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トレーナーに恋する奥手なグラスワンダーは告白が成功するまで2月18日をループし続ける話/Novel by ジェネ

トレーナーに恋する奥手なグラスワンダーは告白が成功するまで2月18日をループし続ける話

13,612 character(s)27 mins

誕生日おめでとう、グラス
※ブクマありがとうございます。して頂けると次の作品も気合が入ります。

skeb:https://skeb.jp/@kandenti2
Twitter:twitter/kandenti2

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「トレーナーさんを嫌いになりたくない」

 大好きな貴方の前で雫を一粒、二粒と落としていく。
どれだけ拭っても雨の様に止まない涙。

 好きです、好きです、大好きです。
 どんなに唱えても、この運命が変わることはない。

 2月18日。私ことグラスワンダーの誕生日。
 この日を迎えるのは何度目だろうか?
 もう、数えるのにも疲れてしまった。

 1つだけ分かっている事。
それは、トレーナーさんを嫌いにならないと、繰り返す2月18日を乗り越えられない事実。
とても苦しくて、苦しくて、それでも認めなければならない。

 今はただ、ひたすら泣くことしか出来ないのであった。


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----------------------


「変じゃないですよね……」

 午後の日差しが温かい晴れ模様。
緊張から、セットした髪を何度も手鏡で確認してしまう。
鼓動がいつまで経っても忙しい。

 2月18日。私の誕生日。
ある日、トレーナーさんから「誕生日は、お出かけしない?」と誘われて、
思わず気分が高揚してしまいました。

 彼と契約をして数年目。
幾度のG1レースを制覇し、休む暇もないくらいに目まぐるしい毎日。
そんなトレーナーさんから、初めて誕生日にお誘い頂きました。

 嬉しい……と笑顔を見せて、二つ返事で了承を致しました。
浮かれてしまいますが、あくまで”親愛”の部類のお出かけ。
私とトレーナーさんは、付き合っているわけではありませんので。


 そして今日は、お出かけ当日。

 待ち合わせ場所である駅前広場。
私は予定時刻よりも30分も前に来てしまい、待ち人は今か今かと駅の改札を何度も見てしまいます。

「気合を入れすぎましたでしょうか?」

 薄いベージュのコート、シワ1つ無い純白のシャツ、淡い水色のロングスカート。
髪はハーフアップにアレンジして、赤青リボンで後ろ髪を整えています。
貴方に可愛いと褒めてもらいたくて、頑張りすぎちゃいました。

 でも、頑固者な私をここまで導いてくれた貴方は
私にとって、かけがえのない大切な人になってしまったから、仕方がないじゃないですか。

「まだですかね……」

 長くも短くも感じながら、待ち合わせ場所で何度も腕時計を確認して、
行き交う人々を見送るのを繰り返していく。

 たった30分待つだけなのに、こんなにも苦しいのかと思わずにはいられません。
”嘆きつつひとり寝る夜の明くる間は いかに久しきものとかは知る”
トレーナーさんが来てくれるまで、どれほど長く感じられるか、あなたはご存知でしょうか。

