トレーナーに子ども扱いされて怒ったキタサンブラックが自分の身体で解らせる話
キタちゃんに癒されたい。だが私はキタちゃんのトレーナーではない。つまり、キタちゃんに癒してもらうことはできない。
キタちゃんのは張りがあって、ダイヤちゃんのはふわもちだと全私が喜ぶので、そうだと嬉しいです。
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「……ごめん、もう一回言ってくれる?」
「あたしのおっぱ────」
「いや、いい。もう大丈夫」
…………聞き間違えじゃなかったかぁ。
日常という名の平穏は、目の前にいる彼女の一言で音を立てて崩れ去った。花菱のアクセサリーでツーサイドアップにした黒髪、右耳には花菱と和紐の耳飾り────担当のキタサンブラックが発した言葉は、俺の思考を停止させるには十分だった。
「……理由を聞いてもいい?」
「理由、ですか?」
「うん。胸を触ってみないかって言った理由」
彼女のことだから、気の迷いとかではないと思うけど……いや、気の迷いでも言わないか、こんなこと。もしそうなら、一度キタサンの貞操観念やら教育やらについて聞きださないといけない。なんで突然、「あたしのおっぱい揉みませんか?」とか言われなきゃならんのだ、教育はどうなってんだ教育は。
「えっと……最近、トレーナーさんが疲れているように見えまして」
「そう?キタサンのマッサージを毎日のようにしてもらってるから大丈夫だけど」
以前、身体を酷使してぶっ倒れた時にそれはそれは怒られた。あの時の顔は今でも脳裏に焼き付いている。ニコニコ笑顔の筈なのに、身体からは怒りのオーラが滲み出て、俺のあらゆる発言を弾圧した。以降、キタサン基準で俺が疲れているように見えた日は、マッサージをしてもらうのが恒例となっている。
「ああえっと、身体の方じゃなくて心の方です。癒しとかセラピーみたいなのが、今のトレーナーさんには足りないんじゃないかなと思いまして……」
「癒し、か……キタサンを見ているだけでも癒されてるけど……」
彼女を見ているとなんというかこう……大型犬を見ている気分になる。トレーニングが終わると撫でられ待ちになる所や、駆け寄ってくっついてくる所とかは人懐っこい犬のそれに近い。その一方で、身体の成長は止まることなく、女性らしい箇所も育ち続けているので、平常心を保つように自分に言い聞かせることも多い。
「それは……ありがとうございます。でも、それだけじゃ足りてないと思うんです。最近はトレーナーとしてメディアに出る機会も増えてますよね」
「そうだな」
つい先日も対談の仕事を受けた。有名税とは違うが、トレーナーとして別に受けなくても良い仕事も来るようになり、疲労が溜まっている感覚はある。
「身体はあたしが管理してるのでかなりマシになってますけど、心はあまり休めて無いのかなって……」
……ああ、なるほど。だからあんなこと言ったんだな。大きさの好みこそあれど、胸が嫌いな男はいない。そこに彼女の人助け精神が働いて、あの発言に繋がったのか。
「キタサン。今から大事な話をするね?」
「はい」
「いくら人を助けたいからって、自分の身体を差し出すのはダメだよ。世の中には、怖い人がたくさんいるんだから。そういうのは好きな人ができるまでとっておくこと、わかった?」
流石にアレはな。彼女に他意はないだろうが、受け取り方は人それぞれ。中には歪曲した受け取り方をする者もいる。そういったことに巻き込まれる前に、原因となりそうな芽は摘んでおかないと。
「…………」
キタサンは黙ったまま。なにを考えているのか、神妙な顔で俺を見ている。こんな顔、初めて見たかもしれない。
「……分かりました」
「うん。これからは気をつけ────」
「トレーナーさんがあたしを子ども扱いしてるってことが」
「────え」
瞬間、ふわりと身体が浮く。膝の裏と背中に手を入れられ、なにが起きたのか理解できたのはキタサンが俺を抱えて歩き出した直後だった。
隣に用意されている仮眠室のベットに放り込まれて身体を起こすと、小さくカチャリという音が鳴る。
「トレーナーさん。あたし、あんなこと誰にでも言いませんよ」
目は据わり、ジットリとした視線が俺に向けられる。怒っているのは明白だが、身体を壊した時とは違い、心配の色はなかった。
「あたしだってもう高等部ですから、自分でなにを言っているかくらい、分かってますよ」
太陽が出ているとはいえカーテンが閉まっているため、部屋の中は薄暗い。そんな空間に担当と2人きりでいるのはまずいとベットから降りようとするが、その企みは下腹部に乗ったキタサンによって失敗に終わった。
「それで、なんでしたっけ。"自分の身体を差し出すのは、好きな人ができるまでとっておくこと"でしたっけ」
俺に跨ったまま、キタサンは俺の左手を持ち上げて、自分の胸に当てた。
「……これで、分かりましたか?」
ふにゅり。俺の手が彼女の左胸に押し込まれていき、やがて伝わってきた鼓動は、とんでもなく早かった。
カッと顔に熱が集まり、俺の鼓動も早くなる。今まで一度もこんな経験なかったんだ、変な反応をするのは許して欲しい。
「好き、なんです。トレーナーさんのこと」
溢すような告白。しかし、その言葉は確かに俺の耳に届いた。
キタサンを見る。この薄暗さでもハッキリと分かるくらい、頬を赤く染めていた。
「だから、あたしのその時は、今なんです」
右手も同じように、彼女の胸に沈んだ。下着をつけている筈なのに、この弾力。当事者になって、改めて女性の胸の魅力というものがわかった気がする。
「んっ♡……ふっ♡…………ぁ♡……ふっ、あ♡……」
「っ……」
勝負服を作る際の採寸も他の人に任せていたため、彼女の女性らしい部位に触れるのは初めてだった。
癒し効果が得られる行為としてよく耳にするのはハグだが、恋人同士だとこういった行いも癒しになるのだろうか。
「キタサン、大丈夫か?」
「んぅ♡……はっ、はい♡大丈夫、です♡……言ったのはあたし、ですから────ぁ♡トレーナーさんは、遠慮なく、ぅ♡触ってください……っ♡……」
本人の許可が下りたので、引き続き触る。癒し効果については、今の自分の状態を客観的に見て、あると言えるだろう。しかし、次回からは自分なりの心の休ませ方を用意しておこうと肝に銘じた。理由はまぁ……その、反応してしまうから。自制心が揺らぎそうになるのだ。
しばらくして、キタサンが俺の身体から降りる。手には未だあの感触が残っているが、彼女がうずうずしているのを見て、慌てて顔を戻した。
「どう……でした?……少しは癒しになりましたか?」
「うん、すごく癒しになったよ。ありがとう。でも、今度からは自分で用意してくる。これは……万が一の時ってことで」
「……分かりました」
あの扉は防音ではないし、部屋の壁だってそう。誰にも聞かれたくないし、聞かせたくない。バレたら普通に問題にもなる。大量のリスクとリターンを天秤にかけて、この答えを出した。
「じゃあ、トレーナー室ではやりません」
「うん────うん?」
なんだ、その含みのある言い方は。まるで別の場所でしようとしているような────。
「トレーナーさんのお家でなら、良いですよね?あたし達、恋人なんですから」
そう言った彼女は、可愛さと淫靡さを兼ねた表情を俺に見せながら、胸を持ち上げる。
この後、なにをされるのか。不安と興奮に駆られて、再び心臓が高鳴った。