らんさー、だっこだ。
後天性ショタです。弓しかロリりません。ふつう弓は一切出てきません。
ふぇいとむずかしくてよくわかんないです…なのでこちらは自己解釈からの特殊設定です。ご注意ください。<(_ _)>アラヤは聖杯にエミヤ貸してるけど聖杯の方が強いから返してもらえなくて(エミヤに)イジワルする、っていう設定です(?)。とか…いろいろ…いろいろ……。←←←
面子は一応五次だけど、謎時空です、平和です。戦ってますん。ぎるがめが(無駄に)出てきます、でも白いお姉ちゃんが(無駄に)出てきません。ゴツゴウ☆シュギです。
ふじねえが最強です(出て来るとは言ってない)、やりゆみとは…?
ショタ弓の台詞を平仮名にしたくて読みにくい仕様となっております(ヲイ)、それを解消するために読点が多くて息切れしてるみたいになってます。小さい子が上手くしゃべれなくて、逐一区切って喋ってる最強のイメージでお願いします。
ほんとはデータのファイル名が「守護者が小さい」だから同じにするつもりだったんだけど、最後別に守護者強調してないからこっちにしました。あとこっちのがてんしょんアガると思って。え?アガらない?
絵は後日イラスト投稿の方でまた上げます。おまけも描いたんでそれと一緒に上げます。→守護者が小さい | illust/72313347
こっちのタイトルになりました。(笑)
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それがなぜアーチャーの身にだけに起こったのか。それはいつまでも現界し続けるその時空の守護者を、アラヤがケチったからであった。
それはなんの前触れもなく起こった。
おそらく、事前に知らせようものなら、エミヤはそれをよしとはせず、なんとしてでも座に還ろうとするからであろう。さすがはエミヤを守護者としているアラヤ、その性格をよくわかっている。
そのためそれは、衛宮邸で衆目の中、唐突に起こった。
ぼふん。
夕食を複数人で囲み、各々食休みに興じていたところ、間抜けな音と共に、アーチャーは白い煙に包まれた。
「アーチャーっ?」
突然の事態に、凛が己のサーヴァントを案ずる悲鳴を上げる。
どこかの魔術師による奇襲か、何か、ともあれ、本当になんの前触れもなかった。それほどの手腕の持ち主によるものなのだろうか。とにかく、その煙からはとんでもない魔力量が感じられた。ご相伴にあずかっていた他のサーヴァント、セイバーを筆頭に、ライダー、ランサーが咄嗟に武装し、構える。
思いもよらなかった事態に、その場の誰もが下手に動けない。
煙が晴れるのを待った。
そして、薄煙の中現れたアーチャーは、
「……しかいがひくい。」
子供体系になっていた。
「……。」
マスターである凛を始め、煙が消えてからも、動ける者はいなかった。
そして幼い自分の姿をした、カラーリングと(おそらく)中身はアーチャーであるその子供を呆然と見つめた士郎は、黒ずくめの男の怪しげな取引現場を目撃したわけでもなく、それどころか団欒の時間を楽しんでいただけなのに「なんでさ……」と口からこぼしたのであった。
ただ幸いだったのが、その夕食時にいた人間が、士郎、凛、桜の、魔術を知る者たちだけであったことだ。
小さくなっても小言は同じアーチャーは、衛宮邸で暮らすことになった。
アーチャーは、見た目は子供、という点のみならず、ランクも半分まで落ちていた。
もっとも、元々低いランクは、それ以上下がりようもなかったが。
衛宮邸で溜息をついている今の状況が、まさにそれを物語っているといってよかった。
アーチャーが衛宮邸に居を移すことになったのは、未熟者の落ち度だが、それに巻き込まれたアーチャーにとっても、大変不本意であった。これを不運といわず、なんといおう。
アーチャーは、衛宮邸に少ない私物を運び込む前日のことを思い出して、その姿に似合わぬため息を、再びついた。
凛のうっかりが発動するには最高条件である遠坂邸を不憫に思った士郎が、有ろう事かそれを口にしてしまったため、赤い悪魔の怒りを買って、士郎は責任を持って子守をすることになってしまった。実際、魔術やその類いの道具が至る所にあり、何かあっては今のランクでは対応しきれないかもしれないので、そのことに強く異を唱える者はいなかった。
アーチャーに根城として与えられていたアパートで、子供一人で過ごさせることはもちろん論外。その他事情を知る者の自宅には、事情を知らない者も同居している。
それに衛宮邸なら、昼間学校がありアーチャーを一人きりにしてしまう凛と違い、士郎がいない間留守番をしているセイバーがいる。正義感もあるセイバーなら、突然の小さな体で不自由するアーチャーに、惜しむことなく手を貸してくれることだろう。
それに、
「よぉ、アーチャー。今日もいい子にしてるな。」
ランサーもいる、
なぜか。
小さくなったアーチャーが姿を現した時、奇襲を考慮していたところこれでは、これは真っ当な攻撃ではないと様々な方面へ危惧した各々の中、当の本人である、アーチャーだけが事情を理解していた。
アラヤは事前に知らせることはなかったが、起こした事態を隠すこともしなかった。
そのため、聖杯の力には抗えないまでも、契約で繋がっているアラヤはエミヤを節約できたし、エミヤは身に起きたことを知ることができた。
そう、エミヤと契約しているのはアラヤだ。しかし現在、英霊として聖杯により現界しているエミヤを、普段のようにアラヤの都合で動かすことができなかった。
そうなってくると、アラヤにとっては、その時空のエミヤの分霊は、無駄遣いしていることになる。
無駄遣いは不要。
そうしたアラヤの判断が決行されたのが、その時であった。
事情を知って、差し迫って危険な状態であるわけではないことを理解した面々は、再び団欒を取り戻した。
それどころか、小さくなったアーチャーを弄り回す始末だ。
しかし暫く堪能すると凛は満足したし、憐れみの視線を寄越していた士郎の眼差しも落ち着き、心配ないと安心した桜は微笑ましそうに見ているだけだった。問題は同じサーヴァントである三騎だ。セイバーは恐らく士郎の幼い姿に興味を持っているのだろうが、ランサーは面白がっているのかなんなのか謎で楽しそうに普段の二倍は突っかかってくるし、ライダーは興味がないようだったが最後まで不憫そうな眼差しの魔眼と眼鏡越しにかち合っていた。