 空を仰ぎ、流れる雲を眺めていると、私を呼ぶ声が聞こえてきて耳がピクリと動いてしまいます。

「おまたせ、グラス」

「トレーナーさん」

 思わず声がはずんでしまいます。
永遠とも思える時間なんて全て忘れて、
貴方の元へ駆け寄ってしまいます。

「あれ?まだ集合時間の10分前だったけれど、
 グラスが来ているって事は、もしかして遅刻だった?」

「いいえ、ちゃんと約束の時間とおりですよ。
 私も今、到着したばかりですので気にしないで下さい」

「そっか、良かった。立ち話も何だし、行こうか」

「はい」

 本当は約束の30分前に到着しただなんて言えませんね。
彼と出会えて、少しだけ会話しただけなのに、
体中に熱が走り出して、冬場なのに暖かくて仕方がありません。

 数歩先を歩くトレーナーさんの後ろ姿を見つつ、半歩後ろから着いていく。

 今日はどれだけ素敵な日になるのでしょうか。
そんな期待を膨らませていると、
トレーナーさんが立ち止まり、私の方へと振り返る。

「そうだ、グラス。伝え忘れた事が1つあったよ」

「なんでしょうか?」

「今日の服装も髪型も、とっても似合っているよ。
 凄く綺麗だ」

「……っ!!」

 再びトレーナーさんは前を向いて歩き出す。
 ズルいですよ、本当に……。

 たった一度だけ褒められただけなのに、既に心が嬉しさで満たさていく。

 ああ……好きです、トレーナーさん。

 奥底に眠った感情を口に出さず、抑え込む。

 前を進むトレーナーさんの手を握ろうと手を出して、
冷静になり、手を引っ込めるのでした。

………
……

「はぁ~美味しいですね~」

 口に入れたお団子に舌鼓を打ち、思わずため息が出てしまいます。

 トレーナーさんと訪れたのは和カフェ。
良き香り漂う畳に、和モダンなテーブルが並び、
様々な和菓子やお茶を堪能出来る雰囲気がとても良いですね。

 お互いに注文をし、美味しい甘味を堪能中。
私は、みたらし、あんこ、よもぎの3種類の串団子を楽しめるセット。
一緒に添えられた緑茶も、とても美味ですね。

 方やトレーナーさんは和風パフェを注文していた。
沢山のクリームの上に抹茶パウダーが振り掛けられており、
確かに美味しそうではあるのですが……。

「グラス、随分と気迫ある目線でパフェを見つめるね」

「あ、申し訳ございません、トレーナーさん。
 やはり、伝統的な和菓子が好きなので、”和風”と言われると受け入れがたくって」

「はは、グラスは本当に日本が大好きだね。
 でも、和風も悪いものじゃないよ?」

 そう言い、彼はスプーンを私に差し出してくれる。
せっかく勧めてくれたのだ。食わず嫌いもよくありません。

 私はスプーンを受け取り、和風パフェをすくい上げる。
クリームの甘味と抹茶のほろ苦い感触が口内に広がっていきます。

「……」

「どうだい、グラス?」

「悔しいですけど……美味しいです」

「あはは!!素直に美味しいって言えばいいのに。
 そうだ、グラスのお団子も一個だけ貰って良いかな?」

「もちろんです。和菓子の美味しさが詰まってますよ~」

 食べ物をシェアし、美味しさを共有して幸福に包まれていく。
和風パフェに関しては、トレーナーさんに”あ~ん”をしてもらったら
もっと美味しくなったのかなって、流石に贅沢が過ぎますね。

………
……

「綺麗……」

 次に訪れたのは和アクセサリーが取り揃えられたショップ。
店内を眺めていると、ふと目についたのは梅の花をモチーフにした
小さな鈴のアクセサリーだった。

梅の花は2月に開花し、季語としても用いられています。
私と同じ誕生月なので、意識している花でもあります。

 飾られた鈴を手に取ると、”シャン”っと綺麗な音が耳に届きます。

「グラス、それが気に入ったのかい?」

「はい。とても良い音ですし、色合いもとても素敵だと思います」

「そうか。じゃあ、買おうか」

 するとトレーナーさんは鈴を手に取り、レジへと持っていきます。
 結構な値段がするのに、良いのでしょうか?

