トレーナーに甘やかしハグするつもりが、逆にハマってしまうヴィルシーナ
ヴィルシーナの兄になりたいです。
皆さんの言いたいことは分かります。姉属性あってのヴィルシーナだろ、と。確かにしょうもないイタズラで叱られたいし、怪我した時に介抱されたい。授業参観にも来て欲しい。過保護な姉ムーブに「やめて!」と突き放してしょんぼりされたい。ですが考えてください、ヴィルシーナに「兄さん」と呼ばれたらもう幸せじゃないですか?不器用な事をした時も「もう…兄さんったら」と苦笑いされたくないですか?私は幸せです。家族で公園に遊びに行った時も、遊び疲れたヴィブロス&シュヴァルを2人で車まで運び、沈む夕日の中で兄、姉としての会話を楽しみたい。しっかり者のヴィルシーナにたくさん頼られたい。
私から皆さんに言いたい事は、ヴィルシーナは最高だということです。
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「貴方…少し疲れ気味じゃないかしら?」
「そんなことないけどなぁ」
「休息も大切よ」
「ありがとう、でも俺はまだまだ元気だから」
目の下にできたクマ、そして机の上には大量の書類。彼は無理をしている。このままでは壊れてしまう。
「……」
「え、シーナ?」
私は彼の目の前で両手を広げた。
「……」
「いや、あの…」
「……早くしなさい」
シュヴァルが泣いた時も、ヴィブロスを甘やかす時も、いつもハグしてあげていた。
そう、これはあくまでトレーナーさんを甘やかし疲れを取ってあげるため。そこに私情は無い。
「えっと……いいのかな」
「…ええ、大丈夫よ…」
頷くと、彼は椅子から立ち上がり私を抱きしめた。
「……」
「……?」
おかしい
少しすると、一定のリズムで頭をポンポンされ、抱き寄せられた。これではまるで私が……
「いつもお疲れ様」
「…?」
甘やかしているのは私のはず…。でも、今の状況を見れば甘えてるのは私の方。
「シーナも甘えたかったんだな」
「…!?」
「ほら、力を抜いて」
「だ…だめよ……!」
そんな事あっていいはずがない。私が甘やかさないとまた無理をしてしまう。それは嫌。好きな彼だから…
「だめなの…」
彼の胸の中で、なんとか声を絞り出した。自分の中には姉としてのわずかな矜持だけが残っていた。
「…シーナの事だから、きっと俺を甘やかそうとしてくれたんだろ?」
だめ…
「今日くらい甘えたらどうだ?」
否定しないと…
「俺に甘えて欲しい」
………
「……その、迷惑じゃないかしら…」
「そんなわけない」
「…そう」
ついに私は彼に身を委ねた。強情も彼の前では無意味な気がしたから。
「………///」
「あははっ、よしよし…」
わがままな女の子だと思われたかも知れない。でも、心臓の鼓動が心地よくて、好きな香りが広がっていて…
「…シーナ?」
「………」
「………おやすみ」
次は私が甘やかさないと……
ーーーーーーーー
「トレーナーさん…」
「ん?」
コーヒー片手に部屋に入ってきた彼。私は唐突に言う。
「トレーニングメニューのことだけれど…」
「え…ああ、なんでも言ってくれ」
「トレーニング後にハグを加えるのはどうかしら?」
「んんっ…なんて?」
「だから、その…ハグなんてどうかしら」
「聞き間違えたかな、ハグって聞こえたけど」
「………///」
言えない、言えるわけがない。あのハグが良かったからもう一度したいなんて…
私はなんとか真面目を装う。
「…あの、本気か?」
「ええ、私はいつでも本気よ」
「いやぁ、でも流石に……」
「さっきなんでも言ってくれと言ったじゃない」
「そうだけどさ…」
「それに、ハグはストレス軽減にも繋がるの…」
「……なぁ」
「何かしら?」
「それってつまり…」
「…ええ」
「昨日のハグが良かったからまたハグしてくれ〜ってことか?」
「なっ!///そ、そんな事言ってないじゃない///」
「そう言ってるようにしか聞こえないよ」
「………そ、そんなわけ」
あまりの図星で目を合わせることができない。いっそ破廉恥な女ですと開き直った方が楽かもしれない。
でも、それは流石に…
「別に…無理にとは言ってないわ…」
「……じゃあ無しでいいか?」
「………………」
「あっ、尻尾下がった」
「……///」
「可愛い〜」
「あ、貴方っ!!/////」
「うそうそ、冗談だよ」
「……冗談?」
「シーナのためならハグだってなんだってする」
「……」
「あの、シーナ?」
「なら、今はどうかしら……?」
