔を出せば、どうせ「今日ばかりは小言は勘弁してやれ」と言われまくるのが目に見えていたからだ。
もちろん、エミヤとてめでたい宴に水を差す無粋はしたくない。とはいえ、長年の小言グセを都合よく引っ込められるほど器用ではなく(そう、一応自覚している)ならば引っ込むのが得策と、そう考えたのだ。
全ての料理を作り終えたら早々に自室に戻ったのも、その延長。
帰り際にいつものように「後片付けはしっかり」なんてことも言わずに去らことができた。

あとはここを一人でどうにかできれば、エミヤの仕事は完遂となる。
楽しい宴は楽しいままで終わらせてやるのが、こちらからなけなしのプレゼントーーそういうことにするつもりだ。

「さて、グズグズしている暇はないぞ」

トレース・オン、いつものまじないを呟いて、傍にステンレスのワゴンを投影する。
貴重な電力を家事で消費するのは若干心苦しいが、流石にこの惨状を身ひとつで片せるとはエミヤにも思えなかった。

なんせ、一年で一番朝の早い日である。

陽光が射すことのないカルデアであっても、皆の目覚めまできっと間もない。
ガシャガシャといつにない乱暴さで、散らばる皿をワゴンへ放り込む。味気ないプラスティックが、この時ばかりは頼もしかった。
空瓶は袋の中へ。樽を見つけた時は一瞬目眩がしたが、しばらく食堂の隅にでも置かせてもらうことにした。

流石業務用だけあって、食洗機はあれよあれよと言う間にエミヤが回収した食器類を飲み込んでいく。
全てを収めてスイッチを押せば、あとエミヤのやるべきことは床とテーブルの掃除だけだった。
用のなくなったワゴンを消して、かわりに箒を投影する。

(正直、掃除機を使いたいところだが……)

居住区域から離れているとはいえ、やっと5時を過ぎたところだ。騒音を出すのは気がひける。
改めて気合いを入れ直すと、エミヤは掃き掃除からとりかかった。

「……しかし、改めて昨日は相当お楽しみだったようだな」

かの美食の国で曰く。美味い店かを見抜くには、食べ終わったあとのテーブルがどれくらい汚れているかを見ろ。
本当に美味かったのなら、お行儀よくちまちまと食ってなんていられないはずーーというわけだ。

そういう意味では、実にありがたい散らかり具合だった。
食べ残しはかけらも見当たらず、しかし盛大にソースやら食べカスやらで汚れている。
食堂の中心に据えられたテーブルにいたっては、白やらきつね色やらのころもカスが、撒き散らしたかのようである。
そういえば、主役ーーの一人たる槍兵には、好物の竜田揚げを奮発してやったのだった。

ランサーという呼び名の方が、口なじみがいい。それほどまでに、かの英霊とエミヤは何かと縁づいている。

「満足してもらえたようだな」

なんせ終始キッチンに引っ込んでいたので、自分が作ったものがどうなったのかをエミヤは今まで知らなかった。
最初の大皿もおかわりも、運んだのは確かブーディカだ。
味にはもちろん自信があったが、こうして動かぬ証拠をみるとやはりほっとする。

「いつかの夢は、叶えられただろうか」

繰り返す泡沫の四日間のある時に、確かにランサーがそう言ったのを、エミヤはどうしてか覚えていた。
あれは確か未熟者の家で食べた唐揚げがうまかったなどと抜かすものだから、「もっと美味いものがある」と作ってやったのだ。
何かの拍子で一つ屋根の下で暮らしていた時のことだったからできたことだった。
あの時は突発だったから、わずかな鶏肉でしか作ってやれなくて。
鮭や鯨で作っても美味いと教えてやれば、何としてでも食わせろとねだってきたのだ。

(それで、スーパーの特売日ならと言って……)

確か、それで終わってしまった。
二日後のその日は来ずに、初日に戻ってしまったから。

あの後は、結局どうしたのだろう。
鮭くらいは作ってやれたかもしれないが、エミヤはそこまで覚えていない。
けれども、期待に満ちたランサーの顔は忘れられずーー昨夜ようやくその念願を果たしてやれたというわけだ。

(せっかくだからとあれこれ作ってみたが、どれが気に入ったかな)

やはり定番の鶏だろうか。
生前から好物と言っていた鮭だろうか。
和風のみならずハーブを加えた洋風もくわえてみたが、あれはどうだっただろう。
確かに空のジョッキをこの辺でも拾ったから、ビールのつまみにでもしたはずだ。
そういえば、クセのある鯨はたっぷり生姜を効かせてみたのだがーーまぁ、皿は全て空だったのだ。
きっと、きっと。

こんなに気になるのだったら、あの時に少しでも様子を見にいけばよかったのに。
きっと、タマモキャットをはじめとした面々は、苦笑を混じえてエミヤに言っただろう。

(だけど、私はこれで本当に充分なんだ)

舐めたように空になった皿。
泡も残っていないジョッキ。
ころものかけらが散りばめられたテーブル。
その向こうに、機嫌よく自分の作った料理に舌づつみを打つヤツの姿が浮かんでくる。
直接会えば、会ってしまえば見られなかった。
エミヤは、本当に不器用だったから。
いつもの小言癖をやめることもできずーーそれどころが、照れくさいばかりにイヤミばかりぶつけてしまっただろうから。

