【槍弓】魔女と鷹と狼
サイトから持ってきました。
槍弓(弓槍)で1000回はネタにされているだろう『レディホーク』のダブルパロ、に突入もできていない中途半端さです。
某少年誌の打ち切り漫画のような終わり方ですが、それでもOKと言ってくださる寛大な方にしか向かないのですみません…。
冬コミ受かりました。
偽装終わらせます。
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「もう! 50年ぶりに会いに来たら、変な犬と同棲ってどういうこと!」
突如開かれた扉とともに入り込んできた怒声に、男は驚きのあまり硬直する。
逆光に映るシルエットは髪の長い小柄な影。
影の周りはきらきらと銀色の光がまとわり、その姿を強調する。
「その犬を今すぐ捨ててらっしゃい! シロウ!」
今では誰も知らないはずの名を呼ばれ、男の硬直が解かれた。
「姉さん!?」
「へぇ。アーチャー、お前に肉親いたんだな」
サンドイッチを作っていた男の肩に、ぽんと白く節ばった手が置かれる。
「離れなさい!この犬畜生!!」
「姉さん!!」
男は肩に置かれた手を振り払うように戸口へと駆ける。
駆ける、といってもたいした広さなんてないが。
「姉さん、淑女がそんな品のない言葉を発してはいけない」
男は影の前へ移ると膝を床につく。
「おい、俺へのフォローはナシか」
後ろでぼやく声が聞こえるが、そんなものは今現在全力で無視。
「シロウ!」
小さな身体が男の首筋へと腕を回し、男はその小さな背中を抱き寄せた。
「久し振りだね、姉さん」
「あぁ! ひさしぶりね、私のかわいいシロウ!!」
きゅっと抱き合う姉弟。
一見すれば感動の再会。
そこに水を差す、空気を無視する男。
「つか、アーチャー。なぜお前の姉はロリなんだ?」
呆れた声は、姉に犬畜生と呼ばれた男。
「ランサー! 姉さんをそんな風に言うんじゃない!」
テンパり易いがゆえ、普段声を意識的に声を荒げないアーチャーの声は見事に感情を表してる。
もうすでにギリギリいっぱいです、と。
え? なに? お前の姉さん結構ヤバめ?
ランサーが感想を持つよりも先に、アーチャーの首筋に顔を埋めていたロリ・・・少女が顔を上げる。
「シロウ。あなた、調教は下手だったわね」
ひっ、とアーチャーの息を飲む音。
え? なに? お前の姉さん本気でヤバめ?
ランサーがまばたきするよりも早く、アーチャーの腕の中にいた少女の姿がランサーの前へと現れる。
たった、一瞬で。
「瞬間移動・・・?」
「姉さん!」
さまざまな種類の人外が棲みつく、ダイゴジセイハイの森。
しかし、その中でも瞬間移動なんて特殊能力を持つ者は一人もいない。
訝しげなランサーの表情を読み取り、少女は白く細い指を自身の唇に当てそっと告げてやる。
「当り前よ、私は本物の魔女だもの」
少女はにこりと笑い、赤い瞳を細める。
天使と表した方が似合う姿で、少女は自身を魔女と名乗る。
「すまないねえさん! こいつは流れ者でまだこの森のことを――――」
「黙りなさい、シロウ。あなたの優しいところはおねいちゃんの誇りだけど、こんな流れ者を囲う優柔不断さは嫌いだわ」
室内に入ってすら輝きを落とさない銀色の髪を流し、少女は床に膝をついたままの弟に向けて微笑みを与え、言い訳を遮断する。
囲うだなんてそんな成金親父が女子大生にマンションを借りてやるようなこと!