それからというもの、セイバーは衛宮邸でアーチャーの世話をよく焼いてくれていたし、ランサーはその三倍かまってくるので、なにか本当に困ったことがあった時は、ライダーに助けを請おうと、アーチャーは思っている。
ちなみに幼いアーチャーの居住について、テント暮らしのランサーの元はともかく、協会のことは、誰の口からものぼらなかった。
守護者としてもサーヴァントとしても不完全な姿と相成ったが、原因がアラヤでは、エミヤ自身、仕方のないことであると納得していたし、周りの魔術師たちも下手なことはできないと、なすすべをなくしていた。
そうして子供の姿にされてしまったアーチャーは、当然座に還りたくなったが、その場の誰も賛同しなかった。
凛からは令呪を眼前に突きつけられる始末であったが、そのあと改めて、子供の視線までしゃがみこんではその小さな両手を取り「あなたの紅茶をずっと飲ませてほしいのよ。」と真摯に言われては、どうにも弱った。
その上、心配だからと、衛宮士郎の命を救った宝石とは別の、魔力に満ちた透明に輝く宝石を持たされている。
アーチャーは、チェーンで繋がれたらそれを、鍵っ子よろしく首に下げられ、やはり肌身離さず健気に持つのであった。
こうして、小さな英霊エミヤは、そのまま現界を続けることになった。
衛宮邸でアーチャーは、セイバーの手を借りながら家事を行った。
小さなアーチャーでも、その器用さを生かしてできることはあったが、いかんせん圧倒的に上背が足りない。洗濯竿に洗濯物が干せない。
もちろん台所は届かないし、食器棚も届かない。物干しや食器はセイバーの手を借りることができるが、家事スキルEXのアーチャーが最も得意とする料理ができないとなると、紅茶を言い訳にした凛も、今度こそアーチャーが座に還ってしまうのではと焦った。
士郎が幼い時分に使っていた踏み台を蔵から引っ張り出してきたが、それでも届かなかった。
士郎は自分が留守の間に家のことをやってくれるのは助かるが、火と刃物を使うことはだめだと言ったし、周りもそれに賛同した。
「りん、やはりだめだろうか?」
「駄目よ。あなたクラスダウンもしてるんだから。」
「きみにこうちゃをいれられない。」
「衛宮くんに指示を出すことで、だんだんあなたの紅茶に近づいてるわ。」
「りん……」
アーチャーはその小さな手ではない薄い胸元の宝石をぎゅっと握った。
「わたしは、りょうりがしたい。」
踏み台を用意して、調理する側で見ていれば、なんとかできるだろうか。アーチャーの揺れる瞳に、凛も限界であった。
そんなおりだった。
ランサーが玄関を無視して庭に顔を出した。
「よぉ、アーチャー。今日もいい子にしてるな。そんないい子のアーチャーに、イイモンやるぜ。」
ランサーが持ってきたのは、踏み台であった。
「完成したんだな。」
「おう坊主、この間は邪魔したな。」
「それはいつもだろ。でもよかったのか?俺が作るって言ったのに。」
「俺も言っただろ、俺が作りたかったんだよ。」
士郎はそれを認めて、やはり申し訳なさそうに、しかし安心したように破顔した。それは自分が作ってアーチャーの反感を買わないためか、ランサーのアーチャーへの気持ちを喜んだからか、アーチャーにはわからなかった。けれどもともかく、家主であるのだから、当然事情を知っていたのだろう。それはきっと、アーチャーが買い物やお使いに出かけていた時のことなのだろう。ランサーに台所の採寸や、アーチャーとの高低差まで打ち合わせしていたらしい。
「やすりもかけたしニスも塗った!な、アーチャー、使ってみれくれよ。土産も釣ってきたから、それでなんかつくって。な?」
後半は士郎に向けて、しかしアーチャーを丸め込むために、ランサーはそういうと、アーチャーが調理している間は自分がみていると周りに言いながら、手製の踏み台を台所に設置しに向かった。
邪魔をする挨拶を述べながら、庭に一度置いていた踏み台の土埃を払うと、ベンチのように長い踏み台を、いとも容易く運び込む。その後をハッとした士郎が、雑巾を持って追いかける。
至れり尽くせりであった。
アーチャーは、ランサーが脱ぎ捨てた履物を綺麗に沓脱石の上に揃えると、自らも台所へと急いだ。
台所では踏み台の土埃を雑巾で拭っている士郎とランサーがいた。
アーチャーに気付くと、ランサーは士郎の手を止めた。
「アーチャーが来たから具合を確認するわ。ありがとな、坊主、後はやっとくぜ。」
ランサーは快活にそう笑うと、士郎をその場から戻した。
士郎はランサーとアーチャーを交互に見やった後、じゃあ任せた、と言って退出した。
「……」
アーチャーは、士郎が立ち去った気配を認めると、そろそろとランサーに近づいていった。
近寄ってきたアーチャーを、ランサーは何も言わず、静かに笑みを浮かべながら、包み込むように見つめた。
「なぜ?」
「ん?」
アーチャーは拙く喉を震わせる。
ランサーは変わらぬ表情で、優しげな声で聞き返すばかりだ。
アーチャーは戸惑いながら言葉を続ける。
「なぜきみは、わたしにそこまでしてくれるんだ?」
ランサーは笑みを称えた赤い目を細めた。
「お前さん、こいつをこさえた俺のために、料理を振舞ってくれるか?嬢ちゃんの紅茶より先に。」
アーチャーは目を見張ってその赤を見た。
そこから何かを探すように、必死で見つめるが、ランサーの瞳は優しげに細められたままであった。
それに耐えきれなくなったのか、それともごく自然になのか、アーチャーにはわからなかったが、アーチャーの答えは出てしまった。
「うん。」
後日ランサーは、自らが釣った魚を持って、アーチャーを尋ねて衛宮邸に訪れた。
もちろん、約束の料理のためである。
事前連絡などしなさそうな男だったが、何日の何時に行くと、時間まで伝えて来訪に臨んでいた。さすがに釣る魚までは予測がつかなかったが、そこはアーチャーの腕の見せ所といえよう。
ランサーと約束をした後、言われるがままに手製の踏み台に乗り上げ、足踏みや乗り降りを繰り返したが、問題はなさそうであった。