 戸惑う気持ちなんて無視するように、トレーナーさんは梱包された鈴を私に差し出す。

「グラス、どうぞ」

「ありがとうございます。
 ですが、何だか申し訳ないですね」

「誕生日なんだ、遠慮する事はないよ」

「ふふ……そうですね。でしたら、お言葉に甘えて」

 体が暖かいです。
トレーナーさんにプレゼントを貰ってしまいました。
大事にしないといけませんね。

 本当は、もう1つ購入してトレーナーさんとお揃いにしたかったですけど、
ふふ……甘えすぎですね。
”花も折らず実も取らず”
欲張りはいけません。

………
……

「一日が過ぎるのは、あっという間ですね」

 夕日が綺麗に輝く展望台。
沈む陽を眺めながら、トレーナーさんと過ごす誕生日は終わりが近づく。

 横目で隣に居るトレーナーさんを眺める。
夕焼けの茜色のせいなのか、それとも私の恋心のせいなのか、
彼の横顔がとても眩しくて目を細めてしまいます。

 視線に気付いたのか、トレーナーさんが笑みを向けてくれる。

「グラス、今日は楽しかった?」

「はい。とっても有意義な時間でした。
 今から帰るのが惜しいくらいに」

「はは、俺も同じ気持ちだよ。
 だけど、寮の門限を守らないと怒られちゃうから。
 帰ろうか」

「……はい」

 胸がとても苦しいです。
大好きな貴方と過ごせて凄く満足なのに、
まだ足りないと子どもみたいな欲望が溢れ出てしまう。

 トレーナーさんは歩き出す。
 その後姿を数秒見つめて、私は呼び止める。

「あ……あの、トレーナーさん」

「ん、どうしたんだい?」

「今年もまた、よろしくお願い致します」

「こちらこそ、よろしく」

 違う……伝えたいのは、そんな事じゃない。
 だけど、奥手な私は躊躇してしまう。

 ”好きです”

 たった一言を伝えるのに、こんなにも重たいだなんて。
胸は相変わらず忙しい。

 もし、トレーナーさんに想いを伝えて、振られてしまったらどうしよう。

 臆病な私は口を閉ざす。
今日は勿体無いくらいに幸せな誕生日だった。
だから、この想いを伝えるのは別の機会に。

 私はトレーナーさんの半歩後ろをついていくのでした。

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「今日は楽しかったな……」

 寮の自室。ベッドに体を預けて、ため息を1つ。
同室者のエルは遠征中で、今日は一人きりの夜。
消灯した薄暗い部屋は静かに感じる。

 トレーナーさんとのお出かけが終了して、その後は何もなく帰宅をした。

 夕飯を取り、お風呂に入り、ベッドで横になる。
 後は目をつむれば、いつもの日常へ元通り。

 時刻は11時59分。
スマートフォンに取り付けた鈴を眺める。
トレーナーさんから頂いたプレゼント。
”シャン”と音を鳴らせば、今日の出来事を鮮明に思い出す。

「嫌だな……」

 凄く幸せに満たされて、明日が訪れるのが怖いくらい。
手から溢れ出すくらいの幸福だったのに、
強欲な私は願わずにいられない。

「明日なんて……訪れなければ良いのに……」

 目をつむり、鈴のアクセサリーを握りしめて願ってしまう。
すると、その瞬間、手にした鈴の感触が消え去る。

「え……?」

 違和感に気付いて、目を開くと、
手にしていたはずの大切な鈴が何処かへ行ってしまった。

「外れてしまったのでしょうか?」

 ベッドから起き上がり、周囲を見渡すも見つからない。
温かな気持ちに包まれていたのが、一瞬にして背筋が寒くなる。

「ない……ベッドの下も……床にも」

 どうしましょう……。
 せっかく、トレーナーさんから貰ったプレゼントなのに……。

 暗いままだと見つからない。
焦る気持ちを必死に抑えながら、スマートフォンを手に取りライトをつける。
すると、目を疑う様な情報が入ってきた。

「どうして……」

 スマートフォンの待ち受け画面。
日付と時刻が記載されている。
当たり前なのに、奇妙な数値が表記されている。

「18日?」

 スマートフォンに表記されていた日時。
 『2月18日 0:03分』
 私の二度目の誕生日を告げてくるのであった。

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~ループ:1回目~

「おまたせ、グラス」

 待ち合わせ場所である駅前広場。
トレーナーさんは昨日……と表現するのは正しいのでしょうか?
前回の2月18日と全く同じ集合10分前に姿を表す。
同じ服装、同じ笑顔、同じ場所から、寸分違わず私の前に立っていた。

「トレーナーさん……」

「グラス、調子が悪いのかい?」

「え……?」

「あ、だって。何だかいつもと違って、ぎこちない声色だったからさ」

「大丈夫、平気……ですとは言えませんね。
 ふふ……トレーナーさんの前では嘘をつけません」

 何年も私の事を側で見てきたのだ。
僅かな精神の揺らぎくらい、お見通しですよね。

「トレーナーさん、実は私、夢を見たんです」

「どんな夢だい?」

「トレーナーさんと、お出かけする夢です。
 とても楽しかったのですが、まだやりたいことも沢山あって。
 悔しいなと思っていたら、目が覚めてしまいまして~」

「だったら、今日は後悔しないように、存分に我儘を言っていいよ。
 せっかくの誕生日なんだ。楽しまないと」

 にこやかに笑うトレーナーさんは変わらず素敵です。
だからこそ、ごめんなさい。ちょっとだけ嘘をつきました。
2月18日は二度目なんです……と言っても、信じて貰えませんよね。