「今は心の準備が出来てないかな」
「私…貴方に揶揄われて傷ついたわ」
「……」
彼を甘やかすためだったはずなのに、これでは寧ろ迷惑をかけてしまっている。こんなのいけない。でも…
「……っ」
「甘えん坊だね」
「貴方のおかげよ…///」
「そうかな…」
マグカップを机に置いた彼は、すぐに私を抱きしめた。その瞬間、きっと私は姉の威厳なんて無い顔をしていた。
「いつもトレーニング頑張って偉い」
「え…」
私がしてあげたかった事を全てされている。頭をポンポンしながら褒めて、優しくされて。こんなのおかしくなってしまう。
彼へ、好き…その気持ちを抑えるので精一杯。
「…もういいかな?」
「や……まだやめないで…///」
「……」
彼の胸を触りながら言った。よく考えれば、私がこんな風になったのも全部彼のせいだ。
「責任取りなさい……っ///」
「えぇ…良いけど」
たくさん甘えた。
ーーーーーーー
「今日もタイム更新か…すごいな」
「…ふふ、そうかしら」
「ああ、この調子ならレースでも大丈夫そうだね」
「………」
そう、私がトレーニングを頑張る理由は1着を取るため。決してこの後のハグのためでは無い。
「…じゃあ、ハグするか?」
「……その」
これ以上沼にハマってしまえば、レースのためだけのトレーニングではなくなってしまう。それがとても怖かった。
「今は……かなり汗をかいたと思うの」
「そうか?」
「…ええ」
「…臭いも気になるわ」
「……」
これで良い。今のうちに引き返して…
「うーん、気にならないけどな」
「…っ!!///」
いきなり体が包み込まれる。
「シーナはいつも良い香りだ」
「わ…私が気にするから…!」
「怒っちゃだめだよ、ストレス軽減だろ?」
「………」
「それに、嫌なら嫌って言っていいから」
彼のためと言いながら結局彼の手を煩わせている。でもハグはされたい。そんな都合良い考えの私が嫌だ。
それに、いつも私のために身を削っている彼に否定の言葉を当てたくない。そんな思いも結局私のため…
「嫌じゃ…ないわ…」
「え、シーナ…!?」
「でもだめなの……」
「大丈夫か?」
私は彼のジャージをぐしゃぐしゃにした。
ーーーーーーー
「はい紅茶」
「……」
「コーヒーの方が良かった?」
「…いえ、ありがとうございます」
ひとしきり泣いた後、彼とトレーナー室に戻った。
「その、ごめんなさい…」
「え?」
「私からハグしたいと言ったのに…」
「気にしなくて良いよ」
「……」
「泣いてスッキリした?」
「ええ、とても…」
「なら良かった」
「…優しいのね」
「いやいや!優しいのはシーナの方だよ」
「……私が?」
「ああ、ここ数日でかなり癒されたよ」
「…でも私、たくさん自分勝手な事をしたわ」
「そう?」
「迷惑もたくさん……」
「俺は頼ってもらえて嬉しかったよ?」
「……ほんとかしら?」
「そりゃあ、シーナも妹に頼られたら嬉しいだろ?」
「ええ。」
「俺もたくさん甘えてきたし、お互い様だよ」
「………」
欲しかった言葉をくれる。そんな彼に私は甘えることにした。
「……ねぇ」
「ん?」
「ハグしても良いかしら、できれば貴方の方から…」
「えっ、もちろん…!」
彼が私の背中に手を回す。
「………っ♡」
「…ん?」
あ〜♡好き好き♡大好き♡もう我慢しない♡私を甘えさせられるのは貴方だけなの♡はぁ♡好きな匂い♡もう離さない♡好き♡好き♡好き………
「あのさシーナ」
「あら、何かしら?」
「………全部聞こえてたけど」
「………」
「どうしたのかな?」
「……忘れなさい」
「え?」
「いいから…忘れなさい。」
「えっ怖」
私は彼への好きを隠せないところまで来ていた。あまりの恥ずかしさに強い口調になる。
「忘れて……お願い」
「………」
「じゃあ俺のターンだな」
「………え?」
「シーナの負けず嫌いな所が好き。」
「………///」
「オシャレな耳飾りも、ひし形の流星も好き。」
「や……やめて///」
自分の発言のむず痒さを味わう。ぷるぷる震える私を強く抱きしめる彼。
「シーナは本当に綺麗で………。」
「?」
いきなり言葉が詰まる。彼の顔を見ると私ほどではないにしろ、ほんのり赤くなっているのが分かった。
「……ふふ、それで終わり?」
「流石に恥ずかしいかな…」
「…なら私の番ね」
「え、二周目入るの?」
負けたままでは居られない。
素晴らしい、素晴らしいよ! ヴィルシーナが思いきり甘えている! 私の望む世界が、今目の前にある!