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壁を壊す 士郎side/Novel by めみ@Xでなりすまし報告求

壁を壊す 士郎side

6,430 character(s)12 mins

UBWルートアニメの最終回にはあげようと思っていておきながらタイミングを逃していた弓&士小説「壁を壊す」の士郎さん視点をブログから転載です。
私なりのアーチャーさんと士郎さんの理想の関係、それに「理想」と「現実」という言葉に対する見解を二人に代わりに述べてもらったようなお話です。
どちらかというとメインは次のアーチャー視点なんですが、士郎さん視点も書いておきたくて書きました。最終的にほのぼのしてもらえれば幸いです。
夏コミ前にはタイバニで神様パラレルシリーズの新作(虎←薔薇予定)をアップして、夏コミ明けぐらいにアーチャー視点をアップしたいなーと思ってます。有言実行できるよう頑張るぞー。

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近所の子供たちにサッカーに誘われて、公園へ遊びに行っていたはずのセイバーが、何故か黒化して、帰ってきた。
しかも、何故かアーチャーを連れて――というより、首根っこを掴んで無理やり引っ張って、だ。
 
何でさ。
 
帰ってきたらしいセイバーを何も知らず玄関で出迎えた時、心の中でそう叫んだのは、言うまでもないだろう。多分、アーチャーもそう思ったと思う。黒化したセイバーと運悪くばったり遭遇して、首根っこを掴まれてしまった時にそう思ったのか、俺の家まで引っ張られてしまった時にそう思ったのかは、分からないけれど。
 
これは後日わかったことなのだが、セイバーが黒化してしまった原因は、サッカーに誘った近所の子供たちが、悪戯心を起こしてセイバーのアホ毛――いや、くせ毛を引っ張ったから、だったらしい。幸いなことに、黒化したセイバーは悪戯をした子供たちには目もくれず、黙ってすたすたと公園を去ってしまったらしいから、子供たちが黒化したセイバーの被害にあうことはなかった。よかった、と本当に思う。――ほんのちょっぴり、セイバーを黒化させたそれ相応の報いを受ければよかったのにと思う気持ちがあったのは、秘密だ。

「風呂いっぱいに、ゼリーを作れ。今すぐに、迅速に、だ」
 
混乱と戸惑いを露わに石のように固まってしまった俺と、無理やり首根っこをつかまれ、ここまで引きずられてきた混乱と痛みと戦っていたアーチャーに、黒化したセイバーは、威厳さえ垣間見えてしまいそうなほどきっぱりとした口調で、言った。というか、命じた、といった方が正しいだろう。言下に、「逆らえば殺す」と聞こえてきそうなその重く黒い言葉に、俺たち二人が、逆らえるはずもない。俺たち二人は、「はい…」と情けないほどか細く、頼りない声で、その命令を恭しく、承るしか、なかった。
 
かくして、風呂ゼリーは、俺とアーチャーの尊い犠牲――ではなくひたむきな労働のおかげで、1時間ほどばかりで完成した。今頃、黒化したセイバーが、満足そうに、幸せそうにもっきゅもっきゅと味わっていることだろう。
 
俺とアーチャーは、風呂ゼリー作りという過酷な労働に体を打ちのめされ、風呂ゼリーという得体のしれない未知との遭遇に精神をも打ちのめされ、居間にばったりと倒れこんでいた。いろんな意味で、疲れてしまった。
 
でもまあ、風呂プリンうよりはましか、と俺は思った。風呂プリンの時は、プリンの濃厚な甘いにおいに、自分が食べるわけでもないのに、ずいぶんと胃にダメージを負ってしまった。ゼリーはプリンほど濃厚なにおいはないし、風呂プリン作りの時のことを踏まえて鼻栓をしておいたから、黒化したセイバーが風呂ゼリーをもっきゅもっきゅと食べる様子を考えないように、想像力を一時的に封印することで、そこまで精神的なダメージを負うことはなくなる。
 
俺は、疲れ切った体を少しでも癒すべく、台所へ移動して、煎茶を淹れることにした。急須に茶葉をいれ、ポッドから湯を注ぐと、ふわんとお茶の苦く、けれどどこか包むこむような甘いにおいが、鼻孔をくすぐってくれる。湯呑に注いでゆっくりとお茶をのどに流し込むと、体の中をじんわりと優しく温めてくれる。

ほうっと、ようやく一息つくことができた。
 
ふと、何気なく台所から居間にいるアーチャーを覗き込もうとすると、さきほどまでぐったりと居間に倒れこんでいたはずなのに、居間にアーチャーの姿はなかった。  

あれ、と思ってきょろきょろと視線をさまよわせて探すと、アーチャーはいつの間に移動したのか、縁側に腰掛けていた。

外の空気を吸って、気分を変えたかったのかもしれない。それでもその背中は、疲労によってぐったりと丸められていた。
 
その背中に、俺は思わず、親近感のようなものを覚えてしまった――のかもしれない。風呂プリンに続き、風呂ゼリー作りという、肉体的にも精神的にも過酷な労働を共に強いられ、仲間意識が生まれていた――のかもしれない。ともかく、普段の俺だったら、絶対にしないのは確かだ。

「――ほらよ」

ぶっきらぼうに聞こえるように低い声で、俺は縁側に腰掛けているアーチャーの隣に、もう一杯淹れた煎茶と、客用にと買い置きしていたどら焼きを置いた。差し入れ、というヤツだった。

アーチャーは、疲れのせいなのかどこかぼんやりとしたまなざしで、俺と煎茶とどらやきを交互に見てから、ぼうっと煎茶を軽く一口啜った。

お、飲んだ――そう思った瞬間、アーチャーは「はっ」とさきほどまでぼんやりと疲れ切った表情を見せていたのがウソだったかのように鼻で笑って、俺に向かって言った。

「相も変わらずなってないな小僧。煎茶というものは80度以下のお湯でいれることで、煎茶特有の甘味と風味がいきるんだ。こんなポットの湯をそのまま急須に注いだ90度以上はある熱い湯では、この茶の持つ風味と香りが損なわれて、ただ苦みが出るだけだ」

最後に、「そんなことも分からないのか?」と、哀れみと侮蔑が込められたまなざしを、むけられてしまった。
 
バカなことをした――俺は、深く後悔した。ていうか、俺はいったいどうしたっていうんだろう。きっと、疲れのせいでちょっとおかしくなってたんだな。でなきゃ、アーチャーに差し入れなんて、バカなことしないもんな。ていうか、んなこと言うんならどら焼き頬張ってるんじゃねえ返せこの野郎。
 
よっぽどそういってやりたくなったが、そんなことを言えば、また鼻で笑われて、バカにされるのがオチだ。俺は怒りで震える体を何とか抑えて、黙って縁側から踵を返した。黒化したセイバーは風呂ゼリーを食べ終えれば多分もとに戻るだろうし、アーチャーも煎茶を飲んでどら焼きを食べて、疲れが少しでも癒えれば、黙って帰っていくだろう。セイバーがもとに戻ったら、風呂を洗わないと。

そんなことを思いながら、俺は再び急須にポッドの湯を注いで、風呂洗いに備えて、少しでも体力を回復することに専念した。

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