 この不思議な現象の理由は不明ですが、
今日は前回みたいに、悔いなき様に甘えさせて頂きます。
せっかくの二度目の誕生日ですので。

「それじゃあ、立ち話も何だし、行こうか」

「はい」

 数歩先を歩くトレーナーさんの後ろ姿を見つつ、半歩後ろをついていく。

 すると、トレーナーさんが立ち止まり、私の方へと振り返る。

「そうだ、グラス。伝え忘れた事が1つあったよ」

「なんでしょうか?」

「今日の服装も髪型も、とっても似合っているよ。
 凄く綺麗だよ」

「ふふ……ありがとうございます」

 前回と同じく、彼は私を褒めてくれる。
たとえ、行動や会話が僅かに変化しても、トレーナーさんは変わらないのだ。
だから、貴方をお慕いしています。
好きです、トレーナーさん。

 私は彼の隣に歩き、手を差し出す。

「トレーナーさん、早速、我儘を1つ良いですか?」

「手を握って欲しい?」

「正解です」

 差し出した手をトレーナーさんは握り返してくれる。
じんわりと広がる、貴方の温もり。
思わず頬が緩んでしまいます。

 前回よりも、もっと素敵な一日になるだろうと。
 そう思わずには、いられませんでした。

………
……

「はぁ~美味しいですね~」

 口に入れた最中もなかの甘味を堪能しつつ、前回と同じ感想を述べてしまいます。

 トレーナーさんと訪れたのは前回訪れたのと同じ和カフェ。
二度目の体験を良いことに、私は別の甘味である最中を注文した。
精神の緩みを感じますが、”後悔先に立たず”です。

 そして、トレーナーさんは和風パフェを注文していた。
 前回と全く同じ物です。

「グラス、パフェが食べたいの?」

「も……申し訳ございません、トレーナーさん。
 見つめすぎると食べづらいですよね」

 トレーナーさんのパフェを見つめていたせいで、
食い意地をはっていると勘違いされちゃいました。
うう……恥ずかしい。

「グラスも食べてみる?」

 そう言い、彼はスプーンを私に差し出してくれる。
味は分かっている。
だけど、前回は出来なかった頼みごとをしちゃいます。

「トレーナーさん。せっかくなので、食べさせて頂きたいです」

 そう伝え、私は口を小さく開いて、待ちの状態になる。
 彼は苦笑しながら、パフェをすくい上げて、私の口へと運んでくれた。

「どう、グラス?」

「はい、とっても美味しいです」

 口の中に入れたパフェの味は前回と違い、とても甘く感じるのでした。

………
……

「トレーナーさん、お揃いのアクセサリーはどうですか?」

 次に訪れたのは和アクセサリーが取り揃えられたショップ。
 私は前回、トレーナーさんに頂いた鈴のアクセサリーを2つ手に取り提案する。

「グラス、それが気に入ったのかい?」

「はい。とても綺麗で素敵だと思います。
 だから、トレーナーさんと一緒の物を身に着けておきたいと思いまして」

「分かった。それじゃあ、2つ買おうか」

 二つ返事で了承してくれるトレーナーさん。
 彼はアクセサリーをレジに持っていき、購入を手早く済ませてきた。

「あの、トレーナーさん。
 流石にアクセサリー1つ分の代金はお支払い致します」

「気にする必要はないよ。
 1つは君へのプレゼント。もう1つは俺が買いたかっただけだから」

 そう言い、彼は自身のスマートフォンカバーに鈴のアクセサリーを取り付けて、笑みを浮かべる。

「ふふ……ありがとうございます」

 私も同じ様にスマートフォンにアクセサリーを取り付けた。

 ”シャン”っと小さな鈴の音が2つ響き合うのでした。

………
……

「もう、一日が終わるのですね」

 夕日が綺麗に輝く展望台。
沈む陽を眺めながら、二度目の誕生日も終わりが近づく。

 前回と違い、悔いなき様に我儘を沢山伝えて、トレーナーさんに叶えてもらいました。

「トレーナーさん、付き合って頂き、ありがとうございます」

「グラスが幸せなら、俺も嬉しいよ」

「……」

 言葉に詰まってしまう。
前は貴方に、私の想いを伝えられなかった。
今回はどうだろう。

 ”好きです”

