レンタル彼氏やってるのが担当のヴィルシーナにバレた
姉さんってシュヴァルとヴィブロスが生まれてからしっかり者になったらしくて、素の性格はヴィブロス寄りっぽいんですよね。だから寝顔は天使みたいだし、ふとした時にちょっぴり甘えん坊だったら……良いよね!
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資料を購入するためのお金が足りないと友人に話していたら、たまたま理事長に聞かれ、感激され、この仕事を斡旋してもらった。
レンタル彼氏……ほとんど単発だし、欲しい金額まで働いたら辞めればいいと言われた。レンタル彼氏なんて突飛な副業かと思ったが割とぴったりである。
「…………ここか」
今回の集合場所は府中駅。やはりこの瞬間は緊張する。自分を落ち着かせるため、携帯を取り出し今日の日程を確認していく。
お相手のプランは、『半日甘やかしコース。』こんなのが本当に需要があるのかわからないが。何故かみんなこれを選んでいく。
「……あのっ」
後ろから声をかけられた。俺はすぐさま振り返る。
「はい!」
「ふふ、こんにちは。」
「………………」
そこには何故かヴィルシーナが居た。
「え、あれ、奇遇だね?」
「そうでしょうか?」
んんんん、やばいやばいやばい!トレーナーがレンタル彼氏をやってるなんて絶対に知られちゃダメだろ。落ち着け。
「んー。えっと、お出かけかな?」
「デートです。」
「へぇ、妹と?」
「貴方と。」
「そっか、俺と………うぇっ!?」
「半日プランでしたわよね。早く行きましょう?」
「ちょっ、あの」
そのまま引っ張られた。
────────────
知らない駅で降り、彼女に連れられながら散歩する。俺は疑問を浮かべながらも、隣を歩くヴィルシーナを眺めていた。
横顔も美しい……とか考えている場合ではない。
「ここなら、知り合いは誰も居ませんわね?」
「……え?」
「理事長からお聞きしましたわ。」
「?」
「貴方が、そういった副業をなさっていると……」
「知ってたんだ……」
「……はい。」
「で、でもトレーナー業が優先で!」
「もちろん分かっています。貴方にも理由があるのでしょう?」
「……ああ」
「そのことについて怒ったりなんてしませんわ。」
ヴィルシーナは優しい。こんな勝手なことを始めたのに、こちらの気持ちを汲んでくれている。
「けれど……その」
「ん?」
「私の気持ちを……考えてはくださらなかったのかしら。」
「シーナの気持ち……?」
「だって、他の方ともデートなさっているのでしょう?」
「ま、まぁ仕事だからね?」
「…………」
「うお……?」
いきなり腕を組まれた。戸惑う俺に、間髪入れず彼女は言う。
「もう一度言います。ここなら知り合いは居ませんわね?」
頬を赤らめたヴィルシーナが、上目遣いでこちらを見つめていた。
「…………あ」
彼女の珍しい表情に見惚れていたのも束の間。絡まった腕の先で、手のひらがぎゅっと握られた。そこは、最初からそうであったかのようにガチガチに繋がれている。
「今は、私の恋人ですのよね?」
「……言われてみれば」
「…………」
何か言いたげだ。もしかすると、返金を要求したいのかもしれない。
「えっと、返金してほしい?」
「違います……っ!」
「あはは、ごめん」
「そうではなくて、その……どこまでしてもよろしいのでしょうか……。」
「どこまでって?」
「手を繋ぐ以上のことは……しても、構いませんの?」
「うーん。だめ!」
「…………」
「そもそも、担当とデートってだけで危ういんだから」
「………………」
「ん、どうしたんだ?」
「……まだ、許していませんのよ?」
「へ?」
「仕事とはいえ、他の方ともこのようなことをなさっていたなんて。」
「…………」
「許せませんわ……ね?」
