シュヴァルグランが寝不足のトレーナーを胸元に抱きしめて寝かしつけてしまう話
シュヴァちを抱き枕にしたいという一心で書きました。
なんかえらい久しぶりにこの子書いた気がする。
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「ト、トレーナーさん……ぼ、僕、怒ってるん、ですよ……っ!」
彼女の大きな声に、俺は思わず動きを止めてしまう。
真正面には泣きそうな怒り顔を浮かべいる、担当ウマ娘の姿。
明るい茶色のショートヘア、澄み渡る空のような綺麗な瞳、大きな白いマリンキャップ。
シュヴァルグランは身を乗り出し、顔を近づけて、こちらをじっと見つめていた。
穏やかで控えめな彼女の、突然の剣幕。
予想だにしていなかった状況に、俺はぽかんと言葉を失う他なかった。
そんな反応が不満なのか、彼女の瞳はますます潤み、眉尻は吊り上がっていく。
「……昨晩も、遅くまでトレーナー室に残ってましたよね?」
シュヴァルはため息を吐き出してから、静かに言葉を紡ぐ。
それは落ち着いたというより、必死に怒りを堪えているという様相だった。
「あ、ああ、少し仕事が残っていてね」
シュヴァルからの質問に対して、俺は正直に答える。
ここの所、色々と頼まれ仕事や急用が重なって、事務処理が溜まっていたのだ。
彼女のトレーニング等に支障が出るといけないから、と昨日で一気に終わらせたのだが。
「それに、家に帰ってからも、寝ないで仕事してましたよね?」
「そ、それは」
その言葉に、どきりと心臓が跳ねてしまう。
全くの図星であったから。
結局、残業だけでは消化することが出来ず、いくらかは家に持ち帰っていた。
とはいえ、そんなことをシュヴァルは知る由もないはずなのだけれど。
「……わかりますよ、僕だってトレーナーさんのこと、ずっと見ているんですから」
俺の思惑を見透かしたよう、シュヴァルはぽそりと呟く。
そして、彼女はその端正で愛らしい顔を、息がかかりそうな距離まで近づけた。
ふわりと漂う、甘く爽やかな香り。
別の意味で再びドキリとしながら、俺はその場で固まってしまう。
「シュ、シュヴァル?」
「……目の下の隈、真っ赤に充血した目、少し乾燥した肌、ちょっと濃い匂い」
「……ッ」
「トレーナーさんの変化は、すぐにわかります……心配、なんです」
不安気に響く、シュヴァルの声。
彼女はとても心優しい少女だ。
家族や友人達のことをとても大切に想っていて、俺のことも考えてくれている。
そんな彼女を────こんなにも、心配させてしまった。
トレーナー、失格だな。
俺は自嘲気味に苦笑いを浮かべて、彼女に対して頭を下げた。
「……心配かけて、すまなかった」
「あ、い、いえ! あっ、謝らないでください! 僕、そんなつもりじゃ!」
「わかってる、でも謝らせて欲しいんだ、不安にさせてしまったこと」
「……はい、もしもトレーナーさんが倒れてしまったらどうしよう、って」
「俺に怒ってくれて、ありがとうシュヴァル、今後は気を付けるよ」
「わかってくれれば、いいんです……それじゃあ今日はもう、おやす────」
「後、この書類の山を片付けたら帰るから」
「……はい?」
「大丈夫、二時間もあれば処理出来るから、キミに心配は」
「こっ、こここ、ここ……っ!」
「……シュヴァル?」
突然顔を伏せて、声を震わせるシュヴァル。
急にどうしたのだろうか、と思い彼女の様子を窺うと。
「こ、こらぁーーーーっ!」
刹那────シュヴァルの怒号が響き渡った。
顔を上げた彼女は怒りに身を震わせつつも、目尻に雫を貯めている。
そして、状況の急変に困惑している俺の頭を、両手でがしっと掴んできた。
「もうお仕事は禁止です! パソコンも見ちゃダメです!」
「いや、ちょ、シュヴァル……!?」
「そっ、そうだ、こうすればもう、パソコンを見ることが出来ませんよね……!?」
ぴこんと、立ち上がるシュヴァルの両耳。
何かを閃いた彼女は、そのまま力任せに俺の頭を引き寄せて────。
「……わぷっ!?」
────自らの胸元に、ぎゅっと押し込んだ。
顔面が、ふんわりとした柔らかさに包まれる。
鼻腔に流し込まれる甘ったるい芳香、ぽかぽかと暖かな温もり。
二つの膨らみの存在に顔を挟み込まれて、否応なしにその生々しい肉感を堪能してしまった。
「だめです、ちゃんとに睡眠をとって、しっかりと休まなきゃ……!」
シュヴァルの叱りつけるような声。
それは、しっかりと猛省せねばならない内容なのだが、正直それどころではなかった。