 それを告げれば、私の心残りは全て解消されます。
 だけど、やっぱり怖くて言葉が出てきません。

 もたもたとしているうちに、陽は沈みきり、街灯の明かりがつき始める。

「グラス、帰ろうか。寮の門限もあるしね」

「あ……」

 トレーナーさんは歩き始めて、私は何も言えないまま彼の半歩後ろをついていく。

 胸が痛くて、脈が早くて、気持ち悪い。
一日中、幸福に包まれていた。
だから、今日はこれで良いんだ。

「好きです……」

 彼に聞こえないくらいに、小さな声で伝えるのが精一杯でした。

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~ループ:2回目~

「また……2月18日……」

 深夜0時5分。自室のベッドにて。
手にした鈴のアクセサリーは消えて、スマートフォンの画面には『2月18日』と表記されていた。

 2回目は最後を除いて、とても満足していたのに明日が訪れない。

「何が原因なのでしょう?」

 3度目となると、混乱よりも冷静さが上回る。
私の頭が変になった可能性を除くとして、今は現状を打破する事を考えないと。

「ドラマや小説なんかでは、主人公にとって最善の結果になれば、繰り返しを抜け出せますよね」

 2月18日を繰り返し、記憶を引き継いでいるのは私自身。
 心残りとなるのは……。

「やはり、トレーナーさんへの想いを伝える事ですかね……」

 2度目は告白しなかった事だけが後悔として残っていた。
 ならば、彼との恋を成就すれば、18日を抜け出せるはず。

「このままだと、同じ日を過ごす事になりますし、勇気を出しましょうか」

 もし、振られたらどうしましょう。
 その場合は、トレーナーさんとの関係を諦めるしか無いですね。

 私は自身を奮い立たせるのでした。

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「トレーナーさん、好きです」

 夕日が綺麗に輝く展望台。
陽が沈み切る前に、私は彼への想いをすぐさま伝えた。

「俺も好きだよ、グラス」

 そんなトレーナーさんは笑顔で返答してくれる。
ああ、違います。これは伝わっていませんね。
友愛的な”好き”だと勘違いされています。

 私も「どうせ失敗しても18日を繰り返すだけ」と腑抜けていました。
 情けない!!

「あの、トレーナーさん。
 好きと言うのは……異性として、愛しているという意味でして」

 相手に”告白”をしたと説明するのは、なんと恥ずかしいのでしょうか。
 私は思わず顔が熱くなり、目線を下に落としてしまいます。

「……トレーナーさん?」

 しばらく待っても、返事は来ない。
 私は不思議に思い、目線を彼へと戻すと……。

 貴方は口元を押さえて、顔を真赤にしていました。

「えっと……その、な。グラス……」

「……っ」

 彼の反応を見て、私も体中が熱くなってしまいます。
 もしかして……。

「トレーナーさん。
 返答を、聞かせて下さい」

「あ……そうだね。
 その……。あはは、嬉しくて言葉に出来ないや」

 すると彼は私を抱き寄せて、唇を重ねてくれた。
 驚きと、次に来たのは言葉に出来ないくらいの幸福感。

 これで後悔はありません。

 陽が沈みきっても、私の口元の温もりは消えないのでした。

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「どうして!?」

 深夜0時を過ぎた寮の自室にて。
私のスマートフォン画面に表示されていたのは『2月18日』の日付。

 トレーナーさんと晴れて恋仲になれて、後悔なんて微塵もないのに、
どうして、また今日18日がやってくるのだろう。

「もしかして、一生このまま?」

 体中の熱が一瞬にして冷え込む感覚。
私の心が原因ではなく、時間を繰り返す自然現象に巻き込まれただけだったら?

