日本を蝕む”朱子学”の闇 その57

 

 道教の祖・老子は現在の河南省で生まれたと考えられている。老子は老君堂村で作品を執筆、時折指南を行っていたといわれる。村では老子の功績を顕彰するため寺院が建立され、一年を通じて大勢の来訪客迎えていた。そして、2013年、村の住民たちは偉大な哲学者の老子に敬意を表するため、寄付を募り、老子像を建てたのであった。が、その偉大な老子の像を中国共産党は粉々に破壊したのである。

 

破壊された老子像

 

 道教は、中国三大宗教(儒教・仏教・道教)の一つで、古代の神仙思想や老荘思想を核とした多神教である。日本には紀元前に徐福がもたらし、それが日本では「八百万の神々」を信奉する古神道となった。中国の道教では不老長生(仙人)や現世利益(福・禄・寿)を追求し、無為自然の「道(タオ)」に従う生き方を説く。漢方、気功、風水、占術など、民間信仰や中国の伝統文化に深く根付いており、中国の根幹に関わる宗教を超えた教えである。

 

 道教は中国共産党が認める5つの宗教の一つであった。1957年以降、宗教としての「道教」中国道教協会によって運営されてきたが、2018年2月に新たな宗教事務条例が施行され、共産党政権は紀元前の昔から中国で信仰されてきた仏教と道教の自由までも弾圧を開始したのである。さらにこうした古代からの宗教に対する弾圧に加え、新興宗教、外国の宗教など、あるゆる宗教に対する弾圧を行っているのである。つまり、共産党と習近平を崇拝すること以外、あらゆる宗教への信仰は許さないということだ。

 

 習近平にとってイスラム教徒だろうがキリスト教だろうが関係ない。弾圧すべきは「宗教」そのものなのである。中国共産党が権威維持を目的として宗教を弾圧してきたということに対しては、これまで長年にわたり批判の声が上がっている。「ナショナルレビュー」の記事には、「中国国内で発生している宗教の自由の侵害は、国連が支持する国際人権の規範に完全に反する。中国や志を同じくする他国政府が権力を確立・強化する目的で考案する計画には、ジェノサイドや非人道的犯罪と同程度に深刻な人権侵害が伴う。これに対抗するには、信教の自由の擁護が重要な要素となる」と記されている。

 

 

 2019年6月、中国北東部の吉林省通化市に住むある女性キリスト教信者は、国家公認の三自教会の牧師と話をした際、自分が通っている教会の新しい建物の建設に韓国が出資したことを何気なく伝えた。すると思いがけず、牧師はひどく心配し始め、教会に韓国とのつながりがあることを二度と人に言わないように注意したという。女性は牧師との会話を反芻して「中国では、中国の教会だと言わなければならないそうです。韓国が教会堂を建てたことが政府に知られたら、封鎖されて二度と集会を開けなくなるということです」と語っている。日本人はほとんど知らないが、中国には韓国系のキリスト教会が意外と多いのだ。

 この牧師が不安になるのも当然で、
外国と結びつきのある宗教団体を取り締まる全国キャンペーンの一環として、特に韓国のキリスト教団体などを弾圧する作戦が吉林省で大々的に進められていたからだった。2019年4月に吉林省のある自治体が出した『宗教の侵入活動の共同調査計画』では、外国と結びついている宗教関連の集会所を点検し、中国国内の宣教とオンライン活動を日々監視し、礼拝所に外国とのつながりがないか調査することを呼びかけている。同年7月4日には通化市に隣接する遼源市東豊県の政府当局が米国と韓国が関わる「外国の宗教の侵入」の弾圧について会議を開催、郷や村の中国共産党書記だけでなく、宗教局や統戦部の職員も含めて700人以上が集まり、取り締まり作戦を計画したという。

 

 外国と関係する宗教団体はどこも厳しい弾圧にさらされている。2019年6月17日、遼寧省にある韓国を本拠地とする「聖楽教会」支部の中国人牧師が逮捕され、尋問された。警察は、教会が韓国から金銭を受け取っているのかと何度も尋ねた上、教会員の情報を出させようと圧力をかけている。結局、二度と集会を開かないことを約束する文書に署名させてから、警察は牧師を釈放したという。この聖楽教会の中国本部は北東部の黒竜江省のハルビン市にある。ハルビンは日本が統治していたこともあるが、もともと戦前からロシア正教の教会がある場所である。もちろんロシア正教には手を出さないが、韓国系の教会は弾圧する。

 

上下:ソウルの聖楽教会 右:ハルビンのロシア正教の教会

 

 2017年12月8日、建てらればかりの聖楽教会の礼拝所で会衆が出発を祝っていると、警察が強制捜査に入った。逮捕された10人以上の牧師のうち4人は韓国人で、彼らは後に強制送還され5年間の中国入国禁止を言い渡された。昨年、この教会の本部は再び強制捜査を受け、教会内にあった演壇などの備品は打ち壊され、建物は封鎖された。統戦部と公安部が共同で公布した「法に準じ国外のキリスト教の侵入を捜査し、対処するための特別作戦業務計画」によれば、聖楽教会は弾圧の主な標的のひとつとなっている。