「……手を、動かさねば」

深く長いため息を、ひとつ。それで妙な方向へ行きそうな気持ちを切り替えた。
潔く食べカスを払いのけ、部屋の隅にまとめて最後はゴミ袋の中へ。
ダスターでテーブルを拭きあげ、モップで床を磨けば、ようやく平時のカルデア食堂に戻った。

「よし」

パンっと手を叩いて、投影した道具も全て消す。

「これで、全て終わ……」

「れると思うなよ、この野郎」

誰、と訝しむ間もなかった。

不覚。気配を感じとることもできずに、エミヤは背後から拘束される。
腰を長い腕にとられ、身じろぎもできない。
何かの呪いが働いているのだけは、わかった。ヤツは、武術ばかりではなく、ルーンも操れる。

「……ランサー」

嗜めるように低く呟けば、不機嫌な舌打ちが返ってきた。

「けっ、本当に可愛げっつーもんがねぇなぁ。アーチャー」
「こんな大男に、そんなものがあってどうする」
「そういうとこなんだよ、テメェは」

呆れかえった声でそう言いすてると、ランサーことクー・フーリンは器用に腕の中でくるりとエミヤの身体を回した。

「……んで。朝の早よからなぁにコソコソやってんだ」
「見てのとおり、後片付けだが」
「かぁーっ、流石はキッチンの守護者殿。せいが出るなぁ……ってか」

軽い口調とは裏腹に、クー・フーリンから発せられる気は重い。

(……機嫌が悪い、というか……)

怒って、いる。

クー・フーリンの怒気は殺気に近く、ピリピリと肌を刺すからわかりやすい。
一方でどうにも理解できないのが、その理由と鉾先だった。
昨夜は思う存分楽しんだだろうに、何故?
エミヤだって、何一つ小言もイヤミも言わずにいれたのに。

「口に合わないものでも、あったのか」

ようやくひとつ思いついたのが、これだった。
もっとも、すぐに「はぁ?」と酷い声で一蹴されてしまったが。

「全部美味かったっつーの。特にタッタアゲ、また喰えると思ってなかった」
「……では、量が足りなかった……?」

例の竜田揚げを含め、食堂の業務用冷蔵庫を空にするほど振舞ったのだから、我ながらありえない理由だとエミヤは思った。
しかし、問題が質でないのなら次は量を疑いたくもなるものだ。
「なんで喰いもんのことばっかなんだよ」とやはりクー・フーリンは却下しようとしてーーふと、「確かに」と呟いた。

「喰いたりねぇな」
「そ、そうか」

作ったものをたくさん食べてもらえるのは、料理人冥利につきる。
とはいえ、あの量でも足りなかったのかと、エミヤはなんとかの騎士王をも凌ぐらしい槍兵の胃袋に慄く。

「昨日と同じメニューは流石に無理だが、出来うるかぎり要望には答えよう」

あの宴の馳走は、例の竜田揚げを筆頭にエミヤからの誕生日祝いだったのだ。
延長戦にもつれ込もうと、満足してもらいたい。

「今日の私が用意できるものなら、何でも言ってくれ」
「お前」
「……は?」
「お前を喰いたい、弓兵」

メインディッシュかはたまたデザートかと、ずっと待っていたのにーーと、彼は続けた。

「宴がどんなに盛りあがろうと、厨房にすっこんだままチラリとすら姿を見せねぇ。最初はな、忙しいと思ったんだ。俺があんだけ喰いたいと思ってたのが出てきた時は、テメェも覚えていたのかと柄にもなく目が熱くなったもんさ」

けれど、と真紅の眼がじとりとエミヤを睨む。

「 抱きしめたくとも、テメェは来ねぇ。それでも待っていれば、いつの間にか自室に帰ったという」
「それはその……こうして翌朝早くにする仕事が」
「いつもなら、宝具ぶっ放してでも酔っ払いどもにやらせるくせに。なんだって今回ばかりそうなるんだ、テメェは」
「……君の誕生日祝いなんだ。そういう時くらいは、面倒なことなど何もせずに楽しんでもらえたらと……」
「そんで恋人を傍らに抱くこともできないのか、俺の誕生日とやらは」
「……こここ恋人っていったって、この間勢いで」
「アーチャー」
「ラ、ランサー」
「テメェが用意できるもんなら、俺が満足するまでたらふく食わせてくれるんだよな」

怒気を孕んでいた瞳が、ニィと三日月の形になる。

「マスターの嬢ちゃんには、誕生日祝いで明日まで好きにさせてもらえることになってんだよ、俺」

腰を抱くクー・フーリンの腕に、ぎゅうと力がこもる。
「逃がさねぇ」とささやかれたのは、どうやらエミヤの幻聴ではないらしい。

「昨日はもちろんあれからオアズケくらってた分、とことんつきあってもらおうか」

ーー1年で一番短い夜が明けて。
エミヤがクー・フーリンの腕の中で過ごすのは、一番長く眩しい昼間となるようだった。






Comments

  • シン@0503

    不器用なエミヤが愛しい…。言われるまで本当に気づかなかったんでしょうね。そんなところも含めて愛しいと思ってるのかも。ハッピーバースディ、アニキ♥

    June 21, 2020
  • そー
    June 21, 2019
  • しぃ
    June 28, 2018
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