それどころか、この踏み台はよくあるものより広く拵えてあり、流し台、調理台、加熱調理器まで、踏み台に乗ったまま移動できる。さすがに背後のカウンターまでは足場は届かず、子供の手も届かないし、踏み台を設置すると収納扉が塞がってしまうから、その前に使う調理器具を全て出し切ってしまう必要はあるが、それらは大したことではないだろう。
アーチャーの背丈にもぴったりと誂えており、踏み台として役割を果たすならば当然のことと言えようが、この場所で料理をするに大変丁度よい具合であった。
ランサーが組み立て、色まで塗った踏み台は、アーチャーが料理をするにあたって、出来るだけ不便がないように考えて作られたものであった。
大きな踏み台は、クラスダウンして本当に子供のようになってしまったアーチャーが一人で運ぶことはできなかったが、それはむしろアーチャーが一人で無茶をしないようにする考えがあったのかもしれず癪である。けれどそれを不問にしようと思いながら、アーチャーはこの、角や引っ掛かりのただの一つもなくやすりで削られた、赤い踏み台を撫でた。
大切にしようと思った。
踏み台の具合を確かめた後、ランサーはすぐ帰ってしまったが、アーチャーはしばらくそこに蹲り、動かなかった。
心配した彼のマスターが声をかけに来た。
「よかったわねアーチャー。なぁに、さっそく何か振る舞ってくれるのかしら?」
凛は、さっそくランサーの踏み台を使いたいのか?とは聞かなかった。この使い魔は聞き方一つでも、言葉の綾が許されない、というより、むしろ言葉の綾を一々必要とするのだ。しかし、そんなところも含めてアーチャーは、凛のアーチャーなのだ。
「いや、それが、」
だがその時、言葉に迷ったのは珍しくアーチャーの方であった。
「……すまないりん、きみのことわりもなく、わたしはらんさーとやくそくしてしまった。」
凛は困った顔をする使い魔に、さらに珍しさを感じながら、事情を尋ねた。
「ふぅん。ま、それがこれの対価ってことなら。仕方ないわね。」
アーチャーは、恐る恐る主の顔を見上げた。
「紅茶は、これを使って入れてもらわないといけないものね。」
アーチャーのマスターは優しく笑んだのだった。
それに、本日ランサーに彼のための料理を振る舞うと言っても、共に食卓を囲むのは凛も同じである。アーチャーの主には言葉と表情通り、不満はなかった。
さて、アーチャーは小さな手と大きな瞳で、ランサーの持ち込んだ魚を検分する。その様子を黙って見守るのは、他でもないランサーだ。
冷蔵庫の材料を吟味しているのだろうか、時折考え込むような仕草をしては、うんと頷いて調理器具を次々と取り出していく。
床にタオルを敷き、その上に器具を並べていく。包丁は慎重に、鍋やフライパンは思ったより重量を感じたようで、ほんの一瞬だけ動きを止めていたが、特に手を出すほどのものではないと判断した。
そこには、自分でやりたい、というアーチャーの思いと、作ってもらいたい、というランサーの望みが、利害の一致を示していた。
そこで、アーチャーがランサーを振り仰いだ。
「らんさー、その……」
ランサーが、心得た、とばかりに破顔する。
赤い踏み台を軽々と持ち上げて、所定の位置にそっと下す。
大きな瞳がちらと見て来るので、頷いてやる。そうすれば、小さな料理人は、いそいそと踏み台に乗り上げ、床に並べた調理器具を調理台の上へと並べ直す。そこまで広さはないから、水場にも広げる。最後に床の布を回収すれば、鍋に水を入れ火にかけた。
始まりの合図のように、コンロがボッと鳴いた。
水を熱している間、お次はとことこと冷蔵庫まで赴き扉を開けて、両手に危なげなく持てるだけの食材を抱えては運び、順に洗って順に切る。
小さくなったと言えども、そこはさすがと言うべきか、大変手際のいいことで、調理は進んでいく。
それは宛ら魔術か科学か、とにかくランサーの目を楽しませた。
白くてちっこい頭がぴょこぴょこ跳ねるのは、悪くない。ちっとも悪くない。
その手際の良さが物を言い、あっという間に料理も中盤に差し掛かった。鍋はコトコト、その隣からはジュウジュウ、音もいいが匂いもいい、腹を空かせる刺激だ。
アーチャーは楽しそうだった。
不意に、その楽しそうな顔とふと目が合う。調理が中盤まで進んだことで、アーチャーも、料理を楽しむことに集中していた気持ちに、余裕が出てきたのだろう。そしてそれは驚愕に染まる。
「きみ、ずっとそこにたっていたのか?」
途端に慌てだす。
「なにもそんなに、ねっしんにみはっていなくても、いいだろう!せめて、すわっていたまえ!」
「こんくらいわけねえって、わかってんだろ?」
「それはそうだろうがっ、そういうことではない!」
「落ち着かねえのはわかるが、俺は楽しいぜ?大目に見てくれや。それに今まで気付かなかったんだから、いいじゃねえか。」
からからと笑う体に、つられて青髪が揺れる。
「もうきづいてしまったから、きづかなかったころには、もどれない……」
アーチャーは、不満そうな顔を露わにした。
「確かになあ……それはそれで、俺は楽しいんだがなあ!」
「!」
アーチャーのふくれっ面は酷さを増したが、何か言う前に、ランサーが再び口を開いた。
「いやぁ、その台を作った甲斐があったってもんだ。」
その言葉に、アーチャーは不貞腐れた顔を戻さないまま、大人しく調理に戻った。
アーチャーの料理はその日の晩の食卓を彩り、大盛況となった。
「んん!アーチャーくん、まだ小さいのに、こんなに料理上手だなんて!将来有望だなあっ!」
今その食卓があるのも、大河をまたも言いくるめた、赤い悪魔、じゃなかった、赤い悪魔の功績である。
しかしその時、ひと悶着があったのである。
「なぜですか。よいではないですか!」
セイバーが、にやけ面の下卑た笑いとは正反対の顔をして、声を上げる。
「私の弟でよいではないですか。私も弟というものを持ってみたい!」
「私欲じゃないのよ!だいたい、容姿が似てないどころか顔の作りで国籍が違うって丸わかりじゃない!やっぱり私の親戚ってことにした方が自然よ、ほら、マスターとサーヴァントなんて、パスで繋がってるっていう点が、なんだか血筋に似てるじゃない?」