 

 この文書ではさらに、外国の宗教団体に抵抗する動きは「宗教を利用して中国に侵入」する外国勢力の阻止を求める習近平主席の一連の指示に基づいて行われていることを示している。そして習主席の発言を引用し、「決して国外の宗教勢力を我が国に根づかせてはならない。決して宗教分野での反共産党及び反政府勢力の形成を許してはならない」と定めている。毛沢東の下で中国共産党はキリスト教を完全に排除しようと試みたが、できたことと言えば、教会を世間の目につかない地下に追いやることだけだった。

 

 鄧小平が1980年代に経済開放改革を行った際にキリスト教会を根絶することは不可能だと認識した政権は、教会を排除する代わりに支配する動きに出た。カトリック教徒、プロテスタント教徒両方に向けて、文化大革命の間は閉鎖されていた国家承認の教会施設を再建する一方で、地下教会の信徒たちに対する迫害を継続していたのである。その後しばらくは緊張状態が様々な形で緩和される時期が続いた。信教の自由は許されないものの、各州の当局者の方針によっては、一部のキリスト教徒たちの状況は改善したという。

 

中国の教会とキリスト教徒

 

 実際、地域の有力者のなかには、中国共産党に直接対立しない限り、未登録の教会の集会を見て見ぬふりをする者もいた。地域によっては、信徒数が多数いる未登録の「メガ・チャーチ」でさえ許可されていた。北京のシオンキリスト教会には長年にわたって何百人もの信徒が集い、また、山西省のゴールデン・ランプスタンド教会は、5万人という驚異的な数の信徒を集めていた。しかし中国は現在、第4の時代に入っている。厳しい抑圧、政権の組織的な宣伝活動、そして新たな中央統制の時代に突入した。2013年に国家首席に選出された習近平は宗教政策に強い関心を示し、「中国化」を主目的とした国家レベルの会議を複数回開催している。

 こうした会議を経て、2018年に新しい法令が導入された。今では国家が管理する教会機構でさえ、新たな制約を受けているのだ。政権の公式な推定では
中国国内のキリスト教徒の数は5000万人とされているが、実際には少なくともその2倍は存在すると考えられている。現在すべての教会は、中国共産党への忠誠心を表すために習近平の肖像画と政権の主義が書かれた垂れ幕を宗教画の隣に一緒に、もしくはその代わりに、掲示することを強制されている。祭壇には監視カメラが設置され、すべての参列者の姿を録画している。さらに、18歳未満の人々は礼拝所に立ち入ることさえ禁止されているのである。

 

「シャープ・アイズ(Sharp Eyes/雪亮工程)」と「天網(Skynet)」

 

 中国は確実に監視大国に近づきつつある。既に26億台もの監視カメラが路上や村落の主要な入口に設置され、また多くの監視カメラの設置の標識が至る所に存在する。これは「シャープ・アイズ(Sharp Eyes/雪亮工程)」計画がほぼ完了に近づいていることを物語っている。監視が強化されることで、既に迫害を受けている宗教をもつ者たちはさらなる危険に晒されているということだ。もともと「シャープ・アイズ」は地方を標的にした新しい監視プログラムであった。当初は50の村で試験的に運用されていたが、間もなく中国全土に広がった。

 

 2016年に中国共産党の中央委員会で承認されたこの計画は、2020年までに「全ての地域を網羅し、全てのネットワークで共有し、いつでも利用可能であり、全ての場所で管理可能とすること」を目標に掲げていた。通常、どこの国もひっそりを国民監視システムを構築するものだが、「シャープ・アイズ」は世界的にも珍しい正々堂々と政府主導で構築された公共・民間の監視カメラネットワークでああったが、さらに「AI」が加わったことで、監視映像をAIで解析する巨大な監視・防犯システムとなった。防犯システムという言い方はもちろん共産党政府の表現だが、実際に泥棒や強盗は30分以内に逮捕されている。

 

 中国の人民には「監視カメラがいっぱいあって安全」などと狂ったことを言う人間も多いが、これぞまさに「デストピア」である。ジョージ・オーウェルの不朽の名作『1984年』(1949年刊)は、絶対的な監視と全体主義が支配する暗黒の未来を描いた、ディストピア文学の最高峰だ。真理省、ビッグ・ブラザー、ニュースピーク、二重思考といった概念で、思考や歴史、言葉さえも支配される恐怖を描き、現代の監視社会への警鐘として読み継がれている。中でも「テレスクリーン」によってあらゆる行動や会話が監視されるとした部分は、「監視カメラ+スマホ+AI」で実現している。まさに慧眼だ。


 

