抱きしめてトレーナーの浮気遍歴を囁くラッキーライラック
浮気(結婚もしてないし付き合ってもいない)調査を終えたラッキーライラックの話。
トレーナーは担当のものだから、ね……。
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夕方のトレーナー室。トレーニングが終わり、一足先にトレーナー室に戻っていた俺は、制服に着替えた担当のラッキーライラックが戻った瞬間、立ち上がった。僅かに残った業務を片付けようとデスクへ移動しようとした直後、ぎゅう、と腹部に腕を回されて、柔らかいものを押し当てられる。
「────ララ?」
「なんです?浮気性のトレーナーさん」
「浮気もなにも、俺たち付き合ってないよね」
そう、別に付き合ってはいない。数年間、担当とトレーナーの関係を保ってはいるが、付き合ってはいない。断じて。
「へぇ、そうやってしらばっくれるんや。毎日毎日、他の子とおしゃべりしてデレデレして。女性のトレーナーさんともお出かけしてるの、知ってるんやから」
「えーっと……確かに他の生徒と話してることはあるけど、それ以外はあんまりしてないんじゃないかなぁ……」
ララの言っていることは半分当たりで半分外れ、だと思う。彼女のおかげで俺も名が売れ、他の生徒にアドバイスをしたり、試走を見て欲しいと言われる機会が増えた。それをトレーニングや業務の合間を縫ってほぼ毎日行っているため、そう見えたのだろう。しかし、半分については全く心当たりがない。仮に行っていたとして、言うほど高頻度だろうか?
「────9月3日、5日、8日、12日、16日、19日、21日、24日、29日」
「え?」
突然、バラバラの日付を囁かれる。
「10月2日、4日、9日、11日、17日、20日、23日、27日、29日」
「え、なになに怖い怖い」
「11月5日、6日、8日、10日、13日、16日、19日、22日、24日、26日、28日……これ、なんの日付やと思います?」
「えっと……なんの日付?」
「トレーナーさんが女性と一緒におった日付ですけど」
「────……」
自分のことながら絶句した。さっきまで半分外れだとか思っていたのはどこのどいつだ、めちゃくちゃ出掛けているじゃないか。連続で行っている日と数日間隔が空いているのが余計に生々しい。いや、実際にあったことなんだけど。
「それで、誰があんまりしてないって?」
「すみませんでした……」
いやもう、謝るしかない。この頻度で異性と一緒にいたことに疑問を抱かない自分が憎い。いや、少しは気付けよ、どうして俺はこれを平然と受け入れていたんだ。
無事(?)ララの怒りを買ってしまった俺は、彼女から更なる拘束を受ける。
────柔らかいな。ここまで押し付けられるとララの方が心配だが、なにも言わない所を見るに、問題ないらしい。
ぎゅむ、ぎゅむ。豊満な胸のおかげで、ララの胸以外が密着することはない。密着するだけでもまずいのはそうだが、俺が好きなのもあって余計な情報まで取ってしまう。いい匂いだな、とか。腕細いな、とか。いろいろ。
「あーあ、ショックやなぁ。うちのトレーナーさんがうちより他の女性と会っとったなんて。それもたくさん。なぁ、誰がお気に入りなん?教えてくれへん?」
「お気に入りもなにも、みんなただの同僚だよ?」
「ふ〜ん…………」
ララの顔は見えないが、長い付き合いだ。今の彼女は言葉通り、俺に疑いの目を向けている。確実に。
「女性トレーナーだけじゃなくて、男性のトレーナーと一緒にいることもあるし、偏った交友関係は作ってないよ」
他のトレーナーとの交流は、男女問わずいい刺激になる。学びや情報の交換────それだけでも、十分価値がある。たまに全く関係ない話が出たりもするけど。
「……確かに、そうでしたね。トレーナーさんが男性のトレーナーさんと一緒におった所も見ました」
「そうでしょ」