 嫌な想像ばかりしてしまう。

 落ち着いて、まずは深呼吸。

「何事も焦る事では解決しません。
 冷静に、状況を整理しないと」

 こうして、私は3度目の18日に挑むのでした。

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~ループ:■■■回目~

「ごめんなさい……」

 もう、何度と繰り返しただろうか?
 数えるのは10回目から止めてしまいました。

 幾度となくループをして、トレーナーさんと出会い、
内容を変化させても、18日が再び訪れる。

 何が原因なのか、どうすれば良いのか分からない。
徐々に精神はすり減っていき、
とうとうトレーナーさんとの外出を無視してしまいました。

 寮の自室で布団に包まりながら、一日が終わるのをジッと待つ。
スマートフォンからは何度も着信音が鳴り、メッセージ通知音が鳴り響く。
きっと、トレーナーさんが心配して、連絡をしてくれているのだろう。

「どうして……どうして……」

 あれだけ幸せな一日だったのに。
 どんどん辛さだけが積み重なっていく。

「ぁぁぁ……あああああ!!」

 叫び声を上げても状況は変わらない。
誰も助けてくれない、誰も理解してくれない。
たとえ話した所で、深夜0時を迎えれば記憶は消えてしまう。
私だけが降り出しに戻るだけなのだ。

「いやぁ……いやだぁ……」

 ひたすら叫び、疲弊して眠るを繰り返す。
 そして気づけば、一日が終わる直前の深夜11時58分。

 机に置いたスマートフォンを手に取り起動する。
 トレーナーさんからは多くの着信とLANEのメッセージが届いていた。

「ごめんなさい」

 壁掛け時計の針が重なった時、通知一覧は一瞬にして消え去り、
『2月18日』が再び現れる。

「明日は……いつ訪れるの?」

 ”明日なんて……訪れなければ良いのに……”

 ふと思い出す。
一番最初の最も古い18日の記憶。
私はトレーナーさんとのお出かけが楽しくて、そう望んだんだ。

「そっか……逆に考えれば良いんだ……」

 満足して、明日を望まないくらいに充実した日を過ごすなら、
逆に最悪の一日して、”今日”を強く拒めばいいんだ。

「となると、私に残された道は……トレーナーさんを嫌うこと」

 ”トレーナーさんの事が大嫌いです”

 そのたった一言を唱えれば、私はきっと後悔して、嫌になって、
きっと”今日”から逃げ出したくなるはず……。

「十分、頑張りましたよね……?」

 もう……疲れちゃいました……。

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「おまたせ、グラス」

 何度も、何度も、何度も、数え切れないくらいに聞いた
駅前広場の待ち合わせ場所でのトレーナーさんのセリフ。

「おはようございます……トレーナーさん」

「グラス、調子が悪いのかい?」

 これも何度目だろうか?
どれだけ隠そうとしても、貴方は私の不調について一発で見抜いてしまいます。
だけど、それも最後。

 スカートの袖がシワになるくらいに握りしめ、とある言葉を告げる準備をする。

  ”トレーナーさんの事が大嫌いです”

