残した言葉
前回からの続きです。やっぱりランサーは故人ですし、全く登場しません。騎士王と英雄王が主です。
階級等はほぼ捏造なので実際の軍とは全く異なります。さらっと流していただけると嬉しいです。
死ネタ等苦手な方はご遠慮ください。
このお話を素敵な漫画にしていただきました。
ありがとうございます。
芝ぬーさま【槍弓】残した言葉【軍パロ】illust/64995669
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久しぶりに腕を通した軍服は何故かとても着心地が悪かった。三ヶ月前までは毎日の様に着ていたはずのそれは一回りほど大きく感じて。やはり、リハビリでは元の筋肉量には戻らなかった様だ。
多少の超過をすればもう少しましだった筈なのだが…私の主治医は余念がなく常に見張りの者をつけ、私が過度なリハビリとトレーニングをしないようにと監視させ続けた。
全く、小さな子供ではないのだから。そう一言言えば十どころか百の言葉を返され、更に上官であり友人でもある准将を呼び出し二人掛かりでの説教を受けされられた。
これではまるで私がランサーの様ではないか。そう呟いてしまった時の二人の顔といったら。二人して顔を見合わせて言葉に詰まるものだからこっちが噴き出してしまったものだ。
「シロウ!」
つい思い出し笑いで緩んだ口元を手で覆えば、施設の廊下の角から笑いの元になった彼女と鉢合わせる。
「この姿のシロウを見るのは久し振りですね。……まだ何処か痛むのですか?」
少し距離があっても口元を覆う私を不自然に思ったのか後ろに控える部下に何か言伝て、かつかつと軍靴を鳴らしてこちらに近づいてくる。
「いえ、なんでもありません准将。少し思い出し笑いを」
いつものようにセイバー、と呼ぶのではなく階級で呼べばセイバーはむっとした表情でこちらを見る。
「よくわかりませんが、今部下はいません。いつものように呼んでください」
「では、セイバー。本当になんでもないんだ。少し思い出し笑いをしてしまっただけでね」
大したことのない事実を告げるとセイバーはほっと息をついた。
「ならばいいのです。復職したとはいえまだ怪我は完治していないのですから、無理な事やめてください。……また凛と説教しますからね?」
目の前で悪戯っぽく笑う彼女は年相応の顔付きだと思う。
彼女、セイバーは由緒ある階級の出身だった。代々軍に属する一族に彼女は生まれ、天賦の才能とそのカリスマ性で士官学校では常に主席。異例の飛び級を経て、今この地位についている。女性の身でありながら准将という重い肩書きにもなんなく応え、早い話ではあるが次期の将官候補として軍上部から期待されているという噂があるほどだ。そんな輝かしい彼女はなぜか士官学校一年目の同窓生、というだけで私には心を開いてくれている。かくいう私も裏表がなく、真っ直ぐに向き合ってくれる彼女とは馬があい階級の差はあれど軍部内での数少ない友人とカテゴリしている。
「シロウ、少し小耳に挟んだのですが…」
和やかな会話が続くと思いきや、不安げな顔でセイバーは切り出してきた。
「……貴方が次の任期満了で…退役する、という噂があるのです」
言いにくそうに告げてくるセイバーに、らしくないと思いながらその言葉に肯定する。
「ああ、その噂は本当だよセイバー」
はっと息をのむセイバーはやはりどこかでわかっていたようで。口には出さずともそのエメラルドグリーンの大きな瞳が雄弁に語っていた。
「そう、ですか……」
俯いてしまったセイバーはヒールのある軍靴を履いているとはいえ私よりふた回りは小さく、本当に年相応の女性にしか見えなかった。
「……いえ、私が口を出す事はありませんね。貴方が、シロウが考えて決めた事なのですから」
顔を上げたセイバーは悲しそうに笑っていた。
すまない、咄嗟に口から漏れそうになる謝罪を、私は唇を結んで外に出さないようにする事しかできなかった。
「然し、何故今日は此処に?復職したのならまずの部隊の詰所に行くのが優先では?」
セイバーの問いはもっともだった。私たちが会話するこの施設は軍上部、将官以上の言わばお偉い方たちが詰める軍施設であり、左官の私は本来ならば殆ど近寄ることのないところだ。
しかし復職初日の今日。そのお偉い方の一人に私は呼び出されていた。
「退役の申請をしたら呼び出されたんだ……少将に」
なんでもないように答えたつもりだが、どこか言葉はげんなりしていた。
「少将…っ!ギルガメッシュですね?!」
「セイバー、上官にあたる方を呼び捨てにするのはどうかと思うぞ」
「いいのです!あんな者は呼び捨てで!貴方はギルガメッシュの元に一人で行こうというのですか?駄目です。私も同行します。」
少将と聞いた途端セイバーは目の色を変えて迫ってきた。セイバーが嫌うのも無理はない。ーギルガメッシュ少将とはそういう男なのだ。
「遠慮しておこうセイバー。大丈夫、私はとって食われたりはしないよ」
あまりの鬼気迫るセイバーの表情に何処か緊張していた気が緩んで自然に微笑むことができた。
「いえ!貴方はどこか気が抜けていますから、とって食われます!絶対に!」
なかなか酷い言葉を投げかけてくるセイバーを両手で制す。が、強い剣幕に困っていると視界の端に先程セイバーが連れていた部下達がこちらに近寄ってくるのが見えた。
「ほらセイバー、部下達が君を探しているぞ。戻らなくていいのか?」
助かったと思いながら伝えると、彼女はぐぬぬと声を漏らして私を見つめたあと大きな溜息をつく。
「……充分気を付けてください。あいつは底抜けに意地が悪く、底抜けに変態で、底抜けに悪党です。もし何かされそうになったら大声で私を呼ぶように。奴の首をきります」
「将来有望な君でも上官をクビにするのは無理な気がするんだが…」
「いえ、物理的に首を切り落とします」
かなり物騒な事を言うセイバーの顔はとても真剣で冗談ではないことがよくわかる。会話のあまりの酷さに苦笑いをするしか出来ずにいるとセイバーは急に微笑んだ。
「どんな道を選ぼうとも。私は貴方の、シロウの友人です。後悔だけはなきよう」
「ーああ。ありがとう」
なぜ私の周りの女性はこんなに強くたくましく、そして美しいのだろう。
微笑みのまま見本となるような綺麗な敬礼をして、彼女は部下達の元へ去っていった。その小さくも大きな背中を見て、私は私のやるべきことに全力で取り組むことを覚悟した。
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- twiholicJune 11, 2025