「随分な理屈ですね!」
留学生、切嗣の知り合い、それらの理由を宛がうには、アーチャーの容姿は幼過ぎて、また違った責め方でもって偽装せねばならない。
その設定のことで、アーチャーは二人の美少女に取り合われていた。まったく嬉しくない。
「俺は弟もいいけど……、息子っての、どう?」
更にはランサーもいる。なぜか。
「それシャレにならないヤツじゃない!」
アーチャーのマスターである凜がそれを理由に自分の意を通そうとしていたところ、当の本人であるはずなのに不安そうに見ているだけのアーチャーを差し置いて、ライダーが口を開いた。
「イリヤスフィールの兄弟、で、どうでしょう。」
全員がライダーを見た。そして、中でも一番驚いていたのはアーチャーだった。
「髪の色も似ていますし、何より、間違ったことではないでしょう?」
彼女は兄弟、もとい、姉妹に思い入れのある英霊だ。しかし、普段積極的に意見や助言を呈する方ではないので、その場全員の意表を突いた。
「ここにイリヤはいないけど……まあ、いいか。」
大河はイリヤちゃん、と言って彼女をかわいがっていたが、その人物を詳しく知っているわけではなかったから、何とでも誤魔化しは聞くだろう。その時にはもう、凛の優秀な頭の中では、大河を言いくるめるシナリオが出来上がっていた。
凜を含め、言い争っていたセイバーも、ライダーの意見を受け入れたことで、その場はそれで収まった。
こうして、まあいっか、と述べた少女の、いわゆる説得によって、アーチャーは大河公認の、衛宮邸の住人となったのだ。
その時のアーチャーの顔を、ランサーは何度でも思い出していた。
誇りなどない、家族や友人、仲間意識など邪魔になるようなら、いっそない方がいい。そういった思考のアーチャーは、それでいて誰よりも、そういった人と人との繋がりに、温かみのある眼差しを向ける。
しかしその視線も、最初に目に焼き付けるようにじっと見つめた後は、まるで己がそうすることで、汚してしまうとでも思っているように、顔ごと背けるどころか、その場からも立ち去ってしまうのである。
「おろせらんさあーっ!」
そのアーチャーも、今では立ち去るどころか、地に足を付けることも、叶ってはいないのだが。
「おっまえなあ、あんな盛大にすっ転んどいて、そのまんま歩いてたらいてえだろうが。」
ランサーが先程見た光景は、腕に抱いた幸運が僅かであることを物語るものだった。
といっても、それはランサーのものではなかったが。(ランサーも大差ないものではあったが。)
それは、空から降ってきた猫に、アーチャーが襲われている、というもの。ではなく、木から降りられなくなった猫を助けようとしたが、買い物帰りで手が塞がっていたため、まずは手荷物をどこかに置こうとして、その前に猫が落ちてきてしまったので、仕方なくとっさにその小さな身を挺した。ということらしかった。
卵を含んだ買い物袋の中身が無事なあたり、流石ではあるが、本人は真後ろにすっころんだ挙句、その際に足を捻った。子供からすれば、猫といえど、なかなか巨体だ。
サーヴァントは、マスターの魔力量によって振るえる力に差が出るが、それとは別の要因で小さくなってしまったアーチャーの事情では、また違うということだ。
「このていどのいたみが、なんだ!われわれは、がんらい、もっと、せいさんなたたかいを、おこなうそんざい、だろう!」
すっぽりと腕に収まってなお余りあるアーチャーは、ランサーのかいなに抱かれてよく吠えた。
「その戦いは今は必要ないと言ったのは、他でもないお前さんのマスターだろうが。だったら、いてえことは、あんまねえほうが、いいだろうが。」
マスターの名を出されると弱いのか、アーチャーは唸るだけに留まった。
しかし抵抗は止まない。しかしそれはランサーにとって抵抗にもなんにもならない。ただ強いて言うならば、抱き上げられている状態で土台無理だというのに、それでもそうも頑なに体同士の接触面を減らそうと腕を突っぱねられると、ランサーの心が痛い。
それにさらに抵抗するように、充分危なげなく抱えているにも拘らず、ランサーは態と抱え直す。そうすればその度に、体同士がぶつかって触れ合う。楽しい。とても楽しい。気分は片手に抱えたアーチャーとは反対の手にぶら下げた買い物袋を、その卵ごと振り回したいところだ。実際にやらかさないように、気を付けねば。
そうして帰路を共にすれば、更なる運のなさが物を言った。
「え、」
「げ、」
「お。」
三者三様。
丁度学校終わりに請け負った頼まれごとを一通り終わらせその道すがらもさらに吹っ掛けられた厄介ごとを一先ず治めたところであろう、下校途中の士郎と鉢合わせた。
「ええっとぉー……って、アーチャーっ?怪我したのかっ?」
初めは何か見てはいけないものを見てしまったような、つくづく同情したような、戸惑った顔をしていた少年だったが、自分よりも更に幼い子供の肌に傷を見出すと、途端に表情を引き締めた。
「うるさい。このくらいでさわいでいて、つかいまが、つとまるものか。」
「そうはいったって、あんた今子供なんだぞっ?」
「じぶんのことくらい、わかっている!おまえなんかより、よっぽどな!」
実に不毛な言い争いである。
「よしよし落ち着けって、な?坊主も安心しな、すぐに水洗いしたし、足は捻ったが、治癒のルーンを刻んでおいた。」
「なっ?きさまいつのまにっ?」
前半は腕に抱いた子供に、後半は目の前の少年に向けて言い、手短に説明した。その扱いにただでさえ顔を顰めた子供は、告げられた魔術の行使に目を剥いた。
「ランクが落ちたとはいえ英霊だ、明日の朝には直ってるはずだ。それに、俺の取って置きだからな、心配すんな。」
片目を瞑る己を抱く男に、そうじゃないという気持ちと、もう兎に角反発したい気持ちが瞬時に上り詰め、アーチャーは男から体を大きく捻ってそっぽを向いた。
そしてそのままの勢いで士郎に告げる。
「おいみじゅくもの!だっこしろ!」
驚いたのは士郎だけではない。
ランサーが慌てて抱く腕を引き寄せる。
「なんでだよ、だっこなら今俺がやってんじゃん!」