 それを伝えれば、18日から抜け出せる。
 だから、早く……伝えないと。

「あ……」

 声が掠れて最初の一声が出てこない。

 嫌いです、嫌いです、大嫌いです。

 何度も心の中で単語を反芻はんすうするけれど、
喉に蓋がされたみたいに出て来ない。

 だけど、出てきたのは頬を伝わる冷たい水分。
大好きな貴方の前で、雫を一粒、二粒と落としていく。
どれだけ拭っても、雨の様に止まない涙。

「トレーナーさんを嫌いになりたくない」

 やっと絞り出したのは、そんな本音の言の葉。

 好きです、好きです、大好きです。
どんなに唱えても、この運命が変わることはない。

 2月18日。私の誕生日。
この日を迎えるのは何度目だろうか?
もう、数えるのにも疲れてしまった。

 とても苦しくて、苦しくて、それでも認めなければならない。

「グラス……」

「触れないで下さい!!」

 彼が心配をして差し伸べてくれた手を払い除ける。
 周囲に居た人達が何事かと目線を向けてきた。

 嫌だ……嫌だ……。
 誰か、助けてください。

「……っ」

 何処へも逃げ場なんて無いのに、気づけば宛もなく駆け出していた。

「グラスッ!!」

 呼び止めるトレーナーさんの必死な声が、耳にいつまでもこびり付いて離れませんでした。

………
……

「はぁ……はぁ……」

 精神的に追い詰められて呼吸が乱れていたせいか、すぐに息切れをしてしまい立ち止まる。

 辺りを見回すと、駅近くにある橋に立っていました。
 手すりから下を見落とすと川が流れている。

「引き込まれてしまいそうです……」

 もし、川に飛び込みでもしたら、この18日は終わりを迎えるのでしょうか?
 そしたら、楽になれますかね。

 体の重心が……ふらりと、手すりより上に傾いて……。

 その瞬間、背後から抱きつかれて、元の世界へと引き戻された。

「グラス、何をしているんだ!!」

「トレ……ナーさん?」

 普段よりも何倍も力強く、私を抱きしめてくれる。
 もう二度と手放さないと言わんばかりに。

「なあ、グラス。何があったかは知らないけれど、話してくれないか?」

「……」

「そんなに、俺が頼りないか?
 君に何があったかは分からないけれど、理解したいんだ」

 貴方が心の底から心配しているのを声色から感じとれます。
 ですけど、何度も説明しました、話しました。

 でも……でも……!!

「どうしようも、ならないんです!!」

「だったら、俺を見ろ!!」

「!?」

 大声を張り上げる私に対して、トレーナーさんは凌駕するくらいの怒声を上げて、
肩を掴んで目線を合わせるために振り向かせてくる。

 その真っ直ぐで、揺らぎのない瞳に、すがりつきたくなってしまう。
何度も、何度も、何度も、何度も、忘れるくらいに私を救ってくれた大好きな目。

 諦めていたのに、貴方によって心は再びほだされて、
枯れたはずの涙が溢れ出てしまう。

「ぅぁ……ぁぁあ……ああああ!!」

 彼の胸元に身を寄せて、ぐしゃぐしゃの感情を吐き出していく。

 やっぱり、トレーナーさんを嫌いになるなんて出来ませんでした。

----------------------

「コーヒーで良かった?」

「ありがとうございます」

 近くの公園のベンチに座り、私はトレーナーさんが差し出してくれた缶コーヒーを口に含む。
 ほろ苦い味が口に広がり、徐々に気持ちが和らいでいった。

 時刻は既に15時を迎えています。
 時間はありませんね。

「あの、トレーナーさん。お話を聞いてくれませんか?
 少しだけ、長くなりますけれど」

「グラス。落ち着いてからでも良いよ?」

「ふふ……ありがとうございます。ですが、今が良いんです」

「そっか。なら、話して欲しいな」

 そう言い、トレーナーさんは瞳を閉じて耳を傾けてくれる。
その姿を見て、私はポツリポツリと語り始めます。
幾度となく繰り返してきた2月18日のお話を。

 突拍子もない、まるで絵空事の様な実話。
手にした缶コーヒーから温もりが消えて、私は全てを語り終える。

「……トレーナーさん、信じられませんよね?」

 恐る恐る、貴方へ問いかける。
すると、トレーナーさんは目を開いて笑顔を見せてくれた。

「信じるよ。だって、グラスは嘘をつかないでしょ?」

 彼はそう伝えて、私の頭をそっと撫でてくれます。

「頑張ったね、グラス。きっと、俺が何とかするから」

 その一言で、私の体中に熱が駆け巡る。
どれだけ18日を繰り返そうとも、貴方の優しさだけは不変で温かい。

 感動をしていると、トレーナーさんは口元を手で押さえて考え込む。

「”明日なんて、訪れなければ良いのに”っとグラスは願った。
 逆に考えれば、今日以上に明日を強く望めば良いんだよね?」

「そうだと……思います。
 ですが、私の願い事が作用して、”この日”を繰り返している保証は何処にもありません」

「でも、グラス。君の行動で、1つだけ実践していない事があるよ」

「え?」

「グラスの行動は、自分が後悔しないか、俺を拒絶するという2つの選択だけだった。
 でも、それって”今日という日”だけを考えているだけで”明日”を強く望んでいないんだ」

「……確かに、そうですね」

 あくまでも”今日”を何とかしようとしていて、
”明日”については行動に入れていなかった。

「盲点でした……。ですが、”明日”を強く願うには、どうしたら……」

「だったら、今すぐ行こう!!」

 トレーナーさんは私の手を握りしめて、一緒に立ち上がります。
足早に駆け出して、何処へ向かうのでしょうか?