マシュマロのような感触は思考を鈍化させて、清潔感のある華やかな匂いは理性を削り取る。
それに、睡眠不足と疲労もあり、限界も近かったのだろう。
ウマ娘特有の、湯たんぽのような体温に触れ合って、少しずつ意識が遠のいていく。
い、いかん、担当ウマ娘の胸に顔を埋めた挙句、眠るなんてあってはならない。
何とか意識を保とうと、必死に耐えようとしてみるのだが。
「トッ、トレーナーさん……?」
「…………………………ぐぅ」
結局、まともに堪えることすら出来ず、俺は眠りへ落ちてしまうのだった。。
◇
「……んん」
水底から浮かび上がるように、意識が覚醒していく。
妙に爽快感のあるすっきりとした頭、しっとりと汗ばむ横になった身体。
思考にかかっていたもやが少しずつ晴れて行き、俺は寝る前の状況を思い出した。
「シュヴァ……もが!?」
反射的に声を出してから、目を開けたのに視界が塞がっていることに気づく。
そして直後、ぴくんと顔面を包んでいたものが小さく震えた。
「ひゃん……きゅっ、急に動かれると、くすぐったい、です……っ」
「ご、ごめん、でも、何でこの状態で……!?」
鼓膜を揺らす、シュヴァルの恥ずかしげな声とトクトクと鳴る心臓の音。
ここまで来てようやく、現状を把握することが出来た。
トレーナー室に置いてある簡易ベッド。
俺はそこへ、彼女の胸に顔を埋めて抱き締められたまま、一緒に横になっていたのだった。
困惑する俺に対して、シュヴァルはさらさらと柔らかな手で頭を撫でながら語りかける。
「本当は、寝づらいだろうから、枕で寝てもらおうと思ったんです」
「あ、ああ」
「でも、その、えっと………………トレーナーさんが、離してくれ、なくて」
「……」
言われて、気づく。
俺の両腕がシュヴァルの背中へと伸びていて、縋りつくように抱き着いていることに。
幸福感の詰まった柔らかさ、染み入るような甘い香り、満たされるような暖かさ。
これらにずっと、沈み込んでいたいと、自分が思ってしまっていることに。
「……すいません、ちょっと、離れてくれますか?」
「…………あっ、ああ、ごめん! 本当にごめん!」
シュヴァルの言葉に、ハッと我に返る。
俺は慌てて彼女の身体から手を離して、簡易ベッドから飛び上がるように立ち上がった。
途端、冷たい空気に身が晒されて、どうしようのないほどの寂寥感が心の中を吹き抜ける。
「……っ」
ベッドの上に残っているのは、火照ったように真っ赤な顔のシュヴァル一人。
彼女は女の子座りのぽやんとした様子でで、俺のことをぼーっと見つめている。
やがて、彼女はぽそりと小さな言葉を発した。
「…………あの、少しだけ、後ろを向いてもらえますか?」
「わっ、わかった」
シュヴァルの要請に応えて、即座に回れ右をする。
何のためなのかはまるでわからないが、断る理由は皆無だったから。
やがて、ごそごそと衣擦れが響き、ぷちっと何かが外れて、しゅるりと布を引き抜く音が聞こえた。
「もっ、もも、もう、大丈夫です、よ?」
「そ、そっか」
声をかけられて、緊張しながらも再びシュヴァルへ向き直った。
着替えるような音が聞こえていた割には、彼女の様子に変化は見られない。
強いて言うなれば、先ほどよりも頬が赤く染まっているように見える、くらいだろうか。
やがて、彼女は意を決したような表情で顔を上げて────両手を大きく広げた。
「では、どうぞ」
「……えっ?」
「まだ、一時間くらいしか寝てません、トレーナーさんは、もっと休むべきだと思います」
妙に淡々と響く、シュヴァルの言葉。
それ自体はもっともな内容ではあるのだが、状況が色々とおかしい。
ちゃんと休むなら帰宅するべきだし、少なくとも、彼女と一緒に眠るべきではないだろう。
そのことは明確だというのに────俺は拒むための言葉を、発することが出来なかった。
心のどこかで、思っているのだ。
また、あの天国のような空間で、眠りに落ちてしまいたいと、思っているのだ。
しかし、そんなことを言えるはずもない。
そんな俺の葛藤を嘲笑うかのように、シュヴァルは目を細め、妖艶な微笑みを浮かべた。
「…………今度はもっと柔らかくて、暖かくて、気持ち良いと思いますよ?」
その言葉とともにシュヴァルが胸を張ると、その膨らみがぽよんと躍動する。
先程、彼女は何を外したのか。
そんなことは俺が知る由もないが、気づけば誘われるように、彼女へ向けて足を進めていた。
「ふふ……♪」
ぱたぱたと、シュヴァルの尻尾が嬉しそうに揺れ動いた。
だめよシュヴァル、そんなはしたない事をお姉ちゃんは許さないわ。