何か物欲しそうにそんなことを呟くヴィルシーナ。かわいい。
「やっぱり返金して欲しいの?」
「だ、だから違いますっ!」
「違うのか……」
「……トレーナーさんへのクチコミを拝見致しました。」
「俺の?」
「はい」
まさかそんなものがあるなんて。理事長、そんなこと言ってなかったけど。
「その、随分と……人気ですのね?」
「そう?」
「はい。星4以上の評価しか見当たりませんでしたわ。」
「それ、全部サクラじゃない?」
「…………」
「シーナ?」
「感想の中には、『あ〜んをしてもらえたし、とてもサービスが良かった。』といった物がありました。」
「……」
「『頭をナデナデしてもらった上に、たくさん甘やかしてくれた』、なんて物もありましたわね。」
「……そ、そうなんだ?」
「私だって、貴方と手を繋いだのは今日が初めてなのに……」
「……シーナ?」
「それと。」
「うん?」
「今日は甘やかしプランですけれど、何もしてくださらないの?」
「そ、そうだね。じゃあカラオケに……」
「それは、普段のお出かけと変わらないでしょう?」
「いや、でも……」
「他の方と同じように……してください。」
「え」
「……」
グッと覚悟を決めた表情でこちらを見つめる。シーナは本気だろうが、こちらとしては……
「本当にやるの……?」
「構いません。」
「いやぁ、流石にさ?あれを担当にするのは……」
「…………」
うるうるとした表情で見つめられる。こんな顔どこで覚えたのだろうか。ダメだと分かりながらも、口を開いてしまう。
「わ、わかったから……」
「ふふ。お願い致します。」
何故かノリノリのヴィルシーナに、こちらは言葉を失う。
しかしまぁ、日頃からヴィルシーナを甘やかしたいと考えていたし、今日だけは担当であることを忘れよう。プロのレンタル彼氏を見せてやる。
「じゃあ、もう少しこっちにきて、シーナちゃん」
「シーナ……ちゃん!?」
「髪に触るね」
「へ?」
まずはひし形の流星に触れるかのように、ゆっくりと髪に手を添えた。
「……よしよし。」
「ふぇ……あ、あの。そんなふうに……」
「疲れてるなら、胸にもたれかかっても大丈夫だからね?」
「え」
「……ほら、もう少しこっちに」
ヴィルシーナのコートに手を添えて、ほんの少し抱き寄せた。
「あ、あの……」
「いつもトレーニング頑張ってるもんね?」
「そう、でしょうか。あの方を見ていると、まだ足りない気もしますけれど……」
「いや、誰よりも頑張ってる。」
「……ありがとうございます。これからも自己研鑽に努めたいと考えています。」
こちらを見つめ、真剣な眼差しを向けられる。
いけない。甘やかすつもりが普段の姉モードに戻ってしまった。軌道修正しなければ。
「じゃあ、ご褒美はどうかな?」
「ご褒美ですか?」
「いつも頑張ってるし、俺ができることならなんでもするよ」
「な……なんでも」
分かりやすく身構えるヴィルシーナ。
「それなら」
「うんうん」
「……ぎゅって、してくださりませんか?」
「…………」
思わぬ返答に固まる。てっきり、お買い物に付き合うだとかそういうものだと考えていた。
「それが、ご褒美?」
「……はい。」
今のヴィルシーナとの距離は、軽く身を寄せただけというもの。これくらいならセーフと考えていたが、ハグは厳しい。
こうなれば……
ぎゅっ
「はい……ご褒美になったかな?」
「…………」
海外でよく見る、ハグを使った挨拶。わずか数秒、それは彼女に手を回しただけのものだった。
「…………私には、ちゃんとしてくださらないの?」
「……え?」
「他の方にはハグなさっているのに。」
「え、なんで知って」
「…………やっぱり。そうでしたのね」
「え……あ」
カマをかけられたらしい。
「私は、貴方の一番ではなかったのですね」
「…………」