「トレーナーさん、”明日”を強く願える場所なんて、あるんですか?」

「もちろんだよ。だから、今度はグラスが俺の事を信じて。
 きっと、君に”明日”を見せてあげるから」

 その言葉に、心臓が早くなっていく。
 ああ……駄目です。
 嬉しくて、仕方がない。
 これ以上、喜んでしまうと”今日”の思い入れが強くなってしまいます。

 既に空になった缶コーヒーをゴミ箱に入れて、貴方と一緒に前を向くのでした。

----------------------

「指輪のサイズを測って下さい!!」

 お店に入るやいなや、トレーナーさんは店員さんに注文をします。
 たどり着いた場所は宝石店。

「承知致しました、お客様」

 目的が分からないまま、私は店員さんに指輪のサイズを測られる。
 テキパキと採寸をされて、結果をトレーナーさんに伝えています。

「あの、トレーナーさん?」

「少しだけ待ってて」

 そう告げると、彼は店員さんに連れられて店の奥まで入っていきます。
 想像するに、指輪のプレゼントをしてくれるとは思うのですが……。

 トレーナーさんの目的が不明のまま待っていると、
彼が手のひらサイズの小さな箱を持って戻ってくる。

「グラス、お待たせ」

「トレーナーさん、一体、何をしていたんですか?」

「君の”明日”を持ってきたんだよ」

 にっこりと微笑むと、彼は箱を開けて見せる。
 そこには2つの銀色に輝く指輪が入っていた。

「グラス、俺と結婚して下さい」

「……!?」

 ……え?
 あ、その……えっと??

 いきなりの出来事に頭の整理が追いつかない。
 突然、連れてこられた宝石店で、予想出来ないプロポーズをされた。

「あはは、流石に驚くよね。
 でも、俺は君と”明日”を迎えたい。
 だから、この指輪をプレゼントするよ。
 将来をかけて、グラスの将来を約束する。
 だから……」

 彼は一呼吸置いて、その真っ直ぐな瞳で伝えてくる。


「”今日”がつまらないと思えるくらいに、楽しい”明日”を君と過ごしたいんだ」


 ああ……トレーナーさん。

 私は、やっぱり貴方を好きになって良かった。


 2月18日。私の誕生日。
そのプレゼントは生涯で最も忘れらない物になり、
そして、明日を強く望んだ瞬間でもあった。

 私は一筋の涙を落とし、返事をするのでした。


「不束者ですが、よろしくお願い致します」

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「今日は楽しかったな……」

 寮の自室。ベッドに体を預けて、ため息を1つ。
消灯した薄暗い部屋は静かに感じてしまします。

 手には貴方から貰った結婚指輪。

 時刻は11時59分。
窓から漏れるのは月明かり。
私は手にした指輪を薬指にはめて、照らしてみせる。

「幸せだな……」

 凄く幸福に満たされて、明日になるのが待ち遠しいです。
 満たされた気持ちを抱えながら、私は願わずにいられない。

「明日が……早く訪れてくれれば良いのに……」

 強く、強く、そう願い、
月明かりに反射して煌めく指輪を眺めながら小さく呟きます。


「トレーナーさん、愛しています」


 時計の針が重なる。薬指の輝きは、いつまでも消えないのであった。

Comments

  • あははhh

    読んでいるこっちまで早く明日を迎えたくなるくらいたまらなく好きです

    March 17, 2023
  • manjuu

    トレーナーの状況把握力がレベチすぎてカッコイイですね。苦しんだ分手に入れた幸せが濃く重く感じます

    March 1, 2023
  • 負け犬

    ハッピーエンドの世にも奇妙な物語を見てる様な感じだった。とても良い物を読ませてもらいました。ありがとうございます

    February 24, 2023
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