新幹線が速いのは、技術力だけではない。東京駅のホームにいるピンク色の制服を身にまとった清掃員も、重要な役割を担っているのだ。
ホームに滑り込んできた車両が、折り返し新大阪方面に向けて出発するまで平均16分程度。車内清掃はこの間、「超特急」並みのスピードでこなさなければならない。
乗客の目を楽しませようと、アロハシャツで作業を行う清掃員
ドアが開くと同時に車内に駆け込むと、ものすごい勢いで座席のほこりを掃き、窓やテーブルを拭き、座席カバーを取り換える。手には、電動クリーナーやゴミ袋。10分足らずですべての車両をピカピカにすると、ホームで乗車を待つ乗客に一礼。風のように去っていった。
清掃員は東海道新幹線だけでなく各地の新幹線にも広がっている。JR東日本が運行する東北新幹線などを担当する清掃員は利用客に「魅せる清掃」を楽しんでもらおうと、アロハシャツや浴衣、冬はサンタクロースの衣装などをまとう。
車内清掃のことをJRでは「新幹線劇場」と呼ぶほど。米CNNなど海外メディアから「奇跡の7分間」などと紹介され、今秋から米ハーバード大のビジネススクールで、新幹線の車内清掃が必修科目で取り上げられることになった。
ただ、一番の栄誉は、新幹線と速度競争を繰り広げ、「技術力では負けない」と自負する欧州の高速鉄道TGVからのこんな言葉だろう。TGVを運行するフランス国鉄総裁も視察に訪れてすっかり脱帽し、こんな言葉を残している。
「これだけはかなわない。清掃員を連れて帰りたい」
10分足らずの猛スピードで進められる清掃作業(作業中に撮影した写真17枚を合成=7月30日、松田賢一撮影、画面合成は佐々木勲)
実は清掃作業だけにとどまらない。ホーム子どもがホームを走り回らないよう新幹線のシールを配り、大きな荷物を抱えた年配の乗客がいれば階段の上り下りを手伝う。乗り換えの案内や出発時刻を尋ねられれば答えてくれる。
清掃員の指導役を務める「JR東日本テクノハートテッセイ」の渡谷卓哉さん(40)は、「お客様に旅の時間を快適に過ごしてほしい」。そう言って、ホーム上に落ちていた、たばこの吸い殻を目に付き、ひょいと拾った。
※タイトルイメージに使用の新幹線車両写真はJR東海提供