「それでも……構いませんわ。」
その言葉に弱い。
「わ……わかったから。ほら……」
彼女の前で、両手を広げた。
「貴方から、してくださらないの……?」
「…………」
本気で甘えたいようだ。
俺は重い足を動かし、彼女に近づいた。そして……
「これで、どうかな?」
「……もう少し、包み込むようにお願いします」
「え、ああ」
「……足りませんわ。」
「え」
「もう少しだけ、強くしてください……」
「こ、これくらい?」
「まだ……もう少し……♡」
ハグを強くすればするほど青い尻尾が激しく動く。これで正解……なのだろうか。
「これでいい?」
「……ええ」
普段は気品があり、いかにも女王という威厳がある。だが、抱きしめてみると案外華奢で、柔らかくて、暖かい。あとめちゃくちゃ可愛い。それに加えて良い匂いまでする。
「本当に……」
「ん?」
「このようなことを、他の方にも?」
「流石にここまでは……」
「えっ」
「軽いハグならするんだけどね」
「わ、私だけが特別ということでしょうか…?」
「……当然だよ」
こちらが頷くと、ほんのりと彼女の体が熱くなった。
「…………あの」
「?」
「周りからは本当の恋人のように見えているのでしょうか……」
「あはは。どうかな」
「……そう見えていなければ、困りますわ」
「なんか言った?」
「いいえ……」
「トレーナーさん。」
「あの、今は一応彼氏って事だから……」
「携帯を見てください」
「え、うん。」
ハグをやめて、懐からウマホを取り出した。
「え"っ、な……なにこれ?」
ウマホの通知を見ると、何故か大量のマニーが俺のもとに届いていた。その額は、自分の給与の1…2…………何年分だろうか。途中で考えるのをやめた。
「そちらは、私からです。」
「……え」
「ふふっ。今のうちから、レンタル彼氏の予約をしておこうと思ったんです。」
「で、でもこの額は……」
「はい。少なくとも、他の方はもう貴方をレンタルできません。」
「…………」
「これからも、十分に甘やかしていただきますわね?♡」
妖艶な顔でクスっと微笑むヴィルシーナ。
「後悔は、ないんだな?」
「ええ、もちろんです。」
「……そうか」
彼女の覚悟を確認したあと、俺はもう一度ヴィルシーナを抱きしめた。
「へ?」
「さっきの続き、するね?」
「つ、続き……?」
彼女のウマ耳に手を添えて、息を吹きかけた。すると、分かりやすくビクッと反応した。
「あのっ////」
「大丈夫だから。身を委ねて」
「思ってたのと違っ……」
もう一度息を吹きかけると、ヴィルシーナは言葉を止めた。足は少し震えていて、離せば倒れてしまいそうだった。
「これからオフの日は毎日こうやって、甘やかしてあげるからね」
「…………っ♡」
返事は返ってこない。しかし全力で尻尾を揺らす彼女。
「愛してる。大好き。横浜。いつも頑張っていて偉い」
「〜〜〜〜っ♡」
頭を撫でながらそんなことを伝えた。彼女は抵抗しようと俺の手を掴もうとしたが、逆に掴み返して恋人繋ぎにした。
結局、お互いの香りが離れなくなるくらい強く抱きしめてしまった。
「これで半日プランは終わりになるけど……」
「…………」
「予約を取り消さないと、ずっと好き放題されちゃうよ?いいの?」
「こ、この程度で挫けたりしませんっ!」
「えぇ……」
ここまですれば折れてくれると考えていたが、変な火がついてしまった。
「分かった。じゃあ、次は今以上に甘やかすからね?」
「構いません。この勝負から逃げたりなんてしませんわ」
「そっか……」
「ふふっ。貴方こそ、このような副業を始めたことを後悔なさらないように。」
いかにも女王のように笑うヴィルシーナ。
(次のデートでヴィブロスがドン引きするくらい甘やかされ、負けを認めるヴィルシーナでしたとさ。)
恋人デートプレイですね。これは