「いやだ!」
ランサーの動きが止まった。
「らんさーはいやだ!」
ランサーの何かが止まった。
それはさて置き、困ったのはご指名の士郎である。
心底不満げな顔をしながら必死にこちらに手を伸ばす小さな手は微笑ましいかもしれないが、その手を取ったら後のランサーが怖い。
「しろうがいい!」
「う、」
ランサーの何かの何かが止まった。
「はぁあああ……、わかったよ。ほら、おいで。」
「おとすんじゃないぞ。」
我が通った途端不遜な態度を炸裂させるお子様もさて置き。
「あああアーチャーあああ……」
そこの項垂れた男は怨霊のような呻き声を出さないでほしい。
黙って荷物を持ってきてほしい。
子供の情操教育によくない。
しかし。
「で、何が食べたいんだ、ランサー?」
「へ?」
腕に子供を抱いた少年は、顔だけで背後のしょぼくれた男を振り返った。
「もう買い物は済ませてしまったから、応えられるリクエストには限りがあるけど、そこはこいつがどうにでもするだろう。面倒見てくれた礼をしなくちゃならないから。なあ、アーチャー?」
話の中心人物たる子供ときたら、少年の腕の中で放漫に凭れ掛かり、不遜な態度で腕を組んでいるが、何も言ってこないところを見ると、心中を察せられる。
まあ、でないとこの子供は、怪我の痛みよりもそちらの方が気になって、夜も眠れないだろうから。
子供の夜更かしは、よくない。
そして別の日には。
「な、」
「なんだ、狗が散歩しているぞ。」
ランサーが「金ぴか」と揶揄する男と出くわしてしまったのは、まあ運が悪かったと、それだけに留められる。
そのため絶句には至らぬので、「狗」と揶揄されたランサーがそうなったのは、また別の理由であった。
「ほれ、見よ。」
「ええい、みればわかる、ゆするな!」
鉢合わせた男、ギルガメッシュの腕には、なんとアーチャーがいた。
「お前また怪我したのかっ?それともそいつになんかされたかっ?」
「ん?特にそのようなことはないぞ。こうして抱える前も、元気にちょろちょろとしておったわ。」
「てめえにゃ聞いてねえ!」
先日負った傷をランサーの思ったとおり次の日には治していた当のアーチャーは、ランサーが腕に抱いた時よりもずっと大人しい。
そのため、抱えている男に身動きが取れぬよう何かされているのではと思って見えない鎖を探したが、どうやらそうではないらしい。
アーチャーが自分以外の腕に収まっているのがそもそも気に食わないのに、そのことは余計に腹立たしい。
「つかまってしまってな……。」
「うむ。つかまえたぞ。」
大人しいわりに少々悔しそうなアーチャーは、そう零した。対してギルガメッシュは機嫌がいい。
「なんで鬼ごっこになってんだよ。んで、てめえその腕はなんだっ!」
「何を言う。我はかいなだけでなく、全身玉体であるぞ。」
「ではそのぎょくたいからおろしてくれ。」
「なんっでてめえがだっこしてんのかって、きいてんだよっ!」
「煩い、吠えるな。」
「おろして……。」
アーチャーは諦めていても、気丈にも声だけは発していた。拾う者はいなかったが。
「面白いことになっていると思ってな。しかしこやつ、我が近づくと逃げよるではないか。ならば捕まえるしかあるまい。」
「ずいぶんながい、おみあしなことで……。」
アーチャーが溜息をついた。
「捕まえてやるなよ。こっちによこせ。」
前半は真っ当なことを言ったランサーだが、後半はよろしくない。
アーチャーからすれば、拘束する腕が変わっただけで、捕まっている事実が変わるわけではない。
「なんでさ!おまえのうでに、うつったところで、わたしになんの、りがあるっ?」
さすがに声を大にして、聞き零されることのないようにする。
「俺の方がっ……あー、あったけえぞ!たぶん。」
大して寒い日でもないので、大した理由にならない。
かくして、その日ギルガメッシュが飽きるまで、アーチャーは地に足が着かなかった。
そしてランサーは、アーチャーをだっこできなかった。
「いい紅茶ねえ、ランサー。」
「おー……」
衛宮邸、畳に座し、しかし嗜むは紅茶という、アンバランスな休日を過ごすのは凛とランサーだ。
アーチャーは紅茶のおかわりを淹れに離れている。
「ちょっと、私のアーチャーが淹れた紅茶を、そんな不貞腐れた顔で飲まないでよ!没収するわよ!」
「い、いや、悪かった。それはカンベン。」
ランサーは大人しく紅茶を啜った。
「いーじゃない、あの踏み台、アイツすっっっごく気に入ってるのよ?」
件の子供の主が、仕方なく男をフォローする。
「……踏み台になりたい。」
が、返ってきたのは物理と心理の両方の距離を取らざるを得ない発言であった。
ここにあの子供がいなくてよかった。
少女は距離を取る動作をそのまま使ってその原因の記憶を遠く彼方へと投げ飛ばすと、こほんと咳払いをして、今し方フォローを入れたばかりの男の心を、現実へと引き戻す。
「だいたい、アンタが構いすぎるから、逆になかなか懐かないんじゃない。わかってるでしょ?」
「いやぁ俺にしちゃあ構わないようにしてる方だぜえ?」
しかし男は、少女になおもフォローを求めた。
少女は溜息をつく。
「あなたのその程度の歩み寄りじゃ、歩み寄ってくる気のないアイツとの距離は縮まらないわ。」
字面だけ見ると全くちぐはぐだが、アーチャーというのは、こちらがあまり構わないようにすることこそに、歩み寄りのコツがあるのだ。
とはいうものの、現状ランサーのやり方が、アーチャーの心を大きく揺さぶっているのは確かだ。
子供は少女の従者なのだ。
アーチャーの心が乱されるのを、少女は良しとしなかった。
自分が従者を弄るならいいが。
いつもそうだ。この男は、主である凜よりも子供の傍にいつの間にかいて、真っ先に駆け付けるのだ。
己がマスターだからといって、四六時中ついていてやれるわけではいことはわかっている。
しかしそれはこの男とて同じこと。日ごろアルバイトに精を出しているはずなのだ。
それがこうも都合がいい。幸運値は従者と同じくらい低いはずなのに、一体どういうからくりなのだろうか?
まさか子供に負荷がかかるタイミングを見計らって、都合をつけて様子を見に来ているというのだろうか?