妙な方向に弁解しかたかったアーチャーだが、彼の姉の微笑みの前に霧散する。
「おいおい、きついおねえちゃんだな」
「あなたに姉と言われる筋合いはないわ」
見下ろす赤い目。
睨み上げる赤い瞳。
「ランサー! ねえさんを煽るような真似はやめてくれ!」
完全にテンパったアーチャーの懇願。
確かに余裕の無い性格ではあったが、瞬間湯沸器なみにテンパってしまった姿をランサーは見たことがなかった。
愛想がないどころか殺伐とした出会いから始まったふたりは、それなりの時間を経て互いを理解し、心を通じ合わせた。
しかし、ランサーはアーチャーから肉親がいることを聞いていなかったし、仲が悪そうでもないのに姉を前にアーチャーがこんなにも余裕を失くす理由に興味を持ちつつ、面白くない気分でもあった。
「で、ちっこいオネエサマはアーチャーに何用で?」
「赤の他人であるあなたに口を開く権限はないわ」
互いに笑顔で牽制し合う。
互いに整い過ぎた容姿の所為で、微笑みが威圧感となって力を持つ。
アーチャーは迷子の子供のように首を振ると、這いずるように姉の元へと進み、後ろから抱き締めた。
まるで、もうそれ以上は許してくれと縋るように。
「ねえさん、すまない。ランサーは人狼の種族だか―――」
「だからと言って、シロウにマーキングしていい理由は無いわ」
少女の口から出てきた言葉にアーチャーは卒倒しかける。
なんてことをいうのだねえさん。
そう言いたらしいが、口だけがぱくぱくと動き声が出ない。
「あのよぉ・・・」
がりがりと頭を掻くランサーの声に、アーチャーがはっと顔を上げる。
手に合わせ、碧空のような青い髪が波を打つ。
白い、整った容姿は表情を失くすと途端に造り物めいた印象を与える。
「ランサー・・・」
アーチャーは腕の中の少女をぎゅっと力強く抱き直すと、止めてくれと言う代わりに首を振る。
「やめなさい。私のシロウを怯えさせるのは」
「はっ! 怯えさせてる原因はオネエサマだろ? アーチャーはオレの大事なコイビトだ。怯えさせるわけがねぇ」
「止めないか! ふたりとも!」
高まる緊張の中、アーチャーの声だけが裏返っている。
畏れを知らない特出した能力を持つ戦士の人狼。
負けを知らない全能に近い場所にいる魔女。
「略奪は、人狼の十八番って知ってるよな?」
「呆れた。人狼ごときが魔女に敵うとでも?」
二人が生みだす緊張が、物理的な力を持ち始める。
台所に置かれた水盥には不規則な波紋が幾重にも生まれ、家屋の梁がぱしぱしと悲鳴を上げる。
「ねえさん、お願いだ止めてくれ・・・!」
細い肩を抱く褐色の手が震える。
ランサーの馬鹿みたいな戦闘能力だけでも森を壊滅させる恐れがあるというのに、そこに姉の力が加わればこの森は間違いなく地図から消える。
それなりに平凡で、それなりに非常識な森の日々が、たった二人によって消される可能性がアーチャーの目の前にあった。
アーチャーは縋りつくように姉の肩へと顔を埋める。
「ああ、許してくれ姉さん。ランサーを、いや、私を許してくれ」
口から出たのは無意識の懇願。
森の平和を、森に棲む多くの住人を護りたいという意志。
「シロウ?」
許しを乞う弟に、姉は不思議そうに声をかける。
「すまない姉さん。私にとってランサーは、すでに切り離せない存在なんだ」
ある日突然現れた人狼。
気性の荒い人狼の存在は、森の均衡を容易く壊す。
森の掃除屋として、排他しようとした存在。
それがいつしか同じ屋根の下に暮らすこととなり、武器を伴わず触れあうようになり―――。
「どうか許してくれ姉さん。私はランサーのことが―――」
「許しません」
弟の懇願を一刀両断し、姉は拘束する腕から逃れると弟に向き直る。
白い小さな手のひらがアーチャーの頬を包み、俯いた顔を上げさせる。
「ねぇ、シロウ?」
優しい声が、アーチャーに向けられる。
唇に乗る微笑みは、人間が描く聖母の如く慈愛に満ちている。
「この犬畜生との生活を得たいというのであれば」
繰り返される侮蔑にランサーの額に青筋が立つ。
しかし、怒れる姉にそんなことは興味が無く、哀願するに必死なアーチャーの目には入っていなかった。
「あなたの願いを叶えたいのであれば、私のお城までお願いにいらっしゃい」
言うと、少女は弟の額に唇を当てた。
途端、アーチャーを中心としてまばゆい光が発せられその姿を隠す。
「アーチャー!」
痛みを伴う光から腕で目を庇い、ランサーが叫ぶ。
キッキッキッ!
高い獣の鳴き声が響く。
閃光でまだ目が痛むランサーはそれでも懸命に目を開き、周囲を探る。
「アーチャー!」
光が消えた室内には小さな姉の姿も、アーチャーの姿も無かった。
ただ、一羽の鷹が床に転がっていた。
キィ、と短く小さな鳴き声。
「アーチャー、どこに行った!」
ランサーは鷹を飛び越え戸口へと向かうが、その先にアーチャーの姿は無かった。
「くそ! あのオネエサマ、アーチャーをどこに連れて行きやがった!」
忌々しげに呟くランサーの後ろ、床に取り残された鷹がばさりと羽音を上げる。
キッキッキッ、キッキッキッとまるでランサーを呼ぶように鳴く。
「んだよ・・・、テメェはよ」
アーチャーと入れ替わり置かれた鷹を振り返り、ランサーは目を見開く。
「まさか!」
ランサーの声に合わせ、鷹はちょこちょこと歩きランサーへと向かう。
翼を不格好に広げバランスを取るように歩いて来る鷹を、ランサーはしゃがむと腕を広げて迎え入れた。
ばささ、と最後は駆け込むように腕に収まった鷹を見る。
「まさか、お前・・・」
キッキッ、と弱い声。
不安気に揺れる、灰色の瞳。
灰色の、瞳。
「アーチャー、なのか・・・?」
Comments
- 愛戀January 11, 2016