あれだけ事細かに記録されているのだ、ララは毎日俺を尾行していたはず。となれば当然、俺が女性以外といたことも知っている。それでも会いすぎだとは自分でも思うが。
「…………なぁ」
「なんです?」
「俺、夜遅くに帰ることもあるんだよ。他のトレーナーと飲み会行った時とか、介抱することがよくあって」
「そうなんや」
「……どうして、そこまで事細かに記録できてるんだ?」
「…………トレーナーさんみたいな勘のええ人は好きですよ」
あ、これ聞いちゃいけないやつだったかも。
「なんて、冗談です。トレーナーさんの同期の方に協力してもらって、どんな人と会ってるか教えてもらってるんや」
「そ、そうなんだ……」
良かった。てっきりララにストーカーされてるんじゃないかと思った……いや、なにやってるんだそのトレーナーは……自分の担当のこともあるだろうに。
想定していた最悪のケースが外れたことに安堵すると同時に、未だ抱きついている彼女から次になにを言われるか、想像がついた。
毎日見ているということは、アレを知っているということ。他のトレーナーと交流する中で起こる、全く関係の話────所謂、プライベートの部分。
「それで、次は誰と合コン行くん?」
「────すぅ〜……」
怖い。声色も口調も普段と変わらないのに、顔を見れない。たおやかの振る舞う君はどこに行ってしまったんだ。
「いつ?」
ぎゅ……。
「どこで?」
ぎゅう……。
「何時に?」
ぎゅ……ぎゅう〜……。
「誰と?」
ぐっ……ぐぐっ……。
質問を重ねていくにつれ、拘束が強くなる。女性しか持たない膨らみを存分に利用して、早く答えろと急かしてくる。
「ほら、はよ言わんと。こんな所誰かに見られたら困るやろ?それとも、こうされるのが好きなんですか?」
めちゃくちゃ好きだね。ここじゃなかったらずっとやってもらいたんだけど……ララの言う通り、誰かに見られるのもまずいしなぁ……。合コンの目的だけでも話しておこう。
「俺は別に相手を探しに行くわけじゃないよ。埋め合わせで行くだけで、終わったらさっさと帰ってくる」
「……浮気性の人が言うても説得力ありません」
「今までの合コンも全部埋め合わせ。見た目が良いからって、よく駆り出されてたんだ」
俺の同期が見ていたのは、俺が店に入る時や出る時に誰と一緒にいたか。なぜ一緒にいたのかは分かっていないはず。
「ララは、俺にどうして欲しい?」
「…………他の女性と、一緒におらんで欲しいです」
「それは……ちょっと無理かな。ララのトレーナーとして、得られる情報源は活用したいから」
こればかりは、ララに折れてもらうしかない。
「でも、善処はする。会う機会も減らす、ララと一緒にいる時間を増やす。これでどうかな?」
「……」
少し拘束が緩む。彼女なりにケジメを付けて、提案を受け入れてくれたようだ。
「ララに関することが最優先事項なのは、昔から変わってない。人付き合いが必要な仕事だからああいうイベントにも参加してきたけど……ララが嫌なら、もう行かない」
「嫌です。うちを置いて他の人のところ行かんといて……」
グリグリと頭を押し付けられる。腕の力は弱くなったが、依然として離れない。その気はなかったとはいえ、それは当事者の気持ちであり、周囲がどう思うかは分からない。
「わかった」
誘ってくれたトレーナーには悪いが、キャンセルを入れておこう。そもそも、俺はララ以外と付き合うつもりはないが。
「……次、同じことしたら襲いますから」
「しないよ。というかララの場合、襲う前に泣いちゃいそうだ」
「な、泣かへんよ!絶対うちの魅力で骨抜きにして、うちがおらんと生きていかれへんようにしてあげます!」
「はは、楽しみにしてるよ。好きな子に襲われるのも、それはそれで良さそうだから」
「────へ、は、え?」
フリーズしたララを横目に、椅子に腰かける。
「〜〜〜〜っっっ!!!!」
数秒後、顔を真っ赤にしたララが転がるようにトレーナー室を出て行った。