この間だって。
「どうした?」
アーチャーはその時、衛宮邸の道場に、室内を薄暗いままにして、ただただ突っ立っていた。
「ここには俺しかいない。なんでもいいから、言ってみろ。」
ランサーはアーチャーを、誰に居場所を尋ねるでもなく見つけ出した。
先程まで一緒に食器を片付けていたセイバーも、子供がここにいることを知らない。さすがにずっと姿が見えなければ心配するが、衛宮邸の敷地内にいれば、好きにさせてくれる。
態々探しに来るのは、この男くらいだ。
「なぜ?」
不思議な男だと思った。
それまで抱いていた印象とは、違うような気さえした。
それが少し、怖かった。
「俺がお前を構いたいから。」
「だからなぜっ」
アーチャーは声を荒げた。正に子供特有の癇癪だと、自分でも思った。
それを抑え込むように、ではなく、包み込むように、そっと、ランサーがアーチャーを腕に囲った。
「ニンゲンって、あったかいんだよ。」
と思ったら、急にそんなことを言い出した。
「そん、なの、」
「そ。生きてりゃそんなのは当たり前だ。偽りとはいえ、それは現界している俺たちも同じこと。俺はさ、」
温かさの源が、腕に力を込めた。
「そのあったかさで、お前をいっぱいにしてえ。」
溜まればいい、とは、言わなかった。
「ひつようない。」
「必要とする必要はねえ。俺が俺の勝手で注ぐだけだ。」
「そそぎすぎたら、かれるんだぞっ。」
「枯らさねえように手加減してやってんだろ。」
「おれじゃない、あんたがだ!」
無理矢理体を離した鋼の瞳が、紅を映す。
紅がにやりと細くなる。
「枯れる?俺が?」
鋼は物言わず、ただ紅に染まった。
紅が一度瞬いた。星のようだ。
「さしあたっては、俺ってけっこう温いと思うんだけど、どうよ?」
男の自己申告に、アーチャーは思わず声を上げて笑みを零した。
それまでと違うように思えたのも、当然のことだ。
「しっているさ。」
この男の温かさを知ったのが、つい最近のことなのだから。
「んで?ほんとにどうしたよ?」
改めて問うたランサーに、アーチャーは顔を俯かせた。
ランサーに言うことが躊躇われるというよりは、言うこと自体に躊躇いがあるようだった。
こればかりは、ちょっと距離を詰めたくらいじゃ、根本の原因が異なるので、どうしようもない。
けれどランサーは待った。諦めることはしない。
「とうえい、が、」
漸く零れた言葉は続かなかった。
言葉の続きを求めることもしなかった。
「何を出そうとした、いつもの双剣か?」
力なく両手を広げるアーチャーの、そのどちらもを、同じように両手で優しく掬った。
アーチャーはやはり力なく頷く。
ランサーは包んだ小さな手を、やはり優しく握り込む。
「もう一回やってみろ。焦るな。」
同じく小さなおとがいが、そして小さく頷いた。
「いつもやってたのと、おんなじようにやりゃあいい。ただいつもより、丁寧にやってみな。」
子供は大きな瞳を瞼の内側に隠し目を瞑った。集中しようとしているようだった。
子供の体に魔力の流れが通るのを、ランサーは感じ取った。
小さな掌に、光の粒子が集う。
しかし。
「ふーむ?」
それは上手く形にならずに砕け散った。
「いや、さきほど、じぶんひとりでやっていたときより、ずいぶんましになった。かんしゃする。」
子供は満足げに、手を放して遠ざけようとする。
「えっ?いや、まてまて!」
きょとんとした表情が返される。
「お前さん、そりゃあねえだろぉ」
更には首を傾げられる。
「こっから俺が、手取り足取り、そりゃあもう懇切丁寧に、手を貸そうってところだろうがよっ」
「そうなのか?」
ランサーは呻き声を上げながら道場の天井を仰いだ。
それすらも子供は不思議そうにしている。
「もっと甘えてくれよなあ、こう、べったりと」
アーチャーはむっとした顔をした。
「甘えるなど、」
「いや、まあ、そうだな。お前はそれでいいよ。」
しかしそれを、ランサーが掌を握り込むことで往なす。
そうすれば、子供も手元へ意識を戻す。
「あのな、ちぃと気を取られ過ぎなんだよ。」
「わたしが?いったいなにに?」
「てめえの体に。」
「……」
アーチャーは一瞬だけ黙ったが、すぐに目を剥いた。
「おまえだって!わたしが、こんな、たよりないなりだから、こうやってかまってくるんだろうっ?」
子供というのは、その小さな体のどこから出て来るのかという程の、力強い声を上げることがある。
「ちげえっての。」
対してその大人は、心乱された様子もなく、薄ら笑んですらいる。
「くっ。」
子供は悔しそうだ。
「だぁから、ちげえよ?」
しかし唐突に、アーチャーは自身の手が熱を持つのを感じた。
いや、ランサーから流れ込んできている。
「魔術回路が塞がってたりするわけじゃねえから、そこは安心しな。」
ランサーは笑みを更に深いものにした。
「お前さん、たぶん、てめてえで思ってるより、あったけえんだよな。」
ランサーは瞼を降ろした。
神秘のきらめきが、そのひととき隠される。
あたたかいのは、彼の方だとアーチャーは思った。
「だから、炎みたいなもんかと思ってたんだが、こりゃちょいと勝手が違うみてえだな。」
アーチャーの中の、何かを汲み取るように、掬い上げるように、探りながらランサーは語る。
「そのあたりに、お前さんの魔力の流れのコツがあるのかもな、炎みたいに風に煽られて巻き上がるもんじゃなしに、もっと流れがあるやつ、けど水よりも、もっと緩やかなもん……とまあ、こんなところか?」
訥々と話し続けた後、雑に締めくくったランサーは、なんだかとても楽しそうに見える。
「んじゃ、ハイ、もういっかい。」
アーチャーには、やはりランサーが自分を子供扱いしているように思える。
しかしそれをまた指摘すれば、そんなことはないと、お前の考えすぎだと、そう諭されるだけだろう。
今はこちらに集中しようと、大きな手に包まれて見えなくなった己の手を見つめた。
やり方は変えなくていい、けど、いつもより丁寧に、焦らず。
両手の温かさからは、持ち主の紅の目を思い起こさせた。燃える様な瞳だと思う。それは自分の温かさとは、また違うのだと、彼は言った。子供体温だと揶揄いたいのかとも思ったが、そんな様子はなかった。不思議だ。不思議な熱だ。
アーチャーの両の手に収束するものを感じる。魔力だ。自分たちの体を形作っているものと、同じもの。
同じものでできていて、何も変わらないはずなのに、この姿になった途端、こうも勝手がわからない。周りもそういうふうに、気遣ってくる。
