ペロブスカイトより先に、
日本が世界一を取っていた太陽電池がある。
あなたはその名前を たぶん知らない。
昭和の終わり頃。
日本のある研究者が、こう考えた。
「シリコンじゃなくても、
太陽の光を電気に変えられるんじゃないか」
銅、インジウム、ガリウム、セレン。
四つの元素を薄く薄く重ねると、
わずか髪の毛の30分の1の厚さで、
光を電気に変えることができた。
これがカルコパイライト太陽電池の始まりだ。
やがて昭和シェルという会社が、
この技術を本気で育てようとした。
量産工場を作り、
品質を上げ続けた。
そして2011年。
「ソーラーフロンティア」という名前で、
世界最高の変換効率23.35%を達成した。
当時、世界のどのメーカーも
この数字に届いていなかった。
でも、喜びは長く続かなかった。
中国のメーカーが動いていた。
シリコン系のパネルを、
信じられないほど安い価格で
大量に作り始めたのだ。
「効率ではなく、価格で勝負する」
そういう戦略だった。
技術で勝っても、
値段で負ければ売れない。
2022年6月。
ソーラーフロンティアは
量産ラインを止めた。
40年近く積み上げてきた技術が、
静かに幕を閉じた。
ただ。
技術は消えなかった。
経営者も、設計者も、現場の技術者も、
散り散りになりながら、
この仕事への思いを手放せなかった。
「本当にやりたかったのは、
もっと薄くて、軽い太陽電池だった」
ソーラーフロンティアのCTO(最高技術責任者)が、
後にそう語っている。
2023年。
相模原市に、小さな会社が生まれた。
社名はPXP。
Phoenixは不死鳥という意味だ。
主要メンバーの多くは、
あのソーラーフロンティア出身だった。
PXPが作ったパネルは、
厚みわずか0.6〜0.7ミリ。
重さは1平方メートルあたり0.7キログラム。
段ボールと同じくらいの軽さだ。
農業用ハウスの屋根に
補強なしで貼ることができる。
車の屋根にも貼ることができる。
「重くて、広い場所にしか置けない」
という太陽電池の常識を、
一枚のシートが書き換えようとしている。
2026年度、本格量産の予定。
2028年には、ペロブスカイトと重ねた
「タンデム型」の量産を目指している。
二つの次世代技術が一枚のシートに重なれば、
変換効率は30%を超える可能性がある。
効率で世界一になって、
価格競争で敗れて、
それでも諦めなかった人たちが、
今度は「誰も狙っていなかった場所」に貼れる電池で、
再び世界を目指している。
日本の太陽電池の物語は、
まだ終わっていない。