ヴィルシーナが卒業した。
「遂に担当が卒業するなんて……」
「……貴方には感謝しています。」
「こちらこそ、ありがとう!」
「校門を抜けてしまえば、私と貴方はトレーナーと担当ウマ娘という関係ではなくなります……わね。」
「へ」
「…………」
「あの、今のってどういう……」
「次からは……私を女性として、見ていただけますか?」
俺はそういうことに疎い。そんな俺でも彼女の赤らんだ顔を見れば真意は分かる。しかし……
「ああ。妹のように接するよ!」
俺はクソボケを演じる。
「っ……それでも構いませんっ。」
────────
「あれ……シーナ、来てたんだね?」
「あら、妹のように接していただいても構いませんのよ?」
かなり根に持っているようだった。
「流石に、君を妹のように扱うなんて出来ないよ」
「ふふっ。」
「今日はどの用事で来てくれたの?」
「……貴方に会いたかったんです。」
「へ」
「私の中で貴方は、家族のように大切な存在……ですもの。」
クソボケを演じ続けた代償なのだろう、彼女からのアプローチが直球になってきている。
俺の心臓はうるさくなっているのが分かる。彼女にこの音が聞こえなければいいのだが。
「俺に会いに来てくれたなんて……嬉しいなぁ」
「それだけ、でしょうか?」
「え」
「私は、そういった関係になりたいと考えています。」
「え?」
「いかが……かしら。」
覚悟を決めたヴィルシーナの表情に固唾を飲み込む。でも、俺は彼女を好き過ぎるからこそ、首を縦に振ることはできない。
「そういった関係って?」
「そ、それは…………その」
「友達ってことかな?」
「…………………………………」
「これからは友達としてよろしくね!」
──────────
流石に嫌われたでしょ。正直めちゃくちゃ悲しいけど、ヴィルシーナにはきっと良い人がいる。
「…………まじか」
トレーナー室の扉を開けると、ソファに座るヴィルシーナの姿があった。
「……お久しぶりです。」
「久しぶりって、昨日も来てたよね?」
「あら、嫌だったでしょうか?」
「もちろん嫌じゃないよ」
忘れていた、彼女は簡単に諦めるような女性じゃないということを。自分が、彼女のそういうところに惚れたことも。
「……考えてみました。」
「なにを?」
「友人……から始めるのも大切、ですわね?」
「え?」
「思えば、プライベートの貴方を見たことがない気がします。」
「そうかな」
「ですから、友人として……そういった関係を前提にしたいです。」
「え」
「構いませんわね?」
「……えっと」
「返事は必要ありません。」
「……………」
ヴィルシーナの真剣な表情を見て、とてもクソボケが出来る空気じゃなかった。
────────
ヴィルシーナと河川敷を歩いている。
「私が卒業して1ヶ月が経ちますわね。」
「ああ、そうだね」
「こうして……貴方とも、定期的にお出かけをしています。」
「ああ」
「そろそろ、次の関係に向かうのはどうでしょう?」
「次の関係?」
「は……はい。次の関係ですっ。」
「友達の次だし“親友”みたいな感じ?」
「……………………………」
彼女は、呆れを通り越して驚いた顔をしていた。
「シーナ?」
「実は……お見合いを考えているんです。」
「お見合い!?」
「トレセン以外に出会いを探してみるのもよろしいと思ったんです。」
「そ、そっかぁ〜」
「…………貴方は、どう思いますか?」
「君なら、きっと素敵な人と出会えるよ」
「…………そう、だと嬉しいですわ。」
──────────
「待って?あの、お見合いはどうなったの?」
「あれは冗談です。」
「え、冗談?」
「冗談でも、貴方に止めていただきたかったんです」
「え」
「やだ…………貴方でないと、嫌なんです。」
「まって。シーナ、近いよ……」
「どうして止めてくださらなかったの?」
「大事な担当のお見合いを止めたりできない」
「やだ……お願い……」
「ちょ……息がくすぐったいよ」
ぎゅううぅ
「あ。まって、完全にハグだから、これ」
「ぎゅって、ずっとしたかったんです。」
「これ。本当にやばい……」
じんわりと温もりが体に広がる。甘くて色っぽい香りが肺を満たしていく。
「すき……すきっ、すき……♡」
「だ、だめだ」
「ダメでは、ありませんわ」
「あ……ちょっ」
柔らかいのが当たって、息がしづらい。
「あの……」
「うん?」
「近々、引っ越すことに決めたんです」
「…………そっか。シーナが決めたことなら仕方ないよ。」
「これも、止めてくださらないんですね」
「ああ、困ったことがあったらサポートするから」
「ふふっ。心強いです。」
──────────
「おはようございます。」
「ふぅ…………そう来たか」
玄関の扉を開けるとヴィルシーナの姿があった。
「隣に引っ越しました。」
「まじかぁ」
寝起きの目を擦る。彼女が隣に越してきたなんて、きっと夢に違いない。
「あと、お味噌汁……作り過ぎたのでお裾分けです。」
「ありがとね、あっ、待って。俺の家勝手に!?」
「お邪魔します。」
やばい。卒業してからヴィルシーナが積極的すぎる気がする。
「作り過ぎたお味噌汁は机に並べておきますわね。」
「あ、ああ……ありがとう。」
やばいやばいやばい
「困ったことがあればサポートしてくださると、貴方は仰いましたよね?」
「確かに言ったけど、何か困ったことでもあったの?」
「……実は、好きな方が居るんです。」
「へ」
「その方はずっと、ずっとずっと私を支えてくださって、人生の一部というほど大切な方なんです。」
「へぇ……」
「たった今、そんな方と個室で2人っきりになってしまいました。」
「へ」
「大好きで、堪らない貴方が」
「あの」
ゆっくりと床に押し倒される。
「これからは……私が毎日起こしに来ますわね?」
「いや、それは……」
「ここまでくればお互い、我慢しなくてもよろしいでしょう?」
「え…………」
「好き……です♡」
唇に柔らかい感触がした。
もう、耐えるなんて無理だ。
「ぁあ、俺も好きだよ……」
「ふふっ────そうでないと困ります♡」
「絶対に幸せにする」
「……約束ですわよ?」
「あぁ……」
「好き♡大好き……です♡」
「キスは待っ…………」
まぁ、いっか
担当契約した時点でトレーナーは食われる運命にあるからね、抗っても食われる時間が先延ばしになるだけだからねしかたないねしょうがないね