そう思うのに、それは気にしすぎだと、この男は言う。子供扱いなどしていないと、宣う。よく言う。この姿になった途端構い倒してくることの説明を、どうつけるのだろう。男の言い分を聞くと、こうなる前から、そうしたかったかのような……。
「?」
唐突に、何か掴めそうな気がした。しかしそれよりも、己に迫りくるイメージがあった。
男の手が離れた。
イメージに促されるまま、体が覚えているまま、それを形にする。
「トレース、オン。」
手の中に、確かな硬さを感じた。
そしてそれを握り込む、瞬間。
知らずの内に閉じていた瞳を開き、目前に迫りくる殺意の切っ先を、今し方手に持った双剣で受け止める。
「ほれみろ、お前の気にし過ぎだ。」
青い装束の男が繰り出す、その瞳とはまた違った紅が翻るのを予測し、一歩最低限に飛んで、二歩目で大きく引く。
追撃が来ると思われたが、すぐに先程までの、現代に馴染んだ姿に戻った。
ばたばたと、人の足音がする。先頭はセイバーだ。
「んじゃ、また来るわ。」
男は、あくまでも人が持ちうる能力でもって、その場から立ち去り、駆けて行った。
アーチャーは、戦闘の気配や魔力を感知したのだろう面々に、何と言って言い訳しようか考える前に、先程の自分の動きに、「子供の体だから」なんていう言い訳のような劣等感を抱かなかったことに、驚いていた。
凛はその後から、アーチャーが何か吹っ切れたような態度であることに気づいていたし、何よりアーチャー本人から報告を受けていた。
些細なことだと一蹴しかねないアーチャーだが、流石にサーヴァントとして戦闘に支障が出るようなことを、マスターに黙秘することはできない。しかしそれを差し置いても、それどころかどこか嬉しそうに話していさえすると、凛はその時思った。
そういうのが全部、きっとこの男、ランサーのおかげなのだ。
凛は溜息をついた。
「どうした、りん?こうちゃがなにか?おいしくなかっただろうか?」
そこへ丁度アーチャーが戻ってきてしまったので、主は慌てて弁明した。
「そんなことあるわけないじゃない。その姿になったあなたが初めて淹れてくれたものだって、変わらず、美味しかったわ。」
凛は隣の男が、様子を伺ってちらと見てくる気配を感じ取ったが、それに負けないよう、自分はそちらに見向きもせず、己の従者にだけ集中した。
「だから、こいつに先を譲ってしまったのが、ほんとに惜しかったわ。って。」
凛は従者に強気な笑みを見せた。
「そうこなくちゃな。」
なのに、そう得意げに言う男がいたものだから、凛はとうとう男の青髪をはたいた。
それは、気持ちのいい陽気を湛えた、休日の昼過ぎのことだった。
「見ているだけ、なんですね?」
桜は衛宮邸の縁側に腰掛ける男に、できるだけ静かに、そう声をかけた。
大して男は、桜の方を振り向きはしたものの、黙って首を傾げるだけだった。
桜は更に声量を落とした。
「上掛けをかけてあげたり、とか。」
男は桜の提案に笑みを浮かべると、普段からはいっそ考えられないほどの小さな声でもって、応答した。
「サーヴァントは風邪をひいたりしないし、体を痛めたりしても関係ねえからなあ。」
そう言いながらも、男は優しい眼差しで、子供を見つめている。
子供は暖かな陽気と、洗濯物に包まれて、すやすやと寝息を立てていた。
セイバーは出かけているようだが、子供から長時間離れるようなことはしない。すぐに帰ってくるだろう。この光景を目にしたのは、男に次いでは、桜が一番乗りのようだ。
太陽に愛されたような肌は光を弾き、まろく艶やかだ。更には光の色をした髪も、きらきらと一層輝きを放っている。それでいていずれにせよ、気高くもないが高慢さもなく、地に足の着いた大地の自然を感じさせる質感だった。
「でも、私は生身の人間なので、見ていると少し心配に思います。」
桜は、自分が羽織っていた上着を、そっと、子供にかけた。
子供が起きる気配はない。よかった。
「確かにそいつぁ、今を生きてる奴の特権さね。」
手出ししない割に、男は子供を守るように、傍についていた。
きっと先にこの家に来たのが、桜よりもっと騒々しい面子だったならば、この男は出迎えるように立ち上がり、それでいて迎え撃つように静けさを促すのだろう。
そして万が一、住人の帰りが遅いようならば、日が傾く前に、なんでもないように、この子供を優しく起こすのだろう。
この眠り子に気取られずに、あわよくば気を遣わせずに、目指すところとしては気にさせずに、優しくするのは、今の自分では力不足だと、桜は思った。
それが、この男なら可能なのだろうか?
「俺の手並みを見ていくか?」
静かな声で、しかし面白がるように、男が言った。
紅の瞳が弧を描く。
「ええ、ぜひ。」
対する桜も、自然と笑顔になる。
声を弾ませすぎないように気を付けるのが、少し、大変だった。
かくして子供は目覚めた。
ただしそれは自然な目覚めではなく、青髪の男が揺り起こしたものであった。
「アーチャーっ!」
「うわぁっ?」
他の住人も各々帰宅し、日が暮れる前、(生身の人間からすると)肌寒くもなってくる頃合い、そろそろ起こそうかという話になった時、桜は、目の前の男が、一体どのように子供を起こすのか見守っていた。しかしまさか、突然大声で飛びかかるとは思わなかった。揺り起こすどころではなかった。前述のように叫びながら飛び起きるのも、無理ない。
「なあ、腹減ってんだ。いつまでも寝こけてねえで、今日もご相伴に与らせてくれよ。」
「んなっ?わざわざ、たかりにきたのかね、きみはっ」
「毎日じゃねえんだからいいだろぉ~?お前の飯が美味いのが悪いっ。それにしても、嬢ちゃんの上着かりるたぁ、隅に置けねえなぁ~?」
「そ、そうだ、すまない。っ、いいかげん、きさまは、どけっ!」
桜は返される上着を子供の手から受け取りつつ、呆気に取られながら目の前の光景を見つめていた。
あからさまに優しく起こすことがエヌジーなのは桜にも分かった。しかし攻撃態勢に入らせるのも芳しくはない。なのでランサーは、覚醒させると同時に相手の体を抱え込むことで行動を制限させ、されど間を置かず用立てを告げることで、敵意のないことを表す。更にちゃっかり夕飯を頂こうという算段である。
実に鮮やかである。
加えて桜の上着を揶揄いながら指摘することで、子供が桜に礼をする機会をきちんと与えるだけでなく、抱いたであろう申し訳なさの感情を、自分に向けた憤りで潰す。
怒りの感情がいいとは言えないが、こと、この人物に関しては。罪悪感を感じさせるよりは、ずっとずっと、ずっといいと、桜には思えた。
アーチャーが未だにランサーに構っているのが、その証拠だ。
桜はランサーを見やって、思わず感嘆の息をついた。
お手並み拝見、だなんて。
桜にはこの手は使えない。
子供の眼中に、桜はいなかった。
けれどそれは、新たな関係を築くきっかけである。
「私にもお手伝いさせてください、ね?」
せんぱい。
「アーチャーさん!」
故郷の味はどうだったのかと訊けば「雑だった。」と称する剣の王は、今日もアーチャーの作った夕飯を、お茶碗片手に金髪を揺らし相好を崩しながら、上機嫌に召し上がっている。
その隣には青髪の男。
アルバイトで手土産に渡された食材を、さらに手土産にして、ここ、衛宮邸に現れた。
別のアルバイトの帰りであったため、今日、アーチャーの踏み台を用意したのは剣の王であったが、ご相伴に与ることはできた。
二人で箸と顎を動かす。
その前では、大河も加わったため、どんちゃん騒ぎになっている教師と生徒、加えて小さな子供の、賑やかという言葉だけでは済まない様子が見受けられる。ライダーはその後ろでさっさと自分の取り分を確保している。
セイバーとランサーはそこへ混ざらずに、珍しくそれを視界に収めているだけであった。
というより、ランサーはセイバーが自分の方を、なぜか恨みがましい目で見ていたから、隣に座らざるを得なかった、と言うだけだが。
一度嚥下した口が、切りのいいところで切り出す。
声は潜められていたが、それはランサーの耳飾りを揺らしたかと思う程、はっきりと聞こえた。
「なぜあなたはそうも小さなアーチャーに構うのですか?」
ランサーは片眉を上げた。
「チビに構ってるのは、お前さんたちの方じゃねえか。」
こちらも食事を中断して、その言葉に応える。
「……あなたは、違うと思っていました。……というより、実際、違う。」
そうだろう?と、若葉色が鋭く見上げてくる。
「俺は別に、あいつがちっこくなったから、庇護欲が湧いてるわけじゃねえからなぁ。」
「ではなぜ?」
再度問う声。
「そもそも、あいつがあの姿になったからって、態度を変えてるつもりはねえ。」
「どういうことです?」
それはアーチャー本人にも告げたとおりだが、それ以外に何の要因があるのかと、誰も彼もが思うものだから、逆に説明が難しくなっている。
そのせいか、若葉色に少々いら立ちが見える。焦らしたいわけじゃあない。
「まあ、あいつがあの姿になって、他者に頼らざるを得ない状況になったってのは、大きいかもしれねえが、とにかく、争いがない今、」
ランサーは一度茶を啜った。
その一滴まで、丁寧に淹れられていることを味わう。
「俺があいつに、そうしたい、ってだけさね。」
若葉色はその形をまあるくしながらも、驚きに瞬いた。
そして一度それを伏せると、同じように茶を口に運んだ。
一息つく。
「私も、彼と共に過ごす、『彼が私と共に過ごしてくれる』ここでの時間が、とても大事だと思っています。」
お互い(少し挑発的ではあったが)笑んで見せれば、あとは残りの食事を楽しむだけであった。
大きく広げた腕が、どこまでも広がり続けているように見えるのは、何も今時分の己の様が、小さく幼いからではない。
いつだってこの男はこうだ。
強大な力を有していても、それに限りがあることをよくよくわかっている。だからこそ、さらに己を磨き続け、決してその力に溺れることなく、誇りと、誓いと、思いのために戦い続ける。自分の力の源と、振るいどころを忘れない。自分の領分を見定め、相手の領分を見極める。
「らんさー、だっこだ。」
そんな男のかいなを今、自ら借り受けようとしている。
「……おう。」
驚きに見開かれた紅玉は直ぐに焦りを見せ、腕が伸びてくる。おおよそ、いつまでも驚愕していれば、こちらの気が変わるとでも思ったのだろう。
浮遊感に身を任せ、温かい体に包まれる。
「ひまそうにしてるから、いぬのさんぽに、つれてってやる。」
「狗っていうなっての、どう見ても頼もしい従者だろぉ?おうおう、なんなりと。おひ……いや、オウジサマ?」
「ひめでも、おうじでも、ないわ、たわけ!」
褐色の小さな拳が、青い髪に埋まる。
「んで、どこいこか?」
「いっかしょですむとおもうな、こきつかってやる。」
腕の中で小さくふんぞり返るその手には、買い物メモが握られている。珍しく手提げを持っているかと思ったら、その中にはエコバッグがいくつか入っているものだから、相好が崩れる。
さて、初めはどこか。
腕の中から飛ぶ指示に従いながら、えっちらおっちら店を回る。その度に、腕は子供の重さを超えていく。
どうやら、視線の低さでは、品物の吟味が難しかった、というのが現状の要因らしく、やれ少し屈めだのそのまま維持しろだの、なかなか腰に負担がかかったが、それも子供が満足のいく美味い飯をつくるためなのだと思うと、協力は惜しまなかった。
そうして、それらの指示もやみ、最後のオーダーは荷物(と子供)を運ぶだけになった頃、すっかり腕の中を定位置とした白髪が、しかし躊躇いがちに、するりと首に懐いてきた。
「……ふじねえが……、あ、いや、そのようによぶよう、つよくいわれていて、」
「ああ。タイガのねえちゃんが、どおしたよ?」
「その、まわりにたよるように、と。できることをやればいいのだから、だれかのてをかりてできることなら、かりてやればいいのだと。」
「お前さんは、今の体を利用して、逆に周りを利用してやるくらいが、ちょうどいいんだよ。そんな姿にでもならなきゃ、こうはならねえだろ。」
きっとあの快活な笑顔を脳裏に描いているのだろう。自分もそれに倣いながら、最大の強敵かもしれないと思い、そしてその思考に満足した。
こんな姿になったところで、こう一筋縄に甘えてくれはしない男を思って。
その難儀な甘えによって得た戦利品をしかと握り締めながら、白い頭に問いかけた。
「いつも美味いが、今日はそれよりもうまい飯が作れそうか?」
「……ああ。かのじょがくることだしな。」
やっぱり、と、ランサーは満面の笑みを浮かべた。
子供は、何を誤魔化すためか、嫌がらせをしたいのか、懐いた頭をそのままぐりぐりと押し付けたり、できるだけ体重をかけようとしてみたりしているが、そんなのは面白いだけである。
「なあアーチャー」
「ん?」
仕返しに、と、青髪もその上から押し付け、褐色が自身に、より埋まるようにする。
「あの踏み台、何があっても、頼るのは俺にしとけよ。お前を含めて、他の奴にすんのはなしだ。」
陽気のせいか、互いの体は、酷く温かい。それを腕の中の男も、わかっている。
「壊れたんでも、剥げたんでも、何でもいい、何があっても、何かあったら、俺を呼べ。」
温かい男は、あたたかく笑んだ。
「では、さいごまでめんどうみてもらおうか。」