 『1984年』の舞台は1950年代の核戦争後、世界を3分割した超大国の1つ「 オセアニア」という国になっている。そこには「ビッグ・ブラザー」という独裁者と、党が支配する体制となっており、言語(ニュースピーク)を制限して思考能力を奪い、「二重思考(ダブルシンク)」で矛盾する現実を信じさせることが行われているというストーリーだが、歴史や事実が都合よく改ざんされる中国や韓国と同じであり、さらにSNS上にはフェイクニュースやフェイク画像・動画が溢れ、それをユーザーの嗜好に合わせてオススメしてくる2026年の現代社会と類似しており、恐怖が身近に感じられる名作だ。

 

 『1984年』はソビエト連邦の全体主義を風刺し、理想が独裁へ変質する過程を描いた寓話だが、共産主義ではなくなり、西側諸国の品物が市場から消えたロシアは、現在、国民が健康を取り戻し、経済も完全に復調している。西側製の薬漬けの食べ物や飲み物を摂取しなくなったことで、逆に国民が健康体となり、さらに国内で製造された商品が消費されることで、製造業も復活している。中国もアメリカも事実上は経済破綻しており、不健康な人間だらけという事実を考えると、実は戦争中であってもロシアだけがユートピアになっているというのは、まさに皮肉としか思えない。

 オーウェルは
『動物農場』(Animal Farm)と表現したが、それはまさに現代の中国そのものだ。2019年時点で、中国国内の監視カメラ台数は約2億台に達し、世界で最も監視下に置かれている都市ランキングでは上位5位を中国の都市が独占していたが、今や監視カメラは26億台で、一人に2台付けられているに等しい。実際、中国に行くと、外国人が宿泊するホテルの部屋には必ず監視カメラが設置されているし、ネットへのアクセスも監視されている。だが、中国の「シャープ・アイズ」は、単なる監視カメラではなく、「ターミネーター3」に登場する世界監視システム「スカイネット」と同じなのである。それが「天網(Skynet)」である。

 



 共産党政府が設置した全国の道路、ショッピングモール、駅などの監視カメラネットワークと、アパートやオフィスに設置された民間の監視カメラを統合・解析するシステムが「天網(Skynet)」である。そこに搭載されたAIにより、街中のカメラがリアルタイムで人の動きを追跡・識別し、犯罪の抑止や容疑者の特定を行っている。一見、素晴らしいと思えるのは犯罪抑止につながるからだが、一方で本連載にも書いたように、現在、中国ではクルマを使った無差別殺人も各地で発生している。いくら「天網」であろうとも、狂った人間を止めることなどできない。

 「シャープ・アイズ」は
「雪亮=雪のように明るい」という名の通り、監視カメラの映像をテレビやスマホを通じて住民が見られるようにし、地域全体で監視し合う仕組みを目指していまる。これは治安維持や犯罪捜査だけでなく、新型コロナウィルス対策や、外国人ジャーナリスト・留学生の監視にも使われていると報道されており、実際にジャーナリストから一般のビジネスマンまでが拘束されている。「天網」はAI顔認証テクノロジーを使った監視ネットワークとして、2020年までに全土の主要都市で導入を目指すとしてスタートし、中国の「監視社会」を支える基盤となっている。

 

 まさに『1984年』に描かれた「テレスクリーン」であり、この監視ネットワークの構築に協力する監視カメラメーカーのハイクビジョン(Hikvision)やダーファ・テクノロジー(Dahua Technology)などは、世界シェアのトップを占めており、これら中国メーカーのカメラが街中に設置されている。そこに高度な顔認証システム、ネット履歴、犯罪歴などを組み合わせ、14億人の完全管理を目指すディストピア的な社会構造が構築されているのである。

 


屋外も屋内も常に監視カメラが作動している

 「シャープ・アイズ」は防犯上のメリットが強調される一方で、プライバシーの侵害や、市民同士の監視による相互不信につながる可能性も指摘されている。なにせ平気でホテルのベッドで愛し合っている監視映像を販売する監視官も大勢いるのだ。監視といいながらもそこは中国、なんでも売れるものは売ってしまおうというのは公安当局も同じなのである。「天網」は、中国本土のみならず香港の監視カメラも連携させている。


 老子や魏書の「天網恢恢疎にして漏らさず」に由来するとされるが、英訳するとAIの危険性を訴えたジェームズ・キャメロンの『ターミネーター』に登場するコンピュータ「スカイネット」と同名であることから英語圏や日本の一部メディアで「スカイネット」と呼ばれているが、きっと共産党政府はこの映画を着想にして監視ネットワーク網を思いついたに違いない。なにせ中国が開発するものは、すべて海外のパクリだからで、だからAIを使うことも思いついたのである。

 

 実際に中国に行った方は分かると思うが、空港だろうが駅だろうが、必ず指紋と虹彩の撮影を強要される。中国製の電化製品やWi-Fi機器からも情報は流れ、それは筆者のように中国の悪口ばかりを言っている人間が入国した際に、すぐに逮捕できるようにするためである。もはや「天網」の危うさは日本や台湾を始めとするアジアをも寝食し始めている。

 